【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】   作:佐渡ヶシマシマ

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Another:Ⅳ 顔無しとゆめかわ

「クソッ、帰宅部……帰宅部め……!」

 

 オレは荒れていた。

 パピコで敗北を喫したこともそうだが、あいつらが現実の姿をどこからか知ったのは由々しき事態だ。

 この世界は、たった一つの居場所なんだ。それを、あの脂ぎっしゅな現実を突きつけて穢したあいつらのことは到底許すわけにはいかない。

 

 しかし、どうするか。

 のこのこ戻ってもロクな事にはならないだろう。それに、下手に連中の目に留まれば、オレの現実の姿をバラされたりするかもしれない。そうなったら、オレは……。

 

 と、考えている最中だった。スマートフォンの音に気付いたのは。

 こんな時に間が悪い、そう思いながら見た着信の主にぶったまげた。

 

「な、なんで……!?」

 

 韋駄天ちゃん、だったか。確か、この間の会合でソーンちゃんの紹介した新人の楽士だったはず。

 普段人と関わる事に興味のない少年ドールちゃんでさえ、その存在を認識していたドールP。あのソーンちゃんが直々に拡散を助けたことで、今や爆発的な人気を誇る。

 しかも現在ソーンちゃんの補佐をしているとか。

 

 鳴り物入りの出世頭。いやな印象しか浮かばない。

 しかもこんな早々に連絡を寄越したということは、どうせ責任を追及する腹積もりなのだろう。

 

 取引先なら3コール以内。

 家族ならば2コール以内。

 上司ならば1コール以内。

 

 染み付いてしまった鉄の掟を反故にして5コールもかけたのは、古参の楽士としてのプライドもあるし、剥がれかけていたスイートPを降ろすためには必要だった。

 

「はぁい♡ メビウスとゆめかわを愛するぅ~、スイートPでぇす♡」

「お疲れ様です、スイートPさん。お忙しい所、突然のお電話申し訳ありません」

「えっ?」

 

 正直、驚いた。

 会合で現れた韋駄天ちゃんは、なんというか、ミステリアスな印象だった。

 顔を隠すバイクのヘルメットに、レザージャケット、機械みたいな足。あんまり声を掛けづらい、少なくともフレンドリーな印象を持たせるような恰好ではなかった。

 なんなら、そもそも話しかけてくるのかさえ怪しかった。

 しかし話し方はなめらかで、さも当然のように声を出した。いやでも職場の事が過ってしまうが、それはそれとして悪印象を持つようなものではない。素っ頓狂な声が漏れるのも致し方ないだろう。

 

 スイートPを降ろしていなかったら、危なかった。

 

「どうしました? もしや、ローグに受けた負傷が?」

「あー……いや、大丈夫よん。それより、何か用かしらぁ?」

 

 やはりか。

 口調で誤魔化されかけたが、やはり当初の予想通りらしい。

 こちらの失敗を突くつもりか。

 

「大事ないのでしたら何よりです。ご連絡したのは幾つか用件がありましたが、何より安否の確認が第一でしたので」

「は、はぁ……」

 

 気が抜けてしまう。

 電話越しで感情が読めないことを加味しても、どうにも掴みがたい。

 

「では、まずご報告を。現在gossiperやInprogramのファイアーウォールを急ぎ強化しています。画像認識型の自己学習プログラム、スイートPさんのリアルに関する情報とその出所の洗い出し含め、明日には対処が完了するかと。現在のところ情報の流出は確認していませんので、恐らくメビウス住人の中で知っているのは帰宅部程度だと思われます」

「え、あ、え? ちょ、どういうこと?」

「スイートPさんの情報をメビウスに流さないように……という対策のお話でしたが、まだどこか足りない部分があったでしょうか?」

「そうじゃなくって!」

 

 細かい説明すぎてわけがわからなかった。

 というか、なぜ? え、説教されるんじゃなかったの?

 

「先輩の皆さんを説教なんて恐れ多い。それに、今回の話にソーンは関わっていません、あくまで、俺の自己判断でご連絡しています」

 

 なんとなく、わかってきた。

 この韋駄天ちゃんという楽士は、比較的まともな思考をしているらしい。

 変人ばかりの楽士たちの中ではまともに話の通じそうな雰囲気があって、なんだか安心した気持ちが半分。でも楽士の中でここまで真面目なことに逆に抱いてしまう警戒心が半分、といった感じだ。

 

「心配してくれたのはありがとぉ。それで、聞きたい事ってぇ?」

「そうですね、最近帰宅部が共通して『物語』とよばれるワードを元に何かを嗅ぎまわっているようです。それがスイートPさんへの攻撃の直後に始まっていることから、そちらの領域で何かを発見した可能性があるのです。連中のターゲットが分かれば先手が打てる。何か、心当たりはありませんか?」

 

「物語? 物語ねぇ……あ゛っ」

 

 ぱっと言われたところで検討なんてつくはずもなく、ふとリュックの中に手を入れてみたところで。

 思わず、素が出た。

 

「スイートPさん? 何かありましたか?」

 

 まずい。これはまずい。

 storkが自分の領域にしたという宮比温泉物語の株主優待券。見ればその端が引っかかって切れている。大方逃げ出すときに、やらかしたのだろう。

 

 これは間違いなく責任問題になる。

 storkはカギPちゃんに次いで新参。あの変態が現実に帰る方に転ぶとは思えないし、大した情報も持ってないことは間違いない。だが、あいつの影響力が損なわれても困る。

 ……もしソーンちゃんにバレたりなんてしたら……。

 

「ねぇ、韋駄天ちゃん? これ、ソーンちゃんは関係ないのよねぇ?」

「ええ。先も言った通り、これは俺の独断です」

 

 都合がいい。

 ソーンちゃんを出し抜いて手柄をあげたい野心家にしても、ただのお人好しにしても、この件を内密にしてくれるのは大変にありがたい。

 

「えーっとぉ、メビウスで物語っていったらぁ、多分宮比温泉物語だと思うのぉ。韋駄天ちゃんも知ってるわよね、シーパライソの近くにあるあそこ。私は何も、なぁ~んにも関係ないけど、あそこってstorkの領域なのよぉ」

 

 勝手に動いて被害を被害を抑えたり、帰宅部を止めてくれれば儲けもの。

 逆に何もできなかったとしても、それはstorkの不甲斐なさが原因。私は関係ない。

 

 うん、完璧。我ながら完璧な算段だ。

 

 

「――仔細は把握しました。念のため、スイートPさんはそちらへの出入りを暫く控えていただけると幸いです」

「出入りを控える、って、ことは温泉に行くなってこと?」

「できれば」

「ちょ、ちょ~~っとそれは、困るかしらねぇ? 乙女にお風呂に入るなっていうのは、流石に酷じゃないかしらぁ?」

 

 あの変態が管轄する領域だというのを差し引きしても、あそこの温泉はかなり愛用している。そろそろ重曹泉に浸かってお肌のコンディションを整えたかったし……。

 しかしそれを口にすると、電話越しの韋駄天ちゃんは困ったように唸り、そして声を潜める。

 

「帰宅部には、現実世界の情報にアクセスできる人間がいるようです。アリアという異分子(イレギュラー)の力だと想定される以上、如何にμの力でリスクヘッジをしても意味がない可能性は高い。下手に顔を合わせて、連中があの情報をカードとして切らないとは限りません」

「うぐ……」

「それに、お伝えするか迷いましたが――既にソーンはスイートPさんの敗北を知っています」

「…………そ、そうなの?」

「カギPの時もそうでしたが、楽士が帰宅部に敗れると、それぞれの領域でのデジヘッドの活性率が著しく下がるのが確認されています。如実にメビウスに影響があることを察せない程、あの人は鈍くありませんよ」

 

 それは、弱った。

 どうあっても、説教は覚悟しておかなくてはならないらしい。

 

「運が悪く出会ってしまった、というだけにしても繰り返し帰宅部に敗北を喫するようなことがあれば、流石にソーンも黙っていないでしょう。特に今は、帰宅部の影響で非常にカリカリしてますし、もしかすると……」

 

 言葉を濁しているが、その先に続く言葉は私の考える最悪の想定をゆうに超えるだろう。

 ソーンちゃんは楽士のリーダーではあるが、強権を振るうような事はいままで考えられなかった。カギPくんが裏切った時も、一応再洗脳の刺客を放ちはしたが、かといってそれ以上の報復をしようとはしていない。

 

 これまでのメビウスに発生したホコロビの対処も、各楽士に大まかな指示は出すが、従わないものに制裁を科すようなこともなかった。

 だが、確かに帰宅部に対してはやけに過敏に反応する。

 理由を詮索するつもりはないけど、肝心なのは今ソーンちゃんの前で失態を重ねるのはマズい、ということだけ。はっきりと理解できる。

 

 

「はぁ……わかったわ。私もできる限り協力するから、何かあったら言ってちょうだいね」

「ありがとうございます。宮比温泉物語でstorkさんが帰宅部を打ち破ってくれれば、問題はないのですが」

「望み薄ね、あいつは自分の欲求には素直だけど、それ以外の仕事は甘いとこあるし」

 

 はは、と。電話越しに聞こえる乾いた笑い声。

 大方storkも楽士として尊敬していた、とかそういう話だろう。あいつの楽曲を聴いて尊敬していたのだとすれば……まあ、なんというか。ご愁傷様という感じね。

 

 

 

「そうですね――今後の方策として練っておいたパピコのラガード層を再洗脳するためのプランを幾つか郵送しておきます」

「あら、もうそんなものまで用意してたの? もしかして、私が最初から勝てないって思ってたぁ?」

「いえ、デジヘッドの力を増す事は帰宅部台頭以前から課題の一つでした。もう少し緻密に煮詰めてからお出ししたかったのですが、状況が状況で……拙案ですが、ご査収くださいますよう」

 

 

 

 その日の夜に送られてきたのは、眩暈がするほど作り込まれた計画書。

 仕事をやっているような気分にさせられ、ることはなかった。何しろ、タイアップのスイーツメニューに、アクセサリーから衣装、小物のデザイン。胸が躍るようなものばかりだったのだから。

 

 しかし、冷静に考えてみる。

 韋駄天ちゃんの楽士加入は、数えてまだ一か月も経っていないというほどでしかない。

 μの楽曲検索エンジン『μ:seum』の管理も一手に担いながら、これだけのものを準備するだなんて、正直、尋常じゃない。あの人柄も含めて、ワーカーホリックなんてもんじゃないだろう。

 

 ずば抜けた優秀さ。メビウスという幾らでも楽ができる環境にありながら、働き続けるその様子。

 それは、現実でひーひー言いながら働いていた自分のことを、不意に思い出させるもので。

 

(もし彼が潰れそうになったら、三郎道かゆめかわ道に導いてあげるのも手かもね……)

 

 パステルでふわふわな、絵に起こされた服を見ながら、私はそう思う。

 けど同時に、不思議だった。

 

 

(あの子、どうしてメビウス(ここ)に来たのかしら……?)

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