【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】 作:佐渡ヶシマシマ
アタシと律は、棹人に助けてもらってる。
律はその縁からかわからないけど、棹人のことが気になってるみたい。
その気持ちはわかる。アタシからしても棹人はかなりのイケメンなんだ。帰宅部女子の中でも棹人は大人気。
まあ、彩声はそういうのとは違うっていうか、むしろ女子から人気だからこそ棹人を警戒してるみたいだけど――。
とにかく。
ルックスもそうだけど、何より気遣いができるっていうのが棹人が高評価される所以だ。
笙悟が女の子のスマホをダメにしちゃってバイトをしてる時には、偶然通りがかった棹人が話をささっと誘導して助け舟を出してあげてたし。
琴乃のストーカー被害の時には、事情を聞かずにボディーガードを買って出てくれた。ちなみに、琴乃の話だと合コンでもだいぶモテたんだって。棹人は「今はそれどころじゃない」ってクールだったけど。
外にも、飢えて野性に戻ろうとしてた美笛の説得と餌付けに協力したり、鈴奈とは読書家同士気が合っていて、よく相談を受けているんだとか。
肝チビッチョのヒーロー活動にも嫌な顔せず話を合わせて付き合ってやってたり、面倒見もいい。
特に、トラブルメーカーな鳴子に目をかけてるみたいで、鳴子が最近大人しいのはどうやら棹人に話をしてもらったかららしい。棹人の話になると早口になるので、なにかあるのはバレバレだ。
カタルシスエフェクトに目覚めて以降の活躍もそりゃもうスゴい。
storkをやっつけ、少年ドールの領域ではカタルシスエフェクトが万全じゃない状態でも脱出して、帰宅部の皆を救出するために動き回っていた。
少年ドールに、また群れないと何もできないみたいなこと言われたときの返答もそりゃ見事で。
「一人で何でもできる人間が、メビウスに来る必要あるんですか? 自分のできないことを他人に求めてたって説得力はないと思いますよ。というか、なんでもできるならとっととご自分で始末しに来たらどうです?」
いやー、見事だったねーあれは。
言葉で殴る、ってああいうことなんだなあって思ったよ。
戦っても強い。一人で楽士を相手にするし、何より連携もできる。
律とは特に息ぴったりで、デジヘッドをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。それに、図書館に居たヤバいやつも二人かがりでやっつけてみせた。
律が棹人を副部長に指名したのも頷ける。っていうかナイスアイディアだ。
アタシ個人としては、頼りがいのある部員がいて安心してるし、何よりあっちこっちで面白そうなフラグがバシバシ建ってることに興味津々だ。
特に、あんまり表情の読めない律もまた棹人のことを気にしてるっていうのもまたアタシの注目ポイント。あんな風に助けてくれた相手なわけだし、そりゃ気になるよねぇ。
今後にも要注目! って、カンジだった。
アトラクションの場所で、あんなことが起きるまでは。
― ― ― ― ― ―
永至がμを攻撃しようとしたところに、棹人が割って入ったあの時。
確かに棹人には傷がつけられた。
これまでアタシは、カタルシスエフェクトでは人は殺せないと言っていた。
でも、カタルシスエフェクトは人の心の爆発。その衝動が強い攻撃性を帯びていた場合は、相手の精神を深く傷つけてしまう。可能性としては考えていたけど、まさか本当にそんなことがあるなんて。
そして、棹人の傷。それに、その後の永至の行動。彩声も加わって、反目しかけた帰宅部の仲間。
律はそれを止めてくれた。けど、その心の中にあったのは、いつもの律じゃなかった。
永至に当たるすれすれに飛んだ銃弾。
昏い目。言葉の中に宿った明確な敵意。
もしあれが当たっていたら、棹人の脇腹みたいに、永至の顔が抉れてた。
多分。永至がやめなかったら、律は本当に撃ってた。
律は優しい。みんなのことを真剣に考えてる。
アタシが律に打ち明けられた現実の苦しみのことを考慮すれば、真面目な性格なのもわかる。
だからこそ信じられなかったんだ。律が、あれほどまでに刺々しい感情を放てるなんて。
――その後、エントランスまで戻ってきたみんなに、棹人が傷の痛みがある中で必死におどけて、どうにか取り持ったけど、その日から律はずっと心ここにあらずだった。
入院することになった棹人のことを気にしながらも、永至や彩声と話をして帰宅部を再びまとめるためにいろいろとコミュニケーションを取ってみてはいる。けど、話をしていた彩声には全部バレてたみたい。
「部長……今は私より、部長自身の事を労わってあげて」
彩声の言葉に、アタシも頷く。でも律は苦笑いを浮かべて首を振る。
「私は大丈夫」
ただ一言だけそう返すけど、そんなわけない。
彩声の言葉に見るからに動揺もしているし、ここ最近は常にあの時の判断を後悔してる。
流石にアタシも四六時中律に張り付いているわけじゃない。けど、アタシの見てないとこで、律がどんな思いをしているのかを想像できるくらいに、ここ最近の律はおかしかった。
「……ねぇ、部長」
俯きながら、彩声が問う。
「部長はさ、あいつのことをどう思ってるの?」
あいつ。彩声が言うのは、きっと棹人のことだ。
「私は」
言葉に窮する律。そりゃ、突然そんなことを訊かれたって急には言えないだろう。けど、律は少し迷ってから言葉にする。
「恩人で、副部長として帰宅部を支えてくれるくらい頼りになる。私にとって、彼は重要なんだ」
はっきりとした言葉。
彩声は、それを聞いて、躊躇いがちに言うのだった。
「なら、お見舞い。行くべき……じゃないかな」
― ― ― ― ― ―
既に鳴子や笙悟たちが顔を見に来ているとは聞いていた。
病室を開けたアタシたちを出迎えたのは、申し訳なさそうに頭を下げる棹人。
そして、ベッドを跨ぐテーブルの上には、山積みのノートに本の山。ノートパソコンまである。
「ちょちょーい!全然休んでないじゃーん!!」
「いや、手を動かしていないと落ち着かなくて」
アタシの突っ込みに笑いながら応える棹人。コンディションは本当に健康そのものといった感じで、様子が気になったのか、お見舞いに来たはずの律の様子を怪我人だった棹人の方が心配しだす始末。
なんというか、いつもの帰宅部の様相。アタシもすっかり気が抜けてしまった。
何をしていたのか尋ねると、またいつものように帰宅部の皆のために戦い方指南書みたいなやつを纏めたり、あとは資格を取るための勉強とか、興味のあった本とかを読んだりとか。
肝チビッチョや鍵介あたりに爪の垢を煎じて飲ませたい真面目っぷりだ。
とはいえ根を詰めすぎてまた倒れてもだめだから、きっちり休むんだよと釘を刺すと、息抜きはしてるんですよと言い返されてしまった。
「もー、youもなんとか言ってやってよー」
暖簾を押しているようなやりとりだったから、律に援護を頼んだが、律はどうにもうまく話ができないみたいだ。なんというか、もごもごしているっていうか。
ははーん。さては……律は、棹人の事が……。
この灰色のAIアリアちゃんの名推理が光ろうとしたところで、棹人がアタシに声を掛けてくる。
「おや、どしたん棹人?」
「少し、部長と二人で話がしたいんです。誰かが来ないか、見張っててもらえませんか?」
「ほほーう??」
これは急に面白いことになってきた。
アタシは鳴子と違って無理に居座ったり、聞き耳を立てたりなんて野暮なことはしない。あとで律にはそれとなく聞くが、顧問として部員たちの甘い時間を邪魔はできない。
「棹人――わかった。男ならバシっと決めちゃってね、OK!?」
「……?」
クールに退室して、言われた通り外の様子を警戒する。
簡易スキャン、異常なし! 中の二人のあまーい時間は、帰宅部顧問にしてポップでキュートなバーチャドールのアリアちゃんが守る!
しゅっしゅっ、とシャドーボクシングをしながら、アタシは心の中で律へエールを送るのだった。