【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】 作:佐渡ヶシマシマ
曲がり角。息を切らした琴乃と、アリアに、合流する。
「琴乃さん、アリア、何があったの?」
務めて冷静に、だが二人を慮るように。
「部長! この先に、韋駄天やLucidたち楽士がいるわ! それに、μも! 急いでみんなに知らせないと!」
「永至と琴乃で立ち向かったんだけど、全然歯が立たなくて……悔しいけど、みんなやyouの力が居るの、早くいかないと!」
焦り、疲れ。消耗はしているが命に別状はない。うまく、加減は出来ていたようだ。
すべて予定の通り。つつがなく、舞台は進行している。
私は緊迫した面持ちで二人を交互に見つめた後に指示を飛ばした。
「琴乃さんは、急いでみんなに連絡を。――アリア、ついてきて。私が足止めをする」
「い、いくら部長だとしても無茶よ、たった一人でなんて!」
私の言葉に動揺し、同時に必死になって止めてくれる琴乃さん。彼女の優しい言葉は、とても嬉しい。きっとそれは純粋な心配からだと伝わってくる。私自身の、そう信じたいという気持ちも多分にあるが。
しかしこれは必要な事なのだ。
「ここでμを逃すわけにはいかない。みんなと、現実に帰るためにも。アリアのためにも」
強く言ってから、少しだけ、声と表情を緩める。
「あんまり自信はないですけど、部長ですから」
……本心だ。私に自信なんてものはない。でも、私はもう、帰宅部の部長だから。
やれることはすべてやる。楽士として、みんなを欺いてでも、現実にみんなを帰して見せる。
アリアを見つめれば、どうやら私の考えが伝わったらしい。
「危なくなったら、絶対に逃げるようにする。それで、OK?」
「アリア!!」
半ば悲痛ともいえる声を上げる琴乃さん。だが、もう時間はない。
あとはお願いします、とだけ言い残して私は走る。
「また、私、守られてばっかり――」
そんな、琴乃先輩の呟きを、背に受けながら。
――――――――――――――――――
来た道を引き返せば、予定通りそこには韋駄天と、μ、それにミレイと梔子がいる。少年ドールに先に帰ってもらっていたのは、おそらくこの遭遇を予見させないためだろう。見事、韋駄天以外の三名は警戒と動揺をあらわにしている。作戦は成功した、と言っていいだろう。
「自分が引き受けます、撤退を」
そう。ここまでは、予定通り。
「ダメだよ韋駄天、一緒に行こう!」
μが焦って引き止める。彼女ならそうするだろうとは予想が着いた。とはいえ韋駄天なら上手く丸め込むだろう、と思っていた。
のだが。
「……私も残る」
梔子までもがそう言い出した。いや、それは予想していなかった。流石に楽士と二対一をする自信は私にはないし、そこまでは流石にもたない。
この回答は流石の棹人も想定していなかったのか、焦った声で指示を飛ばす。
「μの退避が最優先だ。殿を務めるなら自分が最も相応しい。冷静に判断を」
「楽士が一人でも連中に囚われても同じことだ、全員で片付けてしまえばいい」
二人の中で意見が食い違う。韋駄天の鶴の一声があればすっと指示に従ってくれるものだとばかり思っていた。特に梔子は、琵琶坂先輩の事以外ではクールで、良くも悪くも仲間意識はあれどここまで庇いだてするような印象はなかった。
――やはり。韋駄天、いや棹人と彼女には、ただならぬ関わりがあるような気がしてならない。
だがそれを踏まえたところで現状は変わらない。にらみ合いが続く中で、棹人らの押し問答を割ったのは意外な人物だった。
「何をグズグズしてんのよ!」
痺れを切らしたようにずかずかとやってきて、μの首根っこを引っ掴んだのは、ミレイだった。
これまでの彼女の事を考えれば我先にと逃げ出していてもおかしくなかったが……窮地で連帯を見せるタイプなのだろうか?
「そいつが時間を稼ぐっていってんだから、とっとと逃げるわよ! 折角の私の勝利に水を差すなって言ってるじゃない!」
そういうわけでもなかったようだ。
だが彼女のその味方を見捨てるような態度に梔子は不快感をあらわにする。
けれど。
「うるさいわね、だったらアンタは好きにすればいいじゃない。μ、あんたは願いを叶えたいんでしょ? だったらそいつの早く逃げろって願いを聞くのが筋じゃないの?」
その言葉に、μは頷く他なくなる。そして、ミレイがμを手元に置こうとする現状に、梔子も撤退をせざるを得なくなる。
計算高いのか、或いは保身という一点に関しては類まれない冴えを見せるのか。
どちらにせよ、まさかミレイに感謝する日が来るとは思ってもいなかった。
捨て台詞を残し、ミレイを戦闘に楽士たちとμが逃げていく。当然ポーズとして私はそちらを追いかけようとするが、それを遮るのは韋駄天だ。
途中のトラブルはあったものの、韋駄天と私の一対一が完成する。
「you、気を付けて……あいつ、ただの楽士じゃない……!」
アリアは警告する。だが、それは承知の上だ。
斑鳩棹人。韋駄天。
底の見えず、その内面の窺い知れないひと。
私が帰宅部の部長として、参考にした存在。
手加減はしない、という取り決めが事前に交わされた八百長。
けれど、帰宅部の仲間として肩を並べるうちには絶対に実現しなかった。
カタルシスエフェクトのぶつかり合い、という中ならば、少しはその内面に近づけるのかもしれない。
そう思うと、私は、楽士の姿でもないのに、ひどく高揚した。
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戦いの中の事は、詳細に語ってもいい。
確かにヒリヒリとする戦いだった。その緊張感はこれまでの楽士との戦いの中では感じた事のないものだったのも間違いない。自分が負けたら終わりの勝負、仲間には頼れず、アリアにもすべてを明かしきれない。そんな状況が緊張感を生んだことも事実だ。
しかし、勝負がここから、というところで、だ。
「部長!」
真っ先に聞こえたのは、琴乃さんの呼ぶ声。
同時に、私を庇う様にして鍵介と彩声が。続いて鼓太郎や笙悟が。そして美笛ちゃんや鈴奈ちゃん、琵琶坂先輩と琴乃さんが現れる。
「みんな、来てくれたんだ!」
「あん時の借りは返してもらうぜ、韋駄天さんよ」
喜ぶアリア。駆け付けた帰宅部の面々は一度敗北を喫しているせいもあってか、笙悟を筆頭にやる気に満ちている。ここで決着をつけようとしているかのように。
「これは、流石に分が悪いか。またお会いしましょうか、帰宅部の皆さん」
そうわざとらしく言って、韋駄天はすぐに近くの手摺を飛び越し、そのまま姿を消した。
複雑な構造の図書館では追いつくのも難しい。それより部員のみんなは楽士を追うより私を気遣ってくれる。それは、素直に嬉しい、嬉しい、が。
私の中にあるのは、不完全燃焼という一文。
棹人は本気だった。だがそこから何か、強い衝動などを感じることはできなかった。
彼に近づく要素は、ない。
変わらず彼は、油断も隙もない、優秀な人――という強固な外殻に包まれている。
あと少し。あと少し戦っていれば。或いはその内面に、触れられたかもしれないのに。
「部長、ごめんね。私たちがもう少し早く来ていれば……」
そんな、私の後悔はどうやら表情に出ていたらしい。近くに居た彩声が申し訳なさそうに言う。どうやら楽士を取り逃したことへの後悔だと勘違いしてくれているようだ。
――いけないな。気を引き締めなくては。
「しかし、どうしたことだ? 部長さんがこれだけ身体を張った活動をしているというのに、副部長くんの姿が見えないね」
ここで、琵琶坂先輩がまるで機をうかがっていたかのように発言する。
これも、事前に棹人の話した予想の通りだ。
「傷ついてた様子の琴乃さんを見て、急いで追いかけてたら、置いてきちゃったみたい」
「あー、あいつ足遅いからな」
鼓太郎が頭を掻きながら、納得をしたような台詞を言ってくれた。
あとは、想定の通り。
WIREで棹人に連絡を飛ばし、一度部室に戻るように全員を誘導する。
そして、最後尾について全員を見送ったのち、棹人と合流する。
……部長から、楽士に。楽士から、部長に。
こうして続けざまに、演じる姿を変えるというのは予想以上に難しい。
先程の様に、ふとした瞬間に仮面の掛け違えが起きてしまいかねない。
精進しなくては。
彼のようになるために。彼に、もっと近づくために。
そうしなければ、私は――。
ここまでお待たせして大変申し訳ございませんでした。
今年中での本筋完結を目指し突っ走ります。
宜しくお願いいたします。