ドラゴンクエスト5~リュカの生きる道~ 作:KENT(ケント)
12話
妖精の村は、森に囲まれたところにあった。今は冬だからか葉も落ち、すっきりとしたものだが、そうでなければ鬱蒼としていたのだろう。すっきりとした、と言っても、森にしてはということだ。森というだけあって木々はたくさん生えており、視界が良好というわけにはいかない。
足下には雪が積もり、木々にも雪が薄くまとわりつき、白い景色が周囲一面に広がっている。そんな森をリュカたちは西へ進んでいた。
リュカは短いブーツを履いていたため、雪に足が沈み込んでもそこまで冷たさを感じることはなかった。
ブーツをはじめ、リュカが身に着けている衣服は当然パパスが買い与えたものだ。パパスは危険の多い旅のなかに身を置いているためか、ただの衣服ではなく、防具としての役割も果たすことのできるものをリュカに身に着けさせていた。リュカのブーツは、一見灰色のくたびれた布で作られている粗末な品のようでいて、実は雪にいくら触れていてもびっしょりと中まで濡れてしまうことはなかった。
そのことに感謝をしつつ、裸足のソロや、草履っぽいものを履いていたベラは大丈夫なのだろうかと、彼らに目を向ける。
ソロにはこの雪は少し深すぎるようだった。足が根元近くまで埋まり、腹が積もった雪の表面を擦ってしまっている。寒さを感じているようには見えなかったが、歩き辛そうで、ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにして前に進んでいた。
一方ベラは、足が沈むこともなく、雪の表面を軽やかに歩いていた。どういう原理なのだろう、と首をかしげているリュカに彼女は顔を向け、口を開く。
「春には桜が満開で、すっごい綺麗なの。城も桜を咲かせるんだから」
あの木をくりぬいて作られた城のことだろうか。あれだけ手を加えられても生きているというのは、恐るべき生命力である。もっとも、常識では考えられないほど大きく育った木なのだから、常識では計れないものがあるのも当然なのかもしれない。
「リュカにもあの景色、見せてあげたかったな。絶対気に入ってくれるはずだもん」
夢を見るような顔で、ベラは宙を見上げた。きっと満開の桜の光景を思い浮かべているのだろう。
あの巨大な木を見れただけでも、リュカは妖精の国を気に入っている。あれが美しく桜を咲かせるとなれば、ベラの言うとおり間違いなく気に入るだろう。そう思うと惜しいような気がした。
「だからこそあのドワーフは許せないわ。もちろん、ポワン様に傷を負わせたってだけでも許せないんだけどね。さっさと、とっちめてやらなきゃ!」
一転、むっとした表情を浮かべるベラ。
「ポワン様って弱いの?」
「そんなことないわ! ポワン様はすごい魔法を使えるんだから!」
そしてベラは再び表情を変えた。コロコロとよく変わる表情だ。
「でもポワン様は優しいから……。犯人とはいえ傷つけることができなかったの」
それで自分がやられてるようではどうしようもない。リュカはそう思った。
話を聞く限り、どうやらベラはポワンに心酔しているらしい。彼女のポワンに対する言葉は、話半分に聞いておいたほうがよさそうだ。
「それにしても、なんであのドワーフはフルートを盗んだんだろ? 春が来なかったら、ドワーフだって困るはずなのに……」
ぶつぶつと一人で呟きながら、足下を見つつ歩くベラ。彼女なりに真剣に考えているのか、真面目そうな表情だ。
何を悩むことがあるのだろうか。そんなことを思いながら、リュカは歩く。犯人が何を考えていようと、重要なのはフルートを盗まれたという事実だ。それを取り返さなければならないということは変わらない。
足跡一つない雪面に自分の足跡を刻むのは、意外と気持ちの良いことだ。どうしてこんなことで僅かながらでも快感を得られるのだろう。そんなことを考えながら、そんなことよりも、重要なのは快感を得られているという事実だと思いついた。
どうでもいいことを考えてしまうのは誰もが同じなのかもしれない、なんてことをリュカは朧気に思ってみたりした。だから、ベラが犯人の動機なんてものを考えてしまうのも仕方のないことなのだ。それをどうでもいいなどと切り捨ててしまう自分にとっては、犯人の動機よりも雪面に足跡を刻むことの方が重要度の大きなことだったのだろう。
だいたい、フルートを取り返さなければ世界が凍りついてしまうなんて言われたはいいが、そんなことを言われたところで実感が湧くはずもない。リュカには、世界が凍りつくのを阻止しようという思いが全く無いわけではないが、それがフルートを取り戻しに行く動機になっているかと問われれば首をかしげざるを得ない。
結局のところ、リュカはフルートが盗まれたという事件自体に対しての興味が薄いのだ。その辺りがベラとは根本的に違うのだろう。リュカはただ妖精の世界を旅することに魅力を感じたにすぎない。
そんな、それこそどうでもいいことを考えながら、リュカは歩を進めていた。代わり映えのない景色が続く。同じような木と、ただひたすら白いだけの雪面。
物音もほとんどしない。聞こえるのは、リュカの足音と、ソロの雪の上を飛び跳ねる音、そしてベラの話し声だけだ。不思議とベラの足音はほとんど聞こえない――耳を凝らせばかすかに聞こえるものの、意識しなければ聞こえない。
そんなベラの分も音を立ててやろうとしているのかどうかは定かではないが、ソロの立てる音は割りとやかましかった。派手に雪を散らしながら進んでいる。足のほぼ全てが埋もれてしまうのだから不可抗力なのかもしれないが、それでは疲れるだろうなと、リュカは少し心配した。
「意外と魔物出ないね。最近魔物が増えてきたって聞いてたんだけど」
「寒いからかな?」
「どうだろうね? 魔物も寒さに弱かったりするのかな? 冬眠とかしてたりして」
そういたずらっぽく笑うベラは、花のようなという表現が実に似合っていた。
それに、着ている服も、茶色と黄色の中間のような色のワンピース。装飾品と呼べそうなものも、腰に巻かれた茶色い紐と、そこにぶら下げられた木の実のような赤い球だけだ。武器らしきものも、腰の紐に差してある木でできた杖のみ――細い木の枝のような杖だ。このように、身に着けているものも、どこか植物っぽいものばかりだ。
彼女は花のような匂いもするし、妖精というからには、花から生まれたのだと言われても納得できるとリュカは思った。
取り留めのない話をしながらしばらく歩いていると、突然ベラが何かに気付いたように声を上げる。
「魔物だ! やっぱり出てきた……」
ベラの視線を先を見ると、木の上になるリンゴが一個あった。割と離れたところに生えている木だ。リンゴにしては大きい。緑色で、あまりおいしそうではない。
突如ソロが飛び出した。近くの木を瞬く間に駆け上がり、枝まで来ると、跳んだ。隣の木の枝に飛び移ると、間を置かずすぐさま跳び、隣の木へ。木から木へと跳んでいるというのに、危うさを全く感じさせず、まるで地を駆けるようにスムーズに移動しているソロは、リンゴのなっている木に向かっているようだ。
リュカたちは後を追った。雪のせいで多少走りにくいが、それほど問題はなかった。ベラに至っては、ひらひらと舞うように駆けている。
ソロは、リンゴのなっている木の隣の木まで来ると、大きくリンゴ目掛けて跳んだ。鋭い爪がきらめく。その両前足はリンゴに振り下ろされた。爪が突き立てられる。
悲鳴とともに、リンゴはソロもろとも地面に落下した。のた打ち回るリンゴに、目と口が一つずつあるのが見える。リンゴはカッと目を見開き、口を大きく開けて、悲鳴を上げ続けていた。
前足でリンゴを押さえつけていたソロであったが、おもむろに口を開ける。鋭利な牙が覗く。ソロは、リュカが予想したとおり、リンゴにその牙を突き立てた。一際大きな悲鳴が上がる。ソロはリンゴをかじり取ると、咀嚼していた――食っているのだ。リンゴの身体の一部分が欠けてしまっている。飲み込むと、もう一口食べた。さっきまでのた打ち回っていたリンゴが、動きを止める。悲鳴も止んだ。
しばし、静寂がこの場を支配した。
「ひ、悲惨な光景ね……よっぽどお腹がすいてたのかな? リュカ、ちゃんとご飯あげてる?」
すぐにソロのところまで辿り着いた二人は、傍らでやることもなく突っ立っていた。
「あげてる」
ソロのエサはサンチョに用意してもらっているのだが、自分で調達できるのなら、わざわざ用意してやる必要もないのかもしれない。そういえば、アルカパでも自分でエサを取ってきたりもしていたな――そんなことを考えながら、リュカはソロの食事を眺めていた。
いい食べっぷりだ。だが、見ていても食欲が湧いてくる光景ではないだろう。
「なんていうか……自然界の厳しさを垣間見た気分ね……」
眉をひそめて見ていたベラはそう呟いた。
「こいつ、なんていう魔物なの?」
「ガップリンっていう魔物よ。けっこうやっかいな魔法とか使ってくるんだけど……そんな暇もなかったみたいね」
顔の部分だけを残して、ソロはガップリンから離れた。顔は食べたくなかったのだろうか。顔だけを残されたガップリンは、気味の悪い仮面のようで、見る者に不快感を与えた。
「もういいの? じゃあ、行こっか」
腹がふくれたからか、どことなく機嫌の良さそうなソロにベラは声をかける。だが、その言葉に反してソロはその場で横になった。そして、ゆらりと尻尾を揺らして、満足げな顔で目を閉じる。雪に身体が沈みこんでいるが、気にした様子もない。どうやらソロは寒さに強いようだ。
「え? ちょっと、寝るの?」
ベラが驚く。
リュカとしてはできればこのまま寝かせてやりたいところだが、さすがに今はそうもいかない。どうにかしてくれ的な顔でこちらを見ているベラのためというわけではないが、リュカは口を開いた。
「ソロ、起きて。行くよ」
リュカは心を鬼にして言った。ソロはしぶしぶといった様子で目を開け、もたもたと身体を起こした。ベラが安堵したようにため息をつく。
「獣らしいと言えばらしいか……」
あくびをしているソロに、ベラは疲れたような目を向ける。そして歩き出すベラに、リュカたちは続いた。哀れなリンゴの亡き骸を残して。
「あっ! 森、抜けたね!」
急に視界が開けて、リュカはパッと顔を前に向けた。
森を抜けるというのは、なにげに大変なことなのだ。それは魔物が出やすいということだけが理由なのではない。小規模な森であっても、未熟な人間なら簡単に道に迷い、遭難をすることさえある。最後まで脱出できないことはもちろん、もう少しで森から抜け出せるようなところで力尽き、息絶えてしまう者さえいるのだ。
しかし一行は、ベラの先導により迷うこともなく進めた。妖精というのは森を歩くことを苦としないのだろうか。妖精とは不思議な生き物だ。リュカはそう思った。
視界を遮る木々が無くなり、一面の銀世界が広がる。決して日差しが強いわけではないが、雪に反射しているのか、眩しい。リュカは目を細めながら、広がる景色をざっと見渡した。
目の前に広がる平原を、小山が連なって帯状に斜めに走っている。小山と言ってもなだらかで、草木が茂っているわけでもない。少し傾斜のきつい丘のようなものだ。
「どっちに行くの?」
「この山並みに沿って行くの。ちょっと遠回りになるけど、その方が安全だしね」
危険を避けて迂回するというのは、よくあることだ。
その山並みは緩やかなカーブを描いていた。それに沿って歩く。
魔物も出てこない。元々、このような開けたところでは魔物は出てきにくいものだが、全く出てこないというのは珍しい。さきほどベラが言ったように、寒さに弱く、活動的ではなくなっているのだろうか。父と旅をしているときは、冬でも普通に魔物と遭遇したような気もするが、そんなものはあやふやな記憶でしかない。
そもそもここは人間界ではないようだ。向こうと同じ考えが通用するとは限らない。
「ここって妖精の国なんでしょ? それって僕がいた世界とは違うってこと?」
「ええ、そうよ。言ってなかったっけ?」
リュカは首をひねった。それっぽいことを聞いてはいたのだが、はっきりと聞いてはいなかったはずだ。
しばし無言の時のなか、雪を踏みしめる足音だけが響く。
「遠いの?」
うーん、とベラは腕を組んだ。
「遠いというか……次元が違うのよ。って、難しいよね。要するに、繋がってないっていうのかな。基本的には行き来できないの」
「でも来たよ」
「全く繋がってないってわけじゃないの。人間界、つまりリュカがいた世界との接点も少しだけあるのよ。それに、妖精は人間界と妖精界を繋ぐゲートを作ることもできるの」
「ゲート? 光る階段みたいなやつ?」
家の地下室から伸びたあの階段をリュカは思い浮かべる。
うん、とベラは頷いた。
「でも、むやみやたらにゲートを作ることはできないんだけどね。本当に必要があるとき以外は、行き来しちゃいけないことになってるの。私もポワン様の指示があったから、リュカの村に行けたのよ」
へー、とリュカは感心したような声を漏らす。あんな階段を作り出せるなんて、妖精とは不思議な力を持っている。戦いに関してはたいした力を持たないという話だが、それ以外の分野で言えば、妖精は計り知れない力を持っているとリュカは感じていた。
雪を踏みしめる音が絶えず聞こえる。リュカはもう雪に足跡を刻む快感を感じることもなくなっていた。単に飽きたのだ。
向こうから、同じような小山の連なりが迫ってきた。そちらもまたカーブを描いていて、やがて二つの山並みは細い道を縁取るように、横並びになった。
間の谷のような道をリュカたちは進む。
「接点っていうのは? どういう意味?」
「そのまんまよ。つまり、リュカたちの世界と妖精の世界を繋ぐ場所があるってこと。そこからなら、行き来できるの」
「それって、どこ?」
今回きりで妖精の世界と永遠におさらばするのは惜しい。そう思っての質問だったが、ベラは申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「ごめんね。それはあんまり教えちゃダメだってことになってるの」
「なんで?」
リュカは首をかしげた。
「やっぱり別の世界なわけだから、多くの人が行き来するのはあまり健全じゃないらしいわ。それを避けるためにも、接点がどこにあるかを教えるのは控えなきゃいけないの。もちろんゲートを使って行き来するのもね」
健全じゃないとはどういう意味だろうか。妖精の世界に人間がたくさん訪れたら、何か問題があるのだろうか。ややこしいことにはなりそうだ。リュカに考えつくのはその程度だった。
「それにね、大昔いろいろあったらしいのよ」
「いろいろ?」
首をかしげるリュカに、彼女は頷き、うっすらと雪面に足跡を残しながら言葉を続けた。
「私も詳しく知ってるわけじゃないんだけど、昔、妖精の王女様が人間界に勝手に行っちゃったんだって」
「へー」
「それでね、いろいろあった挙句、魔族とくっついちゃったんだって! ビックリよね」
「くっついちゃったってなに?」
興奮した様子のベラに、リュカはたずねた。
「え? くっついたっていうのは……恋人になっちゃった、みたいな」
なぜか照れたように彼女は言った。
なんだかよくわからなかったが、要するにビックリするようなことが起こってしまったということだろう。だから勝手に行き来するのは禁じられているということのようだ。
だが、妖精の村には人間が住んでいた。それは構わないのだろうか。気になったリュカは尋ねてみる。
「迷い込んで来る人もいれば、自分で接点を見つけ出してこっちに来る人もいるの。そんな人たちをわざわざ追い出さなきゃいけないってほど、厳しくもないみたい。要は、人間が来ちゃいけないっていうよりは、人間を呼び込むような真似は控えろってことらしいわ」
「ふーん」
またビックリするようなことが起こっても知らないぞ、とリュカは思った。随分緩いルールだ。とは言え、これはリュカにしてみれば朗報である。自力で接点を見つけ出す分には構わないということだ。いずれ必ず見つけ出してみせる。リュカはひそかに決意していた。
谷は緩やかに左へ曲がっていたが、しばらく歩いているとまっすぐになった。この道の先に森が広がっているのが見える。
「あの森を越えた先に洞窟があるの。森って言ったって、ちょっと森の端っこを通り抜けるだけだからね」
安心させるようにベラは言うが、旅慣れたリュカにとってこの程度の道のりはどうということはない。ソロも特に疲れた様子はない。
リュカたちはすぐに森まで辿り着いた。先ほどの森と同じく、枯れ木ばかりだ。一気に視界が遮られ、代わり映えのない景色のなかをリュカたちは進む。
「ん?」
足下を覆う雪から、針のように細長いものが何本も飛び出ていた。ちらりと視線をやったリュカだったが、素通りする。あんな植物などそんなに珍しいものではあるまい。
「どうしたの、ソロ?」
そんなベラの声に振り向くと、ソロが針の匂いをしきりにかいでいるのが見えた。ひとしきりかぎおえると、おもむろにそこを掘りはじめた。
何とはなしにその様子を眺めていると、ソロは緑色の何かを掘り当てたようだった。さらに掘り進めると、その全貌が明らかになる。
「サボテンだ」
地面から半球のように覗いているサボテン。
そのとき、サボテンが動き出した。左右に身じろぎしているが、地面に身体が半分埋まっているためか、大きくは動けない。サボテンは大きく目を見開いている。
その様子を、興味深げにソロが見ている。
「生きてるの?」
妖精の世界のサボテンというのは動くものなのだろうか。そう思っていると、ベラが口を開いた。
「サボテンボールだ。なんで地面に埋まってるんだろう?」
やはり冬眠でもしていたのだろうか。そんなことを考えていても仕方がない。
「行こ」
リュカは皆を促す。相手をしても仕方がない。リュカが歩き出すと、ベラが続いた。ソロも、名残惜しげにチラチラ振り返りつつ、付いてきた。
ホッとしたように、サボテンは動きを止めた。
森を抜けると、そこまで広くもない平原が広がっており、その向こうには険しい山脈が壁のようにそびえていた。
「ほら、見えるでしょ? あれが洞窟の入り口だよ」
ベラは山脈を指差していた。よく見ると、山のふもとにぽっかりと穴が開いている。
リュカたちは心持ち早足になっていた。そして何の障害もなく、洞窟の入り口に辿り着いた。
山の体内を抉る洞窟。内部がどうなっているかはわからない。外から見ると、中は闇に包まれていて、何もうかがい知ることはできないのだ。そんな洞窟を目を凝らして覗き込んでいるとき、リュカの胸はドキドキと高鳴る。先の知れない道へ踏み出すことへの不安と期待。様々な感情が胸に渦巻いているこの瞬間が、リュカの冒険心をくすぐるのだ。
「ふーっ! やっと着いたねー」
晴れ晴れとした顔をしているベラは、ここからがはじまりだと言っても過言ではないということを理解しているのだろうか。ベラは旅慣れていないのだ、リュカは確信した。
ソロは洞窟に顔を突っ込み、鼻をヒクつかせて何やら探っているようだ。匂いを嗅いでいるのだろうか。そんなことをして洞窟の何がわかるのか、リュカには理解できない。
「行こ」
放っておいたら、じゃあ帰ろっか、なんて言い出しかねない雰囲気のベラをリュカは促した。
「そ、そうね」
慌てたようなベラを尻目に、リュカはぽっかりと口を開けた洞窟へと足を踏み入れた。