KAN-SENは歳を取らない   作:ペニーボイス

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希望の出港/終の始まり

 

 

 

 

 

 パスカルは175ミリ砲弾の着弾を確認するとすぐに輸送船を出港させる。

 操舵を行なっている船長の懸念はよく分かるが、時間的余裕がない今、この見るからに速度を期待できない輸送船を無事に離脱させるにはこうするしかない。

 もし観測手を倒せたとして、連中が当てずっぽうな砲撃に走る可能性は大いに考えられる。

 そうなればこの湾内全体がキルゾーンになるわけで、輸送船は途方もないリスクに晒される。

 

 幸いにも、ユニオン製の175ミリ砲は高威力だが装填速度を期待できるモノではなかった。

 だからこそ、アルジェリーは第一弾の発射を誘い、そして観測手に輸送船の出港を悟らせないように煙幕をばら撒いたのだ。

 パスカルは175ミリ砲の至近弾を受けていてもおかしくないアルジェリーのことで気で気がならなかったが、しかし彼女の献身を無駄にしないためにも船の出航を優先した。

 

 

 

「…アルジェリー!アルジェリー!無事か!?」

 

『…………』

 

「ア、アルジェリー!?」

 

『………ゴッホ、ゴホ!大丈夫、大丈夫よ!ちょっと擦り傷を負っただけ!』

 

 

 煙幕の中輸送船を進めるパスカルに、アルジェリーがようやく返答する。

 濃い煙幕のせいで2人はお互いの姿を認めることができなかったが、しかし、しばらくするとアルジェリーとパスカルは無事に合流を果たす。

 アルジェリーは慣れない艤装ながら高速機動を行っていたため直撃こそ免れたが、飛んできた砲弾片に頭部の皮膚を切り裂かれていた。

 彼女の肌は透き通るように白い分、溢れる鮮血が痛々しさを際立たせる。

 

 

「アルジェリー!?」

 

「平気よ、パスカル。ちょっとドジを踏んだだけ。」

 

 

 アルジェリーは痛みに顔を顰めながらも、一定のタイミングで発煙弾を発射し続ける。

 あとはアマンダ達が陣地を制圧してくれるのを祈るだけ。

 さもなくば、重巡アルジェリーは軽巡用の艤装を装着した"滑稽な"格好のまま海底に沈むことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高射砲陣地には4門の90ミリ高射砲があり、それぞれが塹壕で連絡されている。

 塹壕の淵にはマドセン機関銃を備え付けた銃座があり、陸軍の高射砲兵達は塹壕とその銃座から反撃を試みていた。

 アマンダの目から見ても彼らが好戦的なようには見えないが、秘密警察官のいる陣地から逃げ出すような"勇敢さ"も持ち合わせてはいないようだ。

 

 アマンダはMG3を携行する機関銃チームにマドセン機関銃を制圧射させる。

 指切り射撃ながら毎分1200発を繰り出すMG3機関銃の火力は圧倒的で、マドセンの銃座はすぐに沈黙した。

 装填手が懸命にも射手の死体に取って代わろうとしていたが、アマンダは彼が機関銃を構えるより先に銃座にMk2手榴弾を2発投げ込む。

 小さな手榴弾が立て続けに爆発すると、アマンダは一気に身を起こして、UZIを腰だめに撃ちまくりながら塹壕へと飛び込んだ。

 

 

 飛び込んだ先に、アマンダの手榴弾から奇跡的に生き残った高射砲兵がいた。

 彼はまだ爆発の衝撃で朦朧としているようで、アマンダを見ても最初は何もしない。

 だがアマンダが彼に銃口を向け、しかし構えるUZIがカチッという虚しい音を立てて作動しない様子を見て取ると、慌てて腰に手を伸ばしてホルスターからM39自動拳銃を引き抜く。

 

 幸いにも、アマンダに続いて塹壕に入ってきた"爺さん"がクラッグ・ヨルゲンセン銃で生き残りに1発ぶち込んでくれた。

 

 

「しっかりせんか!まったく!」

 

「アタシに言わないでよ、"爺さん"!でも、まあ、ありがとう!」

 

 

 UZIのコッキングボルトを力任せに引き、薬室から不発となった弾薬を排除する。

 不良品の9ミリ弾は何の躊躇いもなく出ていったので、UZIの機関部には今度こそキッチリと仕事をこなす9ミリ弾が新しくやってきた。

 アマンダはこの新しいお気に入りの武器の動作に満足すると、後続して塹壕に転がり込んできたゲリラ達の方を振り返る。

 

 

「時間はないけど、確実に行く。先に手榴弾、私が突っ込んだら後から続いてきて。もし私が倒れたら」

 

「分かっとる、その死体を足蹴にして先に進めばいいんじゃな!?」

 

「"爺さん"……うん、まあ、そんな感じ!行くよ!」

 

 

 アマンダはポーチから別の手榴弾を取り出して、塹壕の先にある最初の高射砲陣地に投げつける。

 爆発と衝撃、直後に身を起こし、UZIを斉射しながら突っ込んでいく。

 最初の高射砲陣地にいた砲兵達は堪らないと言わんばかり陣地から飛び出したが、そのせいでアマンダの後ろから続いてくるゲリラ達の銃弾の餌食になってしまった。

 

 最初の陣地を確保したアマンダ達は二つ目の陣地が既にもぬけの殻になっていることを発見する。

 しかし、それより奥の3つ目の陣地から、諦めの悪い秘密警察官と砲兵達が、小銃や拳銃とサブマシンガンで決死の抵抗を行なっていた。

 よく目を凝らしてみると、更にその奥にはアマンダ達にケツを向けて湾内の様子を見ている秘密警察官が1人いる。

 アマンダは彼女の隣にやってきた"爺さん"に問いかけた。

 

 

「こっちにケツを向けてる間抜けが見える?」

 

「………ああ、ああ、見えた!」

 

「撃てない?」

 

「サブマシンガンをぶっ放しとる連中をどうにかせん限り狙えんわい!」

 

「…くそっ!」

 

 

 ゆっくりと頭を出し、アマンダは抵抗を続ける連中と自分自身の位置関係を目測する。

 手榴弾を投げ込むにはあまりに距離がありすぎるし、彼女が出したのは頭のほんの一部だったはずだが、砲兵の内の1人がすぐさまM3サブマシンガンの射撃を見舞ってきやがった。

 3つ目の陣地にいる連中は体制を立て直しつつあるのか、狙いも正確になってきている。

 

 何度か身を起こしUZIで斉射、再び伏せて敵方のM3サブマシンガンをやり過ごすといったやりとりを繰り返した後、アマンダは後続してきたゲリラの方に再び振り返る。

 

 

「私が二つ目の陣地に行く、合図したら援護して!………1、2、3、今!」

 

 

 アマンダの求めに応じて、ゲリラ達は精一杯の援護射撃を見舞う。

 その甲斐あってかアマンダは無事に二つ目の陣地に辿り着く。

 しかし彼女はここでとんでもない失態を犯したことに気がついた。

 腰のポーチには既に手榴弾がない。

 敵は彼女の飛び込んだ壕に向けて目一杯の射撃を見舞ってきているから、このまま突っ込んでもただ蜂の巣になるだろうということは十二分にわかる。

 

 

「くそ!誰か手榴弾を持ってないかい!?」

 

 

 味方の方に向けて声を張り上げたが、恐らくは激しい銃声にかき消されていることだろう。

 だが、その時、不意に敵方から甲高い金属音が鳴り響いた。

 更にもう一回金属音が響くと、敵の銃声は完全に沈黙する。

 どうやら、2つ目の陣地に転がり込んだアマンダに敵の射撃が集中したため、爺さんは狙撃が可能になったらしい。

 何が起きたのかを悟った彼女は味方の方に向けてグッドサインを立てた。

 

 

「"爺さん"、本当に助かるよ!」

 

「いいから早く行けい!」

 

 

 敵が狙撃手の恐怖にたじろいている間に、彼女は素早く壕から出て3つ目の陣地の生き残りを3人殺して、陣地を完全に制圧した。

 残る最後の陣地からは、背後の戦闘が近くなってきたことを察した秘密警察官が拳銃で涙ぐましい抵抗を試みたものの、完全に優勢となったゲリラ兵の集中射撃に蜂の巣にされる。

 最後の敵を殺した時、アマンダはその敵が無線機の送受信器を手にしていたことに気がついた。

 

 

「…くそ!修正座標を送ったかも!…この中に軍歴のある者は!?」

 

 

 アマンダの手近にいる若いゲリラがさっと手を上げる。

 

 

「通信方法は分かるかい!?」

 

「ええ、もうバッチリ覚えてますよ!」

 

「それじゃ、今から言う座標をマークさせて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこからか巨大な砲弾の滑空音が降ってきて、アルジェリーは反射的に身を屈めた。

 どうやらゲリラ達は一歩遅かったらしい。

 濃い煙幕の中でも夫の乗る輸送船の艦影はハッキリと捉えることができるが、アルジェリー自身とは異なり、輸送船は175ミリ砲弾の至近弾にすら耐えることはできないだろう。

 

 しかし滑空音はやがて彼女の頭上を通り過ぎて、遥か遠くの沖合で炸裂した。

 アルジェリーが煙幕の散布をやめて、ようやく晴れた後に振り返ると、90ミリ砲陣地があった場所の沿岸から、大きなインビエルノ国旗を降っている人々がよく見える。

 

 それで、アルジェリーはホッとしたようになり、ゲリラ達の方へと手を振りかえした。

 まだ安心はできないが、とりあえず最初の難所は過ぎ去った。

 ゲリラ達は砲台を抑えたばかりか、観測手の装備を鹵獲して偽の情報を流したのだろう。

 先ほどの砲撃でアルジェリーが沈んだことを伝え、勿論セルバンデス政権側は真実を嗅ぎつけるだろうが…いくばくかの時は稼げるに違いない。

 

 

 

 

 

 しばらく何事もなく進んでいたアルジェリーと輸送船は、やがては大陸が見えなくなる辺りで次の問題に出会した。

 そこにはアルジェリーが予期していた最悪の存在がいたのだ。

 それは軽巡洋艦級のKANSENで、アルジェリーの知る限り、セルバンデス政権の持つ大きな切り札の内の一つだろう。

 

 アルジェリーは夫に状況を伝えると、夫は彼女よりも深刻な口調で、別の方向より違うKANSENが接近していることを告げられた。

 彼女はそちらを見て絶望する。

 それは軽巡洋艦級など比較にならない戦艦級のKANSENで、アルジェリーの見る限り、それは軽巡洋艦級との合流を目論んでいた。

 

 どれだけの時を稼げるだろう?

 アルジェリーはそんなことを考える。

 パスカルの約束はもう永遠に果たされなくなるにしろ、アルジェリーは夫とあの輸送船に乗り込んでいる人々を救うつもりだった。

 手元には僅かな数の砲弾しかないが、あるいは…

 

 

 その時、軽巡級と合流を果たした戦艦級がこちらに向けて旗を振っていることに気づいた。

 よく見るとそれは白旗で、即ち、向こうはこちらに降伏か停戦を申し込んでいるということだ。

 前者はあり得ないので、ここは後者と取るべきだろう。

 

 夫に待機を頼んで、アルジェリーは1人KANSENの方へと接近する。

 やがて彼女達のシルエットがハッキリしてくると、アルジェリーは途方もなく驚いた。

 

 

 

 

「ティ、ティルピッツ!?…あなた……一体どうしてここに!?」

 

「…はぁ…早く退去するように勧めたはずよ、アルジェリー。南方大陸にいる『戦友会』の協力者はあなただけじゃない。その人が連絡を取り次いでくれたわ。」

 

「無事に辿り着いてくれてありがとう…その…あなたが沈んでしまっては……元も子もないから…」

 

「あなたは…ボイシね?セルバンデスの切り札が何故ここに?」

 

「詳しくは話せないけど…ボイシはあなたに危害をつもりはないよ。…どうか、ほかの巡視艇が来る前にティルピッツと離脱して。ルートヴィヒは優秀だけど万能じゃないから…」

 

「え、ええ、分かったわ。…ありがとう。」

 

 

 

 夫の乗る輸送船と共にインビエルノ沿岸警備隊の警戒線の外側に出た時、アルジェリーはこちらを見送るボイシの足が震えていることに気がついた。

 アルジェリーはこの時点でボイシがプラタで僚艦を失っていることを知っていたし、きっとその事はトラウマになっているはずだとすぐに思いつく。

 しかし、そうなると今度は…何故ボイシがトラウマに耐えてまで彼女の脱出に協力したのか…そちらの方が理解できなかった。

 

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