KAN-SENは歳を取らない   作:ペニーボイス

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女王陛下に栄光あれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……あなたのお母さん、亡くなったのはきっと交通事故なんかじゃない。』

 

『え?』

 

『……………たぶん、ライリーよ。あの人はあなたのお父さんを脅迫するために、お母さんを手にかけたの。』

 

 

 

 タマンダーレと初めて寝た日の会話が、何度も頭の中をループする。

 今回の外遊で私は確信を持つに至ったが、ジャック・ライリーは私が想定していたよりもよほど警戒を要する相手だった。

 しかしながら即座に反旗を翻すわけにもいかない。

 私のこの権力はライリーから与えられたもの。

 神に与えられた武器で神を倒そうとした愚か者の御伽噺なんていくらでもある。

 私はその先例に倣おうとは思わない。

 

 だから私が私の目的を果たすためには。

 つまりはタマンダーレをライリーの設計したプランから解放するためには。

 もうしばらくは屈辱に耐えなければならない。

 それも苦痛を相手に悟られる事なく、今通りに…それこそ、相手のやった事に気づいてもいないかのように振る舞いながら。

 

 プラタを平らげれば、南方大陸の大部分は私の掌握下に入る。

 粛清を繰り返して中央集権化を進めれば、それなりの実力を持てるはずだ。

 ライリーにはそれまで油断させておこう。

 従順な犬のフリをして、後はスプルース大統領に任せれば良い。

 そしてその後…タマンダーレには自らの人生を取り戻してもらう。

 

 

 

 そのためにも私はやはりプラタ方面に関心を持たなければならなかった。

 新しい目標ができたからか、私はかつてよりもよほど積極的に業務に当たれている。

 そこにはかつてのような疑念もなければ発作もない。

 もはや、そんな事を考えている暇もないからだ。

 

 

「アドリアン、コーヒーを淹れてきたわ♪…あら?そんなに頑張って、どうしたの?」

 

「君の夫らしい働き方をしないとね」

 

「うっふふふ!あなたの気持ちに応えれる機会があって、本当に良かったわ。…ええ、それなら私もあなたの妻として相応しい女性でいないと。…それじゃあ、さっそく…」

 

 

 そこまで言うと、タマンダーレはコーヒーカップを載せてきたマグカップを置いて、私の側までやってくる。

 机に齧り付いている私に向けてしゃがみ込むと、静かに顔を近づけて、あの夜のように軽い接吻をしてくれた。

 

 

「………!?」

 

「うっふふふ!もう!そんなに驚いた顔しないで!….あなたが回復してくれて、とても嬉しいの。でも、無理は禁物よ?」

 

「ああ、分かった。それじゃあ…休憩しよう。」

 

 

 ペンを手から離して、顔を書類から背ける。

 どうせあと少しでマストの部分は終わりそうだった。

 こう言うのもなんだが、私は判断の速さには定評がある。

「殺せ」「殺せ」「殺せ」「そいつも殺せ」

 だがまあしかし、ウゴという素晴らしい人材がそこまでの判断に至る過程を省いてくれるから、ということも大いにあるが。

 何はともあれ、私が今休憩を取ったところで書類に名前の載っている人間の運命は変わらない。

 

 

 国内最後の大整理という事業に一応の目処をつけて、私は愛するタマンダーレの元へ向かう。

 彼女は微笑みを浮かべて、目の疲れを患う私を迎え入れてくれた。

 

 

「うふふ、アドリアンはやっぱり甘えん坊ね。」

 

「…もう否定しないよ。私は甘えん坊だ…それも、とびっきりの。」

 

「ようやく…本当にようやく本来のあなたが戻ってきてくれたような気がするわ。口調も態度も、今までのあなたとは違う。"おかえりなさい"、アドリアン。」

 

 

 彼女の柔らかな抱擁を受けながら、私は少し懐かしいような気分を覚えた。

 "おかえりなさい"………"おかえりなさい"………

 別に特筆すべきことは何もないはずなのに、私はその言葉がどうにも気にかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 ……………

 ………………………

 …………………………………

 

 

「おかえりなさい、私のアルバロ。」

 

「ああ、ただいま。」

 

「夕食は…」

 

「すまない、すぐに出かけなくちゃならないんだ。まだ仕事が残ってる。」

 

「そんな…働きすぎよ!」

 

「分かってくれ、君を守るためでもあるんだ。」

 

「………アルバロ…きっと私はもう手遅れよ」

 

「!?…そんなこと言うな!私に任せろ、誰にも君を傷つけさせはしない!」

 

「あなただって分かっているでしょう!?これは悪魔との契約なの!私たちも何かを代償にしなければならない!もし私がそうじゃないなら、あの子にまで何かあるかもしれない!」

 

「そんな…そんなことはない!考えすぎだ、マリア!」

 

「権力なんてなくても良かったのに!あなたどうしちゃったの!?」

 

「ライリーは傀儡を欲しているだけなんだ。…いずれ誰かが奴の傀儡になる。それなら…私は自らの手で愛する祖国を動かしたい。それが奴の傀儡に過ぎなかったとしても、できる限りの方法でこの国に尽くしたいんだ。…だが、それでも君を犠牲にするつもりはない!だからそんな事言わないでくれ。」

 

 

 

 

 

 …………………………………

 ………………………

 ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………リアン?…アドリアン?」

 

 

 ハッと我に帰ると、心配そうな顔をしたタマンダーレがいる。

 何故また記憶がフラッシュバックしたのかは知らないが、ともかく彼女には要らぬ心配をしてほしくない。

 私はちょっと戯けたふりをしてから、彼女の大きな胸に顔を埋めた。

 

 

「…はぁ、やっぱりここが1番落ち着く。」

 

「あっははは!こういうの、外でするものじゃないわよ、アドリアン?」

 

「外じゃないだろう?」

 

「うふふ、そうじゃなくて。また愛し合いたいなら、部屋に戻るまで我慢して。」

 

「愛し合いたくないわけじゃないけど、そういう意味じゃないんだ。君の温もりを感じられる幸せを噛み締めたくて…ただそれだけ。」

 

「ふぅん…本当に?それにしては少し方法が大胆じゃないかしら?」

 

「この習慣を始めたのは君の方だろう?」

 

「うっふふふ!OK、分かった。私の負けよ。それじゃあ思う存分、私に温められて?」

 

 

 再び彼女の温もりを感じながら、私は子供の時の記憶をどうにか探り出そうとする。

 アレが何を意味しているのか、思い出すために。

 しかし温もりは眠気を誘い出して、私の思考はじきに回らなくなりはじめた。

 最後には彼女の香りが加わって、私は睡魔の奴隷になり、眠りの底へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラタ

 

 某諸島周辺海域

 

 

 

 

 

 

 ロイヤルネイビーが未だにこの海域に現れない事は、フェニックスとボイシにとっては不思議な事だった。

 彼女達と共に戦ったロイヤルネイビーは、こんなマネをされて黙っているような淑女達ではない。

 例え懐が氷河期に入っていたとしても、それなら彼女達は家財の一才をかなぐり捨てて王家の栄光を守りに来るはずなのだ。

 マスメディアが何も報じず、プラタ海軍が何らの情報を得ていないだけ、フェニックスには余計に不気味に思えた。

 

 

 

「このまま、何もないといいね。」

 

 

 驚くべきことに現役時代そのままの艤装で駆り出されたボイシが、そう言って軽く伸びをする。

 フェニックスもフェニックスで、艤装は当時そのままのものから大して変わってはいなかった。

 人見知りな彼女のマスク姿にはどこか懐かしいものを覚えたが、だからといってそれに見惚れてもいられない。

 彼女の見立てでは、ロイヤルネイビーは必ず反撃に出るからだ。

 ただ、現状ロイヤルの船が一隻も見えない時点では、多少肩の力を抜いても許される気がする。

 

 

「気持ちは分かるし、できればアタシももう戦争なんてごめんだけど…ロイヤルの連中のことは知ってるだろう?」

 

「…うん。でも、ロイヤルが本気で来たら、私達は絶対に勝てないよ。」

 

「だからこそ生き延びるんだ。プラタの敗北はユニオンの敗北じゃない。アタシ達はできる事をやって、この戦争を生き延びて国に帰る。…そんなに難しい事じゃないはずさ。」

 

「そうだね…牧場に帰らないと……」

 

「そんなに肩の力を入れなくてもいいさ。アタシ達は太平洋の激戦を生き延びた。今度だってきっと生き延びる。………ふああっ!それにしても、やっぱり海は良いなぁ!あの牧場はいいところだけど、海からは遠いし。」

 

「うん、久しぶりの海は懐かしい…」

 

「ボイシ、ちょっと潜ってみたらどうだ?」

 

「え?…そんなに長くは」

 

「違う違う、あの頃はよく気分転換に潜ってたろ?こうやってロイヤルの連中をただ待つってのもアレだからさ。」

 

「ああ、それなら…久しぶりに潜ってみようかな…」

 

 

 ボイシは息を整えると、装着したマスクを状態を確認してから南方大陸の海へ潜り込んだ。

 太平洋のそれとは違う…少しばかり冷ややかな海水が彼女の身体にまとわりつき、えもいえないような心地よさをもたらした。

 海中は太平洋のそれよりもクリアではなかったが、しかしまったく先を見通せないわけではない。

 そんなボイシの視界の中に、小さな影が見えたのはその時だった。

 影はどんどん大きくなってきて、彼女の方へと向かってくる。

 やがてその影の正体を認識したボイシは、大慌てで浮上した。

 

 

「おっ、どうしたボイシ?もう」

 

「逃げてフェニックス!魚雷が来るッ!」

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