【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】 作:佐渡ヶシマシマ
Lucid兄貴姉貴をお待ちの皆さまには申し訳ナス……
「楽士に戻ってきませんか、カギPさん」
どの口で、そんなことを言うんだ。
倒れた僕を見下ろすヘルメット頭に、僕は歯噛みするほかなかった。
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storkを倒した僕たちに、琵琶坂先輩が突然こんなことを言い出した。
「君たちには力がある! デジヘッドを片っ端から狩ってメビウスをぶち壊せば、こんな回りくどいことをせずとも確実に現実に帰れる、そうは思わないかい?」
「どうせ僕たちが活動を続ければ、メビウスが壊れてしまうかもしれないんだろう? なら結果は同じ事だ。もしそうだとしたら、君たちは帰るのを諦めるのかい?」
彼の意見には頷くところも多かった。
帰宅部が力を持っているのは事実だし、これまで僕たちは、楽士以外にもデジヘッドを正気に戻してきた。今後もそうしたことを続けていけば、メビウスの維持は難しくなる。
本当に一時とはいえ楽士をやっていたから、それはよく理解できた。
帰るのを諦めるのか、そんなやけに極論な選択を突きつけられたあたりだった。
「まったく……愚劣が極まるな」
ワザとらしく、鼻で笑いながら。普段の彼からは想像もつかない、飛び切り馬鹿にした声で。
棹人先輩は歩み出て、琵琶坂先輩に詰め寄った。
「この世界にいるのは何人だ? そのうちデジヘッドは何人いる? 少なくともここの人間の十倍はくだらないだろうさ。それを俺たちだけで狩っていけって? 現実的じゃないな、算数さえできないのか」
挑発的な言動。
パピコで、スイートPを現実の姿で脅す案を提案した僕に理路整然とした正論をぶつけた人が。
温泉で、魔が差して覗きを行おうとした僕を静かな説教でボコボコにした人が。
同じ言葉を使ってるとは思えないくらいに、攻撃的で強い言葉。正直違和感があったけど、それ以上に琵琶坂先輩の額がひくついたのは見逃せなくて。
「全員を倒せっていうんじゃない。手段の話をしているんだ、言葉の真意を読み解けないのか? 神経が鋭敏だとか偉そうなことを言った割りに随分と……ああ失礼、頭の鈍さは体質とは関係ないものな」
「その通り。万年成績トップのあんたと違って学はないが、俺は人の心がよーーくわかるんだよ。自分の居場所を奪われる人間の怒りや、それを守るための何糞根性が只事じゃない、とかな」
物凄い勢いで二人の間の空気が冷え込んでいく。
今にも、掴み合いになりそうなほどの緊張感。
「第一、だ。自分で新参を自称する楽士一人相手にするのでさえ束で掛からなきゃいけない俺たちを、楽士が袋叩きにしてきたらどうやって勝つ? 俺たちは仲間でなくとも同じ目的を共にしている。『誰かが』じゃなく『全員で』帰らなきゃならねえんだ。その状況で明確に力の差がある相手を刺激してどんなメリットがあるんだ? 交渉という別の案を潰してでも強硬策を選ぶメリットは?
「……言わせておけば、」
本当に火が付く寸前。そこで部長が割って入った。
「棹人、少し落ち着いて」
ぐ、と。
僕だったら、絶対踏み込みたくない合間に入り込み、部長は棹人先輩を琵琶坂先輩から引き剥がす。そしてすぐに琵琶坂先輩に向き直って、彼女は言うんだ。
「この世界から帰る目的は同じ。でも、過程が違う」
不服気な琵琶坂先輩に、今度は笙悟先輩が援護をする。
「お前の気持ちはわかる。μが俺たちを現実に帰さないときには、考えとかなきゃいけねえ可能性だ。けどな、俺たちはアリアと約束してるんだ。俺たちだけが帰っちまったら、こいつとμの間が終わっちまうかもしれない。それは流石に寝覚めが悪いだろ。俺たちがこうして戦えてるのは、他でもないアリアのお陰なんだからな」
その場はどうにか収まる。
けど、僕らの間にはなんとなく微妙な空気が流れていた。
手段を選ぶことなく、メビウスを崩壊させてでも現実に帰るのか。
それともアリアのためにも、μを説得して穏便に現実に帰るのか。
僕らの前には、二つの選択肢が提示されていた。
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「はぁ~~……」
あの時の事を思い出して、気分が憂鬱になる。
僕は、何もできなかった。
憤った様子の二人を静止する部長。こういう時こそ自分が頼りがいのある様子を見せるチャンスだったのに。
いや、それを別にしてもだ。
部長は本当にすごい。帰宅部の癖の強い面子を纏めて、楽士たちを次々打ち破る。それだけじゃなく、皆の悩み相談なんかも受けて、それでも笑顔を絶やさない。戦闘では的確に指示を飛ばし、誰よりも先陣を切っていく。
更には分け隔てなく、誰の手助けもするため、校内のトラブルシュータ―扱いされているらしい。
まさに、物語の主人公って感じだ。
それを言えば、棹人先輩もそうだ。カタルシスエフェクトに目覚めてから第一線で活躍して、部内の皆さんからの評判もすこぶるいい。
理論的で冷静だけど芯が通ってる。たまに熱くなるけど、鼓太郎先輩みたいに常にあったまってる感じじゃないし、何より真面目だ。不必要に戦おうとしないし、いざ戦いとなれば部長と同じように指示役も熟せる。
彼もまた他人の悩みを解決して回っているんだとか。
あの二人は突出している。そして、二人の息の合い方もすごい。
stork戦で戦って、よりそれを強く感じた。
正直、勝てる気がしない。
というか、帰宅部の皆さんはすごい人たちばかりだ。
笙悟先輩は普段やる気なさそうなのに、先程の回想の時のようないざって時に動ける。この待ち伏せ作戦の発案者も、笙悟先輩だ。
琴乃さんは補佐役でもありつつ、リーダーシップもある。細かい気遣いも欠かさない。笙悟先輩を部長として立てながらも的確に人を動かせるバランス感覚の持ち主だ。
鼓太郎先輩……は、ともかく。美笛ちゃんも、鈴奈ちゃんも、鳴子先輩も、琵琶坂先輩だって。僕にはないものを持っていて、強い人たちだ。
楽士でなくなった僕は、本当に何もなくて。いや、カタルシスエフェクトとかあるし、なんならここまでで言えばそこそこ活躍はしている自負はありますけど、そういうことじゃなくて。
本質的なところ、というか。
根っこの部分で、どうしても勝てないなぁって、思ってしまうんですよね。
「さっきから溜息ばっかじゃねえか鍵介。どうした?」
「……いえ、なんでもないですよ」
いけない、いけない。
笙悟先輩に気を遣われているようじゃだめだ。
この待ち伏せ作戦を機に、もっと僕も何かできるようにならないと。
そう、思った時だった。
『吉志舞高校のみんな~! 元気~? μだよ~!』
校内放送で突然流れ出すその声。何度も何度も聞いた、僕を取り上げてくれた声。
そんな彼女の口にする聞き覚えのない名前。
『今日は新しい楽士、Lucidの曲を皆に紹介するね!』
check it outの掛け声の後に――鳴り響いたのは、腹の底を痺れさせるような音だった。
「鍵介、今のは!?」
「聞いたこともない名前の楽士です!」
「新手、ってわけか……」
背筋が震えた。こんなのは、ソーンの楽曲を生で聞いた時と同じだ。
聞いたことのない名前であることも相まって、僕はどうしてもいやな予感が拭い切れない。
「笙悟先輩! 予定より早いですが、皆と合流するべきです!」
「確かに、この曲と言い嫌な予感がする――番近いのは二階の琴乃と鼓太郎だな、行くぞ」
僕らは走りだす。急くようなリズムが、その足を余計に早めた。
階段を駆け上がった踊り場で、すぐに琴乃さんと鼓太郎先輩を見つけた。どうやら琴乃さんも、笙悟先輩や僕と同じように考えたらしい。僕も笙悟先輩も息切れを起こしたけど、互いの無事が確認できてよかった。
「向こうには部長と棹人くんがいるはずだし、大丈夫だと思うけど……」
「はっ、何かあったらオレが助けに行けばいいだけだ!」
鼓太郎先輩のいつもの様子は、なんというか平常運転で安心する。
しかし、実際これからどうするべきだろう。
アリアの現在地と僕らの場所からは距離がある。色々なところを飛び回って、デジヘッドの洗脳が解けた人たちにカタルシスエフェクトを付与しているという話だったが、それがどこまで通用するかは未だ未知数だ。
そんな中で現れた、謎の楽士Lucid。
楽士の曲のクオリティは人によって違う。けど、オスティナートの楽士は素晴らしい楽曲を作れる、という以外の要素でも勧誘されるケースがある。僕の場合はそうだった。
曲を作れない僕の代わりに、μは僕の感情を元にして音楽を生み出した。
この楽士が自分で作曲しているのだったらこの前提は崩壊する。
でももし仮に、僕と同じように、想いをそのまま曲にしたとするなら。
この楽士は、間違いなく僕より強い。
「アリアにWIREで連絡してもいいが、確認している暇はないか……」
「今美笛ちゃんから返事が返ってきたわ! 彩声ちゃんと楽士を追いかけてるって!」
「おいどうすんだよ、アリアがいないときに楽士に見つかったらやばいんじゃないのか!?」
議論が紛糾する中で、僕は考えていた。
――もし、部長ならどうする。もし、棹人先輩ならどうする。
「――おやおや。これは帰宅部の皆さまお揃いで」
突然の声に振り返る。
そこにいたのは、奇矯な姿の人物。
黒いフルフェイスのヘルメット。黒いレザージャケット。
そして、炎のように揺らめくスカーフと、まるで重しのように足に纏わりついた鉄の塊。
「お初にお目にかかります、楽士『韋駄天』と申します。以後お見知りおきを」
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