KAN-SENは歳を取らない   作:ペニーボイス

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悪魔の家

 

 

 

 

 

 

 秘密警察本部施設

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大統領にとっては皮肉なことに、もしウゴ・オンディビエラがこの土地を買わなければ、そこはきっと素晴らしい牧場になっていたことだろう。

 しかしこの国で一番狂った男に買い取られたせいで、この一帯は惨劇の舞台となってしまった。

 

 秘密警察の本部施設は二階建てで、その広大な敷地の中に幾つかのバンカーと膨大な数の監禁室、それに尋問室を備えている。

 バンカーと塹壕によって繋がれた警戒線の奥にまたバンカーがあり、これまでこの施設の管理者に絶対の安全を約束していた。

 "本部"と言うだけあって警備人員も充実しており、装備と整った警備班が独立して編成されている。

 

 

 警備班の長はこの施設の警備体制を構築する時に、少数部隊による侵入を念頭において設計を行った。

 つまりはゲリラのような反体制分子が収容者の解放によって政権の弱体化を企図するという前提が見込まれていたのである。

 インビエルノのような苛烈な圧抑体制下では連中のような存在は現実味を帯びないし、もし帯びたとしてもこんな警備の厳重な施設を正面攻撃できるだけの戦力を集める事は不可能に近い。

 

 だからアマンダの組織が準備砲撃を伴う大規模攻勢に係った時、この施設の警備体制は見事なまでに崩壊した。

 

 

 

 

「突撃!」

 

 

 秘密警察本部のすぐ傍まで匍匐前進して伏せていたアマンダは、その後方から放たれる迫撃砲や火砲の着弾を見ると修正射を行うことなく徒歩兵部隊を侵入させる。

 確かにまともな軍事訓練を受けていないゲリラなら敷地内の監視塔からすぐに接近を感知されただろうが、アマンダの組織はプラタで戦火によって鍛え上げられ、もはや通常のゲリラとは一線を引いている存在であった。

 彼らは何らの実戦も経験していない秘密警察の立哨の目を欺きながら静かに忍び寄り、この日のために備蓄していた軍事物資を放出する事でこの施設を正常に作動できない状況に追い込んだのだ。

 

 秘密警察の守備隊は明らかに泡を食ったように動揺している。

 これまでの訓練は隠密侵入を企てる連中を念頭に行われていたし、準備砲撃まで行えるほどの戦力をゲリラが蓄えるなどという事は前代未聞だったのだ。

 遥々プラタから持ち込まれた旧鉄血製の81ミリ迫撃砲や75ミリ歩兵砲、サディア製の75ミリ山砲、陸軍から鹵獲したユニオン製の60ミリ迫撃砲に107ミリ無反動砲といった火力を叩き込まれた結果、施設敷地内の固定火力拠点はその殆どが制圧されてしまった。

 

 それでも本部正面の2つのバンカーと、それを繋ぐ塹壕はしっかりと生き延びており、アマンダはそこからの銃撃を受ける前に素早く砲弾孔へと飛び込んだ。

 

 

「クソッタレ!相変わらず往生際の悪い!」

 

 

 アマンダはそう言ったが、同時にウゴ・オンディビエラが往生際が良い人間だろうと思うほどの楽観主義者でもない。

 彼女は自分に続いて砲弾孔にゲリラ達が飛び込んできたのを確認すると、土を剥き出しにした地面に這いつくばって淵までいき、前方の様子を眺めた。 

 

 2つのバンカーはいずれも健在で、銃眼からMk21機関銃の弾丸をホースのようにばら撒いている。

 塹壕からはM1ヘルメットと秘密警察の制帽が多く見えて、自動小銃から拳銃までの武器をこちらに向けて撃ちまくっていた。

 彼女はいつもとは違い、手榴弾を手には取らない。

 この陣地を突破するための策は既に立てていたし、あとは実行するだけだったからだ。

 

 アマンダは手榴弾の代わりに無線機を手に取った。

 

 

「自走砲を前へ!敵のバンカーを吹き飛ばしてやりな!」

 

 

 すぐに陸軍から鹵獲したM20装甲車に75ミリ歩兵砲を搭載した自走砲が軽やかに駆けつけてきて、バンカーに1発榴弾を撃ち込んだ。

 最初の砲撃の一斉射と同時に待機位置から飛び出してきたこの車両は迅速に方向を転換して別のバンカーをも狙う。

 第二弾目が発射されてもう一つのバンカーが吹き飛ぶと、塹壕に残っていた敵歩兵はバンカーの破片と爆風によって塹壕へと押し込まれてしまった。

 

 

「よし、今だ!前へ!前へ!前へ!」

 

 

 アマンダはいの一番に砲弾孔を飛び出て、UZIを腰だめに撃ちまくりながら塹壕へと駆け出す。

 守備隊歩兵は結局彼女が塹壕に到達する時まで押し込まれていて、身を挙げたときにはもうすでに手遅れだった。

 塹壕内の掃討を彼女に引き続いて殺到してきたゲリラ達に任せて、アマンダ自身は躊躇いなく秘密警察本部の正面ドアに向かう。

 建物のすぐ近くまで到達すると、その傍にしゃがみ、ドアをノックする代わりに自走砲に向かって手信号を送った。

 "とっとと、榴弾を、ぶち込んで!"

 すぐに自走砲が彼女の注文に応える。

 75ミリの榴弾が秘密警察のドアをぶち開けて、砲弾の断片がドアの奥でゲリラを待ち構えていた守備隊員を殺傷した。

 その上でアマンダは腰から手榴弾を手に取って、施設の中へと迷う事なく投げ入れる。

 小さな球体が炸裂して、施設がドアのあった場所から外へ爆風と散りと若干の血液を吐き出すと、アマンダはここまできた時と同じようにUZIを撃ちまくりながら突入した。

 

 

 秘密警察の連中は完全に包囲されていても、尚も抵抗を続けるつもりらしかった。

 アマンダは広い迷路のような本部施設の中を、UZIを高く構えて前進する。

 受付のデスクの奥で不意に立ち上がってM39拳銃を構えた秘密警察官を撃ち殺すと、アマンダはその男の背後に血で汚れた案内図を見つけた。

 ウゴ・オンディビエラ、あのクソ野郎は二階の中央にいる。

 

 アマンダはサブマシンガンのマガジンを交換しながら"悪魔の家"の奥底へと歩き始めた。

 階段はどうやらこの先の廊下の奥にあるらしい。

 

 

 廊下の両端は早くも収容室になっていて、この施設が情報の収集・整理ではなくイカれた長官の拷問趣味のために設計されていることを直実に物語っている。

 収容室の中はどこも生気のない収容者達で満杯だった。

 目玉の無い者、歯が無い者。

 四肢が欠損しているのが、彼らの当然の義務のように扱われていた。

 全身に何らかの薬品を塗されて爛れているものもいる。

 彼らは"解放者"が来ても何の反応さえも示さなかった。

 ウゴ・オンディビエラは彼らの人間としての全てをぶち壊したのだ。

 

 アマンダに続くゲリラ達の多くがこの光景に吐き気を催していた。

 受付を通り過ぎてすぐの収容室がこの状態なのだ。

 恐らくは地下にある部屋がどうなっているのか想像もしたく無い。

 

 

 やがて階段に到達すると、そこでもアマンダ達は抵抗を受ける。

 しかしそれは微々たるもので、アマンダがUZIを一連射すると2人の秘密警察官の死体が転げ落ちてきただけだった。

 その後は特に抵抗もなく、アマンダはズンズンと長官室へと突き進んでいき、遂にはそのドアを蹴破った。

 

 

 

 ウゴ・オンディビエラはデスクにいた。

 立っていて、机の上の地図を眺めながら中々連絡の繋がらない電話を持って、部下に苛立っている様子が容易に見て取れる。

 彼は部屋に入ってきたアマンダを睨みつけると、電話を叩きつけた。

 

 

「………クソッタレどもが。最後まで役立たずばかりだ。」

 

「私の仲間は国中で蜂起してる。アンタ達には荷が重すぎたね。」

 

「…貴様、"アマンダ"だな?ハハっ!お前の夫は「それじゃ」

 

 

 アマンダはウゴの顔面目掛けてUZIを構え、たった1発だけ9ミリ弾を送り込む。

 直径9ミリの拳銃弾は至近距離で秘密警察長官の顔にめり込んで、頭全体を叩き割りながら外へと飛び出て行った。

 ウゴ・オンディビエラ"だったもの"は仰反るような形になり、汚らしい脳漿を撒き散らしながら倒れ込む。

 その様子をアマンダの背後から見ていた"爺さん"が思わず声を上げた。

 

 

「な、何をしとるか!もっと苦しめれば良かろうに!」

 

「私はこのクソッタレみたいな趣味は持ってないし、こいつの承認欲求を満たしてやる理由もないからね。」

 

「承認欲求…じゃと?」

 

「ああ。…コイツだっていつかは報いを受ける事は覚悟してたはずだ。そして、だからこそ残虐な行いを止めようとはしなかった。コイツの望みは、民衆の前で苦しめられながら殺される事だっただろうね。それだけの扱いを受ける理由を1人でも多くの人間に知らしめて、この国の歴史の最大の汚点として染み渡る…それがコイツの思い描いていた終着点さ。」

 

「………」

 

「…それに、私はもうこんなヤツどころじゃないんだよ。」

 

 

 アマンダがそこまで言ったとき、別のゲリラが長官室に入り込んできた。

 興奮した様子で、自分達のリーダー相手にそのままの勢いで報告をぶち撒ける。

 

 

「アマンダ!アマンダ!沿岸警備隊が陸軍基地を押さえた!各地方の蜂起も殆どが政府機関を制圧したし、情報によればセルバンデスが大統領宮殿から逃げ出した!首都はガラ空きだ!制圧に行こう!」

 

「……はぁぁ…そんなのは他の組織でも制圧できるさ。時間の問題だよ、私達が出るまでも無い。それよりも…ここに収監されている被害者達を解放してやりな。」

 

 

 ゲリラがアマンダの命令に従って地下へと向かうと、アマンダはUZIを机の上に放り投げてオンディビエラの死体を漁る。

 頭のイカれた秘密警察長官はその胸ポケットに上モノの葉巻を仕舞い込んでいた。

 彼女はそれを取り出すと、一本を持ち、一本を"爺さん"に手渡して、2人で火をつけて吸い始める。

 そうしながら、アマンダはそっと老人に語りかけた。

 

 

「…なぁ、"爺さん"。アンタはコレが終わったら何をするんだい?」

 

「わしか?…まあ、復讐はほとほと済ませてしまったしの。また山に戻って猟師をやるわい。……アンタはそうはいかんじゃろうが。」

 

「そうね、アンタはそれがいい。そして…アンタは私がやろうとしてることを知らない方がいい。」

 

「ほほう、見くびられたモンじゃな。この国の誰であろうと、きっとアンタがやろうとしてることを非難しようとはせんじゃろうに。」

 

「感情が理性を覆ってしまうことなんて当たり前にあるのさ、"爺さん"。頼むから、アンタは山で鳥でも鹿でも狩っててくれ。」

 

「…ふん、最後までつれないヤツじゃ。………まぁ、でも、そこまで言うなら最後に一つだけ忠告させとくれ。仕事はほどほどに、な。」

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