シセ遼太郎の高笑いが響く。
「あっけないな!!! 後攻1ターン目に運試しをして自滅だと?」
奏音は恐る恐るブラッディに尋ねる。
「ねえ、ほんとは……ほんとは大丈夫だよね??」
「人生、こういうこともあるよねぇ……」
「大丈夫って言ってよぉぉぉ!!!」
シセが勝ち誇る。
「勝負は見えたな! スキル発動! 【カー召喚】! 三連打!!」
「三連打?!」
《カー召喚》×3
「来い! 【エンゼル・イヤーズ】、【ウォーター・ガール】、【ミスター・ボルケーノ】!」
一つ目で毛むくじゃらの恐ろしい風貌の天使、青い水着で緑のショートヘアのきれいなお姉さん、渦巻く炎のような髪型の温厚そうな紳士が現れた。
《光属性・天使族・通常・✪5》《ATK1550》
《水属性・水族・通常・✪4》《ATK1200》
《炎属性・炎族・通常・✪5》《ATK2100》
奏音は絶句した。この三体はそれぞれ、プロテイン安田、純情ピクシーガール、ジェントルマン真心のメインモンスターなのだ。
(食った人たちのデッキとスキルを奪ったんだ……しかも同時使用でモンスター三体展開なんてチートにも程がある……)
ブラッディは驚いていないようだった。
「食い意地張ってたのはこのためかい? 自分のデッキで戦う度胸はないんだねぇ」
「その減らず口黙らせてやる……俺はさらに、【メガ・トルネードボール】を召喚!」
穴がたくさん空いたバレーボールと言った見た目のモンスターだ。風を纏っている。
《風属性・雷族・効果・✪2》《ATK750》
メエウミ
伏
伏伏 伏
「【メガ・トルネードボール】の起動効果発動!」
《場のモンスターを素材に融合召喚を行なう》
「ブラッディやばいよ、この戦術は!」
「落ち着きなってお姫様」
メガ・トルネードボールがくるくると回りだし、竜巻が起きてエンゼル・イヤーズを包み込んだ。シセが高らかに叫ぶ。
「融合召喚! 【風神の怒り】!」
竜巻から巨大な老人の顔と手が出てきた。髪と髭は黒い。
《風属性・雷族・融合/効果・✪5》《ATK1900》
「墓地へ送られた【メガ・トルネードボール】の誘発効果と、融合召喚に成功した【風神の怒り】の誘発効果を発動!」
《デッキから✪5以下の通常モンスター1体を特殊召喚》(メガ・トルネードボール)
《EXデッキから【雷神の怒り】を、攻撃力を1000上げて特殊召喚》(風神の怒り)
落雷が訪れ、電撃の中から老人の顔と手がある。こちらの髪と髭は白い。
《風属性・雷族・融合・✪5》《ATK1900→2900》
「そして俺がデッキから特殊召喚するのは【ウォーター・スピリット】だ!」
スライムに髑髏の顔が付いたような。氷水の精霊。
《水属性・水族・通常/チューナー・✪1》《ATK400》
「✪4のウォーター・ガールに✪1のウォーター・スピリットをチューニング! シンクロ召喚! 【ウォーター・サマー・ヒーラー】!」
ウォーター・スピリットのどろっとした体がウォーター・ガールを包み込み、浸透していく。
《水属性・水族・シンクロ/効果/チューナー・✪5》《ATK2400》
ウォーター・ガールの水着に、髑髏が水玉模様のようにたくさんプリントされている。彼女はどこか嬉しそうだ。
「まだまだぁ! ✪5の【風神の怒り】と【ミスター・ボルケーノ】でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 【ミスター・ボルケーノ ヒートモード】!」
二体が吸い込まれた小銀河が燃え上がり、真っ赤に熱されたミスター・ボルケーノが飛び出した。
《炎属性・炎族・エクシーズ/効果・ランク5》《ATK2100》
雷ウミ
伏
伏伏 伏
「ブラッディ! あいつ三人のデッキを使いこなしてるよ!」
「こいつは困ったねぇ」
「俺はバトルフェイズに入る! まずは【ミスター・ボルケーノ ヒートモード】で攻撃宣言し、誘発効果!」
《ORUを1つ使い、攻撃力1000アップと二回攻撃を得る》
《ATK2100→3100》
「貴様の伏せカード次第じゃこのターンで終わりだな……その守備モンスターを破壊しろ、ミスター・ボルケーノ! ヒート・ボルケーノ・イラプション!」
ミスター・ボルケーノの右手に炎が巻き付き、巨大化した手でチョップを繰り出した。ブラッディの裏側モンスターがその正体を現した。
【ダイスポット】
《DEF300》《リバース効果:お互いにサイコロを一回ずつ振る》
壺から、知性を失ってそうな笑顔の精霊が顔を出す。
「またギャンブルカード……しかも今度はダイスだと?!」
「あんたにも運試しをお裾わけさ。ほら、賽を振りな」
ブラッディとシセの手元にサイコロが出現した。
「出目の大きさを競うギャンブルだよ! 負けた方は勝った方の出目の500倍のダメージを食らう! 引き分けは振り直しだ!」
「無駄なあがきだ」
「行くよ! ダイスロール!!!」
二人が同時にサイコロを投げると、フィールド内でサイコロたちは巨大化し、転がり始めた。
「リブ・オア・ダイ! リブ・オア・ダイ!」
ブラッディは転がるサイコロに向かってはやし立てている。この状況でサイコロゲームに興じているのはもはや不気味ですらある。
「出たねぇ!」
《シセ遼太郎:5》
《ブラッディ・ホイール:6》
「あたしの勝ちだぁぁぁぁ!!!」
「たかが3000ポイントのライフダメージ、くれて―」
次の瞬間、負けたシセのサイコロがはじけ飛び、衝撃波がシセを蜘蛛の体ごと吹き飛ばした。
「がぁっ! ぐっ……」
《LP8000→2000》
蜘蛛の巨体が横転し、ブラッディのマシンとの距離が一気に開いた。
「早く立ちな、走行不能は負けだよ~」
ブラッディがハンドルの通信パネルに向かって煽ると、怒りの声が聞こえてきた。
「6000ダメージだと……騙したのか?」
「ヒッヒッヒッ……6の目だけダメージが倍になることを言い忘れてたねぇ……でも効果テキストはそっちにも出てたし、確認しない方が悪いよ」
「くっ……」
奏音は思った。
(ブラッディ……性格悪いな……)
「だがバトルは成立している! ダイスポットは破壊だ!」
まだフィールドに浮いていた壺の精が妙にスッキリした顔で昇天していった。
「さらに俺の場の三体の合計攻撃力は8400、やれ、モンスターたちよ!」
《攻撃が届きません》
「何?」
ブラッディが爆笑した。
「なんだい? ライディング・ショーデュエル見たことないのかい? 攻撃したかったら近づかないといけないんだよ、常識だろう?」
「こざかしい真似を!」
シセは蜘蛛のスピードを上げたが、同時にブラッディもマシンの速度を上げた。一度開いた距離は縮むことなく……
《タイムアウトです、バトルフェイズを終了します》
「くそっ! こんなことが……!」
悪態をつくシセをブラッディはさらにからかう。
「もう一回あんたのターンあるから、また頑張りな」
奏音は内心で舌を巻いていた。
(すごい……絶対に引き離せる自信があるから、あんなギャンブルカードを連発できるんだ……でもなんでギャンブルなんだろう?)
ショーデュエリストは台本に従ってデュエルするため、毎回違うデッキを使うのが通例だ。プライベートでも、ショーデュエル用のテーマデッキを練習で使うため、彼ら彼女らの本当のデッキを一般人は知る機会がない。ライディング部門でも基本的には台本ありきのショーであり、奏音もブラッディの本当のデッキを知らない。
(それに、やけに相手を煽るよな……私でもそこまではやらない……)
対戦相手の挑発は本来マナー違反である。レジェンドである奏音はある程度の挑発行為が戦術として許されているが、台本のないガチンコのデュエルでそんなことをやろうものならメンタルヘルスを心配されてしまう。
(煽らなくてもブラッディの戦術は成り立つし……何が狙いなんだろ……)
「俺はメインフェイズ2で、【ウォーター・サマー・ヒーラー】の誘発即時効果発動!」
《フィールドのカード1枚につき400のライフを回復》
「おっとその前に! チェーンしてトラップ発動! 【運命の分かれ道】!」
ブラッディはトラップの効果処理のためか、減速してシセに近づいた。
《お互いに一回ずつコイントスを行なう。表なら2000回復し、裏なら2000ダメージ》
「しまった!」
「うまい! これならウォーター・サマー・ヒーラーの回復が有効になる前に2000のダメージを与えられる」
「ヒッヒッ……伏せカード次第じゃこのターンで終わり、ってのは本当だったねぇ?」
互いのフィールドにコインが一枚ずつ現れ、上にトスされる。ブラッディのコイントス結果に関係なく、シセは裏を出したら敗北が決まる。
《ブラッディ:表》
先に表となったコインが光の粒となりブラッディに降り注ぐ。そして遅れて落ちてくるシセのコインを奏音は凝視していた。
「裏出ろ裏出ろ裏出ろ裏出ろ……ああっ! ずるい!」
コイントスの結果が出る前に、なんとシセは蜘蛛のハサミで自分のコインを破壊したのだ。
《コイントスは無効になりました》
《ブラッディ・ホイール:LP8000→10000》
シセはとっさに手が出てしまったことに自分でも困惑しているようだった。
「へぇ、やるじゃないか食いしん坊くん」
「あんなのありなの??!!」
半ギレの奏音にブラッディが落ち着いて答える。
「今はダメージやモンスターが質量を持ち始めてるのと……あいつの肉体がルール上マシン扱いでデュエルに影響力がある、ってとこだね」
《チェーン処理》
《シセ遼太郎:LP2000→4400》
ウォーター・サマー・ヒーラーの効果でシセは回復したが、肩で息をしていた。明らかに疲労しているが、勝利を確信したかのように口元は緩んでいる。
「今後、貴様のお遊び戦術は通じなくなるな……」
「さあて、どうしたものかねぇ」
シセ遼太郎:手札5枚
雷ウミ
伏伏
ブラッディ・ホイール:手札0枚
一方プラネットの外では、ブラッディが蜘蛛男とデュエルを始めたことが波紋を呼んでいた。
「あの蜘蛛、デュエルしてるぞ? ただの害獣じゃないのか?」
「リアルのデュエルでダメージ転倒なんてしない……よな?」
「もしかしてこれ、本当はイベントシナリオなんじゃ……?」
『特異点』と『校正機能』のデュエルは物理法則など容易に飛び越えるが、当然シティの市民には理解が追い付かない。ついさっきまで観客の避難誘導をしていたイベントスタッフの一人である、ダン・クロードは、脳内で『接続』しているリオール大河に話しかけた。
(ソード様……シセ遼太郎は『校正機能』相手に善戦していますが……どうもダメージの具現化が起きているようです……彼は消耗し精神エネルギーを制御しきれていないかと……)
(報告ご苦労さま。今はこちらも情報収集が必要です。気づいたことはどんな小さなことでも教えてください)
(それでしたら……一点、気になることが……)
(なんです?)
「というかさー、ブラッディが使ってるデッキ……見たことないね……」
「うん、丸いのや四角いのを転がしてるの、ちょっと可愛くない?」
ダン・クロードは先ほどから、周囲の観客たちが漏らす感想に、違和感を覚えていた。
(シティの人間たちは……『ギャンブル』というものを知らないみたいなんです……コインやサイコロすら見たことがない様子で……)
(なんと……完全に盲点でした)
(何かお分かりになったのですか?)
しかしダン・クロードの質問にはいかなる反応もなかった。何度か呼びかけてもリオールに繋がらず、首をかしげた時に、彼は気づいた。自分の周りに観客がいないことに。
「え……」
そしてすぐさま自分の間違いに気づいた。消えたのは観客ではなく自分の方だったと。
「ここって……」
宇宙だった。シティでは資料が少ないが、『旧世界』ではよく映像を目にしていたのですぐにわかった。しかし本当の宇宙ではないことも、足元に地面の感触があることからわかった。
「失望したよ、ダン・クロード」
目の前に白いワンピースの少女が立っていた。音もなく現れた。
「イベントスタッフの中に、奏音に勝手に勇者の護衛を付けた者がいた……危機に陥れば奏音が仲間を守ろうとし一人で向かってくるだろうと読み、足手まといを送り付けた者がいた……貴様だな?」
「そ、『創造者』……」
凄まじい恐怖……聞いていた通り、若い少女とは思えない気迫を感じた。
「貴様は今なお『潜在的な特異点』に過ぎないが……もう後戻りはできない。一線を越えることを選択したのは貴様だ」
ダンは死を覚悟したが、自分のデッキを取り出し勇敢にも微笑んで見せた。
「あなたは……いずれソード様が討ち取る……私はあの方の盾として死ねることを誇りに思います……」
Bパートへ続く。
マシンは自動運転じゃありませんが、カードをプレイするときはマシン内部のAIが運転を補助したりします。
~オリカ紹介~
【メガ・トルネード・ボール】効果モンスター
①はフィールドのモンスターを素材に雷族の融合召喚を行う起動効果だ!②は墓地に送られた場合の誘発効果で、デッキから✪5以下の通常モンスターを特殊召喚、本来はエンゼル・イヤーズやメガ・サンダー・ボールを呼び出すぞ!
【風神の怒り】融合
①は融合召喚した場合にEXデッキから雷神の怒りを1000パンプして特殊召喚する誘発効果だ!②は永続効果で、雷神の怒りが場にいると戦闘破壊されなくなるぞ!
エンゼル・イヤーズデッキはリクルート効果で何度も風神と雷神を呼び出し融合を繰り返すたびにより強力なエースモンスターへと成長するぞ!最上級エースの【風神と雷神の天誅】までたどり着ければ、もう相手に勝ち目はないはずだ!
【ウォーター・サマー・ヒーラー】シンクロ、チューナー
①は場のカード1枚につき400ライフを回復する誘発即時効果。相手のターンでも使えるため、もりもりライフが増えるぞ。自身がチューナーであるということは……
【ミスター・ボルケーノ ヒートモード】エクシーズ
①ORUを使い、攻撃力1000UPと二回攻撃!モンスター攻撃宣言時に発動できる効果なので、迎撃としても使えるぞ!