KAN-SENは歳を取らない   作:ペニーボイス

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戦艦『コクレーン』

 

 

 

 

 

 艦隊の中心にいる戦艦のブリッジでは、艦長たる海軍のスアレス大佐が見事なまでの顰めっ面を披露している。

 理由は明白で、海軍は今のところ主要な3つの攻撃の内の2つを退けられていた。

 まぁ、航空隊の件に関しては陸軍の飛行場を叩けただけ良いにせよ。

 しかしあの"デカチチ女"の事を勘案に入れると、どうにもこちらの劣勢は否定できそうにない。

 

 彼は無線の受話器を手に取ると、沿岸の海軍基地で総指揮を取っている提督に連絡を行う。

 それは定時連絡で、彼は提督の指示通り待機して、これまでの間に一切の攻撃を受けていない事を報告しなければならなかった。

 提督はすぐに連絡に応じ、大佐に話しかけてくる。

 

 

『…なるほど。で、君の意見を聞こうか、大佐。』

 

「こんなところで油を売っていても埒があかない。首都の沿岸まで出向いていって、大統領宮殿さえ脅かせば、あのクソッタレも切り札を出さずにはいられないと思うぜ?」

 

『それで?何か行動は起こしたのかね?』

 

「………現在、駆逐艦1隻に偵察を行わせている。あのクソッタレなら、首都沿岸部に機雷を敷設したに違いないと思ったからな。」

 

『なら…現在は掃海中か?』

 

「いや………機雷は敷設されていなかった。」

 

『何?』

 

「どうにも臭うんだよ、提督。あの独裁者は俺たちに向かって懐を開け広げにしてやがる。俺にはどうにも理解できない。』

 

『待ってくれ、偵察に出した駆逐艦からその後連絡は?』

 

「何だって?」

 

『駆逐艦からの連絡だ!連絡は取れているのか!?』

 

「ああ、つい先程まで連絡はついていた。」

 

『ならもう一度確認すべきだ!』

 

「急に慌てて一体どうしたってんだ、アンタらしくもない」

 

『アドリアンが首都沿岸部をガラ空きにしてたのは恐らく罠だ!だがお前たち艦隊主力は現れなかった…警戒しろ!奴は既に次の手を打ってきている!』

 

 

 提督がそう告げた時、ブリッジに伝令兵が駆け込んでくる。

 顔中を汗だらけにした伝令兵は切羽詰まったような様子で、艦長が誰と話していようが構わないつもりのようだ。

 やがて伝令兵が口を開くと、大佐はその理由を知る。

 

 

「艦長!対空レーダーに複数の機影です!」

 

「機影!?バカな!敵の航空部隊は叩いたはずだぞ!」

 

「レーダーは全て正常、間違いありません!」

 

「クソッ!これが奴の"次の手"か!…総員戦闘配置!所属不明の航空機は恐らく敵の部隊だ!叩き落とせ!」

 

 

 大佐は無線を切るとヘルメットを被り、艦内放送装置を使って乗組員に戦闘態勢を取る。

 その後はレーダー室に通信を繋げて、敵航空部隊の情報を問いただした。

 

 

「敵航空部隊の勢力は?」

 

『現時点で20機以上、B-25より高速です。』

 

「火器管制、こちらブリッジ!敵機が射程内に入り次第弾幕を張れ!…畜生!陸軍の奴ら、いつのまにこんな航空部隊を揃えてやがった!?」

 

 

 大佐がブリッジで怒鳴っている間にも、彼の搭乗する戦艦を主体とした軽巡2、駆逐艦2の艦隊は敵方へ向けて対空射撃を始めている。

 しかし敵機の内、最初の4機ほどが、それを掻い潜るように急降下して、眼下の艦隊に向けて航空爆弾を投下した。

 4機が放った爆弾はいずれの艦も捉えることはなかったが、戦艦コクレーンの周囲には至近弾が着弾し、艦体は大きく揺れて舞い上がった水飛沫がブリッジの内部にまで飛んでくる。

 

 

「クソッ!畜生!全艦全力射撃!敵機を撃ち落とさないと、持たないぞ!」

 

「第二波来ます!艦長、伏せてください!」

 

 

 副官の叫び声が大佐の耳をつん裂くと同時に、艦隊の内の一隻の軽巡から火の手が上がるのが見えた。

 どうやら航空爆弾の直撃を受けたようで、艦の後部から火の手が上がっている。

 またしても戦艦コクレーンには命中弾はなかったが、いつまで持つことやら…

 炎上する軽巡を見ながらそんな事を考えていると、水平方向から砲弾が飛んできて、炎上する軽巡の船体後部に直撃した。

 大口径の艦砲をマトモに食らった軽巡は即座に沈下し始め、最終的には轟音と共に海に沈んでいく。

 大佐が顔を青くして双眼鏡を砲弾の飛来方向に向けると、そこには今一番出会いたくない類の人物がいた。

 

 

 

「………か、KAN-SEN…!……それも、重巡級の…KAN-SENだと…?」

 

 

 そこにいたのはあくまで彼らの警戒していた、あの軽巡級KAN-SENではなく、それより遥かに強大な存在で、当然のことながら大佐は困惑する。

 しかし彼が唖然としている間にも陸軍機の攻撃は依然として続いていたし、今度は駆逐艦1隻が複数の航空ばくだを食らって轟沈した。

 その衝撃音と副官の悲痛な叫びが、大佐を現実へと引き戻す。

 

 

「駆逐艦轟沈!大佐!どうかご指示を!対空戦闘は残りの軽巡と駆逐に任せ、我々はあのKAN-SENと一騎討ちを」

 

「ダメだ、一対一ではあのKAN-SENに分がある!むしろ、この戦艦で航空部隊を引きつけよう。駆逐艦と軽巡には搭載した対艦ミサイルでKAN-SENを狙わせる。…操舵手、あのKAN-SENから距離を取れ!対艦ミサイルにしろこちらの砲にしろ、遠距離で有利なのはこちらだ!」

 

 

 大佐の指示の下、戦艦コクレーンは敵の航空攻撃を引きつけつつ後退を始める。

 生き残った軽巡と駆逐艦もコクレーンに続いて距離をとり始めた。

 しかしながら敵の重巡級KAN-SENは対艦ミサイルの情報を知らされているのか、その射程内に入らないよう用心しているように見える。

 手堅い手ではあるが、その場合、今度は戦艦の主砲によって苛まれるという事実は想像できていないらしい。

 

 艦隊の総力を挙げた対空戦闘のおかげで、陸軍機も複数撃墜し、敵の攻撃の勢いは弱まりつつある。

 反撃の態勢を整えるため、大佐は改めて操舵手に指示を下す。

 

 

「操舵手、あの小島が見えるか?本艦をあの島の影まで交代させろ。あそこなら安全な距離から一方的にKAN-SENを砲撃できる。…もしも近づいてくるなら、対艦ミサイルの餌食にしてやればいい。」

 

 

 陸軍の空襲にしろ未知のKAN-SENにしろ、予想外の事は多かったが、結局は優勢な戦いに持ち込めそうな事に大佐は内心歓喜した。

 敵は少なくとも切り札のうちの一枚をむざむざ大佐の手中に転がし込んでしまったのだ。

 こちらも少なくない打撃を受けたが、KAN-SENを沈めれば勝機はまだ見込める。

 しかし、そんな大佐の期待は、操舵手に向かうよう指示した小島の方からいくつもの閃光が瞬いた瞬間に、脆くも崩れ去ってしまった。

 

 

 

「た、大佐!島から砲撃です!」

 

「なんだと!?」

 

「陸軍連中です!…奴ら!島にカノン砲を運び込んでます!」

 

 

 大佐の頭の中で、やっと何かしらが繋がりつつあった。

 陸軍機の空襲も、重巡級KAN-SENも、アドリアン・セルバンデスにとっては"材料"に過ぎなかったのだ。

 奴は恐らく最初から、大佐自身が自分の艦の盾に利用しようとした島に配置しておいた重砲部隊で仕留めるつもりだったのだろう。

 この攻撃は最初から三段構えの罠であり、大佐は敵を罠に嵌めたつもりが、実は自分が罠に掛かっていた事に気付かされた。

 

 

「た、大佐!命中弾多数!このままでは沈みます!」

 

「………」

 

 

 陸軍連中は相当数の重砲を島に運び込んでいたらしく、戦艦コクレーンは無数の榴弾の直撃を受けてその船体の至る所から出火を生じさせていた。

 しかし指揮官たる大佐はもはやただただ呆然とするばかりで、やがて副官は諦めたようにこう叫んだ。

 

 

「もうダメだ!艦を捨てろ!艦を!捨てろおおおお!」

 

 

 その直後には、戦艦コクレーンのブリッジにM107自走砲の175ミリ榴弾が命中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………随分と呆気なかったわね。…まぁ、反乱軍なんて所詮はこんなモノかしら?」

 

 

 沈みゆく戦艦の姿を見ながら、ユージーンは軽く伸びをする。

 久々の実戦には正直少しばかり心躍るモノを感じていたのだが、まさかこうも簡単に終わるとは。

 あの独裁者の入念な準備には感心しないでもないが、もたらされたモノは彼女から言わせると"クソほどの価値もないモノ"なのだから、本音を言うとあの愛国的な戦艦の搭乗員達が不憫に思えてくる。

 もし彼女が純粋な第三者としていられるなら、彼女は大統領宮殿の方を砲撃していただろう。

 

 そんな彼女の想いなど知りもしない独裁者は、無線機越しに陽気な声を彼女に浴びせた。

 

 

 

『ご苦労、ユージーン。』

 

「戦艦は轟沈したけど、軽巡と駆逐艦はまだ浮いてるわよ?どうして砲撃をやめさせたわけ?」

 

『白旗をあげてるのでは?』

 

「…アンタがどういう人間かは中央情報局のクソ野郎から聞いてるけど、反乱を起こした兵士を生かしておくとは思えない。」

 

『ああ、それはそうだが…回収できる装備は回収したいからね。悪いがユージーン、彼らを拿捕してくれ。』

 

「仕方ないわねぇ…それと、ちゃんと"面会の準備は済ませてるんでしょうね?」

 

『その点は心配いらない。君が大統領宮殿に帰ったら、あの男は好きなようにして構わないよ。』

 

 

 戦いに敗れ、白旗を挙げた惨めな船舶の拿捕など願い下げだったが、今の彼女はそれに耐える自信に満ち溢れている。

 何のことはない、20年来の復讐までほんのもう少しなのだから。

 

 

 

 

 

 

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