【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】   作:佐渡ヶシマシマ

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Another:Ⅹ Singularity TWO

「え……!? だ、誰……!?」

 

 少年ドールの初顔合わせ。反応はいまいちだ。

 驚きというよりは、彼が普段から抱いているのだろう他人への極度の警戒心が勝っている。

 ついさっき戦った時の彼の様子を観察していると、致し方ないとは思うのだが。

 

 そんなこんなで二度目の待ち伏せ、楽士として二度目の招集と相成った。しかし、辺りを見回してみても韋駄天の姿は見えない。

 重役だという話は、storkやスイートPの話から理解している。だが自分が楽士として活動する機会はそれなりに限られている以上、何をしているのかわからないというのは困る。

 

 手の内が見えないのは、何よりも警戒すべき事案だから。

 

 しかし、韋駄天がいないだけで随分と散々な雰囲気だ。

 storkが変態扱いしたことで少年ドールは半泣き半ギレ。当然変態のくくりに入れられたスイートPも不愉快そうだし、憤りをぶつけられたstorkも監視じみた視線を向けていた韋駄天がいないためか前回にもましてヘラヘラしている。

 韋駄天なしでは、こんなもの。逆説的に言えば、奴の影響力の強さと同時にそれがない楽士たちの連帯感の低さを如実に表している。

 

 各個撃破という帰宅部の方針が間違っていないという安心はある。しかし、こうなると余計に韋駄天の事が気にかかるのも事実だ。

 奴は今どこで、何をしている?

 

 なぜここに呼ばれたのか、それをスイートPが少年ドールに説明し終わるのとほぼ同時に、ソーンがμを連れて現れる。前回も見た光景だ。

 ソーンの口から語られるのも前回とほぼ同じ。帰宅部が温泉でデジヘッド狩りをするらしい。前回同様ラガードを再洗脳し、あわよくば帰宅部を捕獲、ないし洗脳してこいとのこと。

 

 しかし、そのメンバーの中に少年ドールは含まれていなかった。

 

「どういうこと? ドールちゃんには仕事させないのかしら?」

 スイートPの発言にソーンはゆっくりと首を振る。

「最初はそのつもりだったけれど……韋駄天が少年ドールの領域に何かを発見したらしいわ」

 

 そこで、奴の名前が出るのか。

 しかし妙だ、図書館にはつい最近私も行った。けれど、そこで何か特別異常なものを見つけた覚えはない。楽士として過ごすことで見つけられた何かなのか、或いは韋駄天だからこそ気付いたものなのか。

 恐らく、後者なのだろう。少年ドールはソーンのその発言に対して酷く怯えている。

 自分のテリトリーに自分の関知しないものが存在することを、彼はひどく恐れる。帰宅部として戦った時もそうだった。用意した本が効かない琵琶坂先輩に対する警戒、人形化を防ぐアリアへの憤り、自ら監禁を抜け出し仲間と合流した棹人への恐怖。今の彼の感情もそれらに近い。

 

「どうやら、その様子だと自覚がないようね。ともかく、今回はあなた達だけで行ってもらうわ」

 ともかく、そういう事らしい。

 だがやっぱりスイートPは不満げで、温泉のことならstorkにやらせろと言わんばかりだが、またμが現実をチラつかせたことで大人しくなる。やはり、現実は怖いらしい。

 

「ワァ~~~~~オ! 勝手知ったる他人の風呂! このstorkにお任せあれ!」

 

 やっぱり最低だな、こいつ。

 彩声に突き出して、本当に目でも抉ってもらおうか。

 

 

 ××× ××× ××× ×××

 

 

 温泉に向かったが、帰宅部の皆と遭遇することはない。

 

 というか、屋台通りでは確か美笛ちゃんと鼓太郎がいたはずだ。けど、二人の姿がない。偶然合流しなかっただけならいいんだが……。

 それに、棹人もこの辺に居たはず。けど、私が抜け出したせいで別行動をとっているのかもしれない。可能性としては鳴子ちゃんと鈴奈ちゃんペアだろうか。カタルシスエフェクトに目覚めたての二人を援護するために動いている。うん、それが一番彼らしい。

 だが……一人の時に、見つけてしまったらどうしよう。

 

「おっかしいわねえ、帰宅部の連中、一人もいないじゃない」

 と、思索の最中スイートPが呟く。同じことを思った、と頷く。するとstorkが自信満々に名乗りを上げる。帰宅部が潜伏している場所など、すぐにわかると。

 

「女湯だ! 女湯以外ありえない!」

 

 無言で銃を向けた。

 

 流石にそれは焦ったのか、彼は早口で喋り出す。

 自分が来たことを知った帰宅部が、事前に待ち構えるならそこしかない。前回同様戦力を分散させているとしたら、恐らく複数ある浴場其々で待ち構えている公算が高い。

 そして、風呂に入るには脱衣所を経由しなければならない。つまり、入り口が一つである以上逃げ場がない。ゆえに前回のように取り逃がす心配も少ない。

 よって女湯を捜索するのは理にかなった発想だ、もしいなければ別の場所を探せばいい、と。

 

 変態のくせにこういう時は口が回る。

 というか、言葉の端々から地頭も頭の回転も良い人間なことは薄々察しがついていた。だからこそお道化と行き過ぎた性癖への素直ささえなければ質が悪いだろうとは思っていた。

 あまり、追い詰めすぎない方がいいかもしれない。

 

 銃を向けたことを謝罪しつつも、理解を示したことでまた同類扱いしてきたので足は踏んでおいた。

 ……が、こうなった以上他に手もない。

 スイートPと二人で肩を竦めながら、storkの先導で女湯に向かうことになったのだった。

 

 

 彼が案内したのは、裏路地。

 むっとする温泉の熱気と薄暗い室内照明でただでさえ妙な雰囲気を出すこの施設の中でも、特にいかがわしい空気が漂う場所。

 どうやら施設の半ばバックヤードのような部分でもあり、人目を忍んで逢瀬を行う生徒や人には聞かせられない密談を行う者たちの屯場になっているのだという。

 治安は悪いが、同時にデジヘッドとしては優秀なのだという。

「甘い蜜を吸っている人間ほど、この世界への依存度は高いからねぇ」

 

 しかし、彼の言葉とは裏腹にここに居る人間の大半がラガードにされており、帰宅部がここを掃討したのだろうことが伺える。

 みんなのことだし意外でもない。特に鼓太郎や彩声は張り切るだろう。

 

 彼の言う通り、元デジヘッドの彼らは中々に手ごたえがある。強い欲望はそれをそれを隠すための殻も厚い、ということなのだろうか。

 そうこうしながらやっと辿り着いたのは、storkしか知らない隠し通路。

 各温泉の更衣室、宿泊の個室の天井裏などに繋がっているらしい。

「最悪」

 スイートPが吐き捨てる。同感だ。

「でも君だって、その格好で女湯に入ってるじゃないか。僕のことを言えた義理かい?」

 ……おや?

「だからいつも人のいない時間を選んで、優待券使って、人目を気にしてたんでしょうが!」

「でもあわよくば……なんて思ってただろう? ここには変態しかいないんだ、自分に素直にうちあけたまあばばばばばば!!」

 とりあえず撃っといた。

 

 

 とりあえず、storkのチョイスで大浴場へと向かう、その最中で。

 

 

「おやおや、大当たりだ」

 

 聞き覚えのある声がした。

 

「だ、誰よ!?」

 スイートPの言葉で廊下の陰から姿を現すその姿。

 前を止めていない制服。ワイシャツと共に手首まで捲られ、左腕にはリストバンド。

 シャツの首元のボタンを外し、その下から覗くのは黒く張り付くタイプのインナー。

 指定のスラックスに、身軽そうな黒地に黄色いラインのスニーカー。

 

「吉志舞高校二年、斑鳩棹人。帰宅部所属の、ファンボーイですよ」

 サインくれません? とポケットから小さな色紙を取り出し、にこやかにこちらに振った。

 ――わかる。目が笑ってない。こちらの様子を、じっと見ている。

 

「そ、そんな、この場所がバレるなんて……」

 一方storkは、目に見えて動揺している。表情は仮面のせいで見えないが、声が明らかに震えていた。

 

「お前の気配が伝わった。お前の目的も予想ができた。ついでに仕掛けを見つけられた。ならやることは一つだろうに」

 棹人は、怒っている。いや、違う。

 嫌っている。storkを嫌っている。

 激しい怒り。あれを他の言葉で言いかえるのだとしたら、そう。

 

 

 憎悪。

 

 

「『天網恢恢疎にして漏らさず』って、知ってます?」

 構える。アリアがいない状態だというのに、彼は戦うつもりでいた。

 

「う、うぐ、ぼ、僕は、僕は……! うわあああ!」

 storkは止める間もなく武器を構えて、棹人に向かっていく。このままではまずい。

「Lucidちゃん、下がってて。とりあえずあいつを押さえて、storkの馬鹿を止めるわ」

 踏み出そうとした私に、スイートPが言う。しかしその中には、言外の意味があるとすぐに察した。

 ――μを守れと。

 

 棹人に仕込み杖を振るうstork。鞭のようにしなるコウノトリの柄を持つそれが棹人を掠る度、ヂ、と皮膚を削ぐいやな音がする。しかし、彼は一切その攻撃に目をくれず、スイートPへと攻撃を繰り出した。

 矢を番えた瞬間に飛び込み、踵落としで武器を押さえつけ三連続の蹴り技から、鉄山靠。一切の容赦はなく、そして倒れないとみれば距離を取り、息を整え、また同じ技を狙う。

 機械的だけど、読めない。淡々と、まるでゲームの敵を処理するようなブレなさと迷いのなさ。

 

 加勢、するべきなのだろう。

 だが目が離せない。あれは、吸収しなくてはならないものだと、本能が訴えてくる。

 叫んで飛び出そうとするμを制しながら、けど私は動けない。動かない。

 

「く、ゥッ!」

 ダメージに耐え、そして棹人が息を整えるのに合わせてスイートPが二つの矢を放つ。そして、躱しきれずに肩に深々と突き刺さる鏃。彼が膝を突くのと、スイートPが倒れるのは、同時だった。

 

「スイートP!!」

 ついに、私の手の中から抜け出して悲鳴を上げるμ。それでようやく錯乱から戻ったstorkは、遅れながらも倒れた彼女を庇うようにして棹人に向き直った。

 

 同時に。 彼の姿が消えた。

 

 危ない。

 咄嗟にそう叫ぶのと、storkの横顔が蹴り飛ばされるのは同時。

 

 そこから先の出来事は、もう、ただ一文で説明できる。

 肩に刺さった矢を纏めて引き抜いた棹人は、storkの攻撃を躱さずに、storkが倒れるまで蹴り続けた。

 

 吹き飛ばされれば足の鎧が推進器のように爆ぜ、瞬く間に近づいた。

 防御の障壁を張れば、溜めた後ろ蹴りで打ち砕いた。

 傷ついても、止まらなかった。

 

 カタルシスエフェクトは肉体にダメージを与えない。だから矢が刺さるのも、精神を戦わせる中での一幕。痛覚は感じるが、それまででしかない。

 しかし、本来ならば痛みで人は止まるものだ。止まるはずなのだ。

 

「こいつ、何者なのよ……!?」

 立ち上がり、肩で息をするスイートP。

 ボコボコにされたstorkも、這いずってこちらに戻ってくる。そのマスクからは鼻血が垂れているが、いつものこいつが垂らしているものとは全く意味が違うだろう。

 とはいえ、棹人も相当無茶をしたらしい。左右に揺れながらも構えを解かずにいたが、ついに不自然に膝が落ちて、前のめりに倒れ込む。

 

 倒すなら、今のうち。

 しかし。

 

「きゃあああああああああ!」

「耳があああああああああ!」

 この空気を切り裂く、とぼけたやり取り。そののち聞こえる、木材が剥がれる音。

 

「うわっ、これ隠し通路!? 鈴奈ちゃん、アリア、行ってみよう!」

 

 遠くから声がする。聞きなれた、仲間たちの声だ。

 

「し、潮時だ、Lucid、逃げよう」

 鼻の詰まったようなふがふが声を出しながら、それでも撤退を勧めるstork。

 確かに、これ以上はどうしようもない。

 

 storkに肩を貸しながら、私は安心した。

 このまま戦い続けなくてよかったと。

 だけど同時に、心の奥で、聞こえたのだ。

 

 

 彼と戦えたら、もっと彼を知れたんじゃないか。

 だとしたら、面白かったのに、と。

 

 

 

 ××× ××× ××× ×××

 

 

「と、いうわけなんだ……面目ない」

 

 控室に戻った私たちは、μから治療を受け、ソーンに事のあらましを報告した。

 てっきり機嫌を損ねるか、と思っていたのだが、彼女の反応はやけにあっさりとしたものだった。

 

「そう、それは災難だったわね」

 彼女はただそれだけで片付けてしまう。流石にμもショックだったのか、少し口数が少ない。そして、スイートPも彼女の反応を訝し気に思ったのだろう、自ら質問する。

 

「災難、って……それだけ?」

「何か不満? なら、今回の失態に懲罰を用意すればいいかしら?」

「そ、そうじゃないわよ! ただその当然そうな反応が気になっただけよ!」

 藪を突いて蛇を出しかけ大声になっている。だが、それに対してもソーンは淡々としていた。

 

「斑鳩棹人は、帰宅部の部長同等に警戒する必要のある人物よ」

「そんな話、初耳よ?!」

 スイートPの驚愕ももっともだ。私も、ソーンがそこまで彼を注視していたなど。

「まだ伝える必要はない、と思っていただけ」

 

 嘘だ。

 彼女は知っていた。だが、あえて黙っていた。

 わかりづらいが、きっとそうだ。彼女の口振りからわかる。

 

 だが、これ以上掘り下げたところで意味はないだろう。口を閉ざされるか、警戒されるか。どちらにせよ旨味は少ない。

 

「必要な時に連絡するわ、また頼むわね、Lucid」

 戦わなかった私への追及もないままに、ソーンはそう語る。

 私の知らない場所で、何かが起きようとしている。

 

 胸騒ぎが、収まらない。

 

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