魔法な先生ネギま!-火星軍諜報部報告書ー   作:白白明け

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王道。王道を書いてみたかった。
という訳で以前別のサイトで投稿した作品を一から書き直してみました。


第終章ー大団円の先で編ーその1

 -0- 未来未来。あるところに

 

 

2XXX年。太陽系第4惑星。火星。

 

燃え焦げていくだけの赤い大地で私はあの日、同じく錆びていくだけの英雄と出会った。

 

幾千の戦場を駆けたその両脚は赤銅色に錆びつき、幾万の敵を屠ったその両腕は既に肘から先が消失していた。

そして何よりも、既に向かい合った相手を移すだけの鏡となったその瞳が、この英雄の敗北を決定付けていた。

 

「無様なものじゃろう」

 

既に廃墟と化した研究所の奥から声が聞こえた。

声のした方を振り向けば、そこに居たのは錆びた英雄と同じく朽ちることを待つだけの機械のような老人だった。

見たことのある顔だ。少し前ならば、凡人の自分が会うことなどできなかっただろう、目の前の英雄と同じ、火星の一時代を築いた研究者。

マッドサイエンティストにして火星最強頭脳と呼ばれた老人。

この英雄の生みの親だ。

 

「そやつにはもう守るべき土地も愛すべき戦友(とも)もいない。そやつが守るべき世界はもう、どこにもありはせん」

 

いまだ生き残っている火星人はいる。と、そう言いかける口を止める。

老人は言いたいのはそういうことではないと思ったからだ。

 

「全てを失った英雄には生きる目的がもはや『生き続ける』ことくらいしかなかったのじゃが、それももう無理のようじゃしな」

 

どうしてかと問いかける。いくら壊れようと、いくら錆びつこうと、いくら敗北しようとも何度だろうと立ち上がる。彼は不屈の闘志を持つ根性の塊のような英雄だったはずだとそう叫ぶ。

だからこそ私たちは幾度となく彼に救われ。そんな彼の背を見てまだ未来を諦めるには早いと、そう勇気づけられてきたのだ。

だから私は今此処にいる。

 

「確かにその通りじゃろう。錆びた足は取り換えられる。壊れた腕も直してやれる。しかしな、いくら儂でも壊れた心は直せない」

 

機械のような老人は壊れかけのスピーカーのようなノイズ交じりの声で、どこか悲しげに言う。

 

「初めて、そやつが儂に我儘を言ったよ。『逃げたい』とな」

 

私は驚き目を見開いた。そして錆びていく英雄を見る。

信じられなかった。どこまでも雄々しく英気に溢れ、誰よりも勇敢で何よりもこの星を愛した英雄。

火星(とち)を守り。民の盾となり。悪を正し弱きを助け。仲間と共にあり戦友(とも)を愛し。

戦い続けてきた鋼鉄の英雄が、そんな言葉を吐くなんて信じられることではなかった。

 

しかし、しかし、私はふと考えた。

その錆びついた身体。私より一回りも小さいその身体を見て思わないわけにはいかなかった。

なんて小さい体なのだと。こんな体で彼は今まで戦い続けてきたのかと。

我々火星人はたった10歳の少年にどれだけの重荷を背負わせてきたのだろうと。

 

そんな私の思いを悟ったのか、機械のような老人はポツリと小さく呟いた。

 

「人間という種族の行きつく先に『英雄』という固有名詞を付けられる個体がおる。その意味は、誰も横におらぬということじゃ。そやつはそういう存在じゃった。儂はそれをそやつも自覚しておると思っておった」

 

――じゃが、耐えられなんだか。

 

そう言うと老人は錆びついた歯車の奏でるノイズを響かせて、研究所を動きまわり始める。

何をするのかと私が問うと老人は目を細め言った。

 

「もう、行ってくれ。そやつはもう戦えん。軍にはそう伝えてくれ」

 

私は再び聞いた。あなたはどうするのかと。

 

「儂は、そやつと共もうしばらく此処におる」

 

何のために。

 

「罪滅ぼしじゃよ。孫の身体を弄繰り回し、『英雄』などという取り返しのつかない物に変えてしまった。糞爺の、最後の、孫への、愛情じゃ」

 

――誰にも邪魔などさせんわい。

 

老人は妄執。偏執。そんな言葉では語れない執念のこもった瞳で壊れかけの身体を動かし続ける。

私はもはや言葉などに意味はないと悟り。その場を後にすることにしたのだ。

最後に私たちを守り続けてくれた少年に心からの感謝を示し、廃墟と化した研究所を、その都市を後にした。

 

 

それから一か月後。

 

 

私が再びその研究所を訪れると。そこには様々な機械に見守られながら静かに息を引き取った穏やかな顔の老人だけがいて。火星を守り続けた英雄の姿はどこにもなかった。

 

私は願う。軍諜報部としての役職を忘れ彼に救われた一人の人間として願う。

彼が戦争などない。世界の何処かに逃げていてくれることを。

 

 

鋼鉄少年英雄記後書きより抜粋

 

 

以降。英雄が消えた火星は地球の物量に押され劣勢の一途を辿ることとなる。

 

 

 -1- バグキャラを継いだチートキャラ

 

 

物語の視点は時間どころか時代が変わり。場所どころか星が変わる。

 

太陽が隠れ月が顔を出してからもう何時間もたったころ。

某県某所のある学園都市において、二つの影が走っていた。

一つは小さな影。女性と呼ぶには体の起伏が乏しく、子供と呼ぶ相応しく、しかし、それを彼女の前で言えば恨めしい目で睨まれること請け合いな年頃の少女の影だった。

もう一つは大きな影。成人男性の平均身長をゆうに超え身の丈一丈は届くかと思わせるその体躯は既に人の者でなく、その頭部に生えた一本の雄々しい角がそれが人外の者であることを雄弁に物語っていた。

 

そう、平成と呼ばれる現代で、時代錯誤であるのだが、麻穂良学園女子中等部二年の綾瀬夕映は大鬼に追われていたのである。

 

「ほらほら、もうええやろ嬢ちゃん。痛くせぇへんから止まりいや」

 

「止まれといわれて、止まる馬鹿はいないのです!」

 

綾瀬夕映はそう叫びながら振り返りかえる。

目の前にはどう見積もっても自身より格上の敵、こん棒を持った大鬼がせまっていた。

元より体格差など考えるだけ馬鹿馬鹿しいもの。いずれ追いつかれることは目に見えている。

 

――のどか、パル、ごめんなさいです。私は今日、死んでしまうかもしれません

 

逃げられない。そんなことは誰よりも綾瀬夕映がよくわかっている。

故に彼女は心の中で決意を決めて、その足を止めた。

 

「ん?なんや、ようやく諦めたんかい」

 

もし今日この日、綾瀬夕映が死んでしまっても、その死因は公にされることはないだろう。

科学が発展し、魔法が空想となった現代で大鬼に殺されたなんて、誰も信じてくれないだろう。

それはとても悲しいこと。

 

だからこそ綾瀬夕映は足を止めないわけにはいかなかった。

 

「はい。もう、逃げるのは止めです」

 

「そか、なら、ごめんな。これも仕事なんや――

 

「いえ、諦めたわけではないです」

 

――ああ?」

 

逃げることが出来ぬのならば。たまたま同僚が席を外していた時に大鬼と出会ってしまった不幸を嘆くこともやめようと、綾瀬夕映は大鬼と対峙する。

 

謡うは魔歌。

かつてと言うほど遠い昔のように感じる一年前。藪を突き、邪を出してしまった自分に対して蔑みと苛立ちと、確かな優しさで手を差し伸べてくれた彼がくれた贈り物。

邪を絶ち。鬼を切り。正から遠く生を行う。空想の法則。その扉を開ける始動キー。

 

――クルワ・クルクル・クルクルリ――

 

魔法を行う。第一歩

 

「魔法の射手 連弾・水の10矢!」

 

司るは水。宿るは十の矢。

綾瀬夕映の呪文と共に水で形作られた10本の矢が綾瀬夕映の手に持つ銀色のタクトから放たれる。

 

「ぬぉおっ!」

 

全弾直撃。

はじけ飛ぶ水飛沫の後、綾瀬夕映は大鬼をみるが大きな傷をおってはいない。

わかっていた。自分の魔法の威力の低さは誰よりも彼女自身が知っている。

それでも、動じることなく大鬼を睨む彼女の姿は紛れもなく、一人前の魔法使い。

 

「はっ、ははは!ええなぁ、その眼、戦う者の眼や!」

 

大鬼は高らかに笑う。

強者である彼にとって逃げ回るものを狩るのは、強者の矜持が揺らいでしまう。

しかし、立ち向かうものを、戦う者を潰すのはとてもとても楽しいことだ。

綾瀬夕映が逃げることを止めたことで彼にとっての闘争が始まる。

 

「さぁ、嬢ちゃん。死合おうや!」

 

生きたいと思う綾瀬夕映と戦いたいと願う大鬼の利害は見事に一致して、魔法使いとアヤカシの、この日の闘争が幕を開ける。

 

「だりゃあああああ!」

 

雄叫びと共に大鬼のこん棒が綾瀬夕映の身体に迫る。

綾瀬夕映はなんとかかわして呪文の詠唱を試みる。

しかし――

 

――クルワ・クルクル・クルクルリ――

 

「まほうせんせものみな(オムネ) 焼き尽くす(フランマンス) 浄北の炎(フランマ プルガートゥス) 破壊の王に(ドミネー エクスティンク) して(ティオーニス) 再生の(エト シグヌム)――

 

謡うは破壊ではなく束縛の渦。

ほんの一年前まで普通の女子中学生だった彼女が魔法使いになるにあたり、最も足りていなかったものは戦意、殺意、そして害意。

敵を傷つけ勝つという意志。

 

魔法の矢を放ち敵を射抜き、殺す。

雷撃を呼び敵を焼き、殺す。

火を起こし炎へと育て敵を包み、殺す。

 

幼少期より刷り込まれた彼女の善性が深層心理において無意識にそれを拒絶する。

故に綾瀬夕映が扱う魔法には決定的に殺傷能力が欠けている。

 

彼女の師はそんな彼女に失格の烙印を与え。

同時にだからこそお前は俺の弟子であるべきだと、そう笑い言った。

 

戦士に成れなかった綾瀬夕映。

ならば彼女はなんなのか。

彼女が深層心理において願うもの。

それは戦いではなく停滞。

親愛なる友がいて、信頼できる師がいて、魔法という奇跡にふれられた幸福な“今”という瞬間を味わいつくしたいという願望。

幸福なるこの瞬間を永遠に。全て等しく止まってしまえとそう願う。

 

故に綾瀬夕映は束縛者。戦う者に非ず。ただ止める者なり。

 

故に謳った束縛の焔。しかし、

 

それよりも早く大鬼のこん棒が振り下ろされた。

近接武器を持つ敵と一対一で近距離にて対峙した時、西洋魔術師の弱点が露呈する。

 

「がっはっは!そんなもんかい、西洋魔術師!」

 

「っ!戦いの歌(カントゥス・ベラークス)!」

 

ならばと、謳うは戦火の歌。

魔法で身体能力を上げて、敵の懐に潜り込む。

師の教え通りに、拳は抉りこむよう打つ。

 

「師匠直伝!羅漢適当に左パンチ!!」

 

「………殴り合いも出来るんかと感心したが、なんや、その蚊に差されたみたいな拳は」

 

しかし、逆に殴った綾瀬夕映の拳の方が痛むしまつ。

失格の烙印は伊達ではない。

彼女の師の言うとおり、綾瀬夕映の戦闘の才能は皆無であった

 

――師匠!この技、全然効いていません!

 

心の中でおざなりに師を罵倒するのは、問題があるのは自分の方だと彼女がよくわかっているから。

師が放つその拳は何故だかやたら光っていた。

それはおそらく戦意の証。

己が一撃をもって敵を屠らんという意志。自分にはそれがない。

故に彼女の拳は光らない。たとえ、教え通りに打ったとしても。

 

恨むべきは師でも、ましてやたまたま席を外していた同僚でもない。

そして、それは大鬼を差し向けた術者でもないのだろう。

師の言葉を借りるのならば、

 

――弱いやつが悪い

 

つまり自分が悪いのだ。

 

「終いや、嬢ちゃん!」

 

「っっ!」

 

大鬼のこん棒は綾瀬夕映の体を軽々と吹き飛ばす。

小さなその体はゴロゴロと転がって、樹の幹にぶつかってとまった。

 

「がっはっは!やっぱ、西洋魔術師は打たれ弱い!」

 

それは違うと、綾瀬夕映そう思う。

たしかに自分は撃たれ弱い。肉弾戦なんてできやしない。

しかし、自分の師は、彼は―――

 

そう思いながら敵を睨むが、だからどうしたというのだろうか。

もう打つ手は残されていなかった。

 

大鬼の笑い声が夜空に木霊する。

綾瀬夕映は最後に

 

「このか、パル。ごめんなさいです。私が居なくなったら、哲学の素晴らしさを少しでも多くの人に伝えてください」

 

なんて、ごく一般的な女子中学生だった頃の思いを思い出して、静かに目を閉じた。

 

「じゃあな、嬢ちゃん」

 

大鬼のこん棒が振り下ろされた。

 

 

――お前は弱いな

 

 

綾瀬夕映は死んだ。

彼女の頭はこん棒に潰され、熟れて柘榴のように地に落ちる。

 

そういう運命だった。

大鬼に殺されるという一般からは、普通の女子中学生の最後としてはありえないものだが、魔術を修め魔法使いを名乗るものとしては珍しくもない最期を迎える。

彼女の運命はそういうものだった

 

 

――どうしてお前は、それほどまでに弱いのだ

 

 

そうなる運命を変える者がいた。

 

空から聞こえてきた声を、綾瀬夕映は幻聴だと思っていた。

死の間際、命が散るその刹那に自分が想ったのが親でもなく親友でもない、彼であったことに多少の恥じらいを覚えたが、それが現実のものであったとするのなら――頬を伝う涙は止まる。

 

「あんた誰や、兄ちゃん」

 

「………お前」

 

振り下ろされたこん棒を、片手で受け止めている青年の背中が綾瀬夕映の目に映る。

黒い学生服に身を包むその体躯は身長も体重もごくごく一般的な男子高校生の平均から外れることがなく、しかし、一目見れば彼が彼であることを知ることが出来る特徴を彼は有していた。

 

「お前…なに俺の弟子ぼこってんだ。殴るぞ」

 

青年の顔に刻まれた刺青が怒りに歪む。

良く見れば刺青は学生服の袖口や詰寄りからもその存在を覗かせていて、顔に刻まれた刺青が全身に広がっていることを物語っていた。

 

「あぁ?なんや、偉い威勢のいい兄ちゃ―――

 

言葉から察するに少女の師である者の登場。

強者の風格を漂わせる青年の登場に、戦意を増した鬼が笑う前に、青年は有無を言わさずに動いた。

 

「ラカン直伝。羅漢適当に左パンチ!!」

 

そして、大鬼は星になったのだ。

光線の様なものが出るパンチを喰らって吹き飛んでいった。

 

綾瀬夕映はあんまりの展開に敵ながら同情してしまいそうになった。

 

「………チートキャラです」

 

「なに訳わかんないこと言ってるんだ?大丈夫か?」

 

そう言って地面にへたり込む綾瀬夕映に手を差し伸べるこの青年こそ、彼女の魔法の師匠にしてこの物語の主人公。

 

「羅漢(らかん)狂気(くるき)!人呼んで、理解不能(バグキャラ)を継いだご都合主義(チートキャラ)です!」

 

「だからなに言ってんだよ。遂に本物の馬鹿になったか?馬鹿ブラック」

 

 

 -2- たかね

 

 

 

某県某所に存在する麻帆良学園には世界樹と呼ばれる大樹がある。その大樹の麓にある世界樹広場は日中、学生たちの憩いの場となっているのだが、日が落ちる頃、その趣きを変え空想の法則を扱う者たちの集う場所となっていた。

 

先刻、大鬼に襲われていた綾瀬夕映を助けた彼女の師、羅漢狂気はあのあと見回り終了後の定時集合に間に合うよう綾瀬夕映を担ぎ全速力で学園を駆け抜けた。

そして今、ここ世界樹広場で腕を組み目を伏せて立っていた。

隣には彼の弟子が―――

 

「馬鹿ブラック………バカレンジャーは師匠の高校にまで伝わるほど有名ですか」

 

―――などと言って落ち込んでいるが、面倒なので放置することにしたようだった。

 

 

それにしても苛々すると羅漢狂気は舌打ちをする。

 

「狂気君。少しは落ち着いたらどうだい?」

 

「落ち着けだと?」

 

頬を掻きながら話しかけてくるのは無精髭が渋い、麻帆良学園女子中等部英語教師、麻帆良魔法先生陣の中で事実上№2の実力を持つタカミチ・T・高畑。

しかし、羅漢狂気は知っている。

彼が案外、こういうことを笑って済ませてしまう人間であると。

だから、羅漢狂気は睨み返しながら反論をした。

 

「ふざけるなよ。馬鹿でデコっぱちでチビで色気の欠片もないような奴だが、俺の弟子だ。俺の弟子が死にかけたんだぞ。俺が間に合わなければ危ないところだった。大体、見回りは二人一組(ツーマンセル)が基本だろう。もう一人はなにをやってたんだ」

 

――たしか、今日、デコ弟子と組んでいたのは

羅漢狂気が視線を向けたのは頭の両側に三つ編みを分けて垂らし、メガネをかけた一人の少女。その手に握られたよくある魔法少女物のアニメに出てくるような杖が、羅漢狂気の鋭い眼光に晒され震えていた。

 

「ご、ごめんなさい。私、少しだけ、席を外していて。まさか、そんなことになるなんて。おもわなくて」

 

「師匠。ナツメグさんは悪くないのです。とにかくタイミングが悪かったと言いますか――

 

「お前は黙っていろ」

 

――しかしですね、師匠」

 

震える少女。夏目(なつめ)萌(めぐみ)の愛称を呼び彼女を庇う弟子を振り払い、羅漢狂気は言葉を続けた。

弟子である綾瀬夕映が夏目萌、そしてもう一人の魔法少女佐倉(さくら)芽衣(めい)と年が近いこともあり友好を築いていることは彼も知っている。

しかし、今はそう言うことを抜きにして言わねばならないと思った。

それが彼が常々不安に思っている麻帆良に張られた結界の甘さからくる不安なのか、それとも――――大鬼に襲われる綾瀬夕映を見た瞬間、時折、ノイズのように現れる、あの赤い光景が重なって見えたからなのか。

 

「だいたい、席を外してたってなんなんだ。見回りは一応、仕事だろうが。その仕事を抜けてまでやる用事って、なんなんだよ」

 

「そ、それは、その」

 

「いえないような、くだらないことなのか?その所為で俺の弟子は死にかけたのか?流石に納得はできないぞ」

 

「・・・れ・・・で・・・」

 

「聞こえない。弁明があるなら、大きな声で言え」

 

と、腕を組み直しそう言ったおよそ3秒後、普通ならば誰もが後悔する瞬間がやってくることとなる。

夏目萌はしばらく目を彷徨わせ、意を決したように息を吸う。

 

 

「トイレに行っていたんです!」

 

 

世界樹広場の時間が一瞬、止まった。なんとか羅漢狂気の追及を止めようとしていた綾瀬夕映は「やれやれです」と止められなかったことを嘆いた。

麻帆良芸大附属中学校に在学する14歳の魔法少女はプルプルと小刻みに震えながら、顔を真っ赤にして目尻には涙を溜めて、今にも泣きだしそうだった。

この場の誰かが悪かった。もちろん羅漢狂気が、悪かった。

けれど彼はそれを気になどしなかった。

なぜなら彼は、所謂不良であったから。

 

「小なら木陰でしろよ。大だったのか?」

 

弟子である綾瀬夕映も流石に絶句する。

多くの視線が羅漢狂気に集まる中で、一人の女生徒が彼の後頭部を殴打した。

 

バコンと、人の頭から鳴ってはいけない音が鳴る。

 

「貴方って人はどうしてそうバカなんですの!デリカシーがないとか!もはやそういう問題ではありませんわよ!」

 

羅漢狂気は振り返り、その顔を見る前に自分の頭を殴打したであろう彼女の名前を叫んだ。

 

「っーてな高音!俺は何も間違ったこと言ってねえだろうが!何時だって便所で糞できると思うな!俺の故郷じゃそんなもん常識なんだよ!」

 

高音。そう呼ばれた彼女はその長く美しい金髪を振り乱し、羅漢狂気に負けじとその美顔を歪ませながら叫ぶ。

 

「貴方は一体!どこの未開の地の住人なんですの!お黙りなさい!ここは日本ですわ!この国にはこの国の常識というものがありますのよ!」

 

「はっ、その常識とやらの所為で俺の弟子が死にかけたのか!平和ボケし過ぎなんだよ馬鹿音(ばかね)!てめえだって常々言ってるだろうが!魔法使いは常に気を張って生きているべきなんだよ!たとえ便所でもなあ!便所に敵が攻めてこないなんてことないんだからよ!」

 

「ば、馬鹿音(ばかね)!?私の美しい名をふざけた呼び方するんじゃありませんわ!女性に!私に!なんてことを言いますの!女性には優しくしなさいってあなたの故郷では教えていないのかしら!」

 

「そんなもんなあ――――!」

 

「なんですって――――!」

 

二人の声は夜の麻帆良に木霊する。

結局、言い争いはある重要な情報を伝える為にこの学園の最高権力者である学園長がその場に訪れるその時まで続いた。

これが羅漢狂気と麻帆良学園聖ウルスラ女子高等学校に在籍する魔法生徒、高音・D・グットマンの関係性である。

 

 

 




王道を黄土色で書く。とか、言ってみたり。
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