KAN-SENは歳を取らない   作:ペニーボイス

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依存症

 

 

 

 

 

 

 大統領宮殿

 執務室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、私の目の前にいるベラスコ中将はこの内紛が片付いた後、大将という偉大なる階級を通り越して元帥杖を持つことを約束されている。

 彼はこの国で随一の軍人になるわけだし、そのポストは統合参謀長という階級に恥じないものになるだろう。

 …"だろう"というのには理由がある。

 まだ内紛は片付いていないし、私はベラスコを信頼しているが信用はしていない。

 それはウゴも同様だ。

 もし心を許せるヒトがいるとすれば、幼い頃から私によくしてくれたタマンダーレだけ。

 

 

 タマンダーレ、タマンダーレ。

 私の大切なタマンダーレ。

 彼女が隣にいないだけで、こんなにも心寂しく思う事になるなんて思わなかった。

 だがそれももう少し、もう少しで終わる。

 彼女は今、最後の任務を終えてこちらに帰ってきていた。

 後のことはベラスコの軍隊と、顔も知らない新任KANSENだけでカタがつく。

 

 

 私の頭の中はタマンダーレの事で一杯だ。

 彼女が帰り道襲撃を受けないか、或いは不意の事故に遭わないか心配でたまらない。

 今すぐ彼女に会いたい。

 会いたくてしょうがない。

 彼女に抱きついて、あの香りに安堵して、今夜はオイスター・ロックフェラーを作ってもらおう。

 いや、いけない。

 彼女は戦闘で疲れてる。

 今日は早めに休んでもらうべきなんだ。

 だから…ああ、どうしよう。

 ()()()()()()()()()

 できることなら任務を終えた彼女にとびきりのご馳走を用意して待っていたいが、一体どの料理人なら信用できる?

 この国の国民は1人残らず私を恨んでる、恨んでるに決まってる。

 私も私でそれだからこそ恐怖で敵も身内も縛り上げてきた。

 今更タマンダーレ以外に信用できる人間なんかいない!

 

 

 

 

「大統領、大丈夫ですか?顔色が悪いようですが…」

 

 

 ベラスコが私の顔を覗き込みながらそんなことを言う。

 私は進行中の作戦について彼から説明を受けていることだった。

 タマンダーレは海軍航空隊を叩き落とした後、敵の艦隊が集結を試みているのを発見した。

 攻撃許可を要請されたが、答えはNo。

 奴らはタマンダーレを罠に嵌める為にわざと発見されたのかもしれない。

 連中の艦隊決戦の場に乗れば、それこそ向こうの思う壺だ。

 

 

「い、いえ、大丈夫です。A-26攻撃機部隊の準備が整い次第、敵艦隊を叩きましょう。」

 

「お言葉ですが、大統領」

 

 

 私の発言に、隣からウゴが口を挟む。

 ウゴ?

 まさかな。

 私の発言を遮って、いったい何を言い出すのだろう?

 もしかしてこの場でクーデターでも宣言する気なのだろうか?

 仮にも秘密警察長官ならそんな安易な策にはでないか?

 いや、もしくは愚策を丹念に言葉に塗り込んでタマンダーレを失わせようとしているのかもしれない。

 タマンダーレがいなければ、現時点で私を守るものは何もない。

 彼は容易に私を殺せる。

 

 

「大統領…大統領?」

 

 

 不思議そうな顔をしてもダメだ、お前の魂胆なんか見え透いている。

 私にとって変わる気だろう、殺してしまう気だろう。

 くそったれ、ただで死ぬと思うなよ。

 タマンダーレがいなくても、お前らの何人かを巻き添えにしてくたばる事ならできるかもしれない。

 

 手が自然に腰まで伸びていく。

 指先に触れるのは45口径。

 彼女の守護がきっとついている。

 やるなら、こいつらが油断しきっている今しかない。

 

 

 だが私の右手が45口径のグリップを握った時、誰かの温かな両手が私の右手を包み込む。

 そして温もりは私を"正常な"思考から現実へと呼び戻した。

 

 

「お待たせ、アドリアン。遅れてしまってごめんなさい。」

 

「…タマン…ダーレ……」

 

「ああ…心配してくれていたのね?とても嬉しいわ♪」

 

 

 彼女はいつも通り…そう、閣僚達の前でもいつも通り私にハグをする。

 そうしながらも、彼女は私の耳元で小さく…本当に小さく呟いた。

 

 

「安心して、アドリアン。私はあなたの側にいる。何があっても裏切らないし、そもそも裏切れないわ。」

 

「………」

 

「そして、それはここにいる人達も同じ。…分かってくれるわね?」

 

 

 彼女の囁きが私を正気へと引き戻す。

 疑心暗鬼の滅茶苦茶は思考回路はどこかへ消え、私は平静を取り戻すことができた。

 タマンダーレの言う通り、まず第一にウゴもベラスコも私を裏切る理由がない。

 私はタマンダーレの大きな双丘の谷間で深呼吸をしてから、再び閣僚達に向き合った。

 ベラスコは呆然としていたが、ウゴの方は怪訝な顔をしている。

 それは恐らく私のような大の大人がこんな子供じみた真似をしているからではなく、私が抱える"症状"をどことなく察したからだろう。

 その証拠に、まず口を開いたのはウゴの方だった。

 

 

「………タマンダーレさん、大統領にはあなたの支えが必要です。どこで寄り道をなされていたのか。」

 

「本当にごめんなさい。追跡に手間取ってしまったわ。それに、艤装の着脱は久しぶりだったから、錆び付いてしまった箇所があって…」

 

「どうか彼女を責めないでください。私なら大丈夫です。」

 

「失礼ながら、本当に大丈夫ですか、大統領?」

 

「ええ、勿論。それで…どこまで話しましたっけ?」

 

 

 そう言いながら腕時計を見る。

 時刻は午後1時を回っているが、昼飯を食っていないのに空腹感を感じないのはきっと午前中取りつかれたようにタマンダーレのビスケットに齧り付いていたからだろう。

 冷蔵庫のビスケットの半分は平らげてしまった…タマンダーレに後で怒られそうだ。

 

 

「…大統領、A-26による艦隊への攻撃と同時に、首都内の掃討作戦を実施させてください。」

 

「首都内?…ウゴ、説明してください。」

 

「我々が掴んだ情報によると、海軍は隷下の海兵隊を首都内部に潜伏している共産ゲリラ組織と合流させています。」

 

「なんだと…」

 

「恐らく海軍の計画はこうでした。主力艦艇と海軍航空隊を用いてタマンダーレさんを撃破し、大統領が後ろ盾にして最大の切り札である彼女を失ったタイミングに合わせて首都で決起する。その後艦隊は海路を封鎖、航空隊は首都への主要経路を爆撃して陸軍の増援を遮断する…恐らくは国民の大部分が同調すると踏んでの計画でしょう。」

 

「なるほど。しかし海軍航空隊は戦力を失い提督も艦艇を失った。決起を早めるとは思えません。主力艦隊を叩いてからでも遅くはないのでは?」

 

「大統領、二正面作戦を避けたいのは分かりますが、今回は避けられません。ゲリラと海兵隊の掃討を後回しにしたとして、連中は遅かれ早かれ決起しますよ。主力艦隊への攻撃の成否が掛かる場面で二正面作戦が始まれば、それこそ最悪の事態です。」

 

「…………"避けることのできない戦争ならば先手を打つべし"…分かりました、ではこうしましょう。ウゴは秘密警察実働部隊と陸軍機甲師団を率いて首都内の制圧を行ってください。一般人への被害は考慮しなくても結構、全責任を海兵隊に押し付けられる。」

 

「了解致しました。」

 

「それから、中将。準備が整ったら報告をお願いします。タマンダーレには攻撃許可こそ出しませんでしたが、敵艦隊の追跡をしてもらいました。おおむねの位置は特定できています…今度こそ敵の主力艦隊を叩きますよ。」

 

「大統領、その事なのですが…」

 

 

 ここに来てベラスコ中将が初めて意見する。

 私としては何を言われるか概ね予想がついていたし、まさにその通りだった。

 

 

「海軍の主力艦隊にただ攻撃機をあてがったところでこちらの損害が増えるだけです。戦果は保証できかねます。」

 

「その点はご心配なく。………もう少しで連絡が来ると思うのですが。」

 

 

 私は今回、提督の海軍を海の底に沈める為に様々な準備を行った。

 先ほどウゴが言ったように、私も提督の立場ならタマンダーレを沈めることを最優先事項とする。

 そうすれば提督の作戦が成功した可能性も大いにあった。

 だから提督とその海軍のために、私は出来得る限りの罠を用意させていただいた。

 まず一つ目は先の海軍航空隊への攻撃。

 2つ目はユニオンから供給された新鋭のA-26攻撃機による攻撃。

 そして3つ目は…

 

 

 しばらくすると電話のベルが鳴り響いて、私は即座にその受話器を取る。

 このタイミングで連絡を取ってくる相手は1人しか浮かばないし、そしてその人物は期待通りの相手だった。

 いくつかの中継を挟んだ後、扇情的な女性の声音が鼓膜を舐めた時、私は望んでいたものをようやく手にしたことを悟った。

 

 

『もしもし?聞こえてるかしら?…アンタが私の新しい指揮官?』

 

「…まずはそちらの所属と名前を教えてもらえるかね?」

 

『はぁ〜あ、連れないわねぇ。独裁者ってのはどうしていつも()()なのかしら。……………………私はCNS プリンツ・オイゲン(プリンツ・ユージーン)。これよりアンタの指揮下に入るわ。』

 

「我が国へようこそ、ユージーン。私はアドリアン・セルバンデス、これより君の指揮を取る。」

 

『へぇ。アンタがあのクソ野郎が言ってたド変態ね?…自分の戦艦を沈めて欲しいだなんて、いいシュミしてるじゃない。』

 

「誤解があるようだ、ユージーン。一つ、私はれっきとした紳士だし、君のようなKANSENにそういった口をきかれるのを許さない。二つ、君は()()()()()()()()()()()()。それに『コクレーン』は強力だ、くれぐれも油断しないように。」

 

『……まぁ、どうだって良いわ。…ふふっ、戦艦?鎧袖一触よ?』

 

  

 

 

 何故かは知らないが、電話越しに聞こえる彼女の余裕ある口調には、確かな説得力を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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