天の河原に龍と来たりて   作:KaNDuMe

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最終話 想いは遙か、心は共に

「私のターン、ドロー! そしてメインフェイズ、墓地の浮鵺城、青眼の精霊龍、閃珖竜スターダスト、炎妖蝶ウィルプス、ダークストーム・ドラゴンを対象に貪欲な壺を発動! 対象のカードをデッキに戻し、カードを二枚ドロー!」

勢いよくカードを引く。龍巳の手札には既に前のターン使い損ねた反撃のためのカードが揃っている。

「お嬢ちゃんが儀式なら、私だって儀式よ! 手札から高等儀式術を発動! レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベルと同じになるように、デッキから通常モンスターを墓地に送り、儀式召喚を行うわ。私が墓地に送るのは、レベル8の青眼の白龍一体!」

龍巳のフィールドに祭壇と魔方陣が現れ、魔方陣が眩い光を放つ。しかしそれは光と闇の混じった奇妙な斑模様を作り、祭壇そのものを破壊する勢いで炸裂した。

「混沌纏いし銀の翼、聖邪の境を御霊に宿し、次元の狭間より現れ出でよ! 儀式召喚!」

光と闇を切り裂き、甲高い咆吼が鳴り響く。銀色に輝く鱗の隙間から鈍色の光を放ちながら、巨大な龍がフィールドに降り立った。

「来なさい! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン!!」

「攻撃力4000……!」

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの出現に目を丸くした少女だが、その巨体に対しても恐れる様子はない。なぜなら少女の傍らには、彼女を護る様に一人の男性の姿があったからだ。

(もう一人の精霊……)

青い翼を模した法衣に身を包んだその男性は警戒するようにブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを見上げ、そして龍巳を見ると、厳しい表情のままではあるが、深く頭を下げた。それは龍巳に対する警戒心ではなく、元々そのような表情なのだろう。

「姫孔雀を探してきてくれてありがとうって!」

「だ、だから、そういうのは良いってば!」

慌てて手を振る龍巳を見て、少女はクスリと笑いを零す。顔を上げた彼の表情もまた、少し和らいで見えた。

「なんか調子狂っちゃうわね……」

頬を掻きながら、龍巳はフィールドに目を落とす。白き霊龍で一枚は除去したが、まだ少女のフィールドには伏せカードが一枚ある。手札は残り四枚。まだ出来ることはあるが、伏せカードが予想通りであるなら、これ以上動くべきではないと彼女の直感が告げていた。

「うーん、白き霊龍を攻撃表示に変更してこのままバトル! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンで守備表示の霊魂鳥トークンに攻撃するわよ!」

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの全身から発する光が強くなり、口腔に白色のエネルギーが集中していく。

「守備表示モンスターを攻撃?」

「ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンには守備表示モンスターを攻撃した際に貫通ダメージを与える効果と、そのダメージを倍にする効果があるのよ。この攻撃が通れば私の勝ちだけど……」

彼が一歩進み出ると少女はそれに頷き、セットカードに触れた。

「それなら通すわけにはいかないね! 攻撃宣言時にリバースカードオープン! 墓地の霊魂の降神を除外して罠カード、緊急儀式術を発動!」

少女のフィールドに、祭壇が現れる。

「このカードは私のフィールドに儀式モンスターがいないときに発動できて、除外した儀式魔法と同じ効果になるよ! 私はレベル4の霊魂鳥トークン二体をリリース!」

霊魂鳥神-姫孔雀の残していった力の残滓。二羽の孔雀は眩い光となって天に昇り、一柱の神がそれに応える。

「天の河の辺にて、心は此方、御霊は共に。儀式召喚! 霊魂鳥神-彦孔雀!」

愛する者の魂を力と換え、霊魂鳥神-彦孔雀がフィールドに顕現する。銀の巨龍の暴威に晒されんとするフィールドにあって尚動じることなく、彼はゆっくりとその刃を抜いた。

「儀式召喚成功時、霊魂鳥神-彦孔雀の効果を発動! チェーンして霊魂鳥-巫鶴の効果も発動! 霊魂鳥-巫鶴はこのカードがフィールドにいる状態でスピリットモンスターが召喚、特殊召喚された場合カードを一枚ドローすることが出来る!」

霊魂鳥-巫鶴が上空に向かって矢を放つ。それは一枚のカードとなって、少女の手札に加わった。

「そして霊魂鳥神-彦孔雀の効果! 相手フィールドのモンスターを三体まで選んで持ち主のデッキに戻すよ!」

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが、遂に光と闇の混じり合ったブレスを放つ。しかし霊魂鳥神-彦孔雀が刃を一振りすると聖なる力を纏った風が巻き起こり、ブレスを四方に吹き飛ばしてしまう。風の威力はそれだけに留まらず、霊魂鳥神-彦孔雀がもう一度刃を振るうと、今度は嵐の如き暴風へと転じる。ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、白き霊龍の二体でも堪えられず、龍巳の後方へと吹き飛ばされていった。

「本当はこの後手札からスピリットモンスターを特殊召喚出来るんだけど……召喚出来るカードはないね」

「何となく、そんな予感はしてたのよね……バトルフェイズはこれで終了するわ」

手札に戻ってきた二枚のカードを見ながら苦々げに笑う龍巳にフッと小さく笑いかけ、霊魂鳥神-彦孔雀は刃を鞘に戻した。

「でも、ただじゃ終わらないわよ! メインフェイズ2! 墓地の太古の白石を除外してその効果を発動! 墓地の青眼の白龍を手札に加える。そして青眼の白龍を相手に見せることで、青眼の亜白龍を特殊召喚!」

再びフィールドに現れる、青眼の白龍によく似た巨龍。しかし今度は出てきただけではなく、少女のフィールドのモンスターに明確な敵意を向け、唸り声を上げた。

「霊魂鳥神-彦孔雀を対象に青眼の亜白龍の効果発動! このターンの攻撃を放棄する代わりに、そのモンスターを破壊する事が出来る。喰らいなさい! 滅びのバーン・ストリーム!」

青眼の亜白龍が上空へと舞い上がり、灼熱のブレスを放つ。咄嗟に放たれたその攻撃に対処できず、霊魂鳥神-彦孔雀はブレスに飲み込まれた。

驚いて目を丸くする少女だが、龍巳は更にプレイングを続ける。

「更に! 手札から龍の鏡を発動!」

龍の姿を模した、巨大な鏡が龍巳の背後に出現する。

「フィールド、墓地からドラゴン族の融合モンスターによって決められたカードを除外することで、そのモンスターを融合召喚する! 私が除外するのは、墓地の青眼の亜白龍、青眼の白龍、そしてフィールドの青眼の亜白龍よ!」

三体の白龍は渦を巻いて混ざり合いながら、鏡の中へと吸い込まれていく。

「混ざりし光の白き翼、聖なる白の御霊を束ね、深淵の光より現れ出でよ! 融合召喚!!」

鏡にひびが入り、その奥から凄まじい光が溢れ出る。ひび割れは次第に大きくなり、やがて鏡全体を覆い尽くし、強烈な閃光と共に割れ砕けた。続いて響くは極大の咆吼。閃光の奥より現れたのは、三つの首と四枚の翼を持った、白銀の鱗の巨大な龍。

「我が敵を薙ぎ払え! 青眼の究極亜龍!!」

闇にも光にも染まりきらぬ白銀の巨龍は、天に向かって高らかと咆吼する。既に沈みかけた太陽が遮られるが、青眼の究極亜龍自身の発する光が自身の影をかき消していた。

「青眼の究極亜龍……」

その名を呟き、少女は銀色の巨体を見上げた。三つの魂が一つとなった龍。光り輝くその姿は、どうしようもなく、少女の心を惹きつける。

「青眼の究極亜龍の効果発動! このターンの攻撃を放棄する代わりに、フィールドのカード一枚を対象に、そのカードを破壊することが出来る。そしてこの効果は青眼の亜白龍を素材として融合召喚している場合、三枚までを対象にすることが出来る! 私が対象に取るのは、霊魂の拠所、鳥銃士カステル、霊魂鳥-巫鶴の三枚!」

青眼の究極亜龍が持つ三つの頭それぞれの口に、莫大なエネルギーが集約されていく。それは既に眩しいほどであり、対象にされたモンスター達もたじろぐように身構えた。

「トリニティ・バーン・ストリーム! ワン!」

人差し指を立て、一つ目の目標を指し示す。一撃目が放たれ、霊魂の拠所を跡形もなく粉砕した。

「ツー!」

更に中指を立て、二つ目の目標を指し示す。二撃目が放たれ、鳥銃士カステルは逃げる間もなく消滅していく。

「そしてこれが! アルティメット・バーン・ストリーム!!」

荒れ狂う閃光と灼熱の中、龍巳の場違いなほどに明るい宣告が響く。

更に親指も含めて示された三つ目の目標、霊魂鳥-巫鶴にも情け容赦の無い灼熱のブレスが襲いかかり、その一撃によって少女のフィールドのカードは全てが破壊された。

炎と熱に照らされ銀色に輝く青眼の究極亜龍は恐ろしげでありながら、しかしどうしようもなく美しく、力強い。

「カードを一枚セット。これで出来ることは全部ね。ターンエンドよ」

 

 

 

少女 手札3 LP3400

 

 □□□□□

 □□□□□□

  □ □

□□□究□□

 伏□□□□

 

龍巳 手札4 LP3500

 

究 青眼の究極亜龍

伏 伏せカード

 

 

 

「私のターン、ドロー」

少女がカードを引く。

しかしその姿は今までの元気な様子に比べると、儚げな程に穏やかだった。

「?」

「お姉ちゃん」

訝しむ龍巳に、少女は静かに語りかける。

「ありがとう。私の大切な友達、見つけてきてくれて」

「あー、いいのよ別に。好きでやったことなんだから。それに、何だかんだ楽しかったしね」

はにかむ龍巳に、少女は言葉を続ける。

「この子達はね。ずっと一緒にいたかったの。それなのに私、あの時、落としちゃって。もう、自分では探すこともできなくって」

「……お嬢ちゃん?」

「でも、もう大丈夫。お姉ちゃんのお陰で、戻ってきてくれた。もう離ればなれになんかならくて、済むようになったんだ」

少女が、カードを手に取る。

「霊魂の降神を発動。墓地の霊魂鳥神-彦孔雀を除外して、儀式召喚」

霊魂鳥神-彦孔雀の姿が現れ、光となって愛する女神の魂に宿る。

「天の河の辺にて、想いは永久に、願いは遙か。霊魂鳥神-姫孔雀」

霊魂鳥神-姫孔雀が顕現する。彼女の周囲に吹く風が、龍巳の伏せた崩界の守護竜をデッキへと送り返した。そして、愛する神の魂は風に宿り、別の姿を取る。

「霊魂鳥神-姫孔雀の効果で伏せカードをデッキに戻し、その後デッキから、霊魂鳥-巫鶴を特殊召喚。そして、もう一枚の霊魂の降神を発動。フィールドの霊魂鳥-巫鶴をリリース、墓地の霊魂鳥-巫鶴を除外して、儀式召喚」

霊魂鳥神-姫孔雀が天に祈り、二つの魂が天に昇る。それは愛する神の魂へと宿り、その想いを届ける。

「天の河の辺にて、心は此方、御霊は共に。霊魂鳥神-彦孔雀」

霊魂鳥神-彦孔雀が顕現する。決して荒々しくはないその風は青眼の究極亜龍の身体を包み込み、銀色の巨龍は己からその場を後にした。

二柱の神は互いに見つめ合い、そして優しく微笑んだ。

「え、えっと、さっきから何言ってるの? その子達の事だっていうのは一応分かるけど、そんな言い方じゃまるで……んむ!?」

ふわり、と龍巳の前にやってきた姫孔雀が、人差し指を立てて唇に当てる。

そして、少女の傍らに戻ると、彦孔雀と共にその肩に手を置いた。君とだってずっと一緒だ、と言う様に。

フェイズが進行し、バトルフェイズへと移る。

龍巳のフィールドにカードはなく、攻撃を防ぐ手段はない。

二柱の神は改めて、深々と礼をした。

「ありがとう、お姉ちゃん。大好きだよ!」

その言葉が、龍巳が最後に聞いた、少女の声だった。

 

龍巳 LP3500 → 0

 

 

 

ネオ童実野シティの街を駆け回った次の日、龍巳はカードを探して最初に訪れた街路樹の前にやってきていた。

相変わらずそこには劣化しないように加工された花束が添えられている。

前回は意識していなかった事もあり気がつかなかったが、何人かの通行人は花束の前で手を合わせ、神妙な様子でその場を去って行く。

「ここで少し前に、事故があったのよ」

最初に出会った老女が、持っていた小さな花を花束の中に加える。

龍巳も、持ってきた花をその中に加えた。

龍巳は偶然ここで老女と再会し、あの時の事を話した。どうしてそんなことをしたのか、自分自身にも分からなかったが、聞いて欲しかったのだ。

初めは驚いた様子の彼女だったが、静かに事情を聞いた後、ここで起きたことを龍巳に語って聞かせた。

「巻き込まれたのは小さな女の子。見ていた人達の証言によれば、風で飛ばされたカードを追って、道路に出たところを……」

老女が手を合わせる。

龍巳もそれに倣った。

「きっと貴女はその娘と、その娘のカードを救う事ができた。私はそう思うわ」

手を振って老女と別れた後も、龍巳はそこに立ち続けていた。

「ねぇ」

呟きが漏れる。

「デュエル、楽しかった?」

声は、小さく震えていた。

デュエルの後、少女は忽然と姿を消していた。まるで初めから何もいなかったとでもいうように、何の痕跡も残すことなく。彼女が探してきたカードも、デュエルをしたのだというデュエルディスクのログすら、何もなかった。

「私は、楽しかったわよ? まさか負けちゃうなんて思わなかったし、お嬢ちゃん、すっごく強かったし。……なのに、なんで何も残ってないのよ」

それが、彼女には悲しかった。どうせもうこの世の人ではないのだとしても、楽しかった思い出は形になっていて欲しかったのだ。

穏やかな、一陣の風が吹く。それは彼女の金の髪を靡かせ、ビルの隙間へと流れていった。

 

――想いは永久に、願いは遙か。心は此方、御霊は共に――

 

「!」

空を見上げる。

昨日と同じ抜けるような青空が、そこにはあった。今夜もきっと、星がよく見えるだろう。

「……そうね。少なくとも、私は覚えてる。お嬢ちゃんのこと。ずっと先になるけど、きっとリベンジするんだから、待ってなさいよね」

龍巳は最後に力強く笑いかけると、その場を後にした。

それは空元気だったかもしれないし、そうではないのかもしれない。

それでも彼女はいつも通り、楽しそうに肩を揺らしながら歩いて行った。

 

 

 

七月七日、七夕。

愛する二柱の神が一年に一度だけ、逢うことを許された日。

そして、彼らにかけた願いが叶う時。

昨日がその日であったことを、龍巳は歩きながら、ふと思い出した。

 






本当は七夕に最終話を投稿したかった系の話があるらしい。
お前、調子ぶっこきすぎた結果だよ?

仕事に五妨害喰らってて中々進まなかったのと、召喚口上やら台詞やら考えるのが予想以上に大変だったのとで、もう色々と遅れてしまいましたん……。

まぁ、今回はほぼほぼ自分用なので、別に良いよね!

と言うわけで、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。

一応、キャラクターの利用等は自由とさせていただきます。

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