KAN-SENは歳を取らない   作:ペニーボイス

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戦闘開始

 

 

 

 

 

 プラタ

 旧海軍施設

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ、それ本気で言ってるわけ?」

 

「他に方法はないわ、アマンダ。」

 

 

 眉を顰めるアマンダに、アルジェリーは毅然ときてそう言い放つ。

 ここまで自信を持って言える理由はただ一つしかない。

 本当にそれしか方法がないからだ。

 

 

「自走砲部隊は数キロ圏内にいるんだろう?…そいつらを叩いた方が良いんじゃないかい?」

 

「いいえ。自走砲が配備されているのは十数キロ範囲かもしれないし、もっと近いか、或いは遠いかもしれない。砲撃の精度を高めるには海岸から距離を取らないのが定石だけれど、じっくりと標定を行う時間があったのならその限りではないかもしれない。」

 

「なるほど…自走砲部隊を見つける前に、クソッタレ共の増援がやってきてもおかしくない…そういうことだね?」

 

「ええ。あなたが言った通り、私たちにはあまり時間がない。この罠を仕組んだ人間が周到なら、もうそろそろ増援を送り込んでいるはずよ。」

 

 

 アルジェリーの作戦には確かな裏付けがある。

 それは元海軍士官である夫の知識と、彼女自身の経験によって担保されたものだった。

 そうなると、ゲリラ戦の経験こそあれ正規の教育を知らないアマンダは敵わない。

 結局のところ、アマンダは最初からアルジェリーに頼らざるを得ないと認めていた。

 

 

「…分かった。それじゃ、あの高射砲陣地を叩く理由を教えてもらえるかい?」

 

「砲兵が砲撃を行う場合は、必ずその効果と着弾点を観測する兵士がいるわ。砲弾もタダではないし、兵站補給上の観点からも無駄に撃てるものじゃない。対砲レーダーの開発で、部隊の位置が容易に特定されやすくなった現在なら尚のこと。」

 

「つまり…連中も砲撃を行う以上は観測点を設けてる。」

 

「そう。あの高射砲陣地なら、この海岸一帯を見渡せたはず。連中は私を砲撃するためにあそこに高射砲を置いたわけじゃない…きっと、あの陣地はブラフよ。」

 

 

 アルジェリーの説明に、アマンダは納得した。

 敵の意図を考慮するならば、観測兵は間違いなくあの陣地にいる。

 幸いなことに敵はこちらが高射砲陣地の存在を探知した事を知らないし、高射砲は陸軍航空隊の所轄で、故に正規の陸軍兵よりも小火器装備は劣っていることが見込まれた。

 十分に準備して奇襲をかければ制圧は決して困難ではない。

 この施設には何両かの大型トラックがあったし、多少迂回をしてもあの陣地には手早く近づけるはずだ。

 

 

「それじゃ…私達で高射砲に奇襲を仕掛ける。アンタらは陽動の準備だね。…それで、もう一つ聞きたいんだけど…」

 

「…何?」

 

「本当に彼らを連れていくつもりかい?そのせいでアンタの夫はあんなトロい船で出ようってんだろう?…とんでもない足手纏いになると思うんだけど?」

 

 

 アマンダの視線の先にはアルジェリーが保護した難民達がいる。

 彼らは逃亡を試みて失敗した…つまり、秘密警察は彼らを許さない。

 ゲリラ達は全員が高射砲に向かうし、万が一作戦が成功してもここまで戻ってきて難民保護を行えるほどの余力はないだろう。

 どう考えたって敵の増援の方が先にやってくる。

 彼女達はアルジェリーが出港していくのを見届けたら、即座に離脱しなければならなかった。

 

 だから、彼らを秘密警察の魔の手から救うにはアルジェリーとその夫が手を貸してやらねばならないのは理解できるのだが…しかし、アマンダとしては脱出の方に専念して欲しい。

 アルジェリーの騎士道精神には皮肉なしに頭が下がるにせよ、余分なリスクを背負うには条件が悪すぎるんじゃないだろうか。

 現にアルジェリーは彼らを救うために、自らの身を挺することを作戦に盛り込まざるを得なかった。

 彼らの事を念頭に置かないなら、ゲリラが陣地を奇襲するだけで良い。

 

 

「…ねえ、アマンダ。あなたはインビエルノを救いたい…そのためにゲリラ活動を率いてる、違ったかしら?」

 

「ええ…昔はそうじゃなかったけど、今ではそう思っているわ。」

 

「そう。なら、これだけは覚えておいて。目的の為には手段を選ばないのが利口かもしれないけれど、それだけに頼っていては、いずれ目的と手段が逆転してしまう。」

 

「………」

 

「その時には、きっとあなたはそのことに気づくことができなくなっているでしょう。……私を心配してくれてありがとう。でも大丈夫、こう見えて、これよりも酷い状況を経験しているわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルジェリーは艤装を無事に装着できたことにホッとした。

 ユニオン製の、より軽量な装備を使いこなせるかどうか不安が残っていたからだ。

 船長の話に出てきた沿岸警備隊の将官は、どういう気まぐれか、2日前にこの施設に152ミリ砲弾を2発だけと、127ミリ砲弾を数発、それに発煙弾多数を置いていった。

 いずれも今この湾内を射程内に捉えているであろうインビエルノ陸軍の175ミリカノン砲より射程も威力も劣ってはしまうが、それでもないよりは断然マシだ。

 将官…恐らく、沿岸警備隊長官のハンス・ルートヴィヒはアマンダの協力者に近い人物なのだろう。

 アルジェリーが現役の時代にも何度か面識がある。

 鉄血の有能な指揮官として高名で、彼が危険を冒して最大限の支援をしてくれた事を彼女は感じ取っていた。

 

 まだヴィシアのKANSENとして戦っていた頃のように軽く目を瞑り、そうしてから輸送船の出航準備を進めているパスカルの方を見やる。

 髭面の夫は彼女の視線に気がついたようで、彼もまた現役時代のように、はにかんだような表情を返して見せた。

 だがその表情には悔恨の念もまた感じられる。

 戦友会に保護された後、パスカルが言ったことを2人ともよく覚えていた。

 

 

「戦いに向かう君は華麗で、素敵だけれど…約束する。もうこんなことは2度とさせない。」

 

 

 パスカルの約束は果たされなかった。

 けれど、アルジェリーは彼を責める気にはならない。

 寧ろ申し訳なくすら思う。

 思えば今までの記者生活においてさえ、パスカルが常に危険を避けようと努力していたのは彼自身の保身のためではなかったはずだ。

 パスカルは最大限の努力をした。

 だとすれば、アルジェリーが求められるのは、この戦いを無事に生き延びることだろう。

 

 正直、気の触れた内容だ。

 半分は憶測、半分は運勢に身を任せて、彼女はこれから巨大な長距離砲の射程内に踊り込む。

 しかしやりきらなければどのみち2人とも秘密警察の手にかかることだろう…船の乗員達も同様に。

 

 やがて無線機が作動してアマンダ達が配置についた事を知らされると、アルジェリーは意を決して格納庫の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………

 

 

 

 

 

「標的が格納庫から出た!撃てッ!撃てッ!」

 

 

 

 高射砲陣地にいた秘密警察官は格納庫から一隻のKANSENが飛び出た事を認めると、すぐさま手元の無線機に怒鳴りつけた。

 どこからか空気を震わせるような砲声が伝わってきて、やがては彼の眼前の海面に巨大な水柱を立ち上がらせる。

 標的のKANSENは4本の水柱に包まれてその姿を消し、秘密警察官は双眼鏡と無線機片手にその様子を見守った。

 

 

『どうだ!?やったか!?』

 

「まだ分からない、少し待て!」

 

『やったのか、やってないのか…どっちなんだ!?』

 

「待てと言ったろうが!!」

 

 

 高射砲陣地にいる秘密警察官も、陸軍の長距離砲を指揮している秘密警察官も、自分達が任務に失敗すればどうなるかはよく分かっている分、今回の任務には全神経を集中していた。

 距離はあるにせよお互い気が気ではなく、観測手を務める方の秘密警察官は徴兵時代に砲兵をしていた自身の経歴を呪っている。

 

 きっと、恐らくは大丈夫だろう。

 4門の175ミリ砲は、その至近弾ですら絶大な破壊力を持つ。

 そんなものを間近に受ければいくらKANSENでも…

 

 4本の水柱は中々収まらなかったが、しかし秘密警察官はカノン砲が仕事を"しくじった"ことを認めざるを得なかった。

 水柱の間から白い煙が沸いて出て、最初こそ歓喜しかけたものの、秘密警察官はすぐにそれが発煙弾のそれであることに気がついたのだ。

 彼は悪態をつくと無線機を口元に近づけて座標修正を伝えようとする。

 

 

 だがその刹那。

 自身の後ろから、カノン砲のそれとは明らかに異なる砲撃音が聞こえてくる。

 60ミリ砲弾が着弾して陣地の何人かが吹き飛ばされると、そのすぐ後に女の甲高い声が彼の耳をつんざいた。

 

 

「よし、行くぞ!祖国のために!」

 

 

 見ればあの忌々しいゲリラ共が猛烈な機関銃射撃の下にこちらへの襲撃を始めていた。

 秘密警察官は高射砲部隊の軍曹に命じてゲリラ共の排除を命じる。

 畜生め。

 だが…何のことはない、カノン砲の再装填までに煙幕の中からKANSENの艦影を見つければ良いだけだ。

 

 

 

 

 

 

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