【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】   作:佐渡ヶシマシマ

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Another:Ⅶ  ENO ytiralugniS

「お前ら、どこほっつき歩いてたんだ! 特に式島! お前がいなかったせいで楽士とμに逃げられちまったんだぞ! 部長失格! 俺と交代!」

 

 帰宅部に戻るなり鼓太郎に滅茶苦茶怒鳴られる。

 そういえば、あちらの時は鼓太郎に出会わなかった。どこにいたんだろう、無事だったのだろうか。

 そんなことを考えて、言葉に窮してしまった私を、すかさず棹人が庇ってくれる。

 

「鼓太郎先輩、落ち着いてくださいよ。外せない用事がありそうだったので送り出したのは俺です。まさかμまでくるとは思ってませんでしたし、それに俺は足のせいで間に合わなかったですし」

 ……つい最近、同じような光景を見た気がする。気のせいか?

 

「じゃあお前が悪いんじゃねえか! セキニン取れよ、ああ!?」

「いや面目ない……しかし鼓太郎先輩、部長に交代しろなんて言えるほど、活躍したんですか? 俺たち二人抜けただけで、帰宅部の頼りになる大先輩である鼓太郎先輩が何の戦果も得られなかったなんてこと、ないですよね?」

 答えに窮する鼓太郎。

 どうやら勝負はついたみたいだ。

 

 

 

 それより私には気になることがある。

 

 部内の空気が悪い。悪いなんてもんじゃない、最悪だ。

 

 

 どうやら、新手の楽士二人の存在がみんなの気分を落ち込ませているらしい。

 まずはLucid。カタルシスエフェクトのリミットを外し、限界を超えた力を出すが負荷の大きい裏技、オーバードーズ。これまで一対多でなんとか拮抗できていた楽士に対して二対三で勝負ができたことを差し引いても、そのLucidという楽士は彩声と美笛を容易くあしらったという。

 

 ――なんだか、申し訳ない。透明だからわからなかったかもしれないが、結構必死だったと言ってあげたい。絶対に言えないけど。

 正直あのオーバードーズというのは脅威だった。その分、負荷があるという二人の身体や心の方が心配になる。

 あとでそれとなく話を聞いて、二人の状態を確かめておかねば。

 

 だが、私にとって耳を疑ったのは、笙悟や琴乃さんの話だった。

 

「にしても、アリアをメビウスの新たな女神に、か……」

 

 曰く、韋駄天という楽士は帰宅部を帰らせてもいいという考えを持っている。

 曰く、しかしそのためにメビウスを安定させるべくアリアを狙っている。

 曰く、アリアがμをメタバーセスに連れ帰ればどのみちメビウスは終わる。

 だからこそ、楽士を倒すのは看過するがμにだけは絶対に会わせない、と。

 

 状況と、韋駄天の言っていることは理解した。同時に、部内の空気が最悪で、同時に琵琶坂先輩がひどく生き生きした表情を浮かべているのはそういうことか。

 

 だが、しかし。どうもそれだけではないように見える。

 

「あの、韋駄天って楽士はすごく強かった……。正直、いまのアタシたちじゃ、手が出せないよ……」

 普段活発なアリアでさえ、そう零す。

 どうやら、笙悟、琴乃さん、鼓太郎、鍵介の四人が韋駄天と交戦したらしい。

 結果は、惨敗。鎧袖一触という風だったらしい。

 

 しかも、全員ダメージが残らない程度にしかやられていなかったという。笙悟は連続で攻撃を受けて倒れたが、そのどれもが急所を外されていた、と。

 手加減されていた、ということだ。

 

 私も、言葉を失う。

 帰宅部の皆は頼りになる。戦いの中でも、個人的な交友関係の中でも、頼りにしている。そんな彼らがここまで悲痛な面持ちになる程の実力者。

 

 私は、悔しかった。これは私が部長だからではなく、心の底からそう思った。

 

 楽士の武器は、カタルシスエフェクトとはまた異なるものだ。

 デジヘッドのような漏れ出した欲望の力を、μが収束させて具体的な形にしたもの。名を借りるなら『エゴ・エフェクト』とでも言えばいいのか。

 そのせいか、帰宅部として戦っている時とはまた違う感覚に支配されるのだ。

 

 カタルシスエフェクトは、自分の心と欲望が一致したように、視界が冴え、自分のやるべきことが明瞭に感じられる。

 対して楽士の武器は、際限なく自分の感情と衝動が迸り、欲望に呼応するような圧倒的な力が齎す全能感が襲う。

 

 だからこそ、後者に溺れれば危険だ、ということもわかる。今回私は初めてそれを経験したがゆえに翻弄されたとも言い訳ができるが、しかし。

 もう少し私があの韋駄天、という楽士を制御できていたなら。冷静に観察できていたなら。

 そう思わずにはいられない。

 

 

 

「もう、皆さんなに落ち込んでるんですか? だらしないですねぇ」

 

 そんな、重々しい空気を振り払ったのは、奥のソファから立ち上がった鍵介だった。

「け、鍵介くん、だ、大丈夫ですか?」

 鈴奈ちゃんの心配そうな声に、涼し気に応える鍵介。

 というか、なんだろう。なんだかちょっと様子がおかしいというか。

 

「奴は確かに強かったですけど、僕らだってどんどん力をつけてるじゃないですか。それに、奴に会わずともμを見つけて、アリアに話をしてもらえばいいんですよ。そもそも、楽士がどこまで本当のことを話しているかだって疑わしいんです。あんまりくよくよしてたら、それこそ思うつぼですよ」

 すらすらと言葉を続ける。

 余裕のある発言は確かに的を射ていて、部内の落ち込んだ空気が少し持ち直した。

 

「そう、だな。囮作戦には効果があったわけだし、今はそれを素直に喜ぶとするか。また折を見てやればいい」

 

 笙悟のその言葉で場は落ち着いた。 

 だが、今日はいろいろと起こりすぎたため一度解散し、少し時間を置いてまた改めて図書館に向かう、ということになる。私としても助かるが、しかし。

 

 これから考えていかなければならないことは多い。

 今回の一件で、大きな壁にぶつかったとき、帰宅部が予想以上に脆く罅が入りかねないことが分かった。鍵介の言葉が無ければ萎れてしまってもおかしくない。これは、今後の課題になるだろう。

 そして、その萎れる原因となりかねない高い壁。その存在が明確に現れてしまっている。

 

 楽士、韋駄天。

 これから私も楽士として活動するにあたって、奴の事はより一層注視しなければならない。

 

 ひとまずは、部内の人間関係の改善が急務だろう。

 これまで個人主義的だったのであろう楽士が、帰宅部という明確な敵を相手に結束を始めている。おそらく中心となるのは、あの韋駄天という楽士。

 それならばこちらも緩い連帯ではなく、固い結束を作らなくては勝負にならない。

 

 帰宅部、楽士、両方を知り、どちらにつくかを選択するためには、選択の瞬間になるまで両方が存在していなくては意味がないんだ。

 

「思いつめてるみたいですね、部長」

 緩く解散しはじめた中で、私に声を掛けてきたのは鍵介だった。

 なんだか先ほど少し様子がおかしかったが、大丈夫なのだろうか。それを問うと彼は余裕そうに笑い、むしろ気分がいいと語る。

 ……自信、充足感、勇気。そういう感情を読み取れる。

 楽士の時のカギP、それに近い空気。だが、それよりは幾分か前向きだ。

 

「あんまり背負い込みすぎないでください。鼓太郎先輩はああいってましたけど、もし困ったときは僕らにも頼ってくださいよ」

 

 爽やかな雰囲気で、彼は立ち去る。

「鍵介のヤツ、急にどうしちゃったの? you、何か知らない?」

 アリアはそう言ってくるが、当然私にも心当たりはない。

「まあでも、いっつもウジウジ煮え切らなーいかんじに比べたら、ハキハキしていい感じ! アタシはいいと思うけどなー」

 

 私は、そうは思わない。

 なんだか、危ない気がする。

 

 ……これからの課題のこともある。

 少し、鍵介の様子を探ってみることにしよう。

 

 実験のようで罪悪感を感じないではない。

 けど、心配なのは本心だ。

 

 何より、帰宅部のこれからのためにも、私がより『部長(わたし)』に近づくためにも。

 鍵介には、協力してもらおう。彼が言った通り、手を貸してもらうつもりで。

 




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