【Caligula-カリギュラ- RE:covered】 部員ルートRTA 8:02:57 【完全犯罪チャート】   作:佐渡ヶシマシマ

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Another:XXⅥ 因果の清算

 

「ハハハハハ! 安心して死ね! お前たちの亡き後はこの俺が、あのくだらねぇ部活ごっこの部長をやってやるよ!」

 

 豹変した永至。その言葉遣い、顔つき、その全てに殺意が満ち満ちている。

 本物の、狂気。演技や偽りではなく本気で自分にぶつけられるそれらに、恐怖を覚えなかったと言えば嘘になる。けれど、震える私が踏みとどまれた理由が三つある。

 

 一つ、事前に綿密に情報を探る中で、『こうなる』という予想を立てられたこと。何も知らないままだったら、また私は何もできなかっただろう。けれど全てを知った今なら――戦える。

「YOU!! 絶対に負けないで! 決着を付けよう、みんなのために!!」

 二つ、隣にいるアリアの存在。帰宅部部長としての肩書が、それにこれまで付き合ってくれたアリアを通して、それぞれの事情や悩み、葛藤を聞いて歩んできた帰宅部の仲間たちの顔が思い浮かぶ。そうなれば、負けれないという気持ちも湧いてくるというもの。

 そして、三つ目は。

 

「行こう、部長」

 隣に、彼がいてくれたこと。

 本当なら巻き込むべきじゃない。彼の過去を、いや現実を聞いた今。彼を永至に関わらせるのは得策ではないように思える。――二人だけで相対させてしまったら、本当に、片方が片方の命を奪ってしまうのではないかという程に、棹人と永至の因縁は重すぎる。

 けれど彼に黙って事態を動かすような不義理は働けなかった。こうして永至の危険性を認識できたのも、彼のお陰でもあるのだから。

 

 永至は自身のカタルシスエフェクトを呼び出すと、同時に周囲に炎を生み出す。

 これがどのようにして生み出されているものなのかはわからないが――カタルシスエフェクトは、本心を隠す殻を武器にしたもの。

 となれば、永至はその『殻』を自在に脱ぎ着できるということだ。それゆえに、その扱いにも長けている、そんな風に考えることもできるか。

 

 ――もう、いい。別に永至から学ぶこともないだろう。

 躊躇う必要もない。

 私は、引き金に指を掛けた。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 苦戦を予想していた。けど実際には、あまりにも一方的な戦いだった。

「グッ……この俺が、負けただと……?」

 膝をつく永至。カタルシスエフェクトによる打ち合いは、精神に影響を与える。

 もし、彼の中に罪悪感や後悔があるのならば、少しは心動かされたはずだ。

 

「永至、こんなこともうやめよう!」

 だから、アリアは飛び出してしまう。私が制するために手を伸ばすよりも速く。

「鬱陶しいんだよ、ゴミ虫っ!」

 怒りのまま、近付く彼女を叩き落とそうと拳を振り上げた永至だが、ここにはそれを見越した人間がいた。

 

 カタルシスエフェクトを解いていない刺々しい鋼の脚でその横顔を蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられる永至。驚き固まるアリアを庇う様にして、しかし棹人はずっと倒れて動かない永至しか見ていなかった。

 ――黒く、どこまでも昏い眼差しで。

「無駄だよ、アリア。()()に言葉は届かない」

 

 彼の言葉は悲しいほどに的を射ていた。

 血を吐きながら、怨嗟を撒き散らす永至。一から十まで独善的で、傲慢で、暴力的だった。

 最早細かな内容を記憶に残すことすら馬鹿らしい。子供の考える八つ当たりを、本気で大人が信じ切っているみたいな、気持ちの悪さと居た堪れなさ。そして子供じみた駄々で――この男は周りを壊してきたのだ。

 

「ゴミ溜めにたかったハエの分際で、俺の人生の邪魔をするなぁーッ!」

 最後はそう言い残すと、永至は傷つく身体を引き摺って逃げていく。追いかけようとすることもできたが、しかし。

 

「あんな怖い、醜い人間もいるんだ……」

 震え、心の底から怯えるアリア。彼女を無理やり引っ張っていくことは、できなかった。

 

 その後私と棹人は帰宅部に招集をかけ、一度部室に集合する。そこで、琵琶坂永至の顛末を伝えた。

 皆大なり小なり動揺、困惑の表情を浮かべていた。とはいえ、私たちが見聞きした情報の多くは楽士として手に入れたもの、整合性の部分をどうつければいいかと迷っていた中で、声を上げたのは、鳴子だった。

 

「残念ながら、ほんとだよ」

 そう言うと、彼女は説明し始める。あの男が一度鳴子のスマホを借りて調べ物をしていた時があった。その時の検索履歴をもとに、彼女が現実のデータを調べた結果、彼の悪行が詳らかとなった。

 

 地下アイドルグループ「ウズメ隊!」のメンバーに対する傷害事件で、心神喪失で無罪を勝ち取った若手弁護士、琵琶坂永至。

 ――その名前は、聞いたことがあった。

「私のせいだ……私が怖がって裁判の証言を断らなければ……帰宅部に入った時、あいつの顔も名前もすぐにわかったのに……!」

 彩声が顔を歪めた。すぐ隣に行って、座り込む彼女を気遣うが……そうだ、因縁があるのは棹人だけではない。彩声も――間接的に、あいつに人生を歪められていたんだ。

 

 その後一年と経たず、奴は後見人制度を悪用した横領の罪で起訴、懲役五年の判決を受けた。

 だが奴はここ、メビウスに居た。精神だけは天国に送られ、それなりの生活が保障されている。鍵介は皮肉めいて、「世界一イージーモードな獄中生活ですね」と相槌を打った。

 ここ最近憔悴気味の彼でさえ、呆れ交じりに呟くほどだ。魂だけの脱獄、と言い換えてもいい。

 

 逮捕直前には、横領発覚の切っ掛けとなった税理士、弓野一家の自宅が放火され、税理士夫妻二人が死亡。娘の一人は意識不明の重体で、今もなお目を醒まさない。犯人は()()()()不明とされ、未だ逮捕されていない。

 その上、逮捕の数か月前には彼の父親までもが弁護士事務所の階段から転落死。自分がその看板を引き継ぎ、後釜に座る予定だったことが報じられていた。

 それ以外にも、あいつの周りではいくつもの不審死が相次いでいるという情報まで掴んでいた。

 

 鳴子、いつの間に。

 ……いや、彼女はそういう子だ。気になることはどこまでも深堀りできる。本人が気付いていないだけで。

 

 そして、そんな事実が明るみになれば、当然皆は憤る。

 ……彩声は言わずもがなだ。お父さんのことを考えれば、鼓太郎も当然怒り心頭。失望の中に怒りが滲む琴乃さんの様子も気になる。あの男にちょくちょく話し掛けられていたが、男性に騙された過去のある彼女からすれば、傷に塩を塗られたような気分だろう。

 お母さんを大事にしている美笛なら、父親を手に掛けたかもしれないなんてのは逆鱗だろうし、純粋な鈴奈からすれば、平然と嘘を付き人を騙すあいつの存在は理解し難いに違いない。

 

 その中でもなんとか比較的冷静なのが、維弦と、笙悟。

「部員に被害が出なかったのが、唯一の救いだ」

 ……そう言ったあと、維弦は少しだけ表情を動かしたような気がした。

 

「いや、すまない。シーパライソのアトラクションで、一度棹人が被害を負っていたな。なかったことにするつもりはなかった」

 

 維弦としては、無神経なこと言って申し訳ない、という意図だったのだろうが、その言葉を皮切りに部内を充満した怒りに火が付いた。

 

「ッ、あの野郎! あのときのアレは本気で棹人を……!」

 鼓太郎がテーブルを殴りつけると同時に、これまで静かだった鍵介までもが顔を上げた。

「……宮比温泉物語で自分に楯突いた仕返し、ってとこですか?」

「……許せない」

 琴乃さんまでもが、顔を俯き拳を握りしめている。前に垂れた長い髪の奥で、鬱血するほど唇を噛み締めているのが見えた。

 まずい。どんどん部内の空気が濁っていく。

 よくない流れだ。ただでさえアリアが永至の気に当てられて弱っているというのに。

 

 

「皆さん、落ち着いてください」

 パン、と手を鳴らすのは……やはり、棹人だった。

 

「……確かに琵琶坂は許せません。しかし、こうして追放した以上、やつも軽々に手出しはできない。アリアの調律がなくなれば、カタルシスエフェクトの制御もじきままならなくなるでしょう。待っているのは楽士からの再洗脳か、俺達からの追討ちか。どちらにせよ、やつは惨めに逃げ回る他にありませんよ」

 

 冷静に分析した発言で、場の空気を一気にリセットする。

 納得できる理屈をつけ、最後にいい気味だとばかりの笑みを浮かべることで、溜飲を下げる。

 

「……そうだな。逆恨みしてくるようなら、返り討ちにしてやればいい。気は進まないが、何人かやる気に満ち溢れてるやつらもいることだしな」

 突然のことに混乱し続けて汗ばんだ額を拭いながら、笙悟は総括をはじめた。

「とはいえ用心するに越したことはないな。全員暫く固まって動くように心掛けてくれ。文化祭まで日もないことだし、待ち伏せ作戦も控えて、時期を待とう」

 

 

 帰宅部は、正直憔悴していた。待つばかりだったこともそうだが、みんなと心の距離が近づくにつれて逆により繊細な部分が表に出始めているせいもある。

 帰宅についての足がかりが途絶えてもうすぐ一月、そのトドメにこれだ。

 

 ……雰囲気は、良くない。

 こんな時こそ結束が肝心だとわかっている。

 

 しかし、私は楽士と通じ。

 そして次に私達が相対するのは……。

 

 ちらと一瞥すれど、彼は私と目を合わせてくれない。

 

 琵琶坂永至の因果は、こうして精算された。

 なら、わたしたちの因果の精算は、いつ訪れるのだろう?

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