【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】   作:佐渡ヶシマシマ

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Another:XX Singularity Four 前編

 

「こいつが噂の新米か!? マジかよ……」

 

 イケPの反応は、大方予想通り。現実の年齢的にそこそこの落ち着きがあるようだが、流石にこの容姿にはある程度の衝撃があったらしい。それなりに淡白な反応であったこともあるが、まあ、そろそろこれで驚く反応を見るのも飽きてきたが。

 

 何より、今の私にはそれよりも重要なことがある。

 韋駄天。もとい斑鳩棹人。彼のことだ。

 

 楽士たちとのコミュニケーションの中でも、頻繁に彼の名前は話題に上る。彼が楽士たちとも、帰宅部の中でもより大きな役割を担い始めているのは伝わっている。

 私もそれに負けぬよう、そして続くように帰宅部、そして楽士たちの内面に踏み込み続けていた。

 私と彼の目的――全員を万全に納得させた状態での帰還のために。

 

 だが同時に、懸念点もある。

 それは帰宅部たちが楽士を打倒するペースが私の想定以上に早いこと。

 

 帰宅部の皆はいち早いメビウスからの脱出を願っている。それ自体は何ら不自然なことはないし、彼らの事情を徐々に知り始めている今ならば、応援したいという気持ちもある。

 だが早すぎる。それはよくない。

 棹人と共に話した楽士の事情を知るにはまだ時間が足りないばかりか、シャドウナイフを始め、未だ顔合わせも行っていない楽士も一人いる。このままいくと、私たちの計画はうまくいかない。

 

 同時に、帰宅部に対するソーンの警戒心、いや、敵愾心は日増しに高まっている。元々、彼女は笙悟へ強い憎しみとも執着ともとれる感情を抱いていたが、現在はそれは彼の属する帰宅部そのものにまで拡大しているような気がするのだ。

 お互いに敵であることに違いはない。だが、肝心のソーンの内面に、私はまだ踏み込み切れていない。

 

 ……というのが、これまで私が考えていること。

 当然私が考え付くくらいのことは、当然棹人ならば既に考えを巡らせているはずだ。

 そして既に対策を講じているに違いない。

 

 

 やはりだ。私と彼の間には、まだ差がある。

 彼にはまだ追いつけない。なのに、既に楽士との戦いは折り返しを過ぎている。

 

 まだだ。

 私はまだ、何もわからない。

 

 それでは、困る。

 

 だが私のそんな焦りをよそに、事態は進んでいく。

 

 

 帰宅部の待ち伏せが行われているシーパライソのアトラクション。

 梔子が開催していたイベントのステージ。

 ――棹人と、梔子。あの二人の繋がりを感じた場所。

 それに、棹人が傷を負ったあの場所。

 

 これは、好機だ。

 

 

 ××× ××× ××× ×××

 

 

 

 アトラクションに辿り着き、ラガード狩りが始まる。

 だがやはりというべきか、ここを現実と気付いた人の数は多くない。交渉が上手くいっていない――というよりは、まだメビウスに愛着を持っている人が少なくないのだろう。

 実際に、再洗脳はそう難しくないだろうとイケPも呟いている。

 

 それだけの想いがある人間の心を突き崩すような交渉ができるような人物は、帰宅部にはまだいないはずだ。

 ――いや、正確には二人いるか。

 

 一人は、琵琶坂先輩。彼なら巧みな話術と人心掌握でそういった愛着を断ち切らせてラガードに引き戻すことも可能ではあるだろう。

 だが、最近の彼の動向については些か不穏だ。今回は鼓太郎がバディであることも手伝って、良くも悪くも動きは少なかろう。

 もう一人。好意的かつ効果的に現実へと向き合うような説得を行えるだろう人材。いうまでもなく、それは棹人だ。だが残念なことに彼は今楽士としてこちら側にいる。

 

 つまるところ、現在も帰宅部の皆はラガードの勧誘に難儀しているということだろう。少し申し訳ないし心配でもあるが、それもこれも全ては皆のためだと自分に言い聞かせる。

 

 

 

 戦闘を避けつつ、最短距離へとルートを取り、全員が立ち止まることがないよう舵を取りながら進む棹人。ミレイを操縦し、イケPとも話を弾ませ、私にも不自然でない程度の意識を傾けつつ、梔子にも気を回す。全員へのまんべんなく意識をむけながらも、決して立ち止まらない。

 

 立ち止まったのは、例外として梔子の用意したなぞなぞの部分だけだ。

 

 梔子が突然彼に石板を解かせると言いだした時はその目的がわからなかった。帰宅部の面々でここを訪れた時、彼は謎解きが不得意だと自己申告していたし、私が率先して回答役を請け負っていた。

 だが、彼の動きが完全に止まってしまうとは思わなかった。考え込んで、手も足も出ないと言ったようなその動きは、これまでの冴えた彼からは考えられないものだ。

 

 結局焦れたミレイが不正解を選びそうになったので、私が横から回答してしまったが、梔子は不満を口にすることもなくただ棹人の事を観察するような眼差しを向けるばかり。

 棹人は、梔子に対しても「やはりこういうのは苦手なようです、申し訳ない」などと謝罪している。不仲になった様子はないが――彼女は何を確かめたかったのだろうか?

 

 

 

 わからない。わからない。

 わからないことが多すぎる。

 

 私は、理解するために楽士になったはずだ。

 楽士と帰宅部、両方の事情を知ることでどちらが正しいかを判断するために?

 いや、違う。

 

 もしこの提案をされたのならば『必ず受けるだろう彼の思考』をなぞり、知るために。

 私は、斑鳩棹人を知るためにここにいるはずなのに。

 

 

 

 

 ××× ××× ××× ×××

 

 

 

 

「これは失礼。そういったファンサービスは行っていないもので」

 アトラクション最奥。確か笙悟と維弦が待ち伏せを行っていたエリアの手前。エゴヘッドという、所謂厄介なファンが梔子に暴力を振るおうとした瞬間、割って入る棹人。

 容赦なく顔面を蹴り付け、平然とそんな台詞を吐く。

 

 ヘルメット越し、濁った言葉。話す内容ははっきり聞こえるのに、ボイスチェンジャーを通したような平坦さが拭えない。どうやら私と同じように正体を明かさないための仕掛けをしているのだろうか、感情を読み解く表情も声色も伺えないのが、只管にもどかしい。

 

「ぶっ殺してやる!!」

 耳障りな叫び声。

 感情を剥き出しにして襲い掛かるそのエゴヘッドを、戦いの中で執拗に、そして的確に痛め付ける棹人。取り巻きを潰してから全員でリーダー格の男を潰す容赦のなさ。

 

 それは、まるで別人のようでさえあった。

 帰宅部にいる、あの人のような。ここで彼を傷つけた、彼のような。

 

 掴んだはずが遠ざかる人物像。踏み込んでいるはずがそのたびに道のりが開いていくような錯覚。

 

 わからないが、積み重なっていく。

 

 

 

「すいません、私は先程の連中を追跡してきます。苛立ちのままに余計な騒動を起こされては困りますので」

 イケPにそう伝え、私に目配せする棹人を、私はただ見送ることしかできない。

 

 彼の目的。描く思考。

 果たして、それが何なのか。

 

 あるいはそれは、またあの時の様に、戦いの中でわかるのではないか。

 カタルシスエフェクトという、精神を露出させるようなあの武器同士の打ち合いでこそ、伝わるモノなのではないか。

 

 私は――。

 

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