ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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【ハンディキャップ・ハンド】はオリカです。イラストには、マキシマム・シックスに立ち向かう格闘戦士アルティメーターがメカアームを四本装備してるデザインです。


TURN5 試練-手- Bパート

 

 

《求道奏音 LP7600》手札二枚

   

    

     

    

   

《ディーピカ手島 LP8000》手札二枚

 

※S……【継承名 Sharp Edges】の略

 

 

 

 ディーピカ手島は特異点だった。しかし他の多くの特異点同様、彼女はその自覚がない。幼少時から特異点に目覚めてはいたが、その力は弱く、『受け継がれなかった命たち』に感知されることなく今日に至る。

「私ね、たまに素敵な夢を見るの。このシティとは違う、知らない『世界』に行く夢……そこにはね、いろんな手の人がいるの……乾いた手、分厚い手、節くれだった手、動かない手……」

 ディーピカは家族や友人にこんな話ばかりしていたため、周囲からは変わり者として認識されていた。もちろん、この趣向は特異点とは関係なく彼女の個性である。人を驚かせはしても傷つけることはなく、この趣向が原因で彼女が生きづらさを覚えたことは無い……距離は置かれていたが。

 エンドレスシティでも『旧世界』の夢の中でも、彼女は他人の手の観察ばかりしていた。おかげで彼女はある特技が身に付いた。手に現れる相手の心理を読み取れるようになったのである。

(奏音ちゃんの手って面白い……いつも余裕しゃくしゃくで挑戦者を挑発したりするのに、手だけはすごく緊張してる……それにどこか、私の夢で見かける手たちと雰囲気が似てる……)

 デュエル中には手の筋肉のわずかな動きから相手のブラフを見抜いたり、手札にキーカードを持っているかどうかも分かるのだ。

「じゃあ私のターンね、ドロー!」

 当然、このデュエルでも。ディーピカの観察眼は働いていた。

(デュエル開始時に手札を確認した時、奏音ちゃんの手は緊張が少しだけ解れた……きっと、すごくいい手札だったと思うの……その後すぐ私が手札抹殺を使った時は、逆に手がいつもより強張ってたし、墓地で活躍する【継承名 ブリード・イット・アウト】みたいなカードは持ってなかったのね……)

「このスタンバイフェイズに、永続魔法【ハンディキャップ・ハンド】の効果発動!」

 

《このカードは破壊され、カードを1枚ドローする》

 

「もう一枚ドロー!」

 ディーピカの手札は今や四枚。奏音は引っかかるものがあった。

(冒頭の手札抹殺といい、やけにドローするな……何か狙いがあるのか?)

「素敵なカードを引いたから、見せてあげるね。魔法カード【天使の施し】発動!」

 

《自分のデッキからカードを3枚ドローし、その後手札を2枚選択して捨てる》

 

「そうか、そのデッキなら『それ』も使えるのか……」

 さすがの奏音も反応してしまった。【天使の施し】は汎用性が高いカードなため、デッキの多様性を損なうとして公式試合での使用には厳しいリミットがかけられている。ただし、初心者向けのグッドスタッフデッキなど、テーマカテゴリーで統一されていないデッキでは使用可能なのだ。【手】デッキのルール上唯一の強みと言える。

「それより見て、この天使さんのきれいな手」

 カードから出現した天使が、施しの光を捧げている。普通ならスキップする演出だが、ディーピカはうっとりと見つめている。

「君、そんな理由でそのカード入れてるの……?」

「ちゃんと戦術的な部分も考えてるよ。じゃあ効果の処理を進めるね」

 ディーピカはカードを引き、手札を入れ替えた。

(確かに彼女のデッキはテーマカテゴリーの動きがほとんどできないから、回転させるには汎用カードの力を借りるしかないけど……)

 ディーピカは消えていく天使に手を振っている。驚くことに、天使は手を振り返している。

(そんな隠し機能あるの……?)

「私はカードを一枚セット……そういえば、奏音ちゃんの【継承名】カードの中で、どうしても気になってるカードがあるんだあ……」

「え、なに……」

「魔法カード【闇の指名者】発動!」

 

《モンスターカード名を1つ宣言する。宣言したカードが相手のデッキにある場合、そのカード1枚を相手の手札に加える》

 

「えぇ? 何する気だよ?!」

「私は【継承名 ハンズ・ヘルド・ハイ】を宣言するね。まだデッキにあるかな?」

「うん、あるけど……いったい何のために……」

 奏音のデッキから【ハンズ・ヘルド・ハイ】のカードが出てきた。そして当然、そのイラストが目に入った。

「あ! これ! 手のモンスターだ!」

 ハンズ・ヘルド・ハイはサイキック族の継承名で、巨大な手だけが三つ、宙に浮いているデザインだ。

「もー、今頃気づいたの? 私ずっと前から、そのへんてこな手を間近で見たかったんだあ……あ、安心してね? これはドロー行為じゃないから、永続魔法【ハンディキャップ・ハンド】の効果は発動しないよ」

「いやじゃあなんで使ったのさ!?」

「だって……『私』も使いたかったから……」

 奏音は気づいた、ディーピカの場に、新たに魔法カードが発動している。

 

【エクスチェンジ】

《お互いのプレイヤーは手札を公開し、それぞれ相手のカード1枚を選んで自分の手札に加える》

 

「うそでしょ?!?! そこまでする?! 手への執着どうなってんのさ!?」

 奏音はいつの間にかポーカーフェイスを忘れ、全力のリアクションをしていた。ディーピカはそれを見てケラケラと笑う。

「じゃあ、私から。手札を見せてね」

 ディーピカの前に、奏音の手札三枚の内容がホログラムデータで公開された。

「あら、【バーン・イット・ダウン】持ってる……ふーん……しかもこっちは始めて見る【継承名】だね、【パワーレス】、見た目はドラゴン族っぽい……」

 ちなみに、手札を覗くカードを使っても、イラストや名前くらいしかカード情報は確認できないため、奏音が公に隠している戦術が漏えいする心配はない。しかし奏音は焦っていた。

(やば……パワーレスならまだしも、バーン・イット・ダウンばれたのはまずいかも……)

「とりあえず、予定通り【ハンズ・ヘルド・ハイ】をもらうね。私の残り手札は一枚だから、奏音ちゃんにはこれをあげる」

 奏音の手札にカードが送られてきた。

 

【運命のろうそく】

《ATK600/DEF600》《闇属性・悪魔族・通常・✪2》

《指先の炎が消えたとき、相手の運命が決定する》

 

(うぉぉぉぉいらねぇぇぇぇ!!! てか気持ち悪っ!!!)

 一方、ディーピカは飛び跳ねながら喜んでいる。

「あぁん、奏音ちゃんのハンズ・ヘルド・ハイだぁ……! 実物のカードだったらすりすりしたい……!」

(くっ、こいつ……マナー違反でジャッジキルして欲しい!)

「そのまま召喚! 【継承名 ハンズ・ヘルド・ハイ】!」

 巨大な手が三つ。大理石のような質感で、いずれも右手なのか左手なのか分からない対称形だ。

 

《ATK1600》《闇属性・サイキック族・効果・✪4》

 

「素敵……見たことない奇抜な形の手……じゃあ効果を使うね。【ティンホイルトークン】を特殊召喚!」

 この瞬間、奏音は冷静さを取り戻した。

(まずい! このままじゃ!)

「トークンは出させない! チェーンしてトラップ発動! 【継承戦術 ロスト・イン・ジ・エコー】!」

 奏音は発動コストで手札の【バーン・イット・ダウン】を捨てた。

 

《通常罠:手札の【継承名】カードを捨てて発動する。モンスターを特殊召喚する効果、または特殊召喚モンスターの特殊召喚を無効にし、そのカードを破壊する》

 

 ハンズ・ヘルド・ハイは効果を無効にされ、消滅した。ディーピカが悲しそうに言う。

「あぁぁ私のハンズ・ヘルド・ハイがぁ!」

「君のじゃないって……」

 

 奏音 手札一枚

    

    

     

    

   

 ディーピカ 手札0枚

※S……【継承名 Sharp Edges】の略

 

「でも、良かったの? ロスト・イン・ジ・エコーをこんなところで使っちゃって?」

 奏音は答えなかった。魚ギョ戦士の衣装の下では、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

(【ロスト・イン・ジ・エコー】を使わされた……!)

 ディーピカはマンジュ・ゴッドの衣装の下から、奏音の手のわずかな震えを見ていた。

(奏音ちゃん、私の狙いに勘付いたみたいね……)

【ハンズ・ヘルド・ハイ】は、自身の効果で呼び出したトークンをリリースすることで、あらゆるカード効果の発動を無効にする『ブルースカイ・バリア』が使える。つまり、トークンが生まれてしまうとどのみちロスト・イン・ジ・エコーは封じられてしまうのだ。

(奏音ちゃんが使ったトラップカードはこの20年でたったの3種類……そのうち、直接相手を妨害できるカードは今の【継承戦術 ロスト・イン・ジ・エコー】しかない……)

 しかも【継承名】デッキはその高いカードパワーのため、デッキ内に同名カードを入れられない制約がある。奏音の伏せカードはもう一枚残っているが、既に妨害札ではないと見切られてしまっていた。

(あなたの『手』は全部読めちゃうんだから……)

「いくよ、奏音ちゃん! 伏せてあった魔法カード発動! 【パニシュメント・ザ・ハンド】!」

(あれは、闇の指名者を発動する直前にセットしたカード! エクスチェンジで奪われないために伏せたのか!)

 

《通常魔法:相手のフィールド・手札・デッキのいずれかに、元々の持ち主が自分であるカードが存在する場合に発動できる》

 

「げっ! もしかしてこの、ろうそく?!」

 奏音は自分の手札にある【運命のろうそく】を見た。

「人のカードを盗んじゃう悪い子には、お仕置きしなきゃね」

「いや君がくれたんでしょうがぁ!」

 

《持ち主が自分であるカード全てを自分の墓地に戻し、以下の効果を適用する》

《●墓地の【ジャジメント・ザ・ハンド】の枚数分ドローする》

《●このターン、自分は墓地の【ジャジメント・ザ・ハンド】の枚数分、通常召喚できる回数が増える》

《●墓地の【ジャジメント・ザ・ハンド】の枚数と同じターン数、相手は通常召喚できなくなる(相手のターンでカウント)》

 

 奏音の手札から、【運命のろうそく】が消滅した。

「えっと……君の墓地に【ジャジメント・ザ・ハンド】なんてあったっけ……?」

「あるよ、三枚」

「さ、三枚も……」

(手札抹殺や天使の施しで墓地に溜めてたんだ……やばいよこれ……)

 0枚だったディーピカの手札が一気に回復した。対して奏音の手札は【継承名 パワーレス】の1枚だけだった。

「どんどん行くね、増えた召喚権を使って、手札から【なぞの手】と【黒魔族のカーテン】を召喚!」

 

【なぞの手】

《ATK500》《闇・悪魔・通常・✪2》

 

【黒魔族のカーテン】

《ATK600》《闇・魔法使い・通常・✪2》

 

 二体目のなぞの手と、赤いカーテンから骨ばった手が伸びている、新たな【手】モンスターが並んだ。

(またレベル2のモンスターが2体!)

「まだまだ! 私は魔法カード! 【手招きへの手招き】を発動!」

 

《デッキから【手招き】モンスターを1体特殊召喚する》

 

「みんな大好き! 【手招きする墓場】を特殊召喚!」

 

【手招きする墓場】

《ATK700》《闇・アンデット・通常・✪3》

《死者にさらなる力をあたえ、生ける者を死へとさそう墓場》

 

 闇の中から、墓石と骨ばった腕が出現した。ちなみ、黒魔族のカーテンよりさらにやせた腕だ。

「今使った魔法カード【手招きへの手招き】は墓地から追加効果を使えるの」

 

《フィールドのモンスター1体を対象。レベルを1つ、上げるか下げる》

 

(げっ、これって!)

「対象は【手招きする墓場】! レベルを下げて2にするね!」

 マンジュ・ゴッドがそのイソギンチャクみたいな手で一斉に合掌した。それに合わせて、なぞの手、黒魔族のカーテン、手招きする墓場の腕たちが手を繋ぎだした。

「手と手を繋いでオーバーレイ! レベル2モンスター3体でエクシーズ召喚!」

 腕たちが小銀河の中に吸い込まれ、渦の中から、立派なピアノタッチのキーボード一式が現れた。

「イカれたメンバを―紹介します! ランク2! 【キーボード・なぞの手】!」

 空間がゆがみ、なぞの両手が現れてキーボードを奏で始めた。悲しげな音色だ。

 

【キーボード・なぞの手】

《ATK500》《闇・悪魔・エクシーズ/効果・ランク2》

 

「悪魔バンドのキーボードを任されたなぞの手ちゃん……その美しい手と音色で、たとえ路上ライブでも人が集まってくるの……3枚ドローするね」

「はあ?」

 

《【なぞの手】を素材としてエクシーズ召喚成功時、素材の数だけドローする》

 

「あ、そういう効果か……」

 ディーピカの手札は再び0枚から3枚へと回復した。

「キーボード・なぞの手の効果はそれだけじゃないの。永続効果を確認してみて」

 

《永続効果:相手はモンスターを特殊召喚できない》

 

「なっ!」

「これが奏音ちゃん対策の最強モンスター……奏音ちゃんの伏せてあるカードがもしトラップなら、【継承戦術 イン・マイ・リメインズ】か【継承戦術 ウェイクアップ】のどちらかでしょう? これで完璧に封じちゃった!」

【イン・マイ・リメインズ】も【ウェイクアップ】も【継承名】の特殊召喚を効果に含むため、当然この状況下では発動できない。

(しかも、さっき私が墓地に捨てた【バーン・イット・ダウン】も、墓地効果でモンスターの特殊召喚ができるカード……とんでもない効果だけど、その代わり攻撃力は500だし、次のターンの突破は難しくないはず……)

「奏音ちゃん、まだ私には通常召喚権が一つ残ってるんだよ?」

 ディーピカは奏音の考えを見透かしたように言った。

「私ね、この手札なら奏音ちゃんに勝っちゃうかも」

(え、まじ?)

「見せてあげる、私のフェイバリット・モンスターを!」

(切り札はエクシーズモンスターじゃないのか?!)

「召喚!!!」

 

【阿修羅】

《ATK1700》《光・天使・スピリット・✪4》

 

 3つの顔と6本の腕を持つ仏神が出てきた。その勇ましい肉体美、ではなく、腕にディーピカが見とれている。

「すごいでしょ……マンジュ・ゴッドみたいにうじゃうじゃ手が生えてるのもいいけど、数を6本に抑える代わりに、筋肉やポーズの芸術性を高めたデザインも、すてきだと思うの……」

「そうだねー」

 奏音は少し安心した。ランク2エクシーズを狙うデッキで阿修羅は明らかにシナジーを生まないカードだ。

「続けて魔法カード、【精神操作】!」

 奏音の束の間の安堵は吹き飛んだ。

 

《相手フィールドのモンスター1体を対象、そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。そのモンスターは攻撃宣言できず、リリースできない》

 

「対象はそこのカマキリさんね」

 カードから手が出てきて、奏音の場の【シャープ・エッジズ】に糸をかけ、操った。ディーピカは相変わらず魔法の演出をスキップせず、うっとりと手を見つめている。

(これで私のフィールドはがら空き、しかもあいつの場にはレベル4のモンスターが二体……ランク2戦術かと思ったけど、あのごちゃまぜデッキなら……)

 案の定、マンジュ・ゴッドはこのデュエル三度目の合掌をしていた。

「手と手を結んでオーバーレイ!」

 阿修羅とシャープ・エッジズが不器用な握手をしている。

「エクシーズ召喚! ランク4!」

(やっぱランク4もあるのかよ!)

 二体のモンスターが銀河の渦に消えた。

「手がいっぱい! 槍もいっぱい! 【ガルマジャベリン】!」

 腕が六本ある異形の戦士だ。全ての腕に槍を持っている。

 

《ATK2550》《闇・戦士・エクシーズ/効果・ランク4》

 

「【ガルマジャベリン】の効果発動! ORUを二つ使って、【ガルマソード】を降臨させちゃうね!」

 

《エクシーズ素材二つを取り除き発動。デッキ・手札・墓地のいずれかから、【ガルマソード】1体を儀式召喚扱いで特殊召喚する》

 

 阿修羅とシャープ・エッジズの魂が供物となり、六本腕の狂戦士、ガルマソードが現れた。

 

【ガルマソード】

《ATK2550》《闇・戦士・儀式・✪7》

 

「これで私の場にモンスターが4体、総攻撃力は7600ね」

 

 

 奏音 手札一枚

    

     

     

 

    

 ディーピカ 手札0枚

 

《生者の腕》《ATK2000》

《キーボード・なぞの手》《ATK500》

《ガルマジャベリン》《ATK2550》

《ガルマソード》《ATK2550》

 

《求道奏音 LP7600》

 

 ディーピカは奏音の手を見た。わずかに震えている……

(見たことないくらい緊張してる、可愛い……)

「バトルフェイズに入るね! ガルマソードちゃんで奏音ちゃんを攻撃!」

 ガルマソードが剣を猛烈な勢いで振るいながら、切りかかってきた。

(これで奏音ちゃんの手は私のものに……あれ?)

 奏音の手から、震えが消えていた。

「君、今『攻撃』って言ったよね?」

「へ?」

「この伏せカード、君は【イン・マイ・リメインズ】か【ウェイクアップ】と読んでたみたいだけど……」

 ディーピカは表になった奏音のカードを見て息をのんだ。

 

《相手モンスター攻撃宣言時に発動。相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する》

 

「これは攻撃反応トラップ! 【聖なるバリア ―ミラーフォース―】さ!」

 光のバリアがガルマソードの剣を弾いた。そしてバリアが鋭い閃光を発し、ディーピカのフィールドのモンスターすべてが破壊された。

「ディーピカちゃん、一つはっきりさせとくよ……私、そんなに弱くないから」

 

 

 TURN6へ続く。

 

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