KAN-SENは歳を取らない   作:ペニーボイス

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やあ、ゲバラ

 

 

 

 

 

 

 ボイシの"抑留"から3日後

 プラタ北部

 山林地帯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あいにくの雨は彼女達の衣服を濡らしたが、アマンダにとっては寧ろ好都合だった。

 南方大陸特有の激しい雨は足音を消してしまうし、敵の視界をも奪う。

 しかしながら視界を奪われるのはこちらも同じなので完全に優位とは言えないが。

 それでもアマンダにとってはまさに天の恵みだった。

 

 プラタ国王は例の諸島を巡る戦いに夢中で、内陸の方にはまるで注意を向けていない。

 それなら彼女達共産ゲリラがやるべきことはひとつだけ………来るべき革命に向けてできる限りの"準備"を進めることだろう。

 アマンダの予想した通り、プラタはアドリアンが強圧的な体制を敷くインビエルノに比べれば遥かに革命の土壌として成熟していた。

 

 

 

 どう言ったって、プラタ国王は国民を愛していることを否定できはしない。

 もし彼がアドリアン・セルバンデスのように国全体を丸々ユニオンに差し出していれば、国内にここまで共産主義者の活動の場を提供できなかったはずだ。

 国王がそんなことはせず、寧ろユニオンとの間に緩やかながら確かな対立を招いているのは、彼が専制君主のあるべき姿としてあくまでも国民を善導するという姿を追求しているからに他ならない。

 

 ただ悲しいかな、国王には手腕がなかった。

 いや、国王だけではない。

 ロイヤルのような立憲君主制ならともかく、旧態然とした専制君主制では国内に蔓延った政治機関の腐食を止めることは何者にもできなかったであろう。

 インビエルノのような生き地獄にいる人間ならともかく、"まともな"国家の住人達が国王の政治に不満を抱くのも致し方ない面もある。

 ユニオンが盤石な基礎を固めるインビエルノには共産勢力の増長を見込めないと判断したコミンテルンが、「それなら隣の古臭い体制を」と言わんばかりに工作員を送り込んで体制批判を煽るならそれは尚更であろう。

 

 少なくとも、アマンダの見る限りプラタ国王の政治は大目に見れるものだった。

 しかしながらこの国もやはりユニオン政財界の影響が垣間見え、そしてそれを阻止するための方策は腐った体制そのものに阻まれているのもまた事実。

 現にインビエルノほどではないものの、貧富の差は着実に現れているのだ。

 国民は変革を…それも今までにない変革を求めている。

 ならば共産主義武装勢力が勢いづくのは当然の帰結であろう。

 

 

 アマンダ達、インビエルノ共産党の残党グループはプラタ共産党から格別の条件に寄る取引に成功した。

 プラタ共産党は革命の成功した暁には、インビエルノにおける軍事独裁政権への革命に全面的な支援を約束したのだ。

 無論、それはただの約束でしかない。

 しかしウゴ・オンディビエラの秘密警察に大きく戦力を削がれたアマンダ達にとって、他に選択肢はなかった。

 それに、プラタ共産党が革命に成功したのなら、インビエルノにおける革命に消極的な態度を取るはずもない。

 プラタ共産党の後ろ盾たるコミンテルンの工作員達も、アマンダの考えに前向きな姿勢を示した。

 つまりこれの意味するところはプラタでの革命は祖国での革命であるということ。

 アマンダ達はその崇高な使命の下、今日の行動に臨んでいる。

 

 

 

 プラタ陸軍はその精強なことで高名だが、少なくとも北部の密林ではそれは例外らしい。

 そこに展開していたのは規律的な問題を起こした兵士が主体となって構成される士気の低い部隊で、月給の安さゆえに共産主義勢力に情報を売る人間が後を絶たなかった。

 彼らは自身が普段吸っているタバコの為に仲間を売ることに何らの躊躇もなく、その情報は対価に比して極めて正確だ。

 アマンダは念のために一応の警戒はしていたが、しかし恐らくは杞憂になることだろう。

 

 

 アマンダ率いるゲリラの一個分隊は雨の降り頻る密林を抜けて、まもなく幅の広い国道へ至ろうとしていた。

 情報によればここをプラタ陸軍の輸送部隊が通るらしい。

 コミンテルンの工作員がプラタの共産主義活動を支援する為に運んできたスチェッキンAPS拳銃を手にするアマンダは、それを前に構えて周囲を警戒しながらも敵影がないことを確認する。

 今度の情報も陸軍側の罠ではないようだ。

 プラタのゲリラ達はアマンダのことを"心配しすぎ"と言っていたものの、アマンダ本人からすると連中の方が"あまりに呑気"なように思える。

 それもこれもインビエルノでのあの経験…陸軍のP47から執拗な攻撃に晒された時の事が未だに尾を引いているのだろう。

 インビエルノ陸軍や秘密警察との戦いを積んできた彼女達は、プラタの共産主義武装勢力の中でも少数ではあれ練度の高い組織として見られていた。

 

 

 

「よし…ここで止まって。タマラとパトリシオは左右の側面に展開、他の皆を率いて挟撃の態勢を取って。"爺さん"は正面、車列が現れたら先頭トラックの運転手を狙うこと。私はタマラの援護に。それでは、配置について。」

 

 

 何年もの間、秘密警察と死闘を繰り広げていれば嫌でもゲリラ戦の基礎が身につく。

 アマンダは慣れた手つきでゲリラ達を配置して、典型的な待ち伏せの態勢を取った。

 しばらくすると鉄血連邦製の大型トラックのエンジン音がアマンダの鼓膜を轟かせる。

 まったく、インビエルノもここまで簡単だったら彼女はプラタまで逃げてくる必要はなかっただろう。

 

 彼女は数人のゲリラと共に、道路から向かって左側の側溝に身を潜める。

 "爺さん"はそのあだ名の通り白髪の生えた老人だったが、長年付き添った妻がアルバロ・セルバンデス配下の爆撃機の攻撃の巻き添えになるまでは猟師をしていて、その腕前は今でも衰えてはいない。

 彼はインビエルノから持ってきた旧式のクラッグ・ヨルゲンセン銃を構えると、道路の方へ集中力を向けた。

 

 

 輸送部隊の大型トラックは全部で4台。

 トラックの前を小型のジープが先行し、ポールマウントの上にM2重機関銃を乗せてはいるが機銃手は持ち場から離れて助手席の同僚と雑談を楽しんでいる。

 最後尾のトラックは40ミリ機関砲を牽引していて、あれでは引き返すのもままならないだろう。

 おまけに40ミリの砲口にはカバーがついたままである。

 精強な陸軍の輸送部隊(コンボイ)というよりは愉快なキャラバンといった方がしっくりきた。

 

 

 "爺さん"が狙いを済ましている様子を見て、アマンダはあくまで車列から見えないように小さく手を挙げながら、反対の手でAPS拳銃の狙いを車列の方に向ける。

 そうして彼女は今までの経験から導き出された最適の位置において、一気に手を振り下ろした。

 

 

 

「撃てッ!」

 

 

 老人の小銃がいの一番に銃声を挙げる。

 7.62ミリの銃弾は大型トラックの運転手の胸を捉え、4台のうちの先頭が急停止した。

 続いてアマンダ率いる左翼のゲリラ達が一斉に身を起こし、現時点で最も重大な脅威である小型車両に向けてありったけの拳銃弾や小銃弾を叩き込む。

 ジープの乗組員達はそれらの直撃を受けて即死して、車両は横転を起こして大破した。

 前から2番目のトラックは前方のトラックが急停止したのを見て多くの徒歩兵を吐き出し始めたが、彼らは右翼からの銃撃に晒されてすぐに身動きを取れない状況に追い込まれる。

 そうしてアマンダが攻撃を命じてから10分後には、プラタ陸軍の輸送部隊はこの少数のゲリラに投降することとなった。  

 

 

「撃つな!撃つな!降伏する!」

 

「手を挙げて出てきな!妙なマネしたら撃つからね!」

 

「妙なマネなんてするものか!あんな国王の為に死ぬ気なんざさらさらないね!」

 

 

 陸軍兵士の殆どは旧式のM1小銃で武装していたが、3両目の4両目の車両には荷台いっぱいに新式ライフルのG3やHK21軽機関銃、MG3機関銃にUZIサブマシンガンが載っていた。

 40ミリ機関砲は状態も良く、4台目のトラックはその砲弾も積んでいる。

 彼女達のような共産ゲリラにとっては、まさに宝の山と言えるだろう。

 膨大な数の武器と4台のトラックをその場に放棄しなければならない法はなく、そうなれば問題は投降した陸軍兵士たちだった。

 

 

「なぁ!アンタらに加わらせてくれ!こんな体制はもうたくさんだ!」

 

「そう思うならなぜ自分たちで立ち上がらなかったんだい?」

 

「………それは…」

 

「…まぁ、気持ちは分かる。人間どんなに現状に不満があったとしても、実際に立ち上がる事のできる人間なんてそうそういない。だから…アンタらはここから立ち去りな。」

 

「!?」

 

「一度兵舎に逃げ帰って、温かい食事でも食べて、それでも参加したくなったら私たちを探すといい。」

 

「……逃がすってのか?俺たちはアンタらの顔を見てるんだぞ?」

 

「だから何だい?警察の指名手配を恐れるには遅すぎるとは思わないのかい?…そんなのどうだっていい。ただし、アンタらが逃げ帰ったとして、私にその背中を撃つ気はないよ。…ああ、ただ武器は置いていってもらうけどね。」

 

 

 不審な顔を隠そうともしない陸軍兵士達に、アマンダは手で"しっし"とジェスチャーする。

 兵士達はM1小銃をその場に投げ捨てて、最初は後退りし、そしてその後背中を見せて一目散に逃げ出した。

 アマンダがその背中を見送っていると、仲間の1人が彼女に問いかける。

 

 

「本当に行かせて良かったのか?」

 

「ああ。あんな連中は陸軍にいても戦力になりはしない。まぁこっちとしちゃ、軍の兵站に負荷をかけるだけありがたいけどね。」

 

 

 彼女はそれだけ言って、兵士たちが置いていった小銃を集め始める。

 他のゲリラ達もそれに倣い、30分後にはその場に横転したジープを残すのみとなっていた。

 

 

 

 

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