京王杯でキングヘイローに惜しくも敗北したその夜。サクラバクシンオーとトレーナーは反省会を行う。何が悪かったというわけではない。ただ単にキングヘイローのほうが速かった。それだけのことだ。
「……あの、トレーナーさん」
気まずい雰囲気の中でサクラバクシンオーが口を開く。
「短距離ならだれにも負けるわけはないと思っていました。でも今回の敗北は」
「バカなことは考えるなよ」
とっくにエネルギーは切れているはずだが、トレーナーはカフェイン錠剤を栄養ドリンクで次々と飲み干しながら言う。
「お前は学級委員長なんだろう? だからどの距離でも走れるウマ娘になるんだろう? だったらこんなところで諦めちゃいけない」
トレーナーの力強い言葉に、たまらずサクラバクシンオーは息を詰まらせる。
「今回は長距離を視野に入れてスタミナトレーニングにリソースを割きすぎた俺の失敗だ。次こそは一着にさせる。絶対に」
「トレーナーさん……」
サクラバクシンオーの声が震え、わずかに涙声も混じる。トレーナーはぎょっとしたようだが咳ばらいを一つ落とすだけだ。
「きっとこれからは今まで以上に苦しいトレーニングになるだろう。ミホノブルボンと同じ……いや、もしかしたらそれ以上につらいことになるかもしれない。それでもついてきてくれるか、バクシンオー」
トレーナーも泣き出しそうに目元をゆがませてそう問うと、サクラバクシンオーは乱暴に目元を袖口で拭い去って豪快に笑った。
「はい!! 学級委員長として! どんなことでも達成してみせます!!」
サクラバクシンオーの力強い返事にトレーナーは笑う。
「そうか……よし、分かった。俺も覚悟を決めたよ。明日は朝6時から朝練をする」
―――― ―――― ――――
そして翌朝、グラウンドにはジャージ姿の二人がいた。朝練自体は珍しいことではないが、何か秘策でもあるのだろうか?グラウンドには等間隔に――おそらく100メートル間隔だろう。カラーコーンが立ててある。
「筋肉はいじめればいじめるほど強くなる。今までは加減をしてじっくり鍛えるつもりだったが、そうも言ってられないみたいだ」
サクラバクシンオーはトレーナーの声を一言も聞き漏らすまいと耳を傾ける。
「バクシンオー、100メートル全力疾走を14本。インターバルは10秒ずつ」
正気ではない。実質1400メートル全力ダッシュと言っているようなものだ。だがサクラバクシンオー自身も普通では勝てないと薄々思っていたのか、力強く首を縦に振った。
「好きなタイミングで始めろ!! バクシンオー!!」
「うおおおおっ!! バクシンバクシーン!!」
普通のトレーナーやウマ娘なら絶対に考え付かない――考えてもやらない狂気の練習が始まる。