ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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別に設定を出し惜しみしてるわけじゃないんですけどね、どばっと説明するのを避けてたらなかなか進まないんですなこれが……


TURN6 試練-殴- Bパート

 

『デステニー・クロスロード』のおよそ1か月前、9月25日、午後2時12分、エンドレスシティ第一地区、高級マンション『キャッスル』屋上

 

「こんなところ初めて来たよ。ヘリコプターの発着場になってるんだね」

『特異点』の少年、リオール大河は、同じく『特異点』のレイチェル光尊にそう言った。

 二人は共にキャッスルの屋上にいる。一般人どころかマンション居住者でも立入れない場所であり、いわゆる不法侵入なのだが、この『世界』に存在しないことになっている二人には関係ないことだ。

「いいかねリオール君、精神エネルギーに変換された魂はこのエンドレスシティという空間全体を維持・構成するデータになると思われる。要はこの街の一部になるというわけだ」

「うん」

「しかし、私たち『特異点』は不完全な変換で自我や記憶が残る。エンドレスシティへの一体化も不完全なんだが、『不完全ながらも一体化はしている』……これが実に好都合でね……」

 そういうと、レイチェルは姿を消した。再生終了した動画のように、ふっといなくなった。

「レイチェルさん?」

「ここだよ」

 リオールは飛びのいた、レイチェルが背後にいたのだ。

「私がこの街の一部になったということは、この街の至る所に私のデータが存在しているということ。こんな風に、この街の任意の座標に私の自我を発生させることができるんだよ」

 レイチェルはまた姿を消し、少し離れたところに出現した。

「この街は私で、私はこの街。自我は一つしかないから分身はできないけど、その代わりどこへだって一瞬で移動できるんだ!」

 レイチェルは次々に瞬間移動している。

「君もすぐできるようになるよ! コツは自分が『そこにいる』のをイメージするんだ!」

(どこにでも行ける、か……)

 リオールは交際していたナーシャ池井戸のことを思い浮かべた。彼女はまだ『受け継がれなかった命たち』に消されていない。住所はわかるから、会いに行くこともできる。

「夜になったら、ナーシャちゃんの寝顔を見に行けるね」

 リオールの耳元に瞬間移動したレイチェルがそう囁いた。リオールは心底レイチェルを殴りたくなったが、質量データは失われているので『特異点』同士でも触れることができない。仕方ないので話題を変えることにした。

「どこにでも行けるなら、レジェンド・カノンの部屋に忍び込んで【継承名】デッキを覗いたりできますか?」

【継承名】デッキの最大の強みは未知のカードや効果があることだ。『受け継がれなかった命たち』の少女はリオール以外の『特異点』にも【継承名】デッキでデュエルを挑んでいたという。カード情報が得られれば彼女への対策が立てられる。

「それがね……」

 レイチェルは残念そうな顔になった。

「ちょうどすぐ下……このマンションの最上階がレジェンド・カノンの部屋なんだけど、そこには入れないんだよね……」

「入れない?」

「リンクパークのレジェンド控室とか、デュエル事務局のカードデータファイルもそう。なぜか入り込めない……」

「トーナメントのレジェンド戦の時に、彼女の背後に移動して手札を覗き見るのはどうです?」

「それも試したけどダメ。背後に行くのはできたんだけど、手札だけぼやけて見えなかった……」

「うーん、そうなると……直接戦うしかないですね……」

 リオールはチートが好きではない。困難な方法だが、正攻法は楽しみですらあった。

 

 

 

 10月24日午前10時51分、エンドレスシティ第5地区、災害時避難施設『シェルタープラネット』、第18番ゲート前

 

《求道奏音 LP4000》

 手札2枚(うち1枚は【継承名 パワーレス】)

     

  

     

     

    

《ディーピカ手島(ジャン・ルブラン)》

 手札29枚(EXモンスターも強制手札化)

 1. 【手札抹殺】

 2. 【なぞの手】

 3. 【なぞの手】

 4. 【ジャジメント・ザ・ハンド】

 5. 【ジャジメント・ザ・ハンド】

 6. 【ジャジメント・ザ・ハンド】

 7. 【黙する死者】

 8. 【死者の腕】

 9. 【おろかな埋葬】

 10. 【魔宮の賄賂】

 11. 【生者の腕】

 12. 【ハンディキャップ・ハンド】

 13. 【ロケットハンド】

 14. 【パニシュメント・ザ・ハンド】

 15. 【闇の指名者】

 16. 【エクスチェンジ】

 17. 【運命のろうそく】

 18. 【天使の施し】

 19. 【黒魔族のカーテン】

 20. 【手招きへの手招き】

 21. 【手招きする墓場】

 22. 【キーボード・なぞの手】

 23. 【精神操作】

 24. 【阿修羅】

 25. 【ガルマジャベリン】

 26. 【ガルマソード】

 27. 【青魔族のカーテン】

 28. 【友情YU-JO】

 29. 【結束UNITY】

 

「まずはお前から潰してやる! 俺はバトル・シンフォニーを攻撃!」

 ルブラン、いや醜悪な【ムゲンジュ・ゴッド】は自らの腕で殴りかかってきた。

「プレイヤーでモンスターに攻撃?!」

 

【ムゲンジュ・ゴッド】《ATK4000》

【バトル・シンフォニー】《ATK1600》

 

(しかも攻撃力4000……【友情YU-JO】で回復したライフを丸ごと打点に変えたの?)

 バトル・シンフォニーはあえなく粉砕され、奏音の体に衝撃が走った。

「うっっっ!!!」

 

《求道奏音 LP4000→1600》

 

(なに、今の……これデュエルだよね??)

 ルブランが叫ぶ。

「続けて残りの雑魚どもを潰すぜ!」

(うそ?! 連続攻撃まで?!)

 【ムゲンジュ・ゴッド】が暴れ、ワン・ステップ・クローサーとスキン・トゥ・ボーンも倒された。ルブランが高笑いしている。

「フハハハハ!!! 楽しいなあ! やはり戦いってのはこうでなくちゃ! 自分の腕で! 敵を殴る! モンスターに任せるなんてもったいない!」

 ルブランが悦に入る間に、奏音は【ムゲンジュ・ゴッド】の効果を読んだ。適用中の永続効果ならデュエル中でも確認できるはずだったが、

 

《ルール効果/永続効果/誘発効果:非公開情報》

 

(くそ、どうなってる……なら!)

「おい、お前!」

 奏音はルブランに呼びかけた。

「【スキン・トゥ・ボーン】にはフィールドから墓地に行ったときの効果がある! お前を対象にして、スティール・トゥ・ラスト!」

 

《対象モンスターを破壊する》

 

 土埃が舞い上がり、ムゲンジュ・ゴッドを包み込んだ。ルブランの腕が一本、錆び始め、朽ち落ちたが……他の腕は無傷だった。

「なんで?!」

「フハハハハ甘いんだよぉ! 俺の腕は一本一本が独立したモンスター扱い! 全て破壊しなければ俺を倒したことにはならない!」

「すべてって……まさかあと28本全部を?!」

 ルブランはにやりと笑った。ムゲンジュ・ゴッドの顔は衣装ではなく本物の肉体らしい。

「その通り……そして、それぞれが独立しているということは……」

「あっ……もしかして、あと25回攻撃できるってこと……?!」

 ムゲンジュ・ゴッドが腕を振り上げた。いびつに巨大化しているが、それは【手札抹殺】に描かれていた腕だった。

「消えなぁぁぁ!!!」

「やばっ! トラップ発動!」

 

【継承戦術 イン・マイ・リメインズ】

《自分のモンスターが相手によって破壊されたターン、このカードは手札から発動できるが、代わりに効果を以下の通りに変更する。

 ●デッキから【継承名】モンスター1体を特殊召喚する》

 

 白い、サッカーボールほどの毛玉が現れた。ウサギのようだが、頭はない。手足としっぽをちょこまかと動かし奏音の前に飛び込むと、ムゲンジュ・ゴッドの巨腕を受け止めた。

 ポヨン! 

 白い毛玉は跳ね飛ばされ、そこらじゅうをまりのように弾んで奏音の足元に転がってきた。ルブランは拳の勢いを殺され苦い顔になっている。

 

【継承名 ラナウェイ】

《DEF800》《闇・獣・✪4》

《永続効果:このカードは戦闘・効果では破壊されず、相手の効果の対象にもならない》

 

「そういやそれでよくピンチを凌いでたっけな、そのデッキは……」

 奏音は一息ついた。手札から【イン・マイ・リメインズ】を発動し、【ラナウェイ】を盾にして起死回生の策を練る。レジェンド戦ではこのコンボで何度も命拾いした。

(危なかった……それに今ので、あいつの攻撃には誘発効果や貫通能力がないことも分かった……)

「だが所詮はその場しのぎに過ぎないよなあ? その毛玉は確か、ドローフェイズにはデッキに戻っちまう役立たずだろ?」

 確かに、ラナウェイは自分のドローフェイズにデッキに戻るデメリットがある。

「でも私のターンには【スキン・トゥ・ボーン】と【ワン・ステップ・クローサー】がもう一度蘇るから、デッキから【ラナウェイ】を持ってこれるけど?」

 

【スキン・トゥ・ボーン】

《墓地に送られた次の自分のターンに発動できる。自身と墓地の他の【継承名】を特殊召喚》

【ワン・ステップ・クローサー】

《このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから✪4以下の【継承名】1体を特殊召喚》

 

 ルブランはせせら笑った。

「ああ、そのコンボなら対策済みだぜ……エンドフェイズ! 【ムゲンジュ・ゴッド】のスキル発動! このターンに破壊したすべてのカードを、俺の【手】にする!」

「はあ!?」

 奏音の墓地から【バトル・シンフォニー】【スキン・トゥ・ボーン】【ワン・ステップ・クローサー】の三枚が飛び出し、ムゲンジュ・ゴッドの体に吸収された。

(これじゃ墓地からの効果を使えない!)

 ムゲンジュ・ゴッドに新たに腕が生えた。骸骨の腕、日本刀を持った腕、銃を持った腕だ。「俺の能力はそれだけじゃない! 自分の墓地の【手】カードも毎ターン腕として追加できるぜ!」

 このターン破壊したばかりの腕が再生した。よく見ると機械の腕であり、先ほど破壊したのは【ロケットハンド】のカードだったのがわかる。

「ブハハハハ! 相手の全てを力づくで奪い取る! これが俺の『固有スキル』ってわけよ! さあレジェンド・カノン! 早く何とかしないと俺の腕はどんどん増えるぜ!」

 

     

    

     

     

    

【ムゲンジュ・ゴッド】手札32枚《ATK4000》

 

 規格外の能力に内心かなり焦りを覚えた奏音だったが、デュエリストとしての理性はまだ残っていた。

「いい気になるのは早いよ……私のターン! ドローを放棄して、フィールドの【ラナウェイ】の効果発動!」

「何? ドローの放棄だぁ?」

「ラナウェイの出戻り効果は強制じゃない。ドローを放棄すればこの子は場に留まるのさ! ついでにお前に800のダメージを与えてね!」

 

【ラナウェイ】

《誘発効果:ドローフェイズ開始時、発動する。このカードをデッキに戻す。またはドローを行なわず、相手に800ダメージを与える》

 

「くそ、そんな効果隠してやがったか!」

 白い毛玉が糞を弾丸のように発射した。糞はルブランの顔に当たり、爆発を起こした。

「ごはぁっ!」

「よしっ!」

(これでルブランのライフは3200、私の墓地にはまだ【バーニング・イン・ザ・スカイ】と【バーン・イット・ダウン】が揃ってるから、直接ダメージコンボで決まりだ!)

 

《ダメージ無効》

 

「えっ?」

 爆炎の中からルブランの高笑いが響いた。

「バカだなぁぁぁ!! 俺というプレイヤーは今手札と融合してる状態だ! ダメージを受けるライフがそもそもないんだよ!!!」

「じゃ、じゃあ、お前は敗北しないってこと??!!」

 ルブランはからかうように肩をすくめた

「この腕を一度に全て破壊されたら俺の負けかもなぁ……」

「そんなの……チートスキルにも程があるでしょ……」

 さすがの奏音も動揺した。【継承名】には全体除去効果を持つカードがないのだ。【ミラーフォース】の採用理由の一つでもある。

「チートスキルだぁ? おいおい、【継承名】デッキだって大概チートだろ?! 二十年もトップに君臨し続けるなんざ『旧世界』じゃ独裁者扱いだぜ?!」

「……」

 ふと、奏音はその言葉に、昔チェスとしたある会話を思い出した。

 

「【継承名】デッキってさあ……なんか、強すぎない? 最近のレジェンド戦、いつも一方的に勝つんだけど……」

 チェスはさらりと答えた。

「強すぎる、というのにはちゃんと意味がある。奏音、君は『独裁者』という言葉を知っているか……」

 

 奏音が一瞬黙ったのをいいことに、ルブランはしゃべり続けた。

「そもそも、世界を作り変えて支配下に置くなんてのはチートだろ! 俺たち『特異点』は、『創造者』のチートによる被害者みたいなもんさ! 俺たちの反乱は起こるべくして起きたんだ!」

(被害者? 反乱? どういうこと?)

「だが俺はよ、チートは嫌いじゃねえ……チートだって成立させるのには技術力がいる……チートは立派な『力』なんだよ。そして『力』を持つ者には『奪う資格』がある! 今の俺のようにな!」

「違うっ!!」

 今度のルブランの言葉は、奏音にも意味が分かった。だから思わず叫んでいた。

「お前は何もわかってない! 『力』のことも! 『奪う』ことも!」

 奏音の剣幕にルブランはひるんだように見えたが、すぐにせせら笑いを浮かべた。

「へぇ……レジェンド・カノンにもそういう思想があるのか……」

「お前なんかに話しても時間の無駄だ。私はこれでターンエンド!」

「はいはい、俺のターンだな」

 またムゲンジュ・ゴッドの手が増える、と奏音は思ったが、意外にも、ルブランの腕の一本に新たなカードのホログラムが出現しただけだった。デュエルアプリのいつものドロー演出だ。ルブランは引いたカードを見て舌打ちした。

「どうやって使うんだよこのカード……まあいい、俺は何もせずターンエンドだ」

(何もしない……? あいつの手札には、私から奪ったバトル・シンフォニーがあるはず……貫通能力で私のライフを削りに来ると思ったのに……それ以外にも、【ハンディキャップ・ハンド】や【ロケットハンド】、【天使の施し】といった強力な汎用カードも一切使おうとしなかった……まさか……)

 奏音はクスリと笑った。ルブランがそれに気づく。

「何がおかしい?」

「いや、だって……そんなに手札あるのに、何もできないんだなあって」

「ああ?!」

「私のターン!」

 奏音の前にラナウェイが転がってきた。指示を仰いでいるようだ。

「私はラナウェイをデッキに戻す!」

 白い毛玉が飛び跳ねて奏音のデッキに吸い込まれていった。

「いいのかぁ? そいつがお前の身を守ってたんだぜ?」

「でもこれでカードを引ける! 私のデッキにはお前をぶちのめすカードがまだまだあるからね! ドロー!」

(私の勝利条件が【手】の全破壊なら……あのカードを引くしかない!)

 奏音は引いたカードを確認した。

 

 

 その頃、イベント運営室でスタッフたちに指示を出していたチェスは凍り付いていた。

(なぜだ……奏音の精神を探知できない……プラネット内どころか、シティのどこにもいない……今までこんなことは起きなかった……)

「チェスさん、どうしました?」

 周りのスタッフたちが心配して声をかけてくるも、チェスの耳には入っていなかった。

(二か月前の『特異点』増加の現象と何か関係があるのか……? だが、リオール大河を変換した後、他の『特異点』反応も自然消滅し、今はシティのどこにも……)

 次の瞬間、チェスは大きな声をあげ、スタッフたちを驚かせた。だが一番驚愕していたのはチェス自身だった。

「まさか……私の恐れていたことが……始まっているのか……?」

 

 

 TURN7に続く

 




Q.ライフがないなら【継承名 ラナウェイ】の効果はそもそも発動できないため、デッキに戻るのでは?

A.厳密には【ライフへのダメージ・回復・参照およびその他効果の無効】という処理のスキル、と考えてください。実は、ルブランは自らのスキルを正確に把握していません(重要)。



~オリジナルテーマデッキ解説コーナー~

【手招きする墓場編】

豊富な【手招き】カードによって、自分のフィールドにモンスターをたくさん呼んでこよう!モンスターが並んだらシンクロ召喚を決め、今度は相手モンスターも自分フィールドに手招きしてしまおう!


サンプルデッキレシピ
メインデッキ 40
【手招きする墓場】3
【手招きする洞窟】3
【手招きする樹海】3
【手招きする遊郭】3
【ネコマネキング】1
【手招きへの手招き】3
【墓場の運動会】3
【洞窟のかくれんぼ】3
【樹海のピクニック】3
【遊郭の運動会】3
【予想GUY】2
【精神操作】3
【穴あき柄杓】3
【バトルマニア】3
【道連れ】1
エクストラデッキ 6(スキルによる枚数制限)
【手招きする深海―船幽霊―】3
【手招きする儲け話―マルチ商法―】3
スキル【カー召喚・手招きする墓場】
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