【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】 作:佐渡ヶシマシマ
「部長、どこ行ってたんですか! 探しましたよ!」
私が戻ってきて一番に出迎えるのは、やはり鼓太郎かと思った。
けど、待っていたのは鍵介だった。
彼に二、三謝罪と言い訳をしつつ、近くにいた琴乃さんに目を向けると、彼女は首を振った。
「楽士は取り逃がしちゃったわ、今回も失敗ね」
私は頭を下げた。自分がいない間に、すまないと。
本当に、毎度皆には迷惑をかけている。
正直二重生活である以上こういうことは今後もあるだろう。
だが、それを選んだのは私だ。せめて必要以上の被害が出ない様、舵を取れるようにならねば。
この謝罪は、その為の覚悟のつもりだった。
「いいんですよ、謝らないでください」
頭を下げた私に、そう言ったのは外でもない、棹人。
前回鍵介が寝ていたソファに、今度は彼が横になっていた。だが私の姿を見つけた彼は、そのソファから立ち上がる。
「ちょ、棹人くん! 無理しちゃダメだってば!」
鳴子の制止を逆に笑みで留め、言葉を続ける。
「今回も部長を送り出したのは俺です。前回の一件があって、今度は部長に責任行くような真似して足引っ張らないようにって先走って、それでこのざまなんですから」
はは、と。自嘲的な笑顔が、痛々しい。また沈みかけた部室の空気を察したのか、口火を切ったのは美笛ちゃんだった。
「で、でも棹人先輩すごいんですよ! 一人で三人の楽士を追い払ったんですから! 私たちはアリアにオーバードーズ? してもらっても、駄目だったのに……」
どうにかフォローをしようとして、結果しりすぼみになってしまう。前回の戦いで敗れたことを未だに気にしているのだろう。
見ていて、胸がずきりとする。
彼女の様子に何か言葉を掛けねばと数秒の迷いよりも先に、笙悟が美笛ちゃんに同調した。
「そ、そうだな。無茶は褒められた事じゃないが……ともかく、こいつが楽士に対抗してくれたのは事実だ。連中と少数の面子でぶつかっても勝ち目はある。それを証明してくれたんだ、無駄じゃなかったよ」
前回のリベンジも果たしてくれたんだしな、と言うと美笛は「そうです」と繰り返し頷く。
リベンジ。その言葉で、空気は幾分か改善した。
それだけ敗北、という苦い結果は予想以上に皆の棘になっていたんだろう。
正直な話、勝ったのは棹人であって帰宅部じゃない。
あまりいいニュース、ってわけでもないのだが、前回に比べればよほどいい傾向だ。
しかし。今回の事で一層理解が深まった。
彼は自己犠牲がすぎるきらいがある。
今回の一件でも、事前に待ち構える余裕があるのならアリアを呼んだりすることはできたはず。しかし彼はそれをしなかった。彼の足の事もあるから単純に間に合わなかっただけかもしれないが、だとしても保険はかけておくはず。
些か、軽率だ。
だがその理由が、前回の汚名を晴らすという意欲からではなく……本人が口にした、私を送り出したことに対しての帳尻合わせだとするなら。
自分一人でやらねばならない、と考えるのもうなずける。
自分は私のような人間に対して誰かを頼っていい、と言い。しかしながら自分はそうしない。
なんとも矛盾した話だ。
余裕があるとみて考え事をしていた私だが、すぐに鼓太郎が口を開く。
「楽士に対抗できるのはわかったけどよ、結局μの手掛かりはねぇ。シーパライソに行くしかねえぞ」
そうだ。今後の話をする必要もある。
限定開催のシーパライソのイベント。行くには遠いし待ち伏せで情報を集めようという琴乃の案は失敗に終わったことになる。琴乃さんも最初は嫌がっていたが、結局シーパライソに向かうことに同意した。
琴乃さんがどうしてそこまでシーパライソに向かうことに抵抗があるのか。嫌悪感、というよりは忌避感、というか、顔を出しづらいというような雰囲気を感じる。
今詮索するのは得策ではないが、後々折を見て質問する必要がある。そんな気がした。
……帰宅部が、僅かにだが纏まってきた。
だが、同時に問題もある。
もし私が楽士として戦う最中では、どうしても中心となる人物が欠けている。
笙悟は肝心なところで纏め役を引き受けてくれたり、うまい折衷案を見つけてくれたりするが、逆に言えばその肝心な時以外では一歩引いているところがある。琴乃さんも引っ張ってくれる力があるし信頼も厚いけれど、今回のような引っ張り方をする恐れもなくはない。
私だけを中心に据えるのは、危険だ。
だから。
「みんな、相談があるの」
今だ。このタイミングしかない。
「棹人を、帰宅部の副部長にしたい」
美笛ちゃんは歓迎した。鈴奈ちゃんもそれに同調した。
維弦は意見をしなかった。琵琶坂先輩は今回の貢献を理由に妥当とした。
琴乃さんは頷いた。彩声は私が言うのなら、と理解を示してくれた。
鍵介は自分が選ばれないことを残念がったが不満は言わなかった。鼓太郎はキレた。
鳴子はそうなるよね、とわかった風だった。
笙悟は、鼓太郎を宥めつつ決を採る。
結局、反対したのは鼓太郎だけ。
「――未熟な俺で、本当によろしいのでしたら」
彼は、そんな風に言って引き受けてくれた。
彼の少し行き過ぎている自己犠牲を押さえるために、私が指示を出せる。相談を真っ先に受けられる。
一個上の立場として中心に置き、彼が周りに頼れる状況を作る。彼ばかりが頼られすぎないように、これからより一層帰宅部の皆の様子は見なくてはいけないが、それはある意味願ったりかなったりだ。
それに、私がいないときの指示系統も彼なら安心して任せられる。
普段の彼の態度。そして、今回の戦果からいっても、申し分ない。
彼の事を知るにも。帰宅部の内部を強化するにも。私の不在を埋めるにも。
これで、少しはうまくいくはずだ。