【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】   作:佐渡ヶシマシマ

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Another:Ⅲ それは数奇な運命で

 テレビでよく見たドッキリ番組とかだったら、どれほど救われただろうか。

 

 映画やドラマ、舞台のセットがばたんと倒れるようにして現れた真実は、私にも理解できるようなスケールのものじゃなかった。勢いで入学式を飛び出した私を待っていたのは、プラカードに「大成功」と書いたひとたちなんかじゃない。気持ちの悪い、歪んだ世界だった。

 動くマネキンのような大人たち、カラーフィルターを滅茶滅茶に切り貼りしたようなものが顔に張り付いた生徒たち。現実の世界がフィクションになったような、足場さえあやふやになったような。

 

 パニックになった頭の中にはいろんなものが走馬灯のように過る。

 家族の事、友達の事、学校の事、その他にもたくさん。

 

 けど、それらは結局最後には全て一つの結論に行き当たる。

 帰らないと。早く、家に帰らないと。

 

 入学式から飛び出して、当てもなく走り回っていた私が最後に向かったのが、駅だった。

 駅前で行われているイベントを横目に、私は駅へ入ろうとした。が、うまくいかない。透明な壁に阻まれて、ドアを潜ることができなかったのだ。まるで、ゲームとかで、「ここから先はありません」という風な、謎の境界のように。

 

 そして、μが現れて、『メビウス』の居心地がどうとか尋ねられて。

 かと思ったら、ちっこいアリアと呼ばれる別の何かがやってきて、μと言い争いをして。

 置いてけぼりになるうちに、μは飛び去り、先程のイベントに来ていた人たちが怒って追いかけてきた。

 何が何だか、もうわからない。

 ただ怒った人たちが怖くて、私は逃げ出す。当てもないまま、また走って、足が痛くなって。

 

 

「こっちだ、早く来い!」

 

 

 そんな中で、出会ったのが彼だった。

 

 混乱する私に、猫だましで冷静さを取り戻させて。

 アリアや私への説明を手早く、でも簡潔に伝えようとしてくれて。

 ……力を得る前も、後でも、私を庇う彼と。

 

 

 帰宅部に入った私を、彼らは温かく迎えてくれた。

 それは私と、アリアの持っている情報と力のせいかもしれないけれど。

 でも悪い気はしなかった。それに、私は()()()()()()だと思った。

 

 私の得た力。私だけの力。それはアリア曰く、この世に二つとない私の心の(カタチ)

 なら、あの二梃拳銃は、きっと私のやるべきことを示しているに違いない。それが現実から逃げて、この世界に来た私の贖い。

 

 モチーフにするなら。きっと、彼にするべきだ。

 

 斑鳩棹人。私を救ってくれた、彼を。

 

 

 □ □ □ 

 

 

 

「棹人について? あー、直接顔を合わせたのは一度だが、真面目な奴だよ。いや、あれは真面目っつーか、クソ真面目、だな。いいっつってんのに、先輩呼びをやめねえし。一度帰宅部に入ることを保留にしてるんだが、何回も謝られたしよ」

 

「棹人くんについて知らないか、って? うーん……正直、私はあんまり。でも、帰宅部のWIREで話した感じ、すごい真面目なのはわかるわね。少なくとも笙悟なんかよりずっと。あ、コレ本人には内緒ね?」

 

「棹人? ハッ、帰宅部に入るのを怖がったチキン野郎だ! 身体は、正直オレくらいデカかったけど……けど、一度顔を合わせたときも、かなりビビってた感じだったからな。ま、なんかあったらこのオレが助けてやらねえとな!」

 

「棹人先輩ですか? いい人ですよ! わたしが見つけられなかった新作のクレープのお店を見つけて教えてくれたりとか! わたしの友達も道案内してもらったことがあるって言ってたり! いや~、でもWIREとかで私や鈴奈ちゃんにも敬語なのは、ちょっと真面目過ぎるかな~って思いますけどね?」

 

「棹人先輩のこと、ですか? ええっと、実は会うのは初めてじゃなくって、図書館で何度か顔を合わせているんです。参考書とか図鑑とか、洋書も邦書も含めて、すごい沢山の本を読んでて……って、これ、あんまり参考になりませんよね! ごめんなさい……」

 

 彼についての情報は思ったより少なかった。

 真面目であること。私が帰宅部に入った時に招待されたWIREでも、それは見受けられた。私たちが鍵介くん、いや、鍵介を帰宅部に加入させたときも、挨拶を欠かさなかった。

 優しい事。私が無事に帰宅部に辿り着けるように、帰宅部の皆と連絡を取り合っていたこと。gossiperに情報が出回った時は、なんとかして火消しをしようとしたり、本気で心配してくれたこと。

 

 

 そして、スイートPと出会う直前に現れた彼は、私の想像の通りの人間だった。

 帰宅部として肩を並べることも、とても心強く感じられるほどに。

 

「カギP電撃引退、って聞いて驚いたが……なるほどそういうことだったのか」

 理解の早さ。それから、楽士としての鍵介と、帰宅部の鍵介のどちらも認める在り方。

 

「悪いがそのやり方は認められないな。デメリットが多いし、何より卑怯すぎる」

 スイートPの現実の姿をタテにμの情報を引き出すことを提案した鍵介や帰宅部への制止の仕方。冷静で、感情と実利の二つを使った説得の仕方。

 

「俺はカタルシス・エフェクトが使えないからな。守田が万一戻ってきたときは、言い訳して時間を稼いでおくよ」

 戦えないなら、その中でできる限りのことを。そういう風に考えられる柔軟さ。

 

 

 ……だから、彼が部室に戻る前に口にした内容も、彼らしいと思った。

 

 

「俺たちの目的は、現実に帰ることだ。楽士を倒すことじゃない……だが、どうにもこのままだと、ただ楽士たちやこの世界の住人と戦争することになるだけのような気がする。これで、いいのか?」

 憂うような口ぶりと、眉根を顰める姿は、何とも言えない。

 帰宅部の皆の様子を心配するようでもあり、また同時に全く別の人々の事情をも汲み取ろうとするような、その言葉。

 確かに、これはただ真面目と言うだけでは収まりそうもない。そのくらいに、呟く言葉には真剣に思いつめた様子が感じられて。

 

 その後の、愚痴っぽくなったという謝罪も含めて、私は納得してしまった。

 これが、彼なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから。

 

「ねぇ、私と一緒に死んでくれない?」

 

 

「ただ……知ってほしい、フェアであってほしい」

 

 

 彼なら。

 

 

「どちらを選べとも強要しない。私は、機会を与えるだけ」

 

 

 きっと彼なら、きっとこういう選択をする。

 

 

「選ぶのは、あなたよ」

 

 

 それは数奇な運命で。

 けれど確かに、私の選んだ道だ。

 

 

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