バクシン的に疾走した日の夕方。片岡トレーナーは今度はシンボリルドルフからの呼び出しを受けていた。今回も心当たりなんてない。
手にしたインスタントコーヒーの瓶にエナジードリンクを注いで溶かし、一息に飲み干すと生徒会室を規則正しく3回ノックして返事を待つ。溶け残ったコーヒーが瓶の内側に黒く張り付いている。
「どうぞ」
返答と同時に片岡は扉を開けた。見れば、シンボリルドルフが射殺さんばかりの眼光で片岡を見つめる。
「なぜ呼ばれたか心当たりは?」
「さあ。こちらが聞きたいくらいです」
片岡は悪びれる様子もなく答える。彼の本心だ。その返答にあきれたようにシンボリルドルフは言葉を紡ぐ。
「サクラバクシンオーに随分と無茶苦茶なことをしているようだね」
「彼女の夢のためです」
片岡は力強く答える。汚れたインスタントコーヒーの瓶がわずかに軋む音を立てた気がした。
「……適正距離と異なるレースを走る辛さは私たちウマ娘が一番よくわかっている。こればっかりはトレーニングで矯正できるものではない」
「あなたも彼女の夢を嗤うのですか」
ぞっとするような冷たい声色で片岡が言う。瞳の奥には失望と、憤怒が入り混じった炎がともっている。
「生徒会長であるあなたが……!! ウマ娘の夢を嗤うのですか!!」
「落ち着き給えよ」
今にもとびかからんばかりの片岡の様子だが、シンボリルドルフは冷静に装いながら声をかける。
「彼女の夢を応援している。だが君たちがやろうとしているのは海を泳ぐ魚に空を飛ばせようとしているようなものだ」
「それがどうした!!」
片岡は吠えた。
「あいつの夢を俺まで否定しちまったら!! あいつは一体だれを信じれば良いんだ!!」
肩で息をしながら片岡は言う。手に持っていたインスタントコーヒーの瓶は砕け散って片岡の手に突き刺さる。
「なんで夢を語るだけで不可能だなんて言われなくちゃいけないんだ。夢を見ることがそんなにもいけないことなのか?」
片岡の気迫にたまらずシンボリルドルフは青い顔をして彼を見つめる。目の前の男は「狂人」以外の何物でもない。
「生徒会長ぉ……」
狂人は今にも泣きだしそうな幼子のような声で彼女に呼びかけた。
「夢は目を開いて見るものだってあなたが教えてあげなくては。あなただけは……」
騒ぎを聞きつけたのか廊下からあわただしく足音が響く。片岡は突き刺さったガラスを気にする様子もなくシンボリルドルフの瞳を見つめていた。
「君がやろうとしていることは、サクラバクシンオーを殺すことだぞ」
「それでも夢がかなうならば――」
エアグルーヴとナリタブライアンが片岡を拘束したから、それ以上の言葉は聞けなかった。
ほのぼのってなんなんでしょうかね。チラシの裏なんですけどCrazy for youはトレーナーからバクシンオーへの思いです。君に首ったけ。あんたのためならくるってやるさ。そんな意味です