さよならカミハマ   作:ryanzi

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プロローグ これでもいつもよりかは平穏な一日

「成仏してくれ、オーウェル」

 

「突然何を言い出すんだ、私の同級生の大友和仁?

最近、見滝原から引っ越してきた大友和仁?

私の本名はエリック・アーサー・ブレアだと言ってるだろ?

それに、君だって転生者だから死んだようなものじゃないか」

 

ある日の昼下がりの夏目書房。

二人の転生者が古書の立ち読みをしていた。

この会話からわかるように、彼らは転生者である。

一方は日本人で、一方はイギリス人だ。

だが、イギリス人の方は只者ではない。

 

「・・・私たちはもう死んでいる」

 

オーウェルは何かを思い出したようにそう言った。

 

「お前がそれ言うとシャレにならんからね???」

 

「君たちはもう死んでいる」

 

背後から澄み切った声が聞こえてきた。

恐る恐る振り向くと、二人の背後にはモノリスが立っていた。

モノリスである。決して、テレスクリーンではなかった。

 

「はあ・・・心臓に悪いっての。

というか、あまりその姿で来ないほうがいいんじゃないか?」

 

「安心してくれ。ここに来ようとした人たちは気絶させといた」

 

「それでさっきからサイレンの音が止まないってか?ははっ!この野郎・・・」

 

彼(?)の名はアーサー・C・クラーク。

あっ、となった読者諸賢。その予感は正しい。

 

「それで、今日は何をしに来たんだ?」

 

「本屋は何のためにあるのか知らないのかい?本を読むためさ」

 

そう言うと、クラークは謎の光線を和仁の持っていた本に当てた。

本にとくに異常は起こらなかった。言うなれば、スキャンである。

 

「てめえ、それ今の時代だとデジタル万引きだからな???」

 

「ははは・・・今の私は人間じゃないからセーフさ」

 

和仁とオーウェルは本を棚に戻すと、急いで夏目書房から足早に出て行った。

数十秒後にクラークの悲鳴が聞こえてきた。

モノリスにも痛覚があるということは前からわかってはいる。

 

「誰にやられたと思う?」

 

オーウェルがそう訊いてきた。

 

「かこと葉月ぐらいじゃね?

奴が現われる前、あやめー!なんて悲鳴も聞こえたような気がするし。

多分、敵討ちにはこのはか葉月のどっちかが来たと思うぞ?

危なかったな。危うく巻き添えくらうところだった」

 

二人はその足で喫茶店に向かった。

 

「ヴィク・・・」

 

「普通のアメリカンお願いします、雫先輩。

ええ、当然のことながら俺たち未成年なんでジンは結構です」

 

この前の”War Is Gin事件”を繰り返さないためだ。

思えばあれは実に凄惨な事件だった。

もう少しで夏目書房は再び焼け落ちるところだったのだ。

雫はオーウェルの好物を提供できないことでシュンとなってしまった。

 

「あと、俺にはチョコレートケーキを。

ブレアには普通の板チョコでも与えてください」

 

彼女の顔に輝きが戻った。

それもブレアの好物だからだ(と彼女は思っている)。

和仁はこの哀れな先輩の肩をゆさぶってやりたかった。

こいつはとんでもない二股野郎だと。

いや、もしかすると和仁が知らないだけで三股かもしれない。

 

(・・・天罰当たんねえかな?)

 

そんなことを思っていると、喫茶店にもう一人入ってきた。

ロシア系の相貌をした美少年で、和仁たちを一瞥もせずに店の奥に向かった。

それもそのはずだろう。彼は反ソであるオーウェルを嫌っているのだから。

 

「そろそろエフレーモフと和解したらどうだ?」

 

「向こうが断ってくるだろうね・・・」

 

運ばれてきた板チョコにむしゃぶりつきながらオーウェルは言った。

和仁はやれやれと思いつつコーヒーを飲む。

コーヒーはいい味がした。

それ以上に、砂糖のおかげで舌に残る絹のような・・・

 

「私の文章が地の文に流用された気がするんだが」

 

「第四の壁簡単に破らないでくれる???」

 

喫茶店でのんびりした後は南凪区の海浜公園に向かった。

曇り空のせいで、海は荒涼とした灰色の大地のように見えた。

 

「イギリスを思い出すね」

 

「こんなんなの?」

 

「ああ、こんな感じだ」

 

砂浜に足を取られながら歩いていると、一人のアメリカ人青年が倒れていた。

タコが彼の下半身に絡みついているという誰も得しない状況だった

その青年を介抱しているのは御園かりんである。

彼女がいるだけでも、その情景はマシに見えた。

 

「タコはやっぱり駄目だったよ・・・」

 

「ラヴくんはいい加減懲りたほうがいいの」

 

そんな二人を傍目に、和仁とオーウェルは水平線を望む。

隣にいるのは前世において最高峰のディストピア小説を書き上げたSF作家。

その近くで倒れているのは前世において人類に宇宙的恐怖を与えたSF作家。

さきほど喫茶店で会ったのは共産主義ユートピアを礼賛したSF作家。

夏目書房にやってきたのは、なぜかモノリスの姿をしているSF作家・・・。

神浜市に引っ越してから、万事がこんな状態だ。

しかも、他にも転生してきたSF作家はいる。

そして誰もが今回の生を謳歌していた・・・良い意味でも悪い意味でも。

 

「それじゃあ私はそろそろ帰るとするよ」

 

「じゃあなー」

 

オーウェルが帰ったあと、和仁は砂浜に座り込む。

なんと騒がしい来世となったことか!

この上まだどんな期待の成就、嘲笑、苦しみを待ち受けていたのだろうか?

 

「それでも、残酷な奇跡の時代が過ぎ去ったわけではないという信念を俺は・・・」

 

「他人の書いた小説の一節を勝手に使用するんじゃない」

 

ポーランド人青年によって、和仁は海面まで蹴り飛ばされた。




僕はいったい何を書いたのだろうか(一種の賢者モード)
やだ、これ僕の作品じゃない・・・認知しとうない・・・
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