誰が為の独白   作:しんり

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3rdシーズン放送開始しますね。
リアタイは出来ないですがとても楽しみです。


焼肉は美味しい

 パンッという弾けるような音が幾度となく響く狙撃訓練場。その端を陣取ったあたしはひたすら的へ弾を撃ち込んでいた。

 狙撃訓練は正直、対人相手の捕捉、掩蔽訓練以外は胸を張って出来るとはいえない。けど、去年の夏は狙撃訓練に集中していたし、本部に部屋をもらってからは人の少ない時間にあてている。だから、空気が発せられていないとしても的の真ん中近くに殆どの弾を当てられるようになった。つもりだ。

 

「お疲れ、雪原」

「ん。お疲れ様でーす」

 

 近づいてきた木崎さんに返して構えを解く。的を見て「腕が上がったな」と呟かれたらまぁ照れてしまうというものだ。木崎さんの方がわたしよりもすごく強いし。

 

「ゆりさんは元気にしてます? こないだ行った時には会えなかったので」

「ああ。ゆりさんは変わらずお元気だぞ」

「なら良かった。よろしく伝えてくださいね、木崎さん」

「あ、ああ。任せておけ」

 

 何に動揺したのか、若干キョドった木崎さんに軽く首を傾げてしまう。が、まぁゆりさん関係の話になるとよくある事なのでいつもの事ではある。微笑ましいと年上に言うべきか、どうなのか。

 そんな事を考えつつ何か用事だったろうかと聞くと、焼肉に誘われた。向こうの方で何時ものように誰かに教えてる東さんがたまにはどうか、という事らしい。

 断る理由も特にないし、だいたい奢ってくれると言うから今回も素直に頷く。特に師事しているわけではないが、気にかけてもらえるというのはいい事、なのだろう。

 

「今回はあんまり人がいないんすね」

「ああ、なんかタイミング悪かったみたいでな」

 

 残念だとテーブルのはす向かいで肩を竦めた東さんになるほどと納得しつつトングでお肉をひっくり返す。火が熱い。

 

「おい、俺がやる。トングを貸せ」

「ん。ありがとーございます、二宮さん」

 

 スナイパー会ではないという事なのか、右隣の壁際に陣取った二宮さんがトングを要求してきたので手渡してじっくり炙られる肉を眺める。

 じわじわ、じゅわじゅわ。眺めながらも、他の人たちの会話を聞き流す。話題はあっちこっちに広がってとりとめもない。とりとめもないが、左隣の加古から振られる話には適度に応じておく。

 ……ところでなんであたしがこの二人の間なのだろう? と前回同様思わなくもないが、焼肉の前には些細な疑問である。

 

完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)かぁ。すごいですね、パーフェクトってつくとなんかわからないけどすごそう」

 

 もうちょっと別の言い方がありそうなものだけど。そう思いつつ向かい側に座る木崎さんの話に呟く。

 黙々と肉を焼く二宮さんが「語彙がないな」と言うがセンパイよりはあるつもりなんですが。肩を竦めて返し、それを聞いていたらしい加古は「そうね」とくすくすと笑う。楽しそうでなによりだ。

 

「お前もポイント的にはそう呼ばれても可笑しくないだろ」

「ん? ああ、確かに。雪原、どのポイントが足りてないんだ?」

「えー……んー、射手の方ですかね? 気分で使うの変えてるのでポイントがバラけちゃって。総合的なポイントはたぶん足りてる……と思いますけど、どうでしょう。トドメが孤月な事が割と多いんで」

 

 東さんの問いに答えるとなるほどなぁとあちこちからの声がして、なんとなく居心地悪い。ぽいっと横から無言で放り込まれたお肉をとりあえず頬張ると、入れてきた二宮さんがフンと鼻で笑う音がした。

 そーいうところがこの人の悪いところだと思うなぁあたし。空気的にはなんていうか、もっと頑張れとかそういう応援? というか、認めてる……? ような感じなんだけど。

 何せ言葉にしないものだから、たぶん知り合いの中でもわかりづらい人に分類される。二宮さんとは、出水に合成弾を教わってた時が一番会話したけど、言葉足らずというか態度と空気で示す人というかなんというか。ああ、わたしが教わっていたんじゃなくて二宮さんが教わってた時の話、なのだが。

 ま、そんなわけで。

 

「あたしそんなに肉いらないんで、そのくらいでいいっすよ。後は野菜ちょっとください」

「そんなのだからチビのままなんだろう」

「むっ……いやでももう伸びる見込みはないんでいいんです〜」

「あら。わからないわよ? もしかしたらちょっとは伸びるかもしれないじゃない」

「そうだと嬉しいけど、伸びても数センチじゃん。諦めるしかないじゃん」

 

 だからぽすぽす頭を撫でないでくれるかな、加古サン。この座敷にいる八人の中で断トツに低いのが割と辛く思ってるというのにこの仕打ち。よくないと思います。

 いやまぁ年下が今日は狙撃手の後輩? にあたる当真しかいないからなんだけどね。……当真は無論の事、大半の子には身長負けてるけどさぁ。でも背が伸びる前の子とかはそこまで変わらないからいてくれたらそれだけで割と気分が楽なんだよ。いないけど。

 ……まぁわたしが幹事なわけでもなし、積極的に話しかけるような相手も話してくるようなやつも少ないしいいけどさ。

 

「にしたってお前は食べなさすぎじゃね? 昼に見かけても量が少ないしよ」

「諏訪サンまで言ってくるの珍しいっすね……」

「前も言ったが、食事はきちんと摂れ、雪原」

「……はぁい。もー、なんで今日に限ってそんなに言うんですか」

 

 位置的には真ん中寄りだからか室内に肯定する空気が満ちて、思わず渋い顔をしてしまう。そこまで小食なつもりはないのだけど……え、加古。なんで否定するの。これ、ほんとに小食? 割とマジで足りてるんだけど。

 加古の炒飯は食べきる前に重い事の方が多いし、たまに意識飛ぶからなぁ……あれはもう足りる足りない以前の話だ。加古炒飯による悲劇は本人に言っても好奇心のままに作る限りは改善はされないだろう。いやでも次からは断れない時は量減らしてもらお。マジで美味しい時でも半分食べたらけっこうお腹いっぱいだし。

 

「ほらほら、これも食べなさい」

「いいって言って……も〜、加古ぉ入れないでよ……」

「うふふ。可愛らしい反応するからつい。ね、二宮くんもそう思うでしょ?」

 

 俺に話を振るな、という空気も気にしない加古に二宮さんと揃って小さく息を吐きつつ、わたしは追加されたお肉に箸を伸ばす。一応食前に胃もたれしないよう薬は飲んだとはいえ、今日はどれくらい食べる事になるのやら。

 育ち盛りもいるし男性陣は背が高いしガタイもいいし、食べられなさそうなら押し付ければいいだろうけど。ま、前回と同じく加古にからかわれながらになるかもしれないが、わたしはゆっくり食べ進めるのみだ。

 あ、デザートだけは別腹なのであしからず。

 

「いっぱい食べてお腹いっぱい……」

「あれでか?」

「ですよ」

 

 信じられないという空気をする二宮さんに本当の事なんだけどな、と思いつつ頷く。人それぞれという事です。

 え、なんすか。使い所が違う? ……そんな事ないと思うけどなぁ。加古も肯定してくれてるし。

 

「それじゃ、あたしはまた本部に行くんで」

 

 焼肉屋の店の前で会計の終わった東さんにお礼を伝え、解散という空気の中わたしはそう手を上げた。本部に部屋をもらってるのを公言していないから少しだけ心配そうな眼差しが向けられている気がする。

 

「あら? まだ訓練するの?」

「んー。まぁ……心配しないでも本部に泊まるから、だいじょーぶだよ」

 

 実際「無理したら駄目よ」と言ってくれる加古にちょっと悪いなと思いながら、しかしそう言ったら言ったで説明するのめんどくさいしなぁという気持ちもあったりなかったり。……まぁ深く聞かれたら答える気はあるから、大丈夫大丈夫。

 

「……じゃ、俺も用事あるし雪原は送ってくか。加古は誰か頼む」

「あざっす東さん。よろしくおねがいします」

「ああ。それじゃ、お疲れ」

『お疲れ様でーす』

 

 軽く手を上げて他の焼肉メンツと別れて、わたしと東さんで本部への道を歩く。とはいえ、話が弾むというわけではない。東さんはわたしより大人だし、あたしは聞く側だし。共通する話題を話そうとするなら、まぁやっぱり戦術についてだとか狙撃訓練についてだとかだ。

 

「当分はソロのまま活動か?」

「はい。上の意向はよくわからないんですけど、天羽の件とか影浦の件を考えると、そういう奴のフォローとかさせたいのかなーと思うんですが」

 

 今のあたしの動きを東さんはどう捉えるのかと尋ねる。わたしの考えとしてはサイドエフェクトで感じた空気的にもそこまで間違いではない気がするのだ。

 基本的に上からの命令は素直に聞いているつもりだし、多少便利な駒として使われているとは思う。が、他人から見るとどうなのかという疑問があった。

 

「うーんそれもありそうだが……ソロに慣れてきたら次は部隊の補助もしそうだな。その調子だと」

 

 ほうほう、なるほど。えー……つまり?

 

「雪原はサポートが上手いから、それを腐らせるつもりはないだろうって事だよ。俺の隊がA級に上がる時の試験で忍田本部長がお前をサポートにしていただろ? その延長、みたいなものじゃないか」

「あー……」

「それに、どの隊の補助になろうが雪原は不足してる部分を補えるだけの実力もあるし」

「その評価はちょっと大げさですけど、まぁ確かにポジションとかは合わせられると思いますけど……」

 

 そこまで評価されてるとは思わず一瞬足を止めてしまった。がすぐに気を取り直して数歩先に進んだ東さんの横に並ぶ。

 気遣いしてくれる人だから、その歩みはわたしに合わせたようにゆっくりだ。そもそもあたしの二歩が一歩みたいなもんだし。センパイとかはその辺気にしてくれないから有り難い気遣いである。

 

「大げさってもんでもないだろう。雪原は努力が出来る人間だからこその評価だと、俺は思うが」

「……努力、すか。努力してるつもりはないんですが」

 

 東さんはそう言うけれど、わたしのは努力とは言わない気がするな。

 なんとなくボーダーに入って、センパイに引っ張られたから訓練を続けただけで。それを努力と取られては、本当に頑張っている人からすると迷惑だろう。あたしのそれは、間違いなく最初の出会いに恵まれたからこそのものなのだから。

 そこから攻撃の手段が増えたのが今だけど、ボーダー隊員を続けているのだってあたしの性に割と合っているからだし。どこがって言われそうだけど、それはまぁ過ごしやすいから……?

 

「続けていく、という事自体に努力は必要だ。戦い続けるっていう事にも。A級にまで上がったのなら、誰からも認められる実績があるという事で、そこに努力が介在するのは明白だろ」

「……ですかね」

「雪原がどう捉えているにせよな。俺は迅と部隊を組んでいたお前の能力を公正に評価をしているつもりだぞ。もっと互いを引き立てる戦略を練り込まれたらA級1位にまでなっていなかった、って今でも思ってる程度にはな」

 

 それは……、どう、答えたものだろう。嬉しくないわけでは、ない。東さんはボーダー隊員の中でも一番多くの人に教えていると思うからこそ、認められている事は喜ぶべき事だ。

 しかしそれは忍田さんに強くなったと褒められるのとは、また違う感じに思える。……なんだろ。強い強くないとか、そういう基準ではないような気がするから、かな?

 

「一応、素直な所感ってやつだよ。だから深く考えず受け止めたらいいさ」

「なるほど。なら、ありがとうございます」

「はは、どういたしまして」

 

 そうして一瞬沈黙が落ち、しかし話を移り変えながらわたしと東さんはボーダーへと戻り、出入り口でわかれる。

 東さんとこうしてそこそこ長い時間話すのははじめてではあったけど、色んな話をしたからかとても充実していたように思う。焼肉も美味しかったし。

 それに、うん。まだまだ頑張ろって、思えるな。人間褒められると大なり小なりそういう気持ちが芽生えるもの……なのではないだろうか。いやまぁわたしは自分が一般的な人間とズレてる気はするけど。

 

 でも、その気持ちだけは確かにこの胸の内にある。その気持ちは大事に、したいな。していこう。


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