【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】 作:佐渡ヶシマシマ
「な、なななにあんた!? 誰!?」
「と、透明人間!? ワ、ワ~~オ……」
初対面で驚かれるのは、この外見を恐ろしいと思った自分としては、してやったりと満足し、他のものならばどう感じるかという悪戯心が刺激されるものだ。
しかし、想定と異なる反応をする者もいる。
「ほーん。そんなのもアリなのか」
感心したような、興味を示したかのような。驚きとはまた異なる感情を以て出迎えた楽士が居た。
つるりとした顔を隠すヘルメットが凸面鏡のように周囲と自分を映す。
こいつは、警戒せねばならない。直感的に理解した。
「それでソーンちゃん、私たちを呼んだのは、顔合わせ……?」
「半分は、ね。けれど、こちらが本題よ」
ソーンの話によれば、帰宅部がデジヘッド狩りを行い、メビウスを破壊しようとし始めたらしい。だが、この情報を元に楽士全員を動かすには、不確実で信用性が低い。罠の可能性もある。
そこで、今回帰宅部がターゲットにしており現在急激にラガードの増加がみられる吉志舞高校で帰宅部を捜索、デジヘッド狩りの実態が確認されればそれを阻止し、可能ならば帰宅部員を捕獲。万一これがガセでも、カギPが不在となり管轄がいなくなった高校のラガードを再洗脳してメビウスの安定を図る――そういうことらしい。
「それはわかったけどぉ、どうして私たちなの?」
「まさか、思い当たる節がないのかしら」
ソーンの目線がすっと細まる。
彼女のことは出会って数度観察したが、表情が揺らぐことが殆どない。だがその分その眼差しは随分と雄弁だ。少ない言葉で相手に自身の感情や意図を伝えるのがうまい。これは、カリスマというを会得するうえでは役立つ知恵かもしれないな。
「ラガードの数が上昇傾向にあるのは、あなたたちの敗北の結果でもある。これは楽士として背負うべき義務でもあり、挽回の機会を与えているのだと――そう思ってほしいわ」
「も、もしそこでも不甲斐ない結果を出したら……?」
「μ」
「はーい!」
storkの問いに答えることなく、ソーンはμの名を呼ぶ。元気に返事をしたμが見せたのは、穴のようなもの。その向こうには、よく見慣れた街並みが覗く。まぎれもない、現実の街並みが。
言葉無くしても理解できる脅し。残酷だが効果は覿面だろう。事実、スイートPもstorkも焦ったように命令を受け入れた。
しかし。
こうも容易く開く扉のためにあれだけ苦労しているというのは、なんというか。ばかばかしくなってくるものだ。だが彼らにとってそれほどまでに恐ろしいものが、自分たちにとっては欲してやまないもの。立場の違い、考えの違いがここまで如実に表れるというのも、興味深い。
……いけないな。
楽士になったのは、楽士の思惑を知るためだ。
現実に帰りたいものだけでなく、帰りたくないと願う人々のことを知ってから、戦うかどうかを判断する――『私』になるためにモチーフにした彼なら、そうすると判断したからだ。
だが、どうにも楽士の姿になると、自分の欲求を抑えられない。
見たい。知りたい。それを感じたい。
姿が見えない、誰にも正体を知られない安心感というのは、こうも危険な事なのか。
「今回は、韋駄天も同行させるわ。精々新人二人に醜態をさらさないようにしなさい」
そのソーンの言葉に応じるように、先程から自分を一瞥しただけでずっとデスクに向かっていたヘルメットの人物が立ち上がる。
USBメモリーをソーンに手渡すと彼女の隣に立ち、深々と頭を下げた。
「韋駄天です。改めて本日は何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」
丁寧。へりくだる態度。
容貌からは想像していなかった雰囲気だ。表情が掴めないのが残念だが、面白い。
storkとスイートPが呆気にとられる中で、今度は私の方に向き直る韋駄天。
「ようこそ、オスティナートの楽士へ。なんて、自分も新参ですので余り偉そうなことは言えませんが、お互いに今後ともメビウスのため邁進していきましょう。Lucidさん」
握手を求められ、それに応じる。
……
恐らくは、私がμにかけられたのと近いプロテクトをかけられているのか。だとするならば、余計に面白い。同時に――益々の警戒せねばならないだろう。
stork曰く、ソーンの補佐を行う実質的なNo2。その切れ味を、確かめておかねばなるまい。
××× ××× ××× ×××
「一瞬で学校についちゃった、便利な扉ね」
控室で私が常用している楽士の門。それを潜れば、その先は学校だ。
幼い頃によく見ていた、未来のロボットが助けてくれるアニメ。そこで登場する秘密の道具。それに似たような扉のアイテムがあったことを思い出す。こういうものが欲しいと、一度は願ったことがあるが……もっと普及していないのはなぜだろう。
「出入りが自由、というのは覗きとして些か風情には欠けるが……なんにせよ便利だねえ。もっと普及してほしいものだが」
……変態と意見が一致してしまった。ショック。
「日常的に使えるガジェット、としてメビウスの認識を改変するには些か非現実的すぎるのですよ。特に、ラガードが増加し
それを窘めるのは、韋駄天。やはり、他の楽士たちの中でも随分と冷静だ。
「なんにせよ、帰宅部を倒さないとメビウスの拡張は難しいってことね。あーあ」
「うーん、それは仕方がない、か。なら、ぶらぶらラガード狩りを始めるかい?」
そんなところで、私の胸ポケットに隠れていたμが顔を出し、ワクワクした表情で言う。
「楽士は曲と一緒に登場しなくちゃね! 今回はLucidの初登場だから、Lucidの曲を――あっ」
だがそこで急にしゅんとした表情になって、韋駄天の方を見る。
「ご、ごめん韋駄天、韋駄天の新曲も、まだ発表できてないんだったよね……ど、どっちがいいかな……」
迷うそぶりを見せるμに対して、優し気な声音で韋駄天はμの頬を手袋越しにつついた。
「今日は期待の新人のデビューなんだから、まずはLucidの曲だろうさ。自分の曲は、別の機会に発表する算段があるんでね」
「う、うん! わかった! じゃあちょっと行ってくるね!」
安心したような笑顔で、μは手近な校内放送のスピーカーに入ってゆく。すると、すぐに放送が始まった。
『吉志舞高校のみんな元気~? μだよー!』
『今日は新しい楽士、Lucidの曲を紹介するね!』
『とーってもかっこいい曲だから、いーっぱい聞いてください!』
『それじゃあ、新曲いくよ! Check it out!』
――流れ出す、あの時μに作ってもらった、私の曲。
些か誇張が過ぎるというか、これが自分から生み出されたものだと思うと些か気恥ずかしいが。
なんだろう。腑に落ちるというか、なんとなく身体に血が通う感じがする。耳になじむ、というのだろうか。
スイートPとstorkの二人からしても、私の曲は中々のレベルにあるらしい。そこであくまで自分が一等であるという自負を隠さないところに思わず笑いそうになったが、クリエイターや表現者としては理解できない感情ではない。
「いやはや、度肝を抜かれましたよ。これは、すぐに抜かれてしまうかもしれませんね」
しかしまたも、韋駄天という楽士はこちらの予想を外れる。
いやに自虐的な台詞でこちらを称賛してくるその態度。それがどうにも不気味だ。
今回の中で、少しでもその姿を暴けるとよいのだが。
××× ××× ××× ×××
ラガード狩り、という名目で始まった今回の活動。
しかし、この曲の影響か。それとも楽士が四人も出張った影響か。校内にそれほどラガードの数は多くない。いたとしても、一捻りで倒せるか、或いは簡単に再洗脳ができる程度に過ぎない。
予想以上にアリアがラガードのカタルシスエフェクトの発現に手間取っているのか。
事実、先程廊下で出会った女子生徒三人組は、メビウスの実態に気付いていたもののスイートPの交渉によって呆気なく再洗脳された。そして今は、急ぎで駆け付けたアリアを追っているところ。
「この調子ならすぐに終わりそうね、韋駄天ちゃん?」
「先程のお手並みは見事でした、お二人のお陰です」
仕事が手早く片付きそうでスイートPは機嫌がよさそうだ。同時に、彼女、いや彼? はどうやら韋駄天と接点があるらしい。そのうち、色々と質問してみてもいいかもしれない。
「いやあ、ほれぼれする活躍だねえ。よかったら、このあと一覗き行かないかい?」
私は私で変態に同類認定されたのかすごく気に入られていた。本当にやめてほしい。
緩い空気で進み、廊下を曲がったあたりでまたもラガードに遭遇した。アリアによる調律が済んでいるらしく、アリアも側にいる。
二人組の男子はスイートPへ興味を示しており、どうやらデートへ誘おうとしているらしい。
なんというか、知らないというのはやはり恐ろしいものだ。彼らにとっては知らない方が幸運ともいえるかもしれないが。
ともかく、下心を込みで話しかけてくる相手に対して、スイートPの青筋が浮かびかけたところで。
「すいませんね。そういうのは楽士のファンサービスには含まれないんですよ」
遮るように立つ、韋駄天。それはまるでスイートPを庇うかのようで。
「な、なんだよお前! 今俺たちはその子に……」
「ゆ、youたち気を付けて! そいつもっ」
そんなアリアの制止もむなしく。
まるで一陣の突風が吹いたかのように。ごひゅぅ、という風の音の後には、吹き飛ばされた男子二人と、倒れ込んだその二人を見下ろすようにして立つヘルメットの男がいた。
……目で追うこともできなかった。気付けば、終わっていた。
「そ、そんな、一撃なんて……!? はやくみんなに知らせないと!」
焦ったアリアも一目散に逃げだし、その場には四人しかいなくなる。
「すごいよ韋駄天! かっこよかったよー!」
「ありがとうμ。あとついでに、マインドホン持ってないか?」
ひょいひょいと嬉しそうに飛び回る彼女を手に座らせ、受け取ったマインドホンで手早く倒した生徒たちの再洗脳をしていく。
危険だ。こいつは、危険だ。
もし万一帰宅部として出会うことになったのなら、勝てるのだろうか?
「あ、ありがとうね韋駄天ちゃん。ちょっとびっくりしちゃったわ……」
「あれれぇ、もしかしてスイートP、恋が始まっちゃったかい? あは、あははは!」
「ちがわい! 私はただゆめかわいいものが好きなだけだっつの!」
この楽士の活躍を前にしても、この二人は相変わらずだ。なんだかんだこうしてみると相性は悪くないのかもしれない。
というかそもそも、このくらい和気藹々とする空気が帰宅部にもあったらいいのだが。いや、やめよう。ないものねだりは浅ましいし、なければ作れる類のものだ。それを手に入れるためにも、ここで学びを得ればいいのだから。
「さて、皆さん。少しお話が」
軽く手を二度叩く韋駄天。その動きに、全員の視線が集まる。
「ここまでの戦果があれば、ソーンも十分に満足するでしょう。が、帰宅部がラガードを積極的に引き入れるようとしているのは見過ごせません。お三方にはアリアを追い、発見した帰宅部を撃破、捕縛していただければと思います」
てきぱきと支持を飛ばす韋駄天。そして、自身はこれから別行動を行うと言い出した。
「いや実は、ソーンにお使い頼まれてまして。それを終わらせないと怒られるんですよ。いや、補佐とか言われてますけど実質雑用係みたいなもんなんで。いやー、きついっすわ」
へらへらと。おどけたような口調と共に、ヘルメットのシールドに電光掲示板のようなドットで『I AM a DOG』という文字が映し出される。
そんな機能あったんだ。
「ちなみに、皆さんの行動は随時モニターしていますのでご心配なく。窮地になれば駆け付けますから。ね、storkさん」
「な、なんで僕ぅ!? わ、わかってるよ、いやだなぁ」
かく、と。首を傾げてstorkを見る韋駄天。その動きが、嫌に不気味だ。愛層の良い言葉遣いと態度だというのに、体の動きというか、所作が妙に脱力している。
奇人。幽霊。そういった役どころのよくやる、気味の悪さを表すような。
面白い。
「μ、Lucidについていきな。皆のことを頼むぞ」
「うん、わかった! 韋駄天も気を付けてね?」
また自分の胸ポケットに戻ってくるμ。その後、韋駄天はスイートPや私と二、三言葉を交わして歩き去る。
『二人とμをよろしくお願いします、あなたが一番頼りになりそうだ』
他二人に聞こえぬように私に呟いた言葉にどきりとした。まるで、こちらの事を見透かしていたかのようで。そういうことではなく、単に期待されているというだけであればいいのだが。
「ほんと、ソーンちゃんも自分で動いたらいいのにねぇ。仕方ない。さっさと片付けちゃいましょ、Lucidちゃん」
ぼやきながら腰に手を当て、やれやれといったふうなスイートPの言葉に頷き――。
あれ?
storkは?
「あんのバカ、あれだけ言われてまた性懲りもなく!」
××× ××× ××× ×××
案の定、storkは女子更衣室に忍び込んでいた。
そしてそこには、帰宅部の二人組もいる。
あとでstorkは銃のグリップでひっぱたこう。
「な、なんなの、そんな反則みたいな恰好して……あんたは男なの!? 女なの!?」
うーん、初登場なんだし、もっと驚いて欲しかった。
だが、まあいい。
やはり彩声は先ず性差で人を判断しているらしい。彼女の相談を受けるときはやはりその辺に気を付けねばならないだろう。
と、いけないいけない。
「このLucidってヤツ、手強いよ!」
アリア、そんなに褒めないで欲しい。図に乗ってしまう。
「仕方ない、カタルシスエフェクトのリミットを解除するから、なんとか踏ん張って、二人とも!」
え、なにそれ。
アリア、私それ聞いてない。
そんなの。
絶対、面白いじゃないか。
Lucid兄貴姉貴編、もうちょっとだけ続くんじゃ