【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】   作:佐渡ヶシマシマ

24 / 69
Another:Ⅸ 追憶

「粗品ですが、こちらを」

 

 韋駄天の渡してきた、簡素なパッケージの小箱。その中に入っていたのは、ハンカチだった。

 肌触りがよくて、柔らかいタオルハンカチの二枚セット。どちらも白地のシンプルなものだけど、縁取りの色で分かれている。青い縁取りに燕子花の刺繍のもの。それから、薄いピンクの縁取りに、サイネリアの刺繍が入ったもの。

 

 思わず、言葉を失った。

 

「あ、ありがとう。――とても、嬉しい」

 

 そう、口にするのに時間がかかるくらいには、驚いてしまって。

 

「おやおやぁ? 韋駄天、もしや見かけによらずこういうのは得意なのかい?」

「はははstorkさん冗談はよしてください、顔蹴っ飛ばされたいのなら別ですが」

「君のそれは洒落にならないよねぇ!? そんなに怒る!?」

「人の誕生日会なのに騒がしすぎるのよ、黙りなさいstork!」

「え、怒られるの僕だけ!?」

 

 漫才みたいなやり取りのさなかで、骸骨の透明人間なのに紅茶を飲んでるLucid。

 

 とても、にぎやかな誕生日だ。

 あの日以来、ここまで騒がしいのは初めてかもしれない。

 

 だから、本当はここで帰ってもいい。そう言ってもよかったのに、つい、言い出すのが遅れて。

 

 蝋燭を、見て。

 しまった。

 

「梔子ちゃん!? 大丈夫!?」

「クソ、過呼吸か!」

「Lucid! 君も手を貸してくれ!」

 

 

 □ □ □

 

 

「姉さん、それどうしたの?」

 

 ある日、部屋にいる姉さんが嬉しそうに持っていた箱。その中には、かわいらしいハンカチが入っていた。私に訊かれると、それを待っていたかのように姉さんは話し出す。

「私の誕生日に、ってくれたの! かわいいよね!」

 名前を出さずとも、誰の事かはすぐにわかった。

 

 家は近かったけど、あんまり喋ったことのない、姉さんのクラスメイト。

 ある日父さんが紹介してくれた。すごい頑張っているから、応援したいと思ったって。

 私も姉さんから何度も聞いてた。走るのがものすごく速いクラスメイトがいるって。

 

 私にとっては、よく知らない人でしかなかった。

 でも、度々顔を合わせていくうちに、警戒心はすぐになくなった。尊敬と憧れが、代わりに私の中に芽吹いていった。

 勉強も、運動も、毎日びっくりするぐらいに時間をかけている。

 でも、私や姉さんが遊びに行くと、いつも「わかった」と言って、付き合ってくれる。

 

 トランプとか心理戦はやたら強いのに、私や姉さんの出すクイズは全然だめで、いつもしかめっ面をして考え込む。それが、なんだか意外で。姉さんと二人で、ある時は母さんも交えて三人で、新しい問題を考えた。そしてよく、父さんを実験台にした。今では懐かしい思い出だ。

 

 彼と、姉さんと、私。三人で遊んでいる時が、一番楽しかった。

 姉さんと彼が高校生になって、私が中学生になっても、その関係は続いた。

 

 私にとって、彼は兄のようなものだった。

 優しくて、頼りになる。変なところで不器用な兄のような。

 

 だから、そんな彼が姉にだけプレゼントをしたのが、少し羨ましくて。私は柄にもなく彼に言ったのだ。姉さんにだけずるい、と。

 

「誕生日プレゼントなんだから当たり前だろ」

 と。淡々と言われてぐうの音も出なかった。でも、彼の誕生日に贈ったスニーカーは、二人で選んだのに。けどそれは秘密にしてたから言えなくて。どこか、胸の奥に靄がかかったような気がして。

 

 でも、そんな私に呆れたような溜息をつきながら。彼は言った。

 

「――じゃあ、次の誕生日プレゼントは決まりだな」

「姉さんみたいに、かわいいのにしてね」

「期待はするなよ」

 

 そう言って、彼は、ほんの僅かに微笑んだ。

 

 

 けど。

 

 

 その約束は、果たされなかった。

 

 

 

 □ □ □

 

 

 

「今日はありがとう、お陰で楽しい時間を過ごすことができた」

 

 私が倒れたことで誕生日会なんて空気じゃなくなった。最後まで残ったのは、Lucidと韋駄天。

 心配するμを窘めながらも、楽しかったのならばよかったと頷くLucid。彼、なのか彼女、なのかはわからないが、とにかく私と韋駄天とを交互に見ると、そのままμを連れて去っていった。

 

 無口だけど、時折予想だにしないことをする楽士。

 まだ信用してるわけじゃないけど、でも嫌な感じはしない。

 

 空気を読んだのかはわからないけど、でも先に席を外してくれたのは有難いと思った。

 

「……では、自分もこれで」

「待って」

 

 Lucidに続いて足早にその場からは離れようとする韋駄天を呼び止める。

 まだ、聞きたいことがあった。

 

 振り返るのっぺりとしたフルフェイスヘルメット。黒い光沢の中に、自分が映る。

 どんな表情をしているんだろう。興奮か、それとも困惑か。今の自分にはわからない。

 ただ、折角収まった過呼吸がぶり返しそうになるほどに、乾いた喉が張り付くほど緊張していた。自分の口から、喋るわけでもないのに。

 

「どうして、誕生日プレゼントにハンカチを選んだの?」

 

 ハンカチは「手布(てぎれ)」が『手切れ』を連想する、なんて言われもする。正直私はそんな言葉遊びを気にするほどじゃないが、質問としてはおかしくはないだろう。

 もし。もし。彼なら。

 

「ああいえ、その、お恥ずかしながら友人に助力を乞いまして。食べ物は好みが分かれる、身に着けるものは流石に重すぎる、ならハンカチくらいがちょうどいいだろう、と」

 

 返ってきたのは、当たり障りのないものだった。

 そうだ。そんなわけない。

 

 彼は、強い人だ。

 メビウスに助けを求めるなんてこと、ないだろう。

 

 

「もしや、お気に召しませんでしたか? そうでしたら、適当に処分していただいても」

 焦ったような動き。正面に電光掲示板みたいに浮かびあがる顔文字。

 まるで、おどけたような動き。そうだ。目の前の人は、彼ではないんだ。

「ううん、そういうわけじゃないんだ。ありがとう、使わせてもらう」

 そう言うと、韋駄天はほっとしたように胸を撫でおろした。

 

「――友人にも、うまくいったと伝えておきます」

「うん。そうして」

 

 

 

 ……そう。彼なわけ、ないんだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。