ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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※オリカ、オリジナルスキルが出てきます。また、原作・アニメ・OCGで活躍した一部のカードやテーマが存在しない世界線だと思ってください


TURN0 あるデュエリストの休日 Bパート

 

 

 

 監視員が奏音の肩に手を置いた。

「あのねぇ君、これは子供同士の諍いで―」

「私も17歳だから実質子供だよ」

 17歳で不老になっただけで本当は26歳ということは都合よく忘れることにした。ナーシャが怒り出す。

「17歳でもずるいでしょ!私たち6歳なのに!」

「でも6歳のデッキ借りますぅ~!君いつも勝ってるんですよねぇ?平気じゃないんですかぁ~?」

「な、なにぃ~?!」

「ちょっと煽らない、煽らない!」

 監視員が奏音を取り押さえようとする間に、ナーシャはデュエルの準備を始めた。

「やってやるもん!!リオールのデッキは知り尽くしてる!!14区ジュニアチャンピオンの私に挑んだことを後悔させてあげるから!」

「やめなよ君たち!リオール君も、このダークソードに……ってうそでしょ?!」

 リオールは既にデバイスを外していた。

「お姉ちゃん、助けて……」

「任せな」

 奏音は監視員のホールドをするりと抜けると、リオールの手からデバイスを受け取り装着した。奏音は公式試合では実物のカードを使うが、トレーニングではアプリを使う。奏音は慣れた手つきでデバイスを操作しデュエルアプリを見つけたが、違和感を覚えた。

(この子のデバイス……アプリ少ない……?デュエル用のものと緊急連絡ツールしかない……カメラとか動画とか音楽とか、この子は使わないのかな……)

 自動抽選機能により、デュエルの先攻は奏音が取った。

 

《求道奏音(アカウントはリオール大河) LP8000》

《ナーシャ池井戸 LP8000》

 

「ほらダークソード女、後攻ワンキルされないように頑張ってね?」

(6歳とは思えない煽りタクティクス……この子、場数踏んでるな)

「私のターン!メインフェイズ!まずはこれだ、【深淵の指名者】!コストで1000ライフを払う!」

 

【深淵の指名者】

《通常魔法:種族と属性を1つずつ宣言する。相手は両方を満たすモンスターを手札またはデッキから1枚墓地へ送る》

 

「お姉ちゃん、あの子のデッキが分からないんじゃ意味ないよ!」

「分からないフリしないで!あんたはいつも―」

「地属性・昆虫族」

 奏音が迷わず宣言したので、リオールとナーシャはきょとんとしている。

 

《該当カードはデッキに存在しません》

 

 ガイド表示が出て、ナーシャは笑った。

「何それ、あてずっぽう?!」

「ああ、あてずっぽうだよ。でもこれで君のデッキが、私の苦手な【ゴキ○リ】系のデッキじゃないことがわかった」

「そんなの使わないし!」

 ちなみに【G】デッキを使っていたのがビートル蜜林檎である。

 

《奏音 LP8000→7000》

 

 ナーシャは苛立ってはいたが、奏音のライフ減少に何か察したようだった。

「これって……」

「私のライフが1000減ったことで、スキル発動!【融合の使い手】!」

 

《手札一枚をデッキに戻し、デッキ外から【融合】を一枚手札に加える》

 

 アプリによるデジタル・カードゲームだからこそできる、スキルによるデッキ外カード戦術。当然奏音はこの有用性を把握している。

「今加えた【融合】を発動!手札の【マグネッツ1号】と【マグネッツ2号】を墓素材とし、いでよ【カルボナーラ戦士】!」

 紫の鎧に身を包んだ、イタリア系の剣士が現れた。

 

《地属性・戦士族・融合・✪4》《ATK1500》

 

「さらに【融合武器スパゲッティブレード】を装備!攻撃力アップだ!」

 

《ATK1500→3000》

 

     

     

     

    

    

※カ……カルボナーラ戦士、ス……融合武器スパゲッティブレード

 

「私はこれでターンエンド」

「お姉ちゃんすごい!僕の最強コンボをいきなり決めるなんて!【深淵の指名者】もあんな使い道があったなんて知らなかったし、本当に強いんだね!」

「私のこと信じてなかったの?!」

「そこうるさい!」

 ナーシャが一気に不機嫌になった。

「そんなモンスター、私ならワンパンだから。私のターン!」

 奏音はナーシャを観察している。

(ワンパン……パワー型のデッキか……?)

「私は手札から【パワー・サプライヤー】を墓地に送って、【パワー・ジャイアント】を特殊召喚!」

 カラフルなおもちゃのロボットみたいなモンスターだ。奏音はこういうデザインが好みなのだが、レジェンド専用デッキにこういったカードは入れさせてもらえない。

「このカードはコストにしたモンスターのレベル分、自分のレベルが下がるの」

 

《地属性・岩石族・効果・✪6→4》《ATK2200》

 

「さらに魔法カード【能力調整(パワー・チューン)】発動!」

 

《自分の全モンスターのレベルをエンドフェイズまで1下げる》

 

 パワー・ジャイアントのレベルがさらに下がり3になった。奏音は確信した。

(やはり!【力こそパワー】デッキ!ジュニアチャンピオンははったりじゃない!)

「そして私は【パワード・チューナー】を召喚!」

 青みがかった皮膚の、獰猛そうな竜だ。リオールが叫ぶ!

「チューナーだ!チューナーが来た!」

「リオール!何度言えばわかるの!こいつはチューナーじゃないの!」

 

《水属性・ドラゴン族・効果・✪4》《ATK1400》

《永続効果:フィールドのチューナー1体につき500、攻撃力が上がる》

 

「ここでスキル【パワー解放】を発動!」

 

《墓地の【パワー】カードを全て手札に戻し、その枚数によって自分のモンスター1体に強化効果を付与する。戻したカードはこのターン発動・召喚・特殊召喚できない》

 

「私は墓地の【能力調整】と【パワー・サプライヤー】を手札に回収して、【パワード・チューナー】を強化する!」

 

《2枚以上:このカードをチューナーとして扱う》

 

「やっぱりチューナーじゃないか!」

 リオールが突っ込んだ。

「レベル3のパワー・ジャイアントに、レベル4のパワード・チューナーをチューニング!」

 パワー・ジャイアントの胴体が開き、その空間にパワード・チューナーが乗り込んだ。チューナーとシンクロが起きてジャイアントの体が変形を始める。奏音は見とれてしまっていた。

(か、かっこいい……)

「シンクロ召喚!レベル7!【パワー・ツール・ドラゴン】!」

 両腕に工具のような武具を付けた、おもちゃのドラゴンになった。メタリックなボディに黄色のフレーム、丸い目がどこか愛らしい。

 

《地属性・機械族・シンクロ/効果・✪7》《ATK2300》

 

「起動効果発動!パワー・サーチ!」

 

《装備魔法をランダムに選んでください》

 

 ナーシャがデッキから欲しい装備魔法を3枚見せ、奏音がそこから選んだ1枚がナーシャの手札に加わる、という手順だが……この効果の性質上、三枚とも同じカードを選ぶのが一般的だ。

 

【ガーディアンの力】

【ガーディアンの力】

【ガーディアンの力】

 

 リオールが非難する。

「こんなのずるいよ!」

「いつもやってるでしょ!」

「知らないもん!」

 奏音が適当に1枚選び、ナーシャは【ガーディアンの力】を手札に加えた。

「私は今加えた【ガーディアンの力】と手札の【魔導師の力】を【パワー・ツール・ドラゴン】に装備!」

 

《ATK2300→3300》

 

「手札に戻した【能力調整】もセット!【魔導師の力】の効果でさらに攻撃力上昇!」

 

《ATK3300→3800》

 

「バトルフェイズに突入!パワー・ツールで、お前の雑魚戦士を攻撃!クラフティ・ブレイク!」

 

《【ガーディアンの力】の効果発動、魔力カウンターをチャージします》

《ATK3800→4300》

 

「攻撃力がさらに上がった!」

 リオールが恐怖の悲鳴を上げている。カルボナーラ戦士はあっけなく散った。

 

《奏音 LP7000→5700》

 

 ナーシャは勝ち誇っていた。

「私、知ってるんだから。そのデッキは今の3000が最高攻撃力でしょ?もう負け確定じゃん」

 一方奏音はあくまで冷静だった。

「それより早く私のターンやりたいんだけど」

 ナーシャは舌打ちし、ターンエンドを宣言した。

「このエンドフェイズに、墓地に送られた【融合武器スパゲティブレード】の効果発動!」

 

《墓地の【マグネッツ】2体を特殊召喚》

 

「おいで!【マグネッツ1号】、【マグネッツ2号】!」

 青と黄色の、二体のマグネッツが復活した。

 

《地属性・戦士族・通常・✪3》《ATK1000》《ATK500》

 

※魔……魔導師の力、ガ……ガーディアンの力、伏……伏せカード(能力調整)、パ……パワー・ツール・ドラゴン

  

    

     

   

     

※1……マグネッツ1号、2……マグネッツ2号

 

(【力こそパワー】デッキなら、【マグネッツ】デッキのアレが効くな……)

「私のターン、ドロー……いいカードだ……魔法カード【磁界の宝札】!」

 

《墓地に【カルボナーラ戦士】が存在する場合、カードを3枚ドローする》

 

「続いて、ライフが再び1000以上減ったので、スキル発動!【融合の使い手】!」

 

《手札1枚をデッキに戻し、デッキ外から【融合】を手札に加える》

 

「【融合】発動!場の二体のマグネッツで、【カルボナーラ戦士】を融合召喚!」

 再び、紫色のイタリア系剣士が現れた。それを見たナーシャが笑った。

「プレミじゃん、そこは【ポモドーロ戦士】でしょ?」

 奏音は一切気にせず、次のカードを出す。

「今度は800ライフを払って、【再融合】発動!甦れ!【カルボナーラ戦士】!」

 

《奏音 LP5700→4900》

《装備魔法:墓地の融合モンスター1体を対象。それを特殊召喚しこのカードを装備する》

 

 紫色のイタリア系剣士が二体になった。

 

  

    

     

   

    

 

 

「何がしたいの?」

 奏音は大きく息を吸い、いつもレジェンド戦でやっているように腹から大きな声を出した。

「マグネッツたちは磁力の戦士!ピンチの時には仲間とくっつく!二人が一人に、一人が二人分!」

「は?」

 あっけにとられるナーシャに代わり、リオールが応える。

「ストラクチャーデッキ!マグネッツの結束!!!」

「「好評発売中!!!!」」

 奏音とリオールの声が重なり、二人は笑い出した。

「お姉ちゃん、知ってたんだね、マグネッツ!」

「私はあらゆるブースターパックとストラクチャーデッキを知り尽くしてる……CMも含めてね」

「なによぉ!二人して楽しそうに!」

 ナーシャが不機嫌に叫び、成り行きに不安を感じた監視員が彼女に駆け寄る。しかしナーシャは監視員の慰めを払いのけた。

「ムカつく!雑魚の癖に!!」

 奏音は人差し指をたて、チッチッと舌を鳴らした。

「ナーシャちゃん、君の知らないマグネッツ戦術を見せてあげるよ」

「そんなのあるわけ―」

「エクシーズ召喚!二体の【カルボナーラ戦士】で、オーバーレイ!」

「エ、エクシーズ?!」

 場に出現した銀河に、二体の剣士が吸い込まれた。閃光と共に銀河を裂いて現れたのは、真っ白なイタリア風剣士……ならぬ拳士だった。

 

【ジェノベーゼ戦士】

《地属性・戦士族・エクシーズ/効果・ランク4》《ATK1500》

 

「なにそれぇっ?!?!」

「すごい、ジェノベーゼ戦士だ……僕も出したことないのに」

 ナーシャはリオールが使ったことのないモンスターは知らないようだった。

「で、でも、攻撃力1500って弱すぎない?!」

 奏音はほくそ笑んだ。

「ほんとに弱いかどうか、試してみようか……バトルフェイズ!」

「は?たった1500で攻撃する気?!」

「もちろん!行けっ!ジェノベーゼ戦士!」

 ジェノベーゼ戦士はパワー・ツール・ドラゴンに殴りかかった

「上等よ!【ガーディアンの力】の効果発動!」

 

《魔力カウンターをチャージします》

《【パワー・ツール・ドラゴン】ATK4300→4800》

 

 ジェノベーゼ戦士の拳とパワー・ツール・ドラゴンのクラフティ・ブレイクが激突し、閃光が走った。次の瞬間、パワー・ツール・ドラゴンは弾き飛ばされていた。

「なんでっ?!」

「これがジェノベーゼ戦士の効果……電磁コーティングボディによる超反発さ」

 

《【ジェノベーゼ戦士】》

《永続効果:【カルボナーラ戦士】をエクシーズ素材としたこのカードは戦闘では破壊されず、発生するダメージは全て相手が代わりに受ける》

 

「そ、そんな……じゃあ今ので私は……」

「3300のダメージを受けてるよ」

 

《ナーシャLP8000→4700》

 

「まだ私のバトルフェイズは終わってないよ!【ジェノベーゼ戦士】は二回攻撃できる!」

「嘘でしょ?」

 ジェノベーゼ戦士の全身がバチバチとエネルギーを帯び始めた。

「もう一度パワー・ツールを攻撃!エレクトロ・マグネ・ストライク!」

 

《【ガーディアンの力】の効果発動、魔力カウンターをチャージします》

《【パワー・ツール・ドラゴン】ATK4800→5300》

 

「やだ、攻撃力がさらにあがって……きゃあっ!」

 3800の反射ダメージがナーシャを襲った。

 

《ナーシャLP900》

 

「メインフェイズ2!オーバーレイ・ユニットを使って【ジェノベーゼ戦士】の効果発動!」

 

《エクシーズ素材を1つ取り除き発動。自分のEXデッキのモンスターを全て墓地へ送る。送ったカードの種類と同じ数のカード名を宣言し、相手のEXデッキに宣言したカードがあれば、同名カードを含めた全てを自分のEXデッキに加える。次の自分のターン終了時にそれらは相手のEXデッキにもどる》

 

 表示された効果ガイドをナーシャはすぐには理解できていないようだった。奏音が解説する。

「要は君のEXデッキのカードを磁力で私のEXデッキにひっつけるってことさ」

「そ、そんな?!」

 リオールがすかさず突っ込んだ。

「でもお姉ちゃん!あの子のデッキのカード知らないでしょ?今度は属性・種族どころかカード名を宣言しなくちゃいけないんだよ?!」

「さっき言ったろ?私はあらゆるブースターパック・ストラクチャーデッキを知り尽くしてるって」

「あっ!」

「ナーシャちゃんのデッキはデザイナーデュエリスト・マッスル剛力の【力こそパワー】デッキの簡易版ストラクチャーデッキなんだ。ジュニアチャンピオンなら賞品としてもらってるはず」

「でも、デッキを改造してたら?」

「それはない。スキル【パワー解放】の条件でデッキとエクストラデッキのカードが固定されちゃうからね。そのデッキで使えるEXモンスターは最大でも5種類しかない」

 リオールもナーシャも、奏音のカード知識に圧倒されていた。

「お前……何なの?」

「ただの家出中のダークソードさ……行くよ!私は自分のEXデッキから【カルボナーラ戦士】【ポモドーロ戦士】【ペスカトーレ戦士】【ボロネーゼ戦士】【ジェノベーゼ戦士】の5種類、合計12枚を全て墓地に送る!」

 5人のイタリア系剣士がプラズマ状になって現れた。

「続いて君のEXデッキのカード5種類、【パワー・ツール・ドラゴン】【機械竜パワー・ツール】【インゼクトロン・パワード】【パワー・コードトーカー】【剛鬼ザ・パワーロード・オーガ】を私のデッキに引き寄せる!」

 5体のプラズマがナーシャのEXデッキに入り込むと、磁力を帯びた14枚のカードが次々に飛び出し、奏音のEXデッキへ吸い込まれていった。リオールはすっかり興奮している。

「これで次のターンの反撃を封じるんだね!これが【ジェノベーゼ戦士】の使い方なんだ!」

 両者のデッキと戦術を把握している奏音には、既に勝利までのルートがいくつか見えていた。渾身のドヤ顔をしてやろうと思ったその時、ナーシャが泣きそうになっていることに気づいた。ちらりと横を見ると、監視員も咎めるような視線で奏音を見ている。急に恥ずかしくなってきた。

(や、やりすぎたぁ……)

 このままではビートル戦のような、たいへん気まずい勝利を収めてしまうと直感した。

(ど、どうする私……負けてあげるか?いやこの状況からだと難しいぞ……仮にできても、それでこの子たちの溝が埋まるのか……?)

 勝ってリオールの立場を守ったとしても、現状では二人の喧嘩別れは避けられない。彼が遠い将来、通りすがりのダークソード女に打ち負かされたナーシャの気持ちを想像できるようになった時、奏音と同じ葛藤を抱えてしまうのではないか……本当の意味で冷静になった奏音は、そこまで思い至ることができた。

(こんな気分になるために……デュエルはあるんじゃないよな……)

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド……の前に」

 奏音は突然、威厳を醸し出すかのように派手な咳ばらいをした。

(ここは!君に賭ける!)

「ところで、リオール君。君はどのくらいナーシャちゃんのことを知っているのかね?」

「えっ?!」

 リオールだけでなく、他の二人も不思議そうに奏音を見た。

「だから、ナ、ナーシャちゃんのことは、全く―」

「それはいかんよ、君ぃ!」

 奏音は今、昔戦った芸人デュエリストの大げさなしゃべり方を真似ている。

「ただナーシャちゃんに勝っても、何も解決しないのだよ……私はね、君たちの言い分がどうして平行線なのか、落ち着いて話し合うべきだと思うんだよ」

 奏音がそう言いながらナーシャにも目を向けた。ぽかんとしている。視界の隅から監視員の痛い視線が刺さってきていたが、奏音は話し続ける。

「よ、よく聞くんだ二人とも。相手について知ってると、物事は選択肢が増えるのだよ。逆に知らないというだけで、不覚を取ることもある……デュエルと同じさ」

 奏音が説いているのは、デュエルを通じた相互理解のことだ。果たしてこの概念が6歳に伝わるのか、奏音は自信がなかったが……幸いにもリオールは奏音の言葉を理解したようで、ナーシャの方を一瞬見て、それから奏音の方を見た。目に決意が宿っている。

「お姉ちゃん……やっぱり、僕がデュエルしてもいい?」

「よかろう」

(よし来たぁぁぁ!!!これで、空気がリセットされる!!!)

 奏音は腕のマルチデバイスを外し、近づいてきたリオールに返した。リオールは迷わずそれを自らの腕に装着し、再びナーシャの方を見て、きっぱりと告げる。

「僕は本当に、ナ、ナーシャちゃんのことを知らない……でも君は僕の名前も、僕のデッキも知ってるんだよね」

 ナーシャは、それだけは譲れないと言わんばかりに力強くうなずいた。リオールはそんな彼女を見て考え込む。

「もしかして……僕って二人いるのかな」

「そんなわけないでしょ」

 ナーシャが鋭く返したが、同時に吹き出した。リオールもつられて笑う。

「何笑ってんのよ!まだデュエル中でしょ!」

 ナーシャが一気に闘志を取り戻した。

「ちょっと新しいモンスター出せたくらいでいい気にならないで!私のターンやるよ!」

 

  

    

     

    

    

※ジ……ジェノベーゼ戦士

 

 デュエルが再開された。ナーシャが諦めずにデッキを回している。様子を見守っていた監視員が、安堵のため息をつくと、ギャラリーに加わった奏音に言う。

「なんだかいい雰囲気になってきたよ。君は最初からここまで考えてたの?」

「も、もちろん」

(危なかったぁ……子供の心に傷痕残すところだったよぉ……)

 ナーシャが大声を上げた。形勢逆転の道筋が見えたらしい。

「さらに、この二体目のパワー・ジャイアントとパワー・ツール・ドラゴンをリリース!」

「あれが来るな」

 奏音がつぶやき、隣の監視員が尋ねる。

「あれって?」

「エクストラデッキを封じられた以上、【力こそパワー】デッキで【ジェノベーゼ戦士】を突破する方法は一つしかない」

「アドバンス召喚!【パワードクロウラー】!」

 とげの付いた、巨大なキャタピラ戦車が出撃してきた。主砲が二本、車体の両脇に搭載されている。

 

《地属性・機械族・効果・✪7》《ATK2700》

《誘発効果:このカードより低い攻撃力を持つ相手モンスター1体を選んで破壊する》

 

 パワードクロウラーが急加速、突進によりジェノベーゼ戦士が撃破された。

「そんな!僕のジェノベーゼ……」

「まだまだ!スキル発動!【パワー解放】!私の墓地から【パワー】カードを6枚回収!」

 

《2枚以上:このカードをチューナーとして扱う》

《4枚以上:このカードへの攻撃力増加効果は二倍になる》

《6枚以上:手札の効果モンスター2枚を見せ、それらの効果を、このカードの効果として適用する》

 

「【パワード・チューナー】の永続効果と【パワー・サプライヤー】の起動効果を吸収!」

 

《ATK2700+500*2+400*2=4500》

 

 あっという間に上がった攻撃力に慄いたのか、リオールはつい、セットカードを発動してしまった。

「ト、トラップカード!【不屈のマグネッツ】!」

 

《墓地のモンスター1体を対象。そのモンスターおよび、そのモンスターと攻撃力・守備力の合計が同じモンスターを可能な限り守備表示で特殊召喚(効果は無効)》

 

 蘇生制限を満たしているカルボナーラ戦士2体とジェノベーゼ戦士1体が復活した。リオールがこの三体を盾とするつもりなのは明らかだ。ナーシャが高笑いする。

「私がさっき【パワー・ツール】で加えたカードを忘れたの?【強制突撃パワー】!」

 

《装備魔法:装備対象の攻撃力は1000アップ!相手モンスターすべては強制的に攻撃表示になる》

《【パワードクロウラー】ATK4500→5500》

《【カルボナーラ戦士】2体ATK1500》《【ジェノベーゼ戦士】ATK1500》

 

「しまった!」

「バトルフェイズよ!パワードクロウラーのバスターキャノンを食らいなさーい!!!」

 超火力の砲撃により、カルボナーラ戦士が木っ端みじんになった。

「うわあああああ!!」

 

《リオールLP4900→900》

 

※強……強制突撃パワー

    

    

     

   

     

 

 

「あたしのターンはこれで終わり……それにしても、あんたほんとに私のカード知らないのね……【強制突撃パワー】があるのに、【不屈のマグネッツ】をメインフェイズに使うなんて……どうしちゃったのよ……まあ結果は同じだけど……」

 ナーシャはもう怒ってはいなかった。むしろ心配そうだった。奏音はふと、先ほどの疑問を思い出した。

「監視員さん、リオール君のデバイスは確認した?」

「緊急連絡ツールあるのは確認したけど、それ以外はプライバシーに関わるよ?」

「私さっき覗いたんだけどさ」

「おい」

「ほとんどのアプリが入ってなかったんだ。最近の子はそういうもんなの?」

 リオールは気づいていなかったようで、自分のデバイスをチェックし、驚きの声を上げた。

「写真のアルバムまで消えてる……」

 ナーシャがデュエルの途中なのも忘れて駆け寄り、リオールのデバイスを覗き込んだ。監視員はそれを注意しようとしたが黙った。覗きこそしないが気になるらしい。

「嘘でしょ?私が送ったリオールのクソコラ画像も消えちゃったの?!」

「知らないけどそれは消えてよかったよ……」

 二人の様子を見ていた監視員が何かに気づき、血相を変えて奏音の方を見た。

「デュエルは私が見てるよ」

「協力感謝します」

 監視員は子供たちを視界に入れながらも少し離れると、応援を呼ぶために通信アプリを起動した。さすがに通話内容までは聞こえないので、奏音は子供たちに向き直る。

「ほら、ナーシャちゃん。リオール君のラストターンやらせてあげな」

「あ、そっか。でも勝負はもうついたでしょ?」

 パワードクロウラーには相手モンスターに攻撃を強いる効果がある。強制突撃パワーで守備表示に変更することもできない以上、次のリオールのターンで決着がつく。

「うん、次で決まる……でも君の勝ちじゃないかも」

 そう答えたのは意外にも、リオールだった。ナーシャが目を丸くする。

「あんたのデッキのカードじゃ無理でしょ?!EXデッキだってダークソード女が使い切ったじゃない!」

「うん。無理だね、僕のカードだけなら」

 ナーシャはハッとし、急いで自分の位置に戻った。リオールは奏音を見た。奏音が頷く。

「僕のターン……お願い!」

 リオールが引いたカードは、

「召喚!マグネッツ1号!」

 

《ATK1000》

 

「そして場のカルボナーラ戦士、ジェノベーゼ戦士、マグネッツ1号を素材に、リ、リンク召喚!LINK-3!【パワー・コードトーカー】!」

 赤い装甲に身を包んだ戦士が現れた。その肉体は人のようでも機械のようでもある。

 

《炎属性・サイバース族・LINK-3/効果》《ATK2300》

▷△◁

◀ ▶

▶▽◁

 

「もう~あたしのカードなのにぃ!」

 ナーシャが地団駄を踏んでいる。奏音は微笑んだ。

(リオール君は彼女のカードを知ろうとしたから、使うという選択肢に気づけた……子供の成長ってすごいな……)

「効果発動!ワイヤー・リストラクション!対象は【パワードクロウラー】だ!」

 パワー・コードトーカーの右手のガントレットが展開し、巨大なクローがワイヤーと共に射出された。パワードクロウラーがクローに捕獲され、身動きが取れなくなる。

 

《起動効果:表側モンスター1体を対象。その効果をターン終了時まで無効にする》

《【パワードクロウラー】ATK5500→3700》

 

 スキルで付与した攻撃力増加効果はパワードクロウラー自身の効果という扱いなのだ。

「まだ攻撃力はこっちの方が上よ!【パワー・コード】のもう一つの効果使うには、あと一体モンスター必要だし!」

「僕がさっきのターンに使ったカードを忘れたの?」

「え?!」

「墓地の【不屈のマグネッツ】の効果発動!」

 

《墓地の攻撃力の異なる二体を対象。その攻撃力の差と同じ数値の攻撃力を持つモンスターを可能な限り、墓地から特殊召喚(同名モンスターは一体まで)》

 

「僕はカルボナーラ戦士とマグネッツ1号を対象にして……甦れ!」

 

【マグネッツ2号】《ATK500》

 

「あぁぁ、そうだったぁ……!」

 

    

    

    

    

     

 

「バトルフェイズ!パワー・コードトーカーで、パワークロウラーを攻撃!さらにリンク先に置かれているマグネッツ2号をリリースして、誘発即時効果発動!」

 

《攻撃力が元々の数値の二倍になる》

《【パワー・コードトーカー】ATK2300→4600》

 

「これで決めるよ!ナーシャ!」

「ふえっ?!?!」

 ワイヤーが巻き取られ、その勢いを利用してパワー・コードトーカーが戦車に突っ込む。

「パワー・ターミネーションスマッシュ!!!」

 パワードクロウラーが爆散した。見慣れたホログラムの爆破演出だったが、不思議と奏音は清々しい気分になった。

(この子たちから、デュエルを取り上げなくて良かったな……)

 

《ナーシャLP900→0》

《勝者:リオール大河》

 

「か、勝った……」

 リオールは実感が湧かないのか、茫然としていた。すると顔を紅潮させたナーシャが近づいてきた。まだ不機嫌なのかと奏音は焦ったが、

「リオール……やるじゃん」

 意外にもナーシャはデュエリストとしての礼儀を示した……いや、意外ではなかった。シティのデュエリストは皆、ルールとマナーをセットで学ぶ。

(もともとリオール君に避けられて頭に血が上ってたのを、デュエルによる精神エネルギー抽出で、平静を取り戻したってとこかな……)

 それにしてはナーシャがまだ顔を赤らめているのが奏音は気になったが、子供はエネルギーの塊みたいなものだと聞いたことがあるので、火照りが残っているのだと思うことにした。

「あ、ありがとう、ナーシャちゃん……」

「それより、あんたさっき……私のこと、呼び捨てにしたでしょ」

「え……そうだっけ?ご、ごめん、夢中で……」

「別に……これからも呼び捨て―」

「おっ!二人とも、大人たちが来たよ」

 奏音は、この時自分が犯した過ちに、生涯無自覚だったという。

 

◇◆◇◆

 

8月15日、午後11時26分、エンドレスシティ第一地区、高級マンション『キャッスル』最上階(通称レジェンドフロア)

 

 アミューズメント・プールを出たところで奏音は護衛隊に捕まり、自宅に強制送還され、健康チェック・食事・入浴を半ば強制される形で済ませた後、リビングで待ち構えていたマネージャー兼保護者のチェスに、逃走劇の顛末を話すこととなった

「結局、リオール君は事故かなんかで記憶障害だか錯乱状態になったんじゃないかって疑われて、検査入院することになってさ。本人はすんなり受け入れたんだけど、ナーシャちゃんはゴネてたねー、自分の家で世話するって聞かなくて」

「待て、奏音」

「え?何?」

 冷静沈着なチェスが珍しく、困惑していた。

「君は……何か悩んでいたのではないのか?随分と楽しそうだが……」

 奏音は完全に旅行の土産話をするテンションだった。

「あぁ~確かに悩んでたけど……なんかもう平気かも」

「なん……だと?」

 奏音は本当に平気になったと示すため、にっこりと笑って見せた。

「私さ、デュエルが嫌いになりそうだったんだ」

「やはり、辛かったのか?」

「辛いっていうより……疲れたっていうか……あ、『約束』は忘れてないよ?でも、私いつまでレジェンドやってるんだろう、みたいな……マンネリってやつ?」

 チェスは心なしか、申し訳なさそうな顔に見えた。

「だけどね、今日初めて、デュエルで人が通じ合う瞬間を見て……いや、通じ合うってのは言い過ぎかもだけど……とにかくなんか感動したんだ。私が守ってきたものはこれだったんだなって分かった」

「……デュエル・コミュニケーションについては教えたはずだが?」

「違う違う、そうじゃないの!いやそうなんだけど……なんていうかな、言葉じゃなく心で理解できた、みたいな?」

 意外にも、チェスは理解に苦しんでいるようだった。

「デュエルがすごく好きになったわけじゃないけどさ……続ける意味、みたいなものはもう見失わない気がする」

 奏音はダメ押しにもう一度、チェスに向かって微笑んだ。彼女は諦めたように、微笑み返してくれた。

「あ、そうだ!ビートル蜜林檎に謝らなくちゃ!会見も途中で切っちゃったし……あれ?ひょっとして今……大スキャンダルになってる?」

「ああ。見ろこの通知の量を」

 そう言ってチェスはデバイスからホログラム画面を出した。レジェンドの公式サイトにおびただしい数の問い合わせが届いており、奏音は悲鳴を上げた。

「明日から各方面への謝罪で忙しくなるから、早く寝なさい」

「寝れるかっ!」

 しかし疲れが溜まっていたのか、奏音はその10分後にはベッドの中で寝息を立てていた。チェスは奏音が寝付いたのを確かめてから、寝室を出て、そのままレジェンドフロアを後にした。地上へ降りるエレベーターに乗り込むと、小さな声でつぶやく。

「記憶障害の少年だと……?念のため『再構築』し直すべきだな……」

 

 

 

TURN0 おわり

 




パワー・ツール「俺の所属はディフォーマ―だよ!」
パワー・コード「俺はもうここでいいや」
パワードクロウラー「出番もらえるしな」
※TGパワー・グラディエーターは存在しない扱いです

TURN1から本編です。日常パートはあっても日常回は、もう……
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