【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】 作:佐渡ヶシマシマ
楽士『韋駄天』。
storkの言を引用するならこうだ。
「そ、そうだ! それから、僕やカギPより後に入ってきたのに、もう楽士たちの纏め役をしてる『韋駄天』って楽士がいるんだ! リーダーのソーンって女の子の信頼も厚くて、仕事もできる。まだ新参だから、自分の領域を持っていなくて、どこにいるのかはわからないけど……ほかの楽士より、μの居場所を知ってる可能性が高い、と思う……」
ソーンのことは、僕もよく知らない。でも、あの楽士たちを纏めるリーダーの補佐ができるような、実質的なナンバー2。
そんな楽士が、今僕たちの目の前に。
いやでも警戒は高まる。
「……おいあんた、韋駄天とか言ったか。俺たちは別に、楽士たちとコトを構えたいわけじゃないんだ。ちっと話を聞いてくれないかね」
そういって、歩み出たのは笙悟先輩だった。
僕は、また最初の一歩が出せない。
「ほう、話とは?」
「俺たちは現実に帰りたい。だが、メビウスをぶっ壊したいわけじゃないんだ。説得力がないかもしれないが、俺たちは帰れればお前らの邪魔をするつもりなんてないんだよ」
「ふむふむ、成程……」
表情がヘルメットのお陰で全く読めない。だが、こちらの話を聞くそぶりは見せている。
だが全く油断できない。えもいえない迫力というか、凄みというか。ともかくこちらを委縮させる何かを持っている。僕自身、まったく目を離せない。
しかし、琴乃さんが後ろ手にスマホを触っているのを見て、気付く。
(――アリアへの音声通話)
アリアはスマホを持っていないが、彼女自身の意思をWIREで送受信できる。一種のテレパシーみたいなものだ。
もし、こちらからの通信があったと知れば、きっとアリアは駆けつけてくれる。
後ろ手の操作ではこれ以上のことは望めないが、きっとこれは有効だ。
「そちらの主張はわかりました。ですが残念ながら、現実へのゲートの鍵を握っているのはソーンとμなんですよ。自分はしがない雑用係、皆さんのお役には立てそうもありませんね」
一方、交渉を行っていた笙悟先輩の方だが、楽士の韋駄天は肩を竦めて断っている。そりゃオスティナートの楽士であれば、そうだろうとは思っていた。
「なら、せめてμの居場所だけでも」
「それは言えませんよ」
言葉を遮るような強い口調。笙悟先輩の顔が強張り、僕らもまた身構える。
「あなたがた、あの
「ああ!? どういうことだ!?」
いい加減細々したやり取りに業を煮やしたのだろう鼓太郎先輩が大声を上げる。こういう時に相手を刺激するようなことはしないで欲しいんだけどなぁ……。
背中に冷や汗が流れるのを感じながら、相手の次の言葉を待つ。いや、それ以外にできない。
アリアも言っていた通り、カタルシスエフェクトはうまく使えないだろう。それでも発動さえできないわけじゃない、四人で掛かれば、少なくともアリアがこっちに来るまでの時間稼ぎくらいはできるはず。
だが、鼓太郎先輩の怒鳴りに怯んだのか、それとも何かに驚いたのか。
韋駄天は数秒黙ったのちに、大声で笑い始めた。
「ははは! そんな簡単なことにも気づかずに仲間だなんだと! あははは!」
「テメェ、何がおかしいってんだ! わかるように言いやがれ!」
「――アリアがμをメタバーセスに連れ帰ったら、だれがメビウスの歌姫を担うのですか?」
笙悟先輩も、琴乃先輩も息をのむ。鼓太郎先輩に関しては、はっと気付いた顔でリアクションまで取ってる。
僕は気付いてた。けど、やっぱりそうだよな、という思いだ。そりゃそうですよね、ええ。
「メビウスの中核を担うμを引き抜けば、メビウスの輪は崩壊する。あなた方がやろうとすることは
こちらに言い含めるように語るその口ぶりに、怒りや恨みといった強い感情は見えない。僕はそれに強い違和感がある。だって、大なり小なり楽士はこのメビウスに思い入れがあるはずなのだが、韋駄天からはそれを感じ取ることができないんだ。
というか、僕が所属していた時も感じていたけど、楽士は変わり者が多い。
クリエイターという職業であればそうなのかもしれないと思って、僕も自分のメッキが剥がれない様に意識の高い天才を演じていた。まあ、楽士として名声を上げるたびにそれが演技じゃなくなっていったけど……。
しかし、眼前の楽士。
いやに理知的で、そして穏やかだ。いや、むしろ冷めているって感じまでする。
まるで、『楽士』という役を演じているかのように。
僕らの様子を見た韋駄天は、再び肩を竦めると、予想だにしない台詞を口にした。
「ただまあ、皆さんが個人的に楽士に会いに行くのは止めません。楽士とファンの交流を妨げるような権利はありませんので」
つまり、この男は。
今まで僕らがやってきたような帰宅部の活動を看過する、そういう風に言ったのだ。
「つまり、見逃してくれるってこと?」
「最悪あなた方が楽士を倒そうが、リカバリーの案を用意している、それだけの話です。現状、あなたがたの行為は不快で危険だがその程度でしかない」
――なるほど。
冷静さの理由は、そこにあるのか。
「僕らはあなたがたにとって脅威でさえない。遊ばせてやってるだけ……そういうことですか?」
「いくらか語弊がありますね。自分としては、穏便な解決策を模索しているんですよ、例えばそうですね」
首を傾げる。わざとらしく。
「アリアをメビウスの二人目の女神として擁立する、とか」
ざわついた。いや、違う。もっと刺々しくて緊迫した空気が場を満たした。
「何かおかしいことを言いましたかね? 女神が二人に増えればメビウスの安定性はより強固なものになる。そうなれば現実と行き来したところで問題のない世界にできるはず。必要な人間にリソースを割き、それ以外の人々はいつでも帰宅できる。そんな、健全で安心なメビウスが作れるかもしれないんですよ?」
「それは、っ……!」
琴乃さんが何か反論しようとする。
だが、できない。できるはずない。
僕らは悩んでいる、迷っている。この世界が必要な人間の願いを壊してまで、帰宅してよいのか、と。
なぜなら他の誰でもない、僕ら自身が、救いを求めてこの世界に来たのだから。
そんな僕らの心の裏を見透かしたようなその案は、余りにも僕らには魅力的だった。
「……さて、対話はもう十分でしょう。
不穏な台詞に、たまらず琴乃さんがスマホを見る。しかし、韋駄天が代わりに応えるように手を振った。
「向こうの帰宅部は無事ですよ。そしてアリアがもうじきやってくる。ここはあなたがたにとって想定通り。――まあ、自分以外の楽士とμは撤退するでしょうが」
やられた。
この楽士は陽動だったんだ。ここまでの話は全て、時間稼ぎ。
「クソッ、あいつらどこで何してやがる!」
鼓太郎先輩が苛立ちを隠さずに悪態をつくのは、目の前の楽士相手じゃない。きっと、部長たちのことだ。
けど確かに変だ。先輩たちならきっと何もしないなんてことはないはずなのに。どうして、何も。
そんな。いや、まさか。
「確かめたいなら、いつもの通りやればいいのでは? ほら、四対一ですよ」
平然と。予定調和だったかのように、楽士は肩を回した。
さも結末が決まり切っているかのごとき口振りはどこまでも退屈そうで、同時に疲れたような様子。
「上等じゃねえか、やってやる! いくぞお前ら!」
流石に、ここまでコケにされて黙ってはいられない。
先輩たちが心配なことも、美笛ちゃんや彩声さんの安否を早く確認するためにも、笙悟先輩の号令に従い僕らは武器を取る。
いつもより重く感じる自分の武器を、固く握り直しながら。
「いやあ失礼、対話は十分だと言いましたが実は自分は話好きでしてね。まだまだ言いたいことが尽きてないんですよ。例えばそう、そうですね」
既に臨戦態勢に入った僕らを前にして、何か話のタネを探る様に指先を宙に走らせる韋駄天。
耳を傾けるはずもなく、矢をつがえる琴乃さんと踏み込む準備をする鼓太郎先輩。
「そう。ソーンは
暗いバイザーの奥から通った見えない目線が、笙悟先輩を射抜いた瞬間に、戦いは決着していた。
僅かに生まれた動揺を見抜いたかのように、その姿は掻き消えていた。僕がそれに気付いたのは、金属の塊同士がぶつかるようなひどい衝撃音で、でしたけど。
本当に一瞬のうちに距離を詰め、庇うように前に出た鼓太郎先輩ごと、後ろの琴乃さんを吹き飛ばす。蹴りには到底纏うはずがないごぅ、という鈍い風切り音と、一撃で立ち上がれなくなった二人の様子が、その威力をどんな比喩よりも明確に表していた。
(ま ず ッ )
こちらに来る。と咄嗟に構えた大剣。身を守る、という意思に呼応して現れるハニカム構造が、ジグソーパズルを落としてしまった時のように、もろくばらけて消え去って。構えた剣越しに見えた足の裏には、なぜか大穴が空いていて。
ずどん。
直後に訪れた衝撃はこれまでの人生で何よりも重い。喧嘩だってしたことのない人生なんだ、人に蹴られたことなんてない。カタルシスエフェクトの力は肉体的にダメージを与えないはずなのに、それでも体が潰れて胃の中身が出そうになった。
膝を突いた僕の視界の奥で、攻撃の出が遅れた笙悟先輩が三発の蹴りと、格闘ゲームでよく見る鉄山なんとか、みたいな技を叩き込まれている。
倒すなら、一撃でいいはずだろ、こんなの。
それを。あんな。見せつけるみたいに。
「く、そぉーーー!!」
悲鳴を上げる体を起こし、吐き出しそうになったものを押し込むように叫んで。僕は飛ぶ。
負けられない。負けたくない。
僕は、そうじゃなきゃ、なんのためにここに来たのかわからない!
「失敬」
でも。
そんな僕の抵抗さえ、踏み潰すように。
僕の羽根以上に跳んだ鉄塊が、黒い影と赤い光の軌跡が、僕を叩き落す。
学校の床、つるりとした板に打ち付けられながら、僕は。
けど、体の痛み以上に、僕は。
「言葉の意味をご理解いただけましたかね」
息も切らせず。淡々と。確認作業のように話すその姿が、大きく、恐ろしく見える。
格が、違う。
「さて、それじゃあソーンへの言い訳に、帰宅部一人くらい潰しておきますか。みせしめも兼ねられますし」
下っ端は辛いですよ、とか。そんな台詞を吐きながら。
楽士は鼓太郎先輩を足で除けて、琴乃さんの方へ向かう。
彼女を守る、なんて。普段大口をたたいてる、僕が。今はどうだ。
僕は。
「待ってくださいよ」
口の中に感じた血の味を、吐き出すように。
「見せしめ、っていうなら、僕にするべきじゃないですか? 裏切り者の楽士なんですし、ちょうどいいでしょ」
「ぐ、やめろ鍵介!」
「そうよ! 狙うなら私にしなさい!」
痛いのは嫌いだが、けどこんなに苦しいなら一抜けしたい。
そんな僕の甘っちょろい選択肢を選んだだけなのに、笙悟先輩も、琴乃さんも、そんな風に言ってくれる。嬉しいけど、違うんです。
僕は、そんなんじゃ。
「――それ、いいですねぇ」
頷く。反転した韋駄天は僕の前に来たかと思えば。
そのまま片膝を突いて、手を差し出してきた。
「楽士に戻ってきませんか、カギPさん」
何を、言ってる?
完膚なきまでに叩き潰して。どの口で、そんなことを言うんだ。
「勝算の薄い相手でも戦う覚悟。そして味方を庇う志。それは一か月と少し前のあなたにはなかったものだ。それを身に着けたあなたはヘッドハンティングするほどの価値がある存在なんですよ。もともと、楽士の中では最も潜在能力と伸びしろがあったんですからね」
韋駄天はぺらぺらと、そんな台詞を吐いてくる。
僕を認めている。僕の才能を認めている言葉。
それは、楽士の時も帰宅部の時も変わらない、僕の最も欲しかったもので。
だから、僕の答えは決まっている。
「お断り、ですよ」
「ほう」
なめるな。ふざけるな。
自分の中の殻に、罅が入る。
「わからないんですかぁ? 僕がここまでするのは、帰宅部の皆さんだからですよ。連帯感もない楽士のために、ここまでするわけないじゃないですか」
滅茶苦茶カッコ悪い。
負けて、捨て鉢になって、相手に情けを掛けられてから格好つけるなんて。
けど。
「僕にだってね、意地があるんですよ」
部長なら、最後まで諦めない。きっと帰宅部の皆ならだれでもそうする。
だったら僕もそうしなきゃいけない。
僕だって、そうしなきゃいけないだろ!
崩れた貌を再び作る。僕の剣を、僕の翼を。さっきは重かったそれが、今はなんだか軽くて。
「け、鍵介、お前――!?」
鼓太郎先輩の、驚いたような声を背に、僕は韋駄天を……。
「み、みんな!? ど、どうしちゃったの、ok!?」
アリアの大きい声が聞こえたあたりで、僕の意識は途端にぶつぶつ継ぎ接ぎになっている。
韋駄天が廊下の窓から逃げていく姿。
校舎で鳴り続けていたLucidの楽曲が止む瞬間。
鼓太郎先輩に担ぎ上げられるところ。
そして、気付いた時には、部室のソファで寝ていた。
心配そうに見下ろす美笛ちゃんや鈴奈ちゃんの顔を、はっきりと覚えている。
その後、部長と棹人さんが戻ってきて、喧々諤々やったりしましたけど、でも。僕にはそれよりもずっと気がかりなことがあった。
それは、最後のあの瞬間に感じた、全身に力が漲る感覚。
(あれはいったい、なんだったんだろう……)
答えは、でていません。
(分割したのに)五千文字超えてんじゃねえよバァカ!
というお叱りを受けそうなので先んじて腹を切ります。
アンケートの回答は2021/07/27 23:59で締め切りとさせていただきます、たくさんのご投票ありがとうございました。
次の(anotherエピソード)誰のいる?(確定枠・鍵介くん、Lucid兄貴姉貴)
-
stork兄貴
-
スイートP姉貴兄貴
-
ソーン姉貴兄貴