KAN-SENは歳を取らない   作:ペニーボイス

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ウサギの穴に落ちて

 

 

 

 

 

 

 2門の迫撃砲、つまりM2軽迫撃砲は短時間ながらも効果的な砲撃を行った。

 施設正門の銃座を沈黙させ、何名かの歩兵を吹き飛ばすと、間髪おかずに女性兵士に率いられたゲリラがやってくる。

 インビエルノの陸軍兵は完全に不意をつかれた形となったが、その割には早期に体勢を立て直すことに成功した。

 彼らはまもなく射撃姿勢をとってゲリラ達への発砲を始めたが、このあたりはあちらの方が戦い慣れているせいか、ゲリラは素早く分散して陸軍兵達を包囲し始める。

 

 

「畜生!襲撃だ!無線手を呼んでこい!」

 

 

 インビエルノ陸軍の守備隊を率いる少尉は状況が我に著しく不利であることを瞬時に見てとった。

 陸軍も大勢を記者狩りに割かれている分、各施設の守りは手薄にせざるを得なかったのだ。

 特に旧プラタ海軍の施設なぞに、ゲリラどもが活用できる資材が眠っているとは考えられていない。

 確かにKANSEN用の艤装は眠ってこそいるものの、ゲリラがそれを得て何になる?

 

 考えても仕方ない。

 少尉は部下に命じて無線手を呼んで来させる。

 しかし、無線機を背負った兵卒は、少尉のところに辿り着く前に頭をぶち抜かれて倒れ込んでしまった。

 

 

「畜生!畜生!くそったれ!」

 

「少尉、どうかご指示を!」

 

「くそ!装甲車だ!装甲車をこの位置に連れてくるんだ!」

 

 

 

 

 

 アマンダは正門を突破すると、敵の銃座だった場所の近くに設けられた塹壕に潜り込む。

 後からはアルジェリーとパスカルがパンツか何かのようにくっついてきて、こちらに銃火を見舞う敵兵に反撃していた。

 

 

「想像はしてたが、よく訓練されてるな!」

 

「ああ、陸軍の正規兵だからね!」

 

「違う、アンタの部下達だ!」

 

「そりゃどうも!」

 

 

 アマンダが手元のUZIにまた1弾倉を突っ込んだとき、甲高いエンジン音が彼女の耳をつく。

 見ればV100装甲車が施設正門に殺到するゲリラ達を掃討するためにやってきていた。

 

 

「アマンダ、敵の装甲車よ!」

 

「ああ、分かってる…良いことね。」

 

「装甲車が向かってきてるのよ!?何が良いことなの!?」

 

「計画通りだからよ!」

 

 

 V100装甲車はM60機関銃の射撃をばら撒きながら我が物顔で正門に近づきつつあったが、やがては横方向から飛んできた対戦車ロケットにより沈黙させられた。

 薄い装甲はパンツァーファウスト44の成型炸薬弾に耐えることなく、小柄な装甲車は容易に炎上する。

 それを見てとったアマンダはアルジェリーの方へ振り返った。

 

 

「今だ!壕から出な!とっとと艤装を見つけるんだ!」

 

 

 壕から飛び出たアルジェリーは炎上するV100まであまり距離がないことを見て取ると、一気に駆け出してその銃座に登る。

 あろう事か、彼女はM60機関銃を"もぎ取って"まだ壕から出ていないパスカルの下まで戻ってきた。

 

 

「ほら、パスカル、行くわよ!」

 

「…はぁ……君がKANSENだってことを忘れてたよ。」

 

 

 パスカルも壕から出ると、M60機関銃を抱えるアルジェリーのすぐ後ろを続いていく。

 最大の脅威を沈黙させたからとはいえ、陸軍守備隊は未だ激しく抵抗していた。

 左右に飛び交う銃弾の中で、やがてアルジェリーは施設内に塹壕が掘られている事を発見する。

 塹壕は沿岸沿いにある大きな格納庫へと続いていて、艤装が保管されているならばそこだろうと彼女は思いつく。

 

 

「あの塹壕に入るわよ、パスカル!」

 

 

 半ば押し込むような形で、アルジェリーとパスカルは塹壕に入る。

 格納庫にはまだ敵兵がいるようで、そのすぐ傍の建物の2階からBAR自動小銃の正確な射撃が降ってきた。

 アルジェリー達は身を屈めて7.62ミリ弾の下を潜りながらも格納庫へと近づいていく。

 

 

 塹壕の中で、アルジェリーは銃剣を装着したM14を持つ陸軍兵に2、3回遭遇し、その度に機関銃でなぎ倒した。

 最終的にはゲリラの別のパンツァーファウストチームがBARに向けてロケット弾を放ち、これを沈黙させる。

 そうすると今度は格納庫に備え付けられている建屋から別の機関銃が彼女達への射撃を開始した。

 おかげでアルジェリー達は身を屈めたまま前進せざるを得なかったが、じきに位置を変えた迫撃砲が機関銃を吹き飛ばす。

 そうして初めて、アルジェリーとパスカルは塹壕から這い出て格納庫へと入ることができた。

 

 

 思った通り、格納庫の中央にはブルックリン級と思われる軽巡級KANSENの艤装が格納されていた。

 アルジェリーとパスカルに引き続いてゲリラ達が突入してくると、彼らは未だ格納庫内で抵抗を試みるインビエルノ陸軍守備隊を掃討すべく散開していく。

 格納庫内には未だ銃撃音が反響しているが、しかし艤装の確保には漕ぎ着けたと捉えてもよかった。

 じきにアマンダが彼女達の元へとやってくる。

 

 

「よし、艤装は手に入れたね!装着できそうかい!?」

 

「ええ、見たところ最近まで稼働していたようだから、きっと大丈夫!あとは小型艇ね!」

 

「アルジェリー、あまり時間がない。早く脱出しよう!」

 

「パスカル、あなた海の上を歩いていけるわけじゃないんでしょう?それとも私にお姫様抱っこされながら脱出するつもり?…北の隣国に逃れるまで抱えられたままになるけれど。」

 

「あ〜…そうだったな、すまん。小型艇が必要だ。」

 

「守備隊はかなりへばってる、じきにこの施設は制圧できるだろう。ただ長居はしない方がいい。こっちが制圧を進める間に、アンタ達で小型艇を確保してくれ!」

 

 

 アマンダにそう言われ、アルジェリーは機関銃を手に別の格納庫へと歩を向ける。

 M3サブマシンガンを手に持つパスカルと一緒に、まだ残っているかもしれない守備隊員に気をつけながら慎重に移動を始めた。

 幸いなことに残存兵に出くわすことはなく、別の格納庫へ至ったアルジェリーとパスカルはそこでアマンダの情報が正しかったこと…つまり、小型艇と輸送船が係留されている事を確認する。

 

 

「…あった、小型艇よ。パスカル、私が警戒しておくから、具合を確かめてちょうだい。」

 

「ああ、任せろ。」

 

 

 背中をアルジェリーに任せて小型艇に乗り込もうとしたパスカルだが、そのタイミングで自動小銃を持った男達がやってきた。

 インビエルノ陸軍兵達は小型艇に乗り込もうとするパスカルを見るなりM14小銃で一斉射撃を見舞う。

 パスカルは被弾こそしなかったものの、銃撃によろめいて、小型艇に隣接した輸送船の方に飛び込んでしまった。

 

 

「パスカル!?大丈夫!?」

 

「くそっ…ああ、アルジェリー、こっちは大丈夫だ!」

 

「このッ!よくも私の夫を!」

 

 

 アルジェリーはM60を腰だめに撃ちまくり、パスカルを攻撃した4〜5名の陸軍兵を葬った。

 M60が薬室に残った最後の弾丸を発射すると、アルジェリーはそれを放り投げてパスカルの下へと向かう。

 幸いなことにパスカルに被弾はなく、少し膝を擦りむいただけと言うことがわかった。

 

 

「パスカルッ…」

 

「心配ない、ちゃんと生きてる。」

 

「…ああ、よかった…本当に。アマンダの言う通り、長居はできないわね。早く小型艇を確かめて、艤装のところに…」

 

 

 そこまで言った時、輸送船の中から何か物音が聞こえた。

 パスカルとアルジェリーは一度ビクッとしてから顔を合わせ、輸送船の閉ざされたハッチの方を見る。

 輸送船は決して大きくはない…小型艇より一回りだけ大きいようなクルーザーのような船だったが、中に一個小隊の陸軍兵が入っていても不思議ではないほどの大きさはあった。

 パスカルは手に持つM3サブマシンガンを、アルジェリーはホルスターからハイパワー拳銃を引き抜いてハッチから一度距離を取る。

 互いの準備が整ったのを確認してから、アルジェリーは一気にハッチを蹴破った。

 

 

 KANSENのパワーで蹴られたハッチは勢いよく船内へと吹き飛ばされる。

 その時、船内から老若男女の悲鳴が聞こえたことにアルジェリーは驚いた。

 

 

「陸軍兵じゃないわね…警告をすべきだったかしら?」

 

「ハッチの前に立ってた人間はいないようだ、ツイてたな。…さて、中にいるのは誰だ?」

 

 

 2人は警戒を怠ることなく船の中へと入っていく。

 中は暗く、そして何かが腐ったような臭いや、用便のような悪臭に満ち溢れていた。

 アルジェリーが両脇の壁を頼りに歩いていくと、船内の奥の方で誰かしらの人の雰囲気を感じ取ることができる。

 念のため用心深く拳銃を構えていた彼女だが、じきにその必要性を放棄して、手にする武器をホルスターに収めた。

 続いてくる夫にサブマシンガンを下げるように伝えると、次いで、今や目の前に現れた人々に話しかける。

 

 

「落ち着いて!私達は陸軍じゃない!…秘密警察でも。…誰か、この中で話を出来る人はいるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アマンダのゲリラ達はついに海軍施設を制圧した。

 とはいえアマンダは安心などしていない。

 沿岸にあった高射砲が守備隊の全滅に気づいて砲撃してきてもおかしくないし、敵の司令部は定時報告をしない拠点を放置しないだろう。

 その事を考えれば彼女に残された時間はそう多くはない。

 

 この事を踏まえるに、今彼女の目の前でアルジェリーが行なっている行為は正に無謀としか言いようがなかった。

 確かに理解はする。

 彼女の行為は非難できたものではないし、それを非難しなければならない自分の立場こそ歪なのかもしれないとすら思う。

 しかしアマンダの知る限り、アルジェリーはこんな悠長なマネをしている場合ではないのだ。

 

 

 

「アンタ、アンタ!状況が分かってるの!?このままじゃ陸軍は強力な増援を送り込んでくる!さっさと艤装をつけて、早く出ていくんだ!」

 

「落ち着いて、アマンダ。」

 

 

 アルジェリーは輸送船に貨物よろしく積み込まれていた人々に食糧を配りながらアマンダに返事をする。

 ああ、まったく、これだからアイリス人は!

 そう思ったアマンダだが、アルジェリーが語った言葉には驚かされた。

 

 

「このまま脱出しても、上手くいかないと思う。」

 

「はっ!?…な、なんなの、アンタ!?今更怖気付いた」

 

「そうじゃない。この船の船長と話したの。」

 

 

 悲惨な環境下に何日間も捉えられていた一団のうちの1人の方に手を向けて、アルジェリーがそう言った。

 

 

「彼らは数日前にあの船で脱出を試みた。ところが出航寸前に秘密警察に捕まって、ここまで係留されたそうよ。私たちが来なければ、彼らはあの高射砲の射撃訓練の標的になるところだった。」

 

「アンタの騎士道精神には頭が下がるけど」

 

「どうか最後まで聞いて。彼らは()()()()()()()()()()()()()()()…ねえ、何かおかしいとは思わない?」

 

「………え?」

 

「あの高射砲陣地からここまでは、そう遠くはない。正直、私はここを襲撃する時には砲撃を受けると覚悟していたけど、高射砲は1発も撃ってきていない。」

 

「それは味方が…」

 

「迫撃砲の制圧くらいはできたはずよ。それに、あまりにも"簡単が過ぎる"。あなたのところの"お爺さん"が凄腕の射手だっていうのは認めるけど、無線手を撃たれただけで高射砲が機能しなくなるなら…彼らはプラタ陸軍に打ちのめされていたはず。」

 

「………何が言いたいわけ?」

 

「…恐らく、この海域一帯は敵の砲兵に標定されてる。私が艤装をつけて出たところで、観測手が合図を送って正確な砲撃を始める事でしょう。」

 

「なっ…でも、たかが高射砲でしょう?KANSENの防御力なら、大した脅威にはならないんじゃないの?」

 

「………アルバロ・セルバンデスは海軍を重用したわね。そのために、陸軍は自組織の必要性を常に訴えねばならなかった。彼らはその答を沿岸警備に求めたわ。」

 

「待って。まさか、連中は」

 

「ええ。その"まさか"よ。きっと、ここから数キロ圏内に、あの戦艦『コクレーン』を沈めた自走砲部隊がいる。…それも、恐らくはしっかりと標定まで済ませているでしょう。」

 

 

 アルジェリーの言葉に、今度はアマンダが愕然とする番だった。

 思わずUZIをその場に落としかけたが、アルジェリーが彼女の武器を受け止めた。

 

 

「しっかりして、アマンダ。まだ絶望するには早いわ。」

 

「何てこった…騙されてたんだ……私たちは罠のど真ん中に入り込んじまった…」

 

「違う、そうじゃない。」

 

「なんで…どうしてそんなことが言えるんだい!?私もアンタも、ここにいる皆、結局は()()()に騙されて」

 

「落ち着きなさい!…私の思うに、あなたの情報源は嘘を吐いてはいないと思う。」

 

「どうして…言い切れるの?」

 

「だって、あまりに不確実じゃないかしら?いくら高練度の砲兵が手元にいるからと言って、大戦の時のやり方でやるなんて…。自由が効くのなら、もっと他の方法を用いたはず。きっと、この罠を仕組んだのは別の人間よ。」

 

「………別の?」

 

「ええ。きっとその人間は、あなたの情報源のことも勘づいている。だからこの罠を練り上げる時に細心の注意を注ぐ必要があった。…一切の情報が漏れ出ないように。私達を上手く騙せたけど、その代償として作戦の自由は制限された。だからこそこんな手を使ってる。」

 

 

 アマンダは早くも冷静さを取り戻しつつあった。

 確かに、あのファーストレディが最初からこちらをハメるつもりならもっといいやり方があったはずだ。

 

 思考に嵌る彼女の側では、先ほどの"船長"がアルジェリーの下へやってきて何やら案内を始めていた。

 曰く、2日前にインビエルノ沿岸警備隊の将官がやってきて何か置いていったという。

 その品物も気になったが、しかしアマンダはこの罠の背後にいる人間に思考を巡らせてやまなかった。

 

 

 心当たりはいる。

 あのファーストレディにすら事実を伝えずにこの作戦を練れる人間。

 きっと…あのウゴ・"クソッタレ"・オンディビエラなら、十分にやり遂げる力量がある。

 

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