【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】   作:佐渡ヶシマシマ

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あと一か月後ぐらいにモナークの家庭版が発売されるので(九月)初投稿です。
待たせして大変申し訳ございません! 今度はなんでもしますから!


Another:XⅣ 不協和音

 時間が経ち、そして何度も戦う事を重ねるにつれ、帰宅部の皆さんの実力は確かに上がってきている。楽士たちとの戦いには連戦連勝。

 待ち伏せ作戦で痛い目は見てるけど、でも帰宅部みんなが揃ったときには負けなしだ。

 

 ……そして今は、水族館でミレイって楽士と戦う事になった。いや、戦うって言ってもなぜか琴乃さんをライバル視して、アイドルの投票みたいな事をして美しさで勝負! って流れだ。正直ここまでの戦いも割とぶっ飛んでたけど、今回は特にぶっ飛んでるよな~。

 

 部長の律先輩と琴乃さんと僕は別行動。二人と覚醒したての維弦先輩、それに笙悟先輩は、水族館のどこかにいる有力な投票者を回る役割。残った僕たちは、副部長の棹人先輩と水族館の来場者に投票券を配りつつ、さりげなく琴乃先輩への投票をお願いする、って戦略。

 

 ほんと、陣頭指揮を執ってる律先輩はもちろん、棹人先輩はすごい。

 正直こっちにいる鼓太郎先輩や彩声先輩のかじ取りをどうするんだろうと心配だったけど、そこもうまかった。

 彩声先輩には鈴奈ちゃんや美笛ちゃんのボディーガードを任せておく。

 鼓太郎先輩には琵琶坂先輩を見張るという名目で働かせて、彩声先輩と関わらせずに動きを制限する。

 そして残る僕と鳴子先輩は戦闘要員とチケットの配布のメイン。あとは、襲ってくるデジヘッドの対処には琵琶坂先輩を前に出させて、自分の目の届く範囲から外さない。尤も、野良のデジヘッドと戦うのなんて一回かそこらだったけど。

 

 ――本当に、優秀だ。そこまで強いなら、メビウスに来る必要なんてなかっただろうに。

 思わずそう零した僕に、けど彼は苦笑交じりに答えた。

「俺だって現実じゃあひどいもんさ。ただ有能なだけなら、メビウスになんて来ずにやってこれてるよ」

 僕には、理解できない。

 才能があればきっと、普通とは違う素晴らしい人生が歩めるんじゃないのだろうか。

 僕は楽士になった時そうだった。才能のある楽士の時はもてはやされ、今は道行く人に見向きもされない。話しかけられるのは彼で、僕じゃない。

 

 

 帰宅部に入ってすぐの時は、僕も自分の秘めた才能が解放されたんじゃないかと思ったものだ。

 あの強大な楽士、韋駄天に立ち向かったとき。

 確かに自分の中に芽生えた今までにない感触。自分の殻を破るような、カタルシスエフェクトとしてアリアに調律してもらったときとはまた違うあの感覚。

 

 けど、あの時以降僕が再びそれを掴み取ることはできず。

 かつての自分のファンの目を覚まさせるために戦ってみても、あの時のようにはなれない。

 

 その間にも、彼は皆に認められ、副部長にまで上り詰めた。

 かといって偉そうにするわけでもなく、僕の罪滅ぼしにも手を貸してくれる。

 決して憎いとか、妬ましいとか、そんなことを思ってるわけじゃない。けど、羨ましいとは思う。

 

 カタルシスエフェクトでのダメージが、自分に傷をつけないという前提があったから、僕は先陣を切れる。戦える。でももし、そうじゃなかったら。

 誰かを庇うために自分の身が『本当に』傷つくことを厭わない。それが帰宅部の仲間であっても、僕には無理だ。楽士だったときの自分にも無理だろう。

 ――まして、僕らを襲う楽士のためになんて。

 それができるからこそ彼が選ばれたのだろうことは想像に難くない。

 

 僕にも、立ち向かえる勇気があったら。それを叶える、才能があったなら。

 

 

 そんな風に考え耽っていたところで、後ろから声を掛けられた。

「お疲れ」

 水族館の中を回って一通り投票券を配り終えたのとほぼ同時ぐらいに律先輩から連絡が来て、そろそろ結果発表が行われるというアナウンスが鳴る。

 エントランスから入ってすぐのロビーまで戻る道中の出来事だ、どうやら棹人先輩が全員に飲み物を渡して回っているらしい。まあ、彩声先輩には美笛ちゃんたちと自分で買ってくると言い出して、受け取ってもらえなかったようだけど。

 

 ……ホント、こういうところが不思議だ。

 律先輩もそうだけど、妙に下手に出るというか、偉ぶらない。

 ――あー、楽士の時の自分思い出しちゃった。

 たまにラジオの収録の音源聞き返して悶絶する。あの時の自分を剣ではっ倒したい。

 そのくらい虚勢を張っていないと、やっていけないというのも本当だったけど。

 

 飲み物を受け取り、口をつけながら軽く雑談する。

 

「どう思います、このイベント」

「琴乃さんの勝利は固いだろうね。ミレイさんは曲のセンスはすごいけど、本人には癖があるからな……」

 彼の物言いは確信に満ちたものだったが、だからこそ不思議だった。

「あれ、なんであの人のこと知ってるんですか?」

 そう言うと、彼は困ったように笑いながらこっそり話をしてきた。

「……実は、今もμの曲は聞いてるんだ。楽士についての情報も調べてる。メビウスから出たいのは間違いないが、彼女の歌う曲に罪があるわけじゃないし、楽士の人たちも尊敬できる点は多い。一番デカいのは趣味だから、だけど」

 意外な趣味だった。

 彼こそまさに、クラシックとか聞いていそうなイメージがあったんだけど……あ。

 

「先輩、ラフマニノフって知ってます?」

「まあ、名前だけはね。詳しく知ってるわけじゃないよ」

 いやでもそこもしっかり抑えてるんですか。マジか。

 

 本当に敵わない。

 

 どうして、彼はこの世界に来たのだろう。

 僕のようになんとなくの世渡りがうまいんじゃない、本当に視界が広く、様々な事ができる優秀な人だ。優秀だからこその悩み、というのもあるのだろうが、だとしてもきっとそれも彼なら難なく踏み越えていけそうなタフさを持っている。

 傷つき、肉を抉られ、その傷が塞がっていないのに。周りを慮ってお道化ることのできるような人が、そう簡単にμに救いを求めるとは、どうしても思えなかった。

 

 ――でも、もし。

 そんな彼でさえ抗いがたいような絶望が、現実に、社会に待ち構えているのだとしたら。

 僕は、本当に現実に帰って、後悔しないと言えるのだろうか?

 

 

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 その後当然のことながら勝負は琴乃さんの勝利。

 ちなみにたっくん、というまた新たな男の影が現れたので僕は終わった。

 

 その後しょうもない我儘で約束を反故にしたミレイをみんなでいつものように倒し、一応水槽に入れられていた琴乃さんの元カレ、らしき人は琴乃さん直々にはっ倒されていた。正直関係は気になったけど、深入りするのは野暮だとアリアに言われて考えを改めた。

 

 ――結局、μに関しての情報はなし。一度部室に戻って今後の事を相談することになる。

 

 棹人先輩は、帰り際に僅かに振り返ってシーパライソの神殿を見ていた。

 彼が傷ついてでも庇った、あの楽士のいた場所。

 

 何を思っていたのかは、わからない。

 けど戻ってきた彼の目つきが、鋭く強い光を帯びていたのは、覚えている。

 

 

 僕は。僕は、これから、どうすればよいのだろう。

 

 

 

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