KAN-SENは歳を取らない   作:ペニーボイス

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手を汚す者達

 

 

 

 

 ウゴ・オンディビエラ秘密警察長官は首都内の海兵隊と共産ゲリラによる反体制分子の武装勢力を叩き潰したと報告するために、大統領執務室へと向かって歩いている。

 手元には一冊のファイルがあり、その中には今回の作戦で仕留めた人間の名前が載っていた。

 海兵隊と共産ゲリラの混成軍は壊滅、僅かに生き残った捕虜も、スタジアムで処刑されている。

 このことが提督の耳に入るまでに、そう時間はかからないと思われた。

 だからこそ、ウゴは短節な報告で済むように要領をまとめておいたのだ。

 

 ところが大統領執務室のドアを引いたところで、彼は蒼い髪の長身美女に出会した。

 

 

 

「ああ、タマンダーレさん。大統領にご報告を」

 

「ごめんなさい、長官。アドリアンは今、ベラスコ中将と共に陸軍機による海軍艦隊への攻撃を指揮している最中なの。…ファイルは私の方から渡しておくわ。」

 

「助かります。…それと、大統領に御助言がありまして…」

 

「ええ、それも私から伝えましょう」

 

「どうも。……海軍との衝突が片付いたら、スラム街への締め付けを緩めるように御助言すると伝えてもらえますか?」

 

「………どうして?」

 

「連中はあんな体裁でも"安価な労働力"として必要性があります。お父上はその辺りをよくご存知でした。"奴隷"は消耗品ではなく財産です。鞭ばかりでは持たない。」

 

 

 タマンダーレはウゴの言い分を良く理解しているようだった。

 確かに、ユニオンがこの国を植民地として経営したいのであれば、彼の言い分は誠に正しい。

 しかしながら、()()()()()()()()()からすると、それは間違いであった。

 

 

「ライリー氏も、ここまでの締め付けは望んでいないはずで」

 

「いいえ、ライリーならやり残しを許さないわ。教育を受けていない貧困層は共産主義思想の影響を受けやすい。だからどんな場合であれ、国内にその影響が残る事を許さないでしょう。」

 

「…そういえば、あなたはライリー氏と共に戦っていたとか…分かりました。あなたがそう言うのであれば、そうしましょう。」

 

「それと…長官、アドリアンは提督の裏切りのせいで精神に深刻な影響を受けているわ。…あなたも感じているはず。」

 

「…………」

 

 

 確かに、ウゴから見ても最近のセルバンデス大統領はどこかおかしな様子が度々見て取れた。

 あの選挙を終えてからその猜疑心には拍車がかかり、今ではもう暴走する特急のようになっている。

 現時点で大統領の"暴走特急"を制御できる唯一の人物は育ての親とも言えるタマンダーレのみのようだ。

 

 

「大丈夫よ、あの子自身も自分の症状には気づいている。けれど、あなたが彼と方針を違えるような助言をしたとなれば…それがいくら正論でも、あの子はきっとあなたを疑ってしまう。」

 

「…しかし助言を控えるわけにもいきませんよ。私の職務ですから。」

 

「ありがとう、長官。あなたが誠実な人だって、あの子も心の内ではちゃんと理解しているわ。けれど、今のあの子は不安定。…私から提案があるのだけれど…」

 

「………提案?」

 

「ええ。あなたの助言は、全て私を通してあの子に伝えるようにしておきましょう。」

 

「………」

 

「気持ちは分かるけれど、あの子が疑心暗鬼になってあなたを撃ってしまうよりは……あの子が回復するまで、こうするしかないと思うの。」

 

「………はぁ。仕方ありません。そうしましょう。…先程の件はくれぐれもよろしくお願いします。」

 

「分かったわ」

 

 

 ウゴはタマンダーレの提案に乗って、彼女にファイルを手渡すと、そのまま回れ右をして自身のオフィスの方へ向かっていく。

 ファイルを受け取ったタマンダーレは、その背中を見送りながらも、そっと小さく呟いて、ウゴ自身には聞こえないように詫びを入れた。

 

 

「……ごめんなさい、長官。ライリーなら、あなたの助言をアドリアンに実行させるでしょう。…でも、させるわけにはいかない。あの子を解放するためには、私が手を汚さないと。」

 

 

 タマンダーレは秘密警察長官の背中を見送った後、急足で執務室へと戻る。

 何を急いでいるのかと言うと、彼女にとっても大切な人物が"持病"を再発させていないか心配だったからだ。

 果たして執務室へと戻ると、タマンダーレの心配は杞憂ではないことが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に攻撃は上手くいくのか?この情報は信頼性があるのか?誰が提出した?」

 

「だ、大統領、落ち着いてください。その予想被害は陸軍参謀本部で作成しています。まず間違いありません。」

 

「間違いない?間違いない、だと?不確定要素がいくつも連なる戦闘行動において、間違いのない情報なんて…」

 

「アドリアン!」

 

「!?………タマンダーレ…ああ、すいません、中将。悪い思考の循環に入ってしまっていたようです。…本当にすいません。」

 

 

 タマンダーレがファイルを片手に戻ってきてくれたおかげで、私は自身のパラノイアを傍に置くことができた。

 ああ、本当にいけない。

 中将の困惑した顔も無理はないし、こんな事を繰り返していたらそれこそ中将に造反されてもおかしくないのだから。

 

 

「それで、えっと、あの…A-26は任務を遂行できそうですか?」

 

「ええ、はい、大統領。計画の通り、既に離陸して海軍艦隊の方へ進路を取っています。」

 

「よろしい、本当によくやってくれています、ありがとう。」

 

「ねぇアドリアン、長官からコレを預かっているわ。」

 

「コレは?」

 

「秘密警察と陸軍部隊は首都内の不穏分子を掃討した…こちらの作戦は成功よ。」

 

「おおっ!…となると後は本当に海軍だけですね。」

 

「その通りです、大統領。…差し出がましいかもしれませんが、提督は無謀にも海軍本部から動いていない様子です。首都を制圧した部隊をそちらに派遣するというのは…」

 

「魅力的ですが、今はやめましょう。私が提督の立場なら、『コクレーン』の指揮官に艦隊の指揮権を移譲しています。…提督の方ならあの戦艦を沈めてからでもどうにかなる。」

 

「分かりました」

 

「ユージーンは配置に着きましたか?」

 

「もうまもなくです。…連絡を繋げます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて鉄血公国海軍の新鋭重巡洋艦としてアズールレーンのKANSEN達から恐れられた彼女は、あの独裁者がまるで彼女をアマチュアのように扱ったことが気に食わなくて仕方ない。

 何が"沈めるわけではない"、だ。

 手っ取り早く終わるならそっちのほうがいいだろうに。

 元は海軍の軍人だったというあの独裁者は、彼女からするとあまりに慎重が過ぎるように思えるし、そこに好意を感じることもありえない。

 あのキールの軍港で心の底から信じていた指揮官に売られた事を知った時から、彼女はヒトというものを信じなくなっていた。

 

 

 

「………ま、注文があるなら従うわ…好きなようにやったら?」

 

 

 ユージーンは独り言を呟きながら大きく伸びをする。

 艤装の幾つかはユニオン製のそれに入れ替わっているし、使い慣れた鉄血製のものと比べるとイマイチ馴染まない部分も多い。

 それでも長年の経験が彼女に任務遂行の自信を与えていた。

 ちゃんとした裏付けのある自信に満ち溢れる彼女は、久々の日光を楽しむかのように海上のひと時を過ごしている。

 しかしそれもしばらくの事で、じきにあの独裁者からうざったい雑音混じりの通信が入ってきた。

 

 

『ユージーン、ユージーン、聞こえているかね?』

 

「ええ、バッチリよぉ。もしこの通信を海軍に傍受されてたら、私の名前もバッチリ筒抜けているくらいバッチリ。」

 

『この回線は秘密警察のものだ。海軍には傍受のしようがない。…余計な心配はしなくてもいいから、ちゃんと作戦通りの行動を取れるか心配して欲しい。』

 

「…アンタ、私を何だと思ってるの?」

 

『20年ぶりに実戦に参加する"大ベテラン"、つまり最も厄介な類の相手だと認識してる。他人からの助言には耳を貸さない割に、大事なところでヘマをしかねない。』

 

「…………」

 

『…まぁ、そう怒るな。私を殺したくなったかもしれないが、そうすれば君は復讐を果たせなくなる。』

 

「要件は何?とっとと言ったら?」

 

『なら短刀直入に言おう。陸軍機は既に離陸した。艦隊はじきに対空戦闘で手一杯になる。…そろそろ出発されたい。』

 

「…ふぁ〜あ、なら仕方ないわね。それにしても、アンタどこまで甘ちゃんなの?たかがユニオンから"貰った"KAN-SENのためにここまでするなんて。」

 

『君の使命はここで終わりではない。…薄々感じているだろう?…それに、重ねて言うが、君が警戒すべきは戦艦ではなくて、戦艦を囲んでる駆逐艦の方だ。』

 

「えっと…何?対艦ミサイル…だったかしら?」

 

『その通り。だからこそ艦隊に混乱をもたらす必要がある。何度も言うが決して油断するな。対艦ミサイルならKAN-SENも沈められる。』

 

「ああ、もう、分かった分かった。…それじゃあ…プリンツ・ユージーン、前進するわ。」

 

 

 ユージーンは呆れ気味にそう言いながら海上を新たな目標に向けて進み始める。

 どちらにせよ、あの独裁者が生き残らなければ彼女の目的は果たせない。

 だからこそ、彼女は彼に従うつもりだった。

 

 

 

 

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