さて、現在の時刻は17時。トレーナー室では一人の男が死んだように机に突っ伏している。サクラバクシンオー担当の「片岡」トレーナーは、朝5時から12時までは無敵だが、昼を過ぎるとエネルギーが切れる。栄養ドリンクと限界まで濃くしたコーヒーで無理やり身体を動かすのが日常だ。最初こそ彼のことを奇異な目で見つめる人はいたが、すでに学園中に彼の体質が知られている今となってはそんな彼の姿をいちいち気に掛けるものはいない。
「トレーナーさああああん!!」
……サクラバクシンオーただ一人を除いては。
「……おお、バクシンオー。ちょっと声を落としてくれぇ……二日酔いの時よりガンガン響くんだ」
トレーナーはよろよろと、まるでゾンビのように鈍重な動きで机から体を起こし、サクラバクシンオーの瞳を見つめる。そして椅子の背もたれにやっとのことで寄り掛かった。
「ちょわっ!? 失礼しました! 下校時間になりましたのでお先に失礼しますね!」
「おう……お疲れさん……」
今にも倒れそうな顔で、それでもトレーナーはサクラバクシンオーの瞳を見つめて手を振り、姿を見送った。
「そんなことばかりしているといつか本当に倒れちゃいますよ?」
白目を剥いて意識を失っていた片岡トレーナーに話しかけたのは、同期の桐生院トレーナーだ。
「もう何年もこんな生活なんで今更どうにもならないですよ」
震える手で栄養ドリンクのキャップを開けて一息に飲み干す。腕の震えは少しだけ収まったように見えた。
「朝一番から全力前回でエネルギーが切れるまでノンストップなんて、大逃げウマ娘みたいですね」全力全開or全力全壊
桐生院が冗談っぽくそういうと、片岡も少しだけ笑った。
「サイレンススズカやツインターボのような? 馬鹿言わないでください。俺はあの子たちみたいに輝いてなんかいない。命を燃やして走り続けることしかできないんですよ、俺は」
湿っぽい雰囲気になると悟ったのか、片岡は言葉を続ける。
「でも、バクシンオーがペースを作ってくれているから俺も安心して走れるんです」
窓の外を見れば、太陽はまだ高い。きっとバクシンオーは自主トレーニングでもするのだろう。本当に体が動かなくなるその時まで。普通ならそれを止めるのがトレーナーの仕事なのだろうが、バクシンオーに長距離を制覇させるためには「普通」ではだめだ。
「桐生院さん、トレーナーにとって一番大事なことって何だと思いますか?」
片岡は桐生院の瞳を見つめて問う。桐生院は面食らったようで、少しだけ口をつぐんだ。彼女が答える前に片岡が言う。
「俺は、信じることだと思っています。もちろん技術も大事ですが、自分のウマ娘を信じてやれるのは、彼女自身かトレーナーしかいないんです。そう考えると、なんて寂しい世界なんだろうって思って」
伏し目がちにそんなことをいう片岡には桐生院は何も言えなかった。
なぜなら、片岡のその目がとても悲しい色を帯びていたから。
方向性どうしましょうか?
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シリアス
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ほのぼの