ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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諸事情により二か月以上も空いてしまいました……すみません……

本作品におけるデュエルのルールは一部実際のものと異なります。相手のカード効果や墓地・デッキの枚数なんかを確認できないアニメに近い仕様です。


TURN7 開戦 Aパート

 

《求道奏音 LP1600》

 手札1枚(【継承名 パワーレス】)

     

     

     

     

    

《ジャン・ルブラン 手札と融合し自身をモンスター化、LP4000を攻撃力に変換》

 手札32枚(EXモンスターも強制手札化)

《①『腕』として取り込んだカードはそれぞれ独立したモンスター扱いとなる。(『腕』それぞれに攻撃権があり、破壊される場合も一本ずつとなる)》

《②エンドフェイズに、このターン戦闘破壊した相手のカードおよび墓地に送られた自分のカード全てを『腕』として取り込むことができる。》

《③『腕』が全て破壊された場合に敗北するが、逆にそれ以外の方法では敗北しない。(ライフダメージや回復は全て無効となる)》

 

 

 

「魔法カード発動!【光の護封剣】!」

「何?そのカードは?!」

 上方から光の剣が降り注ぎ、ムゲンジュ・ゴッドの周りを檻のように囲んだ。

 

《相手は攻撃宣言できない。3回目の相手エンドフェイズにこのカードを破壊する。》

 

「今は汎用カードも使うんだったな……だが所詮は時間稼ぎに過ぎないぞ!」

 ルブランが吠えたが、奏音は逆に落ち着いていた。

(やつは今、『時間稼ぎ』と言った……つまり現状では【光の護封剣】を突破できないということ……どうもあの【ムゲンジュ・ゴッド】は、腕の再生・吸収能力・連続攻撃が厄介なだけで、魔法への耐性や効果無効、除去能力は持ち合わせていないみたい……)

「私はこれでターンエンド。【パニシュメント・ザ・ハンド】の効果は切れて、私は次のターンから通常召喚できるからね。」

「ハッ、好きにしな!俺のターン……くそっ、この女のデッキ、シナジーがなさすぎる……」

 ルブランが引いたカードをそのままセットするだけでターンを終えるのを見ながら、奏音は確信した。

(やはり、スキルで融合・吸収したカードは『手札として扱う』だけで使うことはできないんだ……)

 奏音のドロー。思わず声が出た。

「あ、これ……」

 狙ったカードではなかったが、引いたカードを見ながらしばらく考えていると、ルブランがイライラし始めた。

「いつまでカードとにらめっこしてんだよ、レジェンド・カノンが遅延行為か?」

「いやあ、これもしかしたらいけるかもって思ってさ……」

「何?!」

 奏音はにやりと笑った。

「これ使うの初めてなんだよね~!【継承名 ギルティー・オール・ザ・セイム】!」

 幻竜族の【継承名】。しかしその姿はまるで、

「ムカデ……?!」

 地面から飛び出したのは、大蛇と見まがうほど体の長い竜、しかし手足が異常なほど多い。背中には鎧のようなうろこが何枚も連なり、まさにムカデの甲のようだ。頭は竜を思わせる形だが、目がなく代わりに短い角が生えている。さらに全身が、色を塗り忘れたように真っ白だった。

 

《ATK1600》《闇・幻竜・✪4》

 

「【ギルティー・オール・ザ・セイム】の起動効果!トゥー・シック・トゥー・ビー・アシェイムド!」

 

《自分のフィールドのカードと同じ枚数になるように相手は自身のフィールドのモンスターを墓地へ送る。》

 

    

    

     

     

   

 

「私の場にはギルティー・オール・ザ・セイムと光の護封剣の2枚!」

「俺の場にいるモンスターは俺だけだぜ?」

「でもお前の腕は一本一本が独立したモンスター扱いなんでしょ?現に効果がちゃんと発動したし。」

 ルブランの笑みが凍り付いた。次の瞬間、ムゲンジュ・ゴッドの体にギルティー・オール・ザ・セイムが巻き付いた。奏音がいたずらっぽく言う。

「手には手を……なんてね。」

ギルティー・オール・ザ・セイムはその生え過ぎた腕でムゲンジュ・ゴッドの腕を引きちぎり始めた。

「離れろぉぉぉぉ!!!」

 ルブランはムカデ竜を引きはがそうと躍起になったが、掴もうとした腕を逆に掴まれ引きちぎられていった。胴体から離れた腕は煙のように溶けて消え去り、ついにはルブランの腕は二本だけとなった。蝋でできた腕と槍を持った腕だ。

(【運命のろうそく】と【ガルマジャベリン】か……どの腕が破壊されるかあいつは自分で選べないのかな……なら好都合!)

「くそ……だが俺の腕はまだ二本、残っているぜ……」

 ルブランが呼吸を整えながら言った途端、槍を握っている方の腕が腐り始め、あっという間に土となり崩れ落ちた。奏音がからかうように言う。

「あと一本、だね?」

「てめえ何をし……はっ!」

 

【継承名 スキン・トゥ・ボーン】

《フィールドから墓地に送られた場合に発動。モンスター1体を対象、破壊する。》

 

 ムゲンジュ・ゴッドに取り込まれたカードは手札としてもフィールドのカードとしても扱うため、【スキン・トゥ・ボーン】が墓地に送られたことで破壊効果が発動したのだ。奏音はこれを狙ったわけではなかったが、ありがたい誤算だった。ついでにルブランを煽ることにした。

「私のモンスターを吸収したりするからこうなるのさ。なんでも奪えばいいってものじゃないよ?」

「このガキ……」

「さらに私は、墓地の【継承秘術 バーン・イット・ダウン】の効果を発動!」

 

《墓地にこのカードと【継承名 バーニング・イン・ザ・スカイズ】が揃っている場合に発動できる。このカードを手札に加え、【継承名 バーニング・イン・ザ・スカイズ】を特殊召喚する。》

 

 奏音の墓地から二つの火球が飛び出し、一つは手札、一つはフィールドへと向かった。

「もう一度頼んだよ!【バーニング・イン・ザ・スカイズ】!」

 フィールドに到着した火球は分裂し、編隊を組んだ。

 

《ATK1600》《闇・炎・✪4》

 

「ここで、手札から【継承名 パワーレス】の効果発動!」

 緑のうろこの年老いた竜が現れた。翼はぼろぼろで、両目は白濁している。口からきらきらと輝く炎を吐き、自らを火葬している。

 

《場に【継承名】が存在する場合、ライフを半分支払い発動。手札のこのカードを墓地へ送り、相手モンスターすべての攻撃力をエンドフェイズまで0にする。この効果は相手ターンでも使用できる。》

 

「なんだと?!」

「力任せな奴ほど脆いってことを教えてあげる、レリ・フォール!」

 盲目の竜が起こした炎と煙がルブランを覆った。魔性の炎に体の自由を奪われ、ルブランの両腕がだらりと垂れ下がった。

 

【求道奏音LP1600→LP800】

【ムゲンジュ・ゴッド】《ATK4000→0》

 

「なんだ、これは……か、体が……」

 ルブランは膝をつき、ぴくりとも動かない。奏音は気づいた。

(プレイヤーがカードと融合してるから、モンスターへの状態異常がそのままプレイヤーに影響するのか?)

「バトルフェイズ!」

    

   

     

     

   

《ルブラン 『腕』残り1本》

 反応がない。ルブランは口もきけないようだ。

(今ならあのリバースカードも発動できないかも!)

「バーニング・イン・ザ・スカイズで、ムゲンジュ・ゴッドを攻撃!」

 火の玉の編隊が一斉に出撃し、ルブランを取り囲んだ。360度どこにも逃げる隙がない。

「爆殺せよ!魔空包囲―」

「リバースカード・オープン!」

 それはルブランの声ではなかった。もっと若い、青年の声が、発動宣言をしていた。

「トラップ発動、【マジックアーム・シールド】。対象は【ギルティー・オール・ザ・セイム】だ。」

 機械仕掛けのシールドが現れた。

 

《攻撃モンスター以外の相手の表側表示モンスター1体を対象。そのモンスターのコントロールをバトルフェイズ終了時まで得て、攻撃対象をそのモンスターに移し替えてダメージ計算を行う》

 

 シールドからマジックアームが飛び出し、ムカデ竜の頭を掴んだ。そのままルブランの側に引っ張りこまれ、ギルティー・オール・ザ・セイムは再びムゲンジュ・ゴッドの体に巻き付いた。

「君の【継承名】モンスターはほとんどが攻撃力1600だから、相討ちだね。」

 青年の声が爽やかに言うと、ルブランを取り囲んでいた火の玉が一斉に襲い掛かった。ムゲンジュ・ゴッドに巻き付いていたムカデ竜が身代わりとして焼かれ、消滅した。奏音は成すすべなくその光景を眺めながら、姿の見えない青年に訊いた。

「君は誰……?そいつの代わりにトラップを発動させたってことは、このデュエルをずっと見てたの?この宇宙を作ったのも君?」

 青年の声が答えた。

「悪いね、レジェンド・カノン。今は答える時間がない。でもまた会えるよ。」

「どういうこと?」

 青年の返事はなく、代わりにターンの制限時間のブザーが鳴った。

「しまった、あいつを倒しきれなかった……」

 パワーレスの魔性の炎が消え去り、ムゲンジュ・ゴッドの腕が再生を始めた。

「よくも、よくも……ガキどもが、俺をコケにしやがって……」

 ルブランも意識を取り戻したようだ。錆びた鉄のような色の筋肉が脈打ち、怒りのオーラを漂わせている。奏音が煽ったとはいえ怒りが激しすぎるように見えた。

(なんだろ……あいつ、どこか必死だ……)

「ねじ伏せてやる……奪ってやる……この手で!この力で!!この強さで!!!」

 

 

 北条ピエールはエンドレスシティ第12地区で生まれ育った。AIによる労働適正診断は『ノーマル』。彼自身も労働意欲は特に湧かなかったため、ベーシックインカムで生活する一般市民として暮らしていた。時々デュエルをしながら何不自由なく暮らしていた彼は、ある日奇妙な夢を見た。

「奴が来た!ジャン・ルブランだ!」

「今度こそ取り押さえろ!」

「この殺人鬼め!」

 ピエールはその夢の中では悪名高い連続殺人犯だった。しかし当時の彼は殺人という概念すら理解しておらず、プレイヤーが直接殴り合うレギュレーションのデュエルなのだろうか、などと考えていた。ただ、夢の中で人を殴り殺すのは不思議な高揚感があった。

「ねえ、サリア……君のこと、殴ってみてもいい?」

 ある日、ピエールは妻のサリアにそう言った。『旧世界』の夢を見続けて半年、夢と現実の区別が曖昧になってきていた。「殴る」という行為がいまいちピンと来ていないサリアは不思議そうな顔をした。

「殴るって……ショーデュエルとかでやってるみたいな?」

「うん……この『世界』って、どういうわけか『暴力』がまるでないから……」

「また夢の話?まあいいけど、あんまり痛くしないでね?」

 妻の肩を殴った。しかし、うまく殴れなかった。あの高揚感もなかった。もう一度殴った。骨に当たり、妻が痛そうにした。少しだけうまくいったと思った。もっと殴ってみたくなった。妻はやめるように言ったが、殴り続けた。妻が「もうやめて」と泣きながら懇願するのを見ていると、夢で味わった高揚感が蘇ってきた。

(楽しい……すごく楽しい……もっと殴ったらどうなるんだ?)

 気づくと俺は、宇宙にいた。夢の中で見たSF映画の中みたいだった。妻は消え去り、目の前には白いワンピースの少女がいた。

「デュエルを始めるぞ、『特異点』よ。」

 

 

「俺こそが!『奪う側』なんだよぉ!ドロォォォ!!!」

 ムゲンジュ・ゴッドの腕は完全に再生していた。一度取り込んだ奏音のカードも再生の対象に含まれるらしく、【ワン・ステップ・クローサー】【バトル・シンフォニー】【スキン・トゥ・ボーン】の三枚は再び奪われてしまった。そればかりか、発動し終わった【マジックアーム・シールド】も新たな腕として加わっている。奏音は謎の青年の声のことは忘れ、いったんデュエルに集中することにした。

(腕が33本に増えちゃった……やはり全体除去でまとめて倒すしか……)

「ブハハハハハハ!どうやら決着が見えたぜ!!!」

 ルブランが狂ったように高笑いし、引いたカードを見せびらかしてきた。

 

【あの手この手】

《永続トラップ:1ターンに1度、手札を1枚デッキに戻し発動。手札から魔法カード1枚を発動する。》

 

「レジェンド・カノン……これがどういう意味か、分かるかぁ?!」

 奏音は……平静を装った。

「その無駄に増えた【手】を、アドバンテージに変えられるんでしょ。すごいね。」

 それ以上の事態だった。前のターンの【マジックアーム・シールド】のように、使い終わったカードは墓地から手札に戻る……ということは、ルブランの手札にある【天使の施し】や【精神操作】といった汎用性の高いカードを毎ターン使えてしまうのだ。

「俺はこのカードを伏せ……手札から魔法カード【おろかな副葬】を発動!」

 

《デッキから魔法・トラップカード1枚を墓地へ送る。》

 

 ルブランは自分のデッキをホログラムデータで確認し始めた。

「さあて……こんな紙束デッキでも……ははっ!いいカードあるじゃねえか!フハハハ……俺が捨てるのはこの【伝説の手刀】だ!こいつで次のターンに【光の護封剣】を破壊できるぜ!」

 

【伝説の手刀】

《装備魔法:①装備モンスターの攻撃は貫通する。②装備モンスターが攻撃表示の場合、1ターンに一度、相手のカードを1枚対象とし発動、破壊する》

 

 これも公開する必要のない情報だが、ルブランはあえて教えることで奏音に恐怖を与えようとしていた。もちろんその程度の揺さぶりなどレジェンドにとっては日常茶飯事だが、この絶望的な状況ではさすがの奏音も動揺を隠せなかった。

「……っ!」

(除去カードを引きこまれた……これはさすがの私でも……もう……)

「いい表情だなあ!レジェンド・カノン!俺はこのままターンエンドだが……忘れるなよ?このデュエルで負けた側は精神エネルギーに変換されるんだぜ?」

 もちろん奏音は忘れてなどいない。そもそも、奏音のデュエルは常に『世界』の存続がかかっている。この局面でも奏音は考えることを止めてはいなかった。

(あいつ、おろかな副葬と伝説の手刀を【手】に加えないままターンを終えた……?煽るのに夢中になったか……?)

「さあ!レジェンド・カノン!お前のターンだ!最後の希望をドローしなぁ!」

 ムゲンジュ・ゴッドの異形の姿でもルブランの表情はなんとなくわかった。力と加虐の喜びに酔いしれており、さらに……何か企んでいる。幸か不幸か、奏音は勘付いた。

(まさか!あれをやるつもりか?!)

「くっ……私のターン……」

 奇しくも、奏音が引いたカードは、待ち望んでいた全体除去カードだった。

「この瞬間!永続トラップカード!【あの手この手】を発動!」

 だが奏音は喜べなかった。次にルブランがやろうとすることが読めていたからだ。

 

【あの手この手】

《永続トラップ:1ターンに1度、手札を1枚デッキに戻し発動。手札から魔法カード1枚を発動する。》

 

「俺は手札の【天使の施し】をデッキに戻し、この魔法カードを発動する!【エクスチェンジ】!」

 

《お互いのプレイヤーは手札を公開し、それぞれ相手のカード1枚を選んで自分の手札に加える。》

 

「ブハハハハハ!お前の最後の希望を!文字通り奪ってやるよ!!!」

 この男はそういうことをしてくると奏音にはわかっていた。【伝説の手刀】や【おろかな副葬】を墓地に置いたままにしたのは、エクスチェンジで奏音に奪われないようにするためだろう。

 

《求道奏音の手札からカードを選択してください。》

《ジャン・ルブランの手札からカードを選択してください。》

 

「さあて、お前が引いたカードは……【破壊竜ガンドラ】だと?!なるほど、展開力の高い【継承名】ならではのカードだな……まあ今のお前に2体のリリースを用意できるかは分からんが……一応頂いておくとするか、ハハハハ」

 ルブランは【破壊竜ガンドラ】を選んだ。奏音は、ホログラムデータで並んでいる31枚のカードを眺めていた。スキルのせいか、【生者の腕】のようなエクシーズモンスターも選ぶことができるようだ。

 

《ジャン・ルブランの手札からカードを選択してください。》

 

「おいおいどうした?お前の大好きな【継承名】モンスターも選んでいいんだぞ?まあ他はゴミだがな!」

 奏音は31枚のカードをじっくり眺めた。【ワン・ステップ・クローサー】を取り返せば、デッキ内の様々なカードにアクセス可能だが、下級【継承名】にこの状況を打破するカードはない。魔法カードであれば、一度に複数枚のカードを除去可能な【継承秘術 ヴィクティマイズド】というカードがあるが、1ターン目の【手札抹殺】で墓地に落とされてしまっていた。

(ん?待てよ、手札抹殺?)

 【手札抹殺】のカードはすぐに見つかった。奏音は思わず顔をしかめた。

(舐めやがって……)

 奏音は手を伸ばした。

    

     

     

     

   

Bパートに続く

 




ガンドラ「せめて召喚されたかった……」
ろうそく「それな……」
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