ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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Q.TURN6で、魂の残滓となっている特異点たちは(質量データを失っているため)お互いに触れることができないと判明しましたが、TURN5で美咲がリオールの肩に手を置く描写がありませんでしたっけ?
A.愛の力じゃよ……


遅くなったお詫びに、今日は二話連続投稿です!(括りとしては一話分)


TURN7 開戦 Bパート

「どくさいしゃ……って何?」

「ショーデュエルの悪役によくいるだろう、なんでも自分の思い通りにしようとする権力者が。」

「ああ、あれね!」

「君は【継承名】デッキという強すぎる力によって、その独裁者になる必要がある。」

「え?!やだよ!」

「だがそれで幸福な世界が実現する。『全てを奪った』者が、『全てを背負う』。私と君と、【継承名】デッキなら可能なのだ……」

 

 

《求道奏音 LP800》手札2枚(【継承秘術バーン・イット・ダウン】、【破壊竜ガンドラ】※エクスチェンジ選択済み)

    

     

     

     

  

《ジャン・ルブラン》手札31枚

 

 ルブランはほくそ笑んでいた。

(かかった……【手札抹殺】のカードを見つけたようだな!)

 ルブランの手札は現在31枚。【手札抹殺】を使われた場合は31枚のドローを強制される。手札のうち4枚が奏音のカードであってもだ。普通ならデッキ切れが起こりうる数だが、ルブランは前のターンに【おろかな副葬】を使ったときにある事に気づいていた。

(このデッキは60枚デッキなのさ!そして残り32枚の中には……!)

 

【封印されしエクゾディア】

【封印されし者の右腕】

【封印されし者の左腕】

【封印されし者の右足】

【封印されし者の左足】

 

(エクゾディアの封印カードが入ってやがった!ディーピカ手島のふざけた趣味がこんな形で役に立つとはな!)

 ルブランは笑いをこらえていると、突然、奏音が尋ねた。

「お前さ、何のために『奪う』の?」

「は?」

 ルブランは間抜けな声が出てしまった。奏音が続ける。

「お前なんかと話すつもりなかったけどさ、いちおう確かめとく……お前が『奪った後』のことを考えてるのかどうか。」

「何が言いたい?」

「『奪う』責任は感じてる?」

 ルブランは高笑いした。

「奪うことに責任?!?!俺は『奪うのが楽しい』!自分の『力を実感したい』!ただそれだけだ!」

「そっか。」

 その時ルブランには、奏音がどこか安心しているように見えた。

「なら遠慮なく、このカードをもらうよ。」

 奏音はルブランの手札から選んだカードを自分の手札に加えた。【エクスチェンジ】の効果処理が終了した。ルブランの【手】がいくつか入れ替わり、【破壊竜ガンドラ】の腕が生えてきた。ルブランは自分の手札を確認し驚いた。

(て、手札抹殺が、ある……!)

「そのままメインフェイズ。私は今もらったこのカード、【阿修羅】を召喚!」

    

    

     

     

   

「ア、アスラだとぉ?!」

 三面六手の仏神が現れた。ルブランは予想していない事態にうろたえた。

(このガキ、まさか手札抹殺を見落としたのか?!)

「手札抹殺には気づいてたよ。」

 奏音が心を見透かしたように言った。

「お前がそのカードを渡したがってることにもね……そのデッキ、多分60枚デッキでしょ?」

「な、なぜそれを!」

 ルブランは困惑した。奏音にデッキ枚数を知る機会などなかったはずなのだ。

「だってお前、【あの手この手】の発動コストで【天使の施し】をデッキに戻してるよね?私にエクスチェンジで取られたくないカードをちゃんとケアしてるのに【手札抹殺】だけ残すのは変でしょ。使われても問題ないとわかってたからだよね。」

「ぐっ……」

 デッキ枚数は公開情報ではないが、ディーピカ手島の性格から、『入れたいカードは全部入れる』暴挙に出ていてもおかしくはないと奏音は考えていた。

(ディーピカちゃんなら【封印されし者の右腕】使いたさにエクゾディアパーツ全部入れるとかやりそうだし……それに【イモータル・ムゲンジュ・ゴッド】はライフダメージさえ無効にするスキルだから、デッキ切れも負け判定にならない可能性だってある……)

 企みを看破されたルブランは、逆切れし始めた。

「だが!結局てめえが選んだのはそんな雑魚モンスターだ!どのみち次のターンで終わりだろ!」

「【阿修羅】は雑魚じゃない。いい加減自分が奪ったカードくらい確認しろよ。」

 奏音の言葉には静かな気迫が漂っていた。ひるんだルブランは、思わず阿修羅のテキストを読んだ。

 

【阿修羅】

《ATK1700》《光・天使・✪4・スピリット》

《永続効果:このカードは相手フィールド上のモンスターすべてに一回ずつ攻撃できる。》

 

「なんだ、ただの全体攻撃か……攻撃力なら俺の方が……」

 その時、彼は思い出した。自分が一度、攻撃力を0にされたことを。

「まさか……」

「そのまさかさ。【継承名 パワーレス】は、《自分のフィールドに【継承名】モンスターがいない場合》に一度だけ、墓地からも効果を発動できるんだ……手札から使った時と同じ、敵モンスター全員を無力にする効果だよ。」

 ムゲンジュ・ゴッドの腕はそれぞれが独立したモンスターとして扱われる。奏音の言葉は事実上の勝利宣言であり、死刑宣告でもあった。ルブランは言葉を失った。

(なにか……なにか手はないのか?!このままじゃ俺はまた……!)

 奏音が冷ややかに続ける。

「お前の【エクスチェンジ】はプレイングミスだった。ディーピカちゃんなら私の出方に合わせて【精神操作】を使ってただろうね。」

「うるさい!」

「お前はそのデッキを見下してたから、【阿修羅】の可能性も見落とした。」

「やめろ、マウント取ってんじゃねえ!!!」

 奏音はその叫びに、どこか悲痛なものを感じた。

(あいつ、怯えてるのか……?)

 急に、取り乱していたはずのルブランが笑い出した。

「そうだ……そうだった!フハハハ!いいか、レジェンド・カノン!!このデュエルの本来のプレイヤーはディーピカ手島だ!俺の自我はこいつの体に相乗りしてるだけで、あの小娘を殺したわけじゃないんだぜ?!そのまま攻撃すれば、負けて精神エネルギーに変換されるのはこいつの―」

「違うね。」

「へ?」

 ルブランは虚を突かれた顔になった。

「【エクスチェンジ】の効果処理ガイドには、お前の名前が表示されてた。ディーピカ手島じゃない。」

 

《ジャン・ルブランの手札からカードを選択してください。》

 

「お前はディーピカちゃんのデッキもスキルも奪った。今デュエルで命を賭けてるのは間違いなくお前だよ。」

 奏音には確証があるわけではなかった。負けた方が精神エネルギーに変換されるというのもいまだに呑み込めていない。しかし、デュエルにおいて精神エネルギーを最も多く抽出されるのは他の誰でもない、闘志に持ったプレイヤー当人からであり、その延長線上に死があるというなら、ルブランの方がディーピカ手島よりリスクを背負っているはずなのだ。ルブラン自身もその理屈に思い至ったらしく、おぞましい顔が強張っていた。

「こんな、こんなはずじゃ……」

「こんなはずじゃなかった?」

 奏音は思わず声を荒げていた。

「『殺し合い』を仕掛けたのはお前だろ!『奪う』にはそれ相応の覚悟がいる!『奪った』なら相応の責任を果たさなきゃならない!遊び半分でやっていいことじゃないんだよ!!」

 奏音には、ムゲンジュ・ゴッドの巨体が小さく見えていた。

「リオール!俺だ!もう実験は十分だろう!助けろ!」

 ルブランは見えない誰かに助けを求めはじめた。

「逃がさない!私はライフを半分払って、墓地の【継承名 パワーレス】の効果発動!レリ・フォール!」

 

《求道奏音LP800→400》

《エンドフェイズまで、相手モンスターすべての攻撃力を0にする》

 

 奏音の墓地から鮮やかな緑の炎が噴き出した。宇宙空間の星々を覆い隠すほどに炎は広がり、ムゲンジュ・ゴッドの体に燃え移り始めた。

「くそ、リオールの奴どこ行きやがった!こうなったら……!」

 ルブランが奏音をにらみつけ、燃え盛る体で襲い掛かってきた。実力行使というわけらしい。奏音は、阿修羅の方を見た。

「仇、取ってきてくれる?」

 阿修羅はこくりと頷き、跳躍した。ルブランがまだ力の入る拳を振り上げた瞬間、彼の目の前で憤怒の形相の阿修羅が構えていた。奏音が攻撃を宣言する。

「地獄の千手拳!!!!」

 阿修羅の砲弾の様な正拳が、嵐のごとく降り注いだ。ルブランの断末魔が聞こえたような気がしたが、肉を打ち貫かれる音にかき消えた。ムゲンジュ・ゴッドの【手】が、一本、また一本と砕け散り、囚われていたカードたちが成仏していく。全ての腕が吹き飛び、最後にルブランの巨体は爆炎の渦に消えた。

 

 ぶわり。

 

始まった時と同じように唐突に終わりが来た。今度は熱風と閃光に奏音は包まれたが、目を開けていたため、疑似宇宙空間が粒子となって霧散する光景を一瞬だけ見ることができた。

「奏音!!!」

 奏音が呼ばれた方向を見ると、チェスがいた。いつの間にか第18番ゲートの前に戻ってきていた。アバター用のベルトが壊れ、奏音の姿は魚ギョ戦士ではなくなっていた。変装用のキャップやサングラスもどこかに消えていた。

「無事か?奏音?!」

 駆け寄ってきたチェスは奏音を抱きしめた。声も半分泣きそうだった。こんなチェスは始めて見る。

「うん……私、ダイジョブ……」

「鼻血が出ている!医療班!早く!」

 イベントスタッフやドローンがぞろぞろと集まってきた。離れたところでプラネットでのデュエルを観戦していた者たちも、騒ぎに気づきこちらに近寄ってきた。

「そうだ……ディーピカちゃんはどうなった?」

「ディーピカちゃん?」

「イベント参加者のひとりだよ。さっきまで私と……」

 奏音は息をのんだ。数メートル先にディーピカ手島が倒れていた。奏音同様ベルトが壊れ、疑似空間で見た少女の姿に戻っている。ドローンが彼女の頭上で体をスキャンしスタッフ達がそのデータをチェックしていた。

「外傷はないが……なんで起きないんだ?」

「精神エネルギーの過抽出かもしれない、秘薬ゴブリンに任せよう。」

 医療班がディーピカ手島を搬送していった。奏音は急に震えが止まらなくなり、奏音の手当てをしていた医療スタッフが何事かと慌てた。

「なんで……そんな……私が倒したのはルブランの方なのに……?」

 再び、チェスが奏音を抱きしめた。スタッフは困惑している。

「奏音、大丈夫。大丈夫だ……彼女の肉体はまだ生きている。すぐによくなる……」

 チェスが優しく言った。奏音は泣きそうになるのを必死にこらえた。

「『特異点』に襲われたんだな?怖かったろう……今は休め。あとは私がやる。」

 そう言って頭を撫でられると、奏音はこのままチェスの胸に体を預けてしまいそうだった。しかし、

「私にも戦わせて。」

 震えながらも力強く言い放ち、チェスの抱擁を解いた。

「奏音……?」

「襲ってきた『特異点』には勝った。私は戦力になるはず。」

「待て奏音、何を急に……!?」

「急なんかじゃないよ、チェス。『全てを奪った』者が、『全てを背負う』……これはもっと早くから、私が向き合わなくちゃいけなかったんだと思う……」

 チェスは目を丸くした。

「危険すぎる……!」

「わかってる。だから知りたいんだ。敵は何なの?『特異点』って何?どうすれば、ディーピカちゃんみたいな被害者を出さずに済む?」

 奏音の周りにいた医療スタッフたちはいまや野次馬の牽制に当たっていた。それゆえ辺りは騒がしくなっていたのだが、奏音とチェスの間にだけは、沈黙が存在していた。

「本気、というわけか……」

 チェスが苦々しく言った。

 

 

 

 荒廃し、朽ち果てた神殿の中。崩れた天井から差し込む陽の光に照らされた玉座。そこにゆったりと腰かけている青年と、彼に平伏する数十人のデュエリストたち。まるで小さな王国のようだった。

「リオール……実験は成功したとはいえ、ルブランが倒されたのは大きな損失なんじゃ……?」

 デュエリストの一人、アンドラ・コナーが顔を上げ、玉座の青年に尋ねた。

「大丈夫だよ、父さん。彼が倒されるのは織り込み済みだから……それに、ほら」

 リオールが一枚のカードを取り出した。絵柄もテキストも記されていないカードだが、名前だけは付いていた。

 

【ジャン・ルブラン】

 

「彼の魂の『自我』は変換されてしまったけど、魂の『核』は保存してあるんだ。彼の『固有スキル』もここに記録されてるよ。」

 デュエリストたちの中にどよめきが起きる。弁えることを知らないレイチェル光尊が感嘆の声を上げた。

「すごいよリオール君!いつの間にそんなことできるようになったの?!」

「ソード様と『融合』してからできることが急に増えてね。このルブランのカードをデッキに入れるだけで、彼の固有スキルである『暴圧』が使えるようになり、」

「デュエル以外の方法でも、エンドレスシティに干渉できるようになる!」

 興奮してリオールのセリフを奪い始めたレイチェルを、大河美咲がたしなめる。

「不敬よ、レイチェル。リオールの言葉はいまやソード様の言葉と等しいの。」

 レイチェルは不服そうな顔をして黙った。リオールはその様子に微笑み、

「さあ、これで『創造者』の箱庭を踏み荒らす準備はできたわけだけど……レジェンド・カノンの暗殺に失敗したから、向こうは僕たち特異点が生きていることに気づいたと思う。つまりここからは……戦争だよ」

 リオールが左腕を上げた。それに倣うようにデュエリストたちも一斉に左腕を上げた。そのすべての腕に、深紅のデュエルディスクが装着されていた。

 

 

 

TURN8へ続く

 




Q.エクスチェンジの手札交換はターンプレーヤーから選びますよね?
A.アニメ・原作と同じく、発動した側が先に選んだり譲ったりする裁定だと思ってください。


【伝説の手刀】や【あの手この手】はオリカです。継承名カード以外はカードパワー控えめにするつもりですが……既に失敗してる気もするな……いきなりシリアス展開したので、次回からはイベントの方に戻ります!
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