ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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もう完全に不定期更新……ごめんなさい、マスターデュエルで遊び…取材に忙しかったんです


TURN8 試練-走- Aパート

 

 

 10月24日、午後0時13分、シェルタープラネット森林区、イベントマップ名『無音の森』

 

「すっげええええ!」

 奏音は思わず声を上げていた。彼女は今、絵本やアニメでしか見ないような薄暗い森の入り口にいる。いまにも魔王の傀儡たちが飛び出してきそうだ。

「テーマパークにきたみたいじゃん! テンション上がるぅ!」

 奏音はデステニー・クロスロードのイベントに遅れて参加、という扱いになり、当初の第18番ゲートではなく第五地区南の第56番ゲートからプラネット内に入った。第18番ゲートはイベント管理スタッフによる調査と警備のため封鎖されてしまったのだ。チェスいわく、『特異点』達の活動の痕跡が残っていないかも調べさせたいとか……

 

「……今の私が持つ『特異点』の情報はこれが全てだ。そしてその上で……奏音、君にはデステニー・クロスロードに戻ってほしい」

「どうして?!」

 奏音はつい語気が強くなり、慌てて周囲を伺った。イベントスタッフたちは変わらず野次馬を散らしており、誰かに話を聞かれた様子はない。先ほどまで奏音の手当てをしていた医療班の人たちも、奏音の手当てが終わったので既に撤収していた。もっとも、奏音はチェスが既に【絶対不可侵領域】を発動させていることを知らないのだが。

「私だって戦えるよ?」

 奏音は駄々をこねているとチェスに思われないよう、冷静な口調を心掛けた。

「戦うなとは言っていない」

「え?」

「今後も『特異点』達は君を狙うはずだ。そして現状では、私はそれを防ぐことができない」

 チェスが苦悶の表情を浮かべている。八月にこの『世界』の『崩壊』を告げた時以来、二度目だった。

「君は自衛するしかない。だがこのプラネット内の戦いであれば、こちらには都合がいい」

「そうなの?」

「そもそもこのイベントは君が不特定多数のデュエリストと戦うことで精神エネルギーを大量に生み出すことが目的だ。例年のトーナメント以上に生み出された精神エネルギーはこの『世界』を『補強』するのに使われるが、その一部は私の動力にもなる」

「あ、そっか」

 奏音は思い出した。チェスが以前、『特異点』を処理した後に疲弊していたことを。

「その動力が『特異点』の処理に使われるんだね?」

「ああ、疑似空間に奴らを幽閉し、そこで行なうデュエルによって処理できる。ただ相手によっては私の消耗が激しく、数をこなせないのだ」

「プラネット内なら私と戦いたがってるプロが多いし、観客も外から見てる! エネルギーがもりもり稼げる! チェスが連戦できる!」

「そういうことだ。最後に、奴らとのデュエルにおける注意点だが……」

 

 奏音は大きく息を吸い、森の中に向かって叫んだ。

「イイイイイイヤッッッホオオオゥ!!!!」

 奏音は左手首に装着したデバイスで、デュエルアプリを起動した。

(できるだけ多くの敵と戦い、精神エネルギーを集める! さあ、こい、魔王の傀儡ども……私はここだよ……なんなら『特異点』がいきなり来てくれてもいいんだからね……!)

 奏音は待った。全身の感覚を研ぎ澄ませ、時々奇声を上げ、自分の居所を森の中に向かってアピールしながら、五分ほど待っただろうか……

(来た!)

 森の闇の奥からカサカサと音がする。風で枝葉が揺れる音ではない、質量をもったモノが動く気配がした。人か、あるいはもっと大きい何かが、こっちを伺っている。奏音はその何かに向かって再び叫んだ。

「そこにいるのは分かってる! さっさと出てきて私と―」

「おい、何やってんだ?」

 背後からの男の声に奏音は飛び上がった。比喩ではなく、20センチは跳ねただろう。着地に失敗し尻もちまでついた。

「いったぁぁ!!」

「大丈夫か?」

 奏音は差し出された手の主を見上げもう一度驚いた。真っ赤な熱された岩のような体のモンスターだ。ゴツゴツし過ぎて体型が人か獣かすら判別できない。

「魔王の傀儡か!」

 尻の痛みに耐えながら、奏音は後ずさりした。

「違う違う。俺たちは勇者プレイヤーだよ。ほら、ベルトしてるだろ?」

「あっ」

 確かに赤いゴツゴツは勇者プレイヤーに与えられるアバターベルトをしていた。しかし奏音はそれよりも、ゴツゴツの後ろのもう一体、青いゴツゴツ……というよりグサグサといった感じの、鋭利な岩のモンスターに目が行った。

「君たちのアバター、もしかして【灼岩魔獣】と【氷岩魔獣】?」

「あったり~、てか奏音ちゃん、あたし達の声、聞き覚えあるんじゃない?」

 氷岩魔獣は女の声だった。この妙に色っぽくて腹の立つしゃべり方に、奏音はハッとした。

「ああっ! プロデュエリストの『純情セクシーガール』!」

「『純情ピクシーガール』ね。そんな劣情刺激ネーミングしてないから私」

 氷岩魔獣はいらだちをにじませながら突っ込んだ。

「じゃあこっちの灼岩魔獣は……『ジェントルマン下心』?」

「『ジェントルマン真心』だよ! 間違え方がもはや風評被害じゃねえか!」

 ピクシーと真心は十年ほど前に奏音に挑んだプロデュエリストで、今は現役を引退し、デュエルコーチ・デュエル動画による後進育成に力を入れている。引退のきっかけは二人の電撃結婚だった。引退せずともいいのではないか、というインタビュアーの問いかけに、「(ピクシー)もし二人が公式の試合で対戦することになったら、盛大なのろけの披露になっちゃう」「(真心)プロとしてそれは見せられない」と答えているが、ファンに行なったアンケートでは92%が「それはそれで見たい」だったという。

 緊張が解けた奏音は、先ほど睨み付けていた森の奥をちらりと見た。気配はもう感じない。

(逃げたのかな……?)

「ところで……なんで二人がここに? 遅刻?」

 奏音はそれも気になっていた。この二人は明らかに、奏音の背後の56番ゲートから出てきていた。

 氷岩魔獣がやれやれといった風に答える。

「レジェンド・カノンがベルトのトラブルで遅れるっていうから、この近くにいたあたしたちが迎えに来たってわけ。イベントスタッフに事情を聞くために、一時的にプラネットの外にいたの」

「このイベント、ソロ攻略は何かと不便だからね。特にここ『無音の森』は迷うリスクもあるし」

 奏音は違和感を覚えた。チェスが気を利かせたにしては、らしくない。

「でも私たち、本来はライバルでしょ?」

 今度は灼岩魔獣が答える。

「そうでもないのさ。魔王の傀儡の中には、多人数で挑まなきゃ歯が立たない強敵がたまにいてな。噂じゃ魔王も多人数戦が前提の激やばスキル持ちだとか」

「あ、私をパーティに入れたいんだ」

「うーん、ちょっと違うな」

「違うの?」

 氷岩魔獣がセクシーたっぷりに言う。

「あたしたちはカップルのパーティだから、奏音ちゃんの席はないの……ペット枠ね♡」

 奏音は静かにデバイスを構えた。

 

 

 

 祭壇に並べたカードを眺めながら、リオール大河はため息をついた。

「このデッキ複雑すぎ……面白いけどさ……」

「へーこんなの使うんだリオール君」

 リオールは虫を払うような滑らかで素早い動きで、右肩後ろから覗いているレイチェル光尊に裏拳をお見舞いした。

「ぎゃっ!」

 レイチェルは後ろに身を反らしギリギリで避けたが、リオールの暴力にかなり驚いたようで、両手で鼻の頭をかばっている。

「リオール君! 今のはシャレにならないよ?! もう君は人を殴れるんだから!」

「本当に殴れるか試してみたかったんですよ……あなたなら躱せると思いましたし……なにより覗かれてイラッときたので」

「最後ただの私怨!」

「ところで何をしに?」

「報告だよ。偵察がレジェンド・カノンを見つけたんだ。なんとイベントに戻ってる」

「意外ですね……プラネット内で自分が探されていることは、彼女も知っているはず……それに……」

「早すぎるよね」

「ええ。仮に僕たちと戦うつもりだったとしても、決断が早すぎる……いま彼女はどこに?」

「56番ゲート付近の森を勇者二人と散歩中」

「近くにいる『特異点』は?」

「シセ遼太郎だね」

 リオールは少し考えてから、

「よし、第二実験はシセを使いましょう。偵察にはレジェンド・カノンの動きを逐一報告させてください」

「了解しましたソード様!」

 レイチェルが瞬間移動で姿を消した。

 

 

 

 灼岩魔獣と氷岩魔獣のカップルパーティは、道案内と情報共有を条件に、奏音に同行を求めてきた。エリアボスなる傀儡に挑みたいらしい。奏音はデュエルで行動決定権を賭けようと言ったが、勇者同士の争いは無意味だと一蹴されてしまった。よく考えればそれも当然で、イベントの最終目標は魔王の討伐なのだ。勇者同士が協力しあった方が攻略ははかどる。奏音は(しぶしぶ)提案を受け入れた。元プロの二人とここで戦うより、有益な情報を得てエリアボスと戦う方が賢明なことくらいはわかる。

「レジェンド・カノンと戦うチャンスがあるって聞いて、俺もハニーも最初はワクワクしたよ。でもすぐに、これは同士討ちを誘う、イベント主催者の罠だって気づいた」

「わ、罠ね……」

 三人は森の中を進んでいた。氷岩魔獣(純情ピクシーガール)が先頭を進み、灼岩魔獣(ジェントルマン真心)と奏音が並び歩き、話をしていた。

「君を倒すことだけが目的の参加者は、魔王の傀儡も他の勇者も見境なくデュエルを挑んでくる。勝利報酬でもらえるスキルやカードのデータに、君への対策になるものがあるかもしれないからな。ところが魔王城に行きたい勇者には、これが邪魔でしかない」

「デュエルを断れば? 勇者同士ならできるでしょ?」

「そうでもない。魔王の傀儡の中に、『強制デュエル』系スキルをドロップするやつがいたんだ。スキルを手にした勇者が他の勇者に負ければ、そのスキルデータがドロップして相手にも渡るから……」

「邪魔する勇者がどんどん増えてった……うわあ……」

「ちなみにデュエルを断ると、他の邪魔勇者にその情報が売られて『強制デュエル』持ちに狙われる。あいつら『レジェンド・ハンター』なるギルドを作ったらしい」

「もうどっちが魔物か分かんないねそれ……」

 勇者同士の競争や、レジェンド・カノンを見つけるための情報戦などは、チェスと奏音にとっては想定内……というより狙い通りなのだが、さすがにここまでイベント攻略の足かせになってくると罪悪感がしてきた。単に体験型のショーデュエルイベントを楽しみたい参加者もいるはずなのだ。

「そうだ、魔物といえば……魔王の傀儡たちが一向に出てこないんだけど、なんで?」

「ああ、この辺のは俺とハニーで大体やっつけたからな。他の勇者やハンターも魔王城の方に向かったし、残った傀儡もそっちを追ったはずさ。エリアボスだけ倒せば、この森は俺たちの縄張りだよ」

「すごっ! まだイベント始まって二時間も経ってないでしょ?!」

「愛の力さ。だろ、ハニー?」

 先頭を歩いていた氷岩魔獣が立ち止まった。

「ちょっとダーリン……」

「どうした? まさか照れて―」

「これ見て」

 氷岩魔獣の視線の先、木々の間に電動自転車の残骸が転がっていた。バラバラになっているためわかりにくいが、何台かあるようだ。

「俺たちのマウンテンバイクじゃねえか! どうなってんだ?」

 驚く灼岩魔獣とは対照的に氷岩魔獣はすでにデバイスで分析を始めていた。

「アイテムの破壊はルール違反だから、ハンターや傀儡ではないはず……野生動物かしら?」

「エリアボスの住処までまだ結構あるっていうのに……まじかよ……」

 奏音はふと、自分に近づいてきていた何者かを思い出した。

「ねえ、さっきさ……二人と出会う直前に、私、森の中に何かがいるのを見たんだ……結構体大きめかなってその時は思ったんだけど……」

 灼岩魔獣が奏音を振り返る。

「ほんとか……? おいハニー……」

「あたしも同じこと考えてた」

 話に置いて行かれそうになり、奏音は慌てて二人に割り込む。

「この森にはまだ何かいるの? 危険な奴?」

(まさか、『特異点』?!)

 氷岩魔獣が奏音を見て噴き出した。爆笑だ。氷岩魔獣のアバターの小さな目が細くなっている。

「ちょっと奏音ちゃん、何その怖い顔! あんた結構設定に入り込むタイプなんだねぇ!」

 灼岩魔獣も肩を震わせて笑っている。氷岩魔獣が奏音の頭をよしよしと撫でながら話し出す。

「何を想像してるのか知らないけど、バイク壊したのは多分エリアボス、あんたが見たのもね。通常の傀儡とは行動パターンが違うって言うし。ていうかあんたもう少し肩の力抜きな? これはデュエルのお祭りなんだから」

 奏音はむっとして氷岩魔獣の手を払った。

「二人とも元プロなのに、そんないい加減な覚悟でやってていいの? 今の仕事に悪影響出るよ?」

 氷岩魔獣は再び噴き出した。

「レジェンドらしい考え方ねぇ!」

 奏音の表情がさらに険しくなったのを見て、灼岩魔獣が補足する。

「もちろん、手は抜かないさ。でもこういうイベントは、参加する俺たちもラフに楽しんでる方が、見てる側も楽しかったりするんだぜ?」

 理屈としては理解できる。奏音だって、レジェンド戦では『デュエルを楽しむように心がけている』。しかし奏音は胸の内にモヤモヤしたものが残った。こんなに腑抜けていいはずがない。

(そんな場合じゃないんだよ……)

「ま、君は真剣勝負が好きってことなら……ハニー、あれ使うとき来たんじゃない?」

「そうね」

 氷岩魔獣は腕のデバイスを操作し、アイテムボックスを開いた。

「何するの?」

 奏音が尋ねると、氷岩魔獣は一つしかないはずの目で器用にウインクして見せた。

「エリアボスを探すの。この『スキルチケット―デュエリストセンス:傀儡―』でね」

 氷岩魔獣の手元にホログラムのチケットが出現した。灼岩魔獣が解説する。

「半径200メートル以内にいる魔王の傀儡の位置情報が、五分だけ公開されるのさ。おそらくエリアボスは、少し前から俺たちの様子を見てたんだろう。会話を盗み聞きとかして、こちらの戦う意思を確認したから、俺たちが逃げたりできないように先回りしてバイクを破壊したってとこかな」

「スキルチケットはバイクと違って一度使うと消えちゃうアイテムだから、使うタイミングを見計らってたってわけ」

 氷岩魔獣はそう付け加えると、チケットをタップした。ホーリー・シャイン・ボールほどの大きさのホログラム球体が現れ、三人のいる現在地点と、エリアボスと思われる座標が赤く光る点で表示された。

「ダーリン、エリアボスはこっちに向かってるよ、上方からかなりの速さで!」

「飛行能力持ちか!」

 先ほどまでお気楽そうに見えたカップルの雰囲気が変わっていた。奏音が対峙したことのある、デュエリスト特有の殺気のような雰囲気だ。灼岩魔獣が奏音を見る

「レジェンド・カノン、期待してるよ?」

 奏音は既にデュエルアプリを起動していた。

「それより心配しなよ、手札次第じゃ君らまで倒しちゃうかも」

 上から強い風が吹いてきた。まるでヘリコプターの着陸だ。奏音の目の前にあった大きな木の真上に、それは浮いていた。象ほどの大きさで、大きな耳と翼をもち、体型は猫に近い。全身が青白い毛に覆われ、巨大な一つ目は血走っている。

(こ、このモンスターは……!! 【エンゼル・イヤーズ】だっ!!!)

 

 

 実験は成功し、シセ遼太郎は既にレジェンド・カノンの元へたどり着いた。リオールは偵察に状況報告を任せ、祭壇に瞬間移動で戻ると、レイチェル光尊も付いてきていた。何か伝え忘れたことでもあっただろうかと見た彼女の顔は、妙ににやけている。

(絶対実験と関係ないこと言おうとしてるな……)

「ねえねえリオール君、聞きたいことがあるんだけど……」

「手短にお願いします」

 レイチェルは質問の許可が出たことに嬉しそうな表情をした後、腹の立つ顔のまま切り出す。

「どうして第一実験にジャン・ルブランを使ったの?」

「適任でしたし、彼が希望したからです。皆の前できちんと説明したでしょう」

「ふーん……じゃあ質問を変えるよ、どうしてルブランの立候補を止めなかったの?」

「……どういう意味です?」

 レイチェルは笑みをこぼした。私は本当のことを知ってるんだから、と言いたげな顔だ。

「しらばっくれちゃって! 君はルブランが倒されるのは織り込み済みだって言ったけど、『特異点』の最高戦力の一人をいきなりレジェンド・カノンにぶつけるなんてクレバーなやり方とは思えないよね? 負けを想定できたんなら尚更だよね? 君、本当は最初からルブランを消したかったんじゃない?」

「どうしてそう思うんです?」

「あいつは粗暴で嫌な奴だった。ソード様の前じゃ大人しかったけど、君に対しては目に見えて舐め腐ってたでしょ」

「そんな理由で仲間を戦地に送ったりしません」

「『普通』の君ならね。でも、『旧世界』の君はそういうことしてたんじゃない?」

 リオールが旧世界の夢の中では国際テロ組織のリーダーをしていたことを、レイチェルは知っている。

「心外です。夢の中じゃゲーム感覚でしたけど、仲間は大事にしてましたよ。ここでも同じです」

「大事にしてるのは仲間じゃなく、仲間のスキルじゃないの?」

 レイチェルは微笑んではいたが、眼は笑っていなかった。リオールはため息をついた。

「分かりましたよ……あなたの読み通り、ルブランには倒されてもらう予定でした。万が一あそこで彼が勝っていても、僕が消したと思います」

 

 

 エリアボスの恐ろしい風貌に見入りつつも、奏音は興奮していた。

(【エンゼル・イヤーズ】はショーデュエル界の名わき役! スーツアクターデュエリストのプロテイン安田はショーデュエル黎明期から活躍するベテランで、やられ専門の雑魚モンスターから凶悪なボスモンスターまで幅広い役をこなし、ファンも気づかないほどに演目に融け込む器用さから、ついたあだ名は【沼地の魔獣王】! そのプロテイン安田の十八番、【エンゼル・イヤーズ】に、こんなところで会えるなんて!!!)

 氷岩魔獣が吠える。

「思ってたよりでっかぁい! ダーリン、嫉妬してる?」

 灼岩魔獣が高笑いする。

「まさか! 大事なのは熱さだっていつも言ってるだろ?」

 奏音の頭には二人の会話が入ってこなかった。今だけは、『特異点』の侵攻という問題も頭から吹き飛んでいた。

「エンゼル・イヤーズさん! ぜひ私と! 対戦お願いし―」

「勇者プレイヤー三名を発見。救助を開始します」

 奏音の激しい挨拶を遮ったエンゼル・イヤーズの言葉は、切羽詰まっていた。

(今、救助って言った?)

 エンゼル・イヤーズは毛むくじゃらで鞭のように長い両腕を差し出した。

「現在『無音の森』では、運営の想定を超える重大トラブルが発生しています。避難いたしますので、こちらに捕まってください」

 明らかにイベントシナリオとは思えない展開に、灼岩・氷岩の二人は顔を見合わせた。

「重大トラブルって言った?」

「デュエルで解決できないほどの?」

 奏音は嫌な予感がした。

「誰か襲われたの? どこで?!」

「現在調査中です、イベント参加者の皆さまは安全のため―」

 メキメキメキと樹木の倒れる音がして、エンゼル・イヤーズは振り返った。彼の倍はありそうな巨大な蜘蛛が、おそらくは地中から、飛び出してきたところだった。

「逃げるんだぁぁぁあああ!!!」

 エンゼル・イヤーズは叫びながら、巨大蜘蛛の前脚のハサミに刺し貫かれた。

 

 

 レイチェルの鋭い眼差しをいなすように、リオールは淡々と話す。

「ルブランの『暴圧』は『デュエルと関係なく暴力で相手を制圧する』スキルですが……その本質は『ルールを無視する』ことです。法や倫理観といったものを捨て去り、単純な弱肉強食の摂理を押し付けるスキル……僕たちの理想にそんなもの要ります?」

 エンドレスシティではあらゆる対立や社会問題をデュエルまたはデュエルに近い形式で解決しており、人々は脅迫や殺人と言った暴力的行為を思いつきもしない。言い換えれば、暴力に対する『耐性がない』。シティの侵略に『暴圧』スキルは有効だとされ、ルブランは『特異点』の最高戦力の一人と数えられていたのだ。

「残念ながらルブランは力に溺れ、組織内での横暴を繰り返していました。彼への対抗心から他の『特異点』が暴力的スキルを発現させるのも時間の問題でしたし、彼を消去し、スキルだけを僕らの管理下におく必要があったんです」

 レイチェルの眼差しは変わっていなかった。

「ならどうして、君は『暴圧』をシセくんに渡したの? 今回の実験にないプロセスだよね? それとも彼なら力に溺れないっていう確証があるの?」

 リオールは爽やかに笑った。レイチェルとは対照的に、目元までしっかり笑っていた。

「単純なことですよ、レジェンド・カノンが逃げたり隠れたりせず、『特異点』に挑むつもりのようなので、攻めの好機だと判断しました」

 

 

 蜘蛛は口から糸を吐き、エンゼル・イヤーズをぐるぐる巻きにしている。さらに腹部が上下に裂け、大きな口のように開いた。

(食べる気だ!!)

 事態を理解できず唖然としている灼岩・氷岩の二人を押しのけ、奏音は一歩前に出た。

「その人を離せ!!! 私とデュエルしろ『特異点』!!!」

 蜘蛛は笑った。人間のように表情を歪め、人間の男の様な声でクックッと低く笑っている。奏音はその様子にルブランを思い出した。エンゼル・イヤーズが最後の力を振り絞り、奏音に言う。

「デュエルは、通じない……逃げろ……今すぐ……」

 

 

 Bパートに続く。

 

 

 




「マトリックス」は20年も前の映画だし大胆にオマージュしてもいいかなって思ってたんですがよもや本家が「レザレクション」しちゃうなんて思わず……穴があったら入りたい……
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