ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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ルール無用の残虐ファイト!


TURN9 アクセラレーション Bパート

 

 

 

 

 リオールは焦っていた。先ほどまで脳内で会話できていたダン・クロードとの『接続』が絶たれ、おそらく『創造者』に彼は粛清されたであろうこともかなり深刻だが、それよりも、『校正機能』の策が読み通りなら打つ手がないことの方が頭を悩ませた。かつてのソード様こと『第2030番』と交わした言葉が蘇る。

 

「この『世界』に質量はなく、精神エネルギーで再現された質量の感覚があるだけです。この意味が分かりますか?」

「……精神エネルギーさえあれば僕たちは質量の感覚を取り戻せる」

「ええ。ただし、実体化しても適応できませんが」

「適応?」

「蘇生した『特異点』はすでに排除された情報であるため、『創造者』が仕掛けた『校正機能』により自動削除されてしまうのです。この二十年間、何人もの同胞がそれで消されました……どういうわけか、二度目は魂の残滓まで完全に変換されるようです」

 

「僕らは誤解していた……二度目は『変換』じゃないんだ……」

 リオールを呼ぶ声がした。目の前にレイチェルが瞬間移動してきていた。

「来ると思っていました」

「なんで『接続』を切ったの? みんな心配してたよ?」

「『接続』が『創造者』に探知されました」

「嘘?! どうやって?」

「ダン・クロードの妨害工作がばれて、『創造者』にマークされていたんだと思います。『接続』スキルは意思疎通の間だけ魂の『核』が高エネルギー状態になりますから、そこを狙って『創造者』は疑似空間を発動したんでしょう」

「うーん強敵……今後は『接続』には頼れないか」

「とりあえずは古典的な伝令スタイルでいきましょう」

「任せて! 鍛え上げたテレポートテクを今こそ―」

「それからもう一つ」

「え?」

「シセの報告はもう必用ありません。私が直に見に行きます」

 

 シセ遼太郎:LP4400 手札5枚 《雷神の怒りATK2900》《ウォーター・サマー・ヒーラーATK2400》《ミスター・ボルケーノ ヒートモードATK2100》

     

  

     

     

   

 ブラッディ・ホイール:LP10000 手札0枚 伏せカード二枚

 

「俺のターンだ!」

 シセ遼太郎は再び、蜘蛛の体から生えてきたカードを引いた。奏音はひらめいた。

(ディスクのデッキホルダーじゃなくて蜘蛛の体内からカードを取り出すのって、もしかしたら……)

「ブラッディ、私気づいたことが―」

「トラップ発動! 【ギャンブル】!」

「またやるの?!」

 シセはもう余裕を取り戻していた。

「ほう? 恐れ知らずな」

 

【ギャンブル】

《自分の手札が2枚以下、相手の手札が6枚以上の場合に発動。コイントスを一回行う》

 

「何度でもやるよ! あたしはまた『表』に賭けた! さあリブ・オア・ダイ!」

 フィールド上空にコインがトスされた時に、シセが叫んだ。

「バカめ! もう貴様のお遊び戦術は通じなくなると言っただろう!」

 蜘蛛の背中がバックリと裂け、そこから太い蔓のようなものが何本も飛び出した。

(今度はこっちのコインを割るつもりか!)

「無粋だねぇ!」

 ブラッディは素早くパネルを操作した。奏音は表示を見て息をのんだ。

 

《緊急減速開始》

 

(まさか、まさかだよね?!)

 マシン・オブ・フォーチュンの機体の後ろからパラシュートが飛び出した。空気抵抗を受け急激にスピードを失ったマシンは、そのまま後方を走るシセのフィールドに突っ込み……

「ぐああっっ!」

 三体のモンスターをすり抜けて、マシン・オブ・フォーチュンは蜘蛛に体当たりをした。

「ぐえっ!」

 奏音は運転席のあちこちに体をぶつけて呻いた。シセの方はよろめいただけのようで、既に体勢を立て直していた。

「貴様……」

 ブラッディの操作パネルからシセの唸り声が聞こえてきた。

 

《コイントス結果:表》

 

 衝突で蔓の狙いが逸れたことで、コインは無傷で着地していた。ブラッディが低く笑う。

「あたしとあんたじゃ小汚さのレベルが違うのさ……ギャンブルはあたしの勝ちだ、5枚引かせてもらう!」

 ブラッディの手札が一気に回復したが、同時に―

 

《衝突ペナルティ:ライフに4000のダメージ》

《ブラッディLP10000→6000》

 

「このライフならあと一回は体当たりできそうだねぇ、そうだろお姫様?」

 奏音はブラッディの意図を察した。

「わ……私の体がもたないからやめてね?! 絶対だめだよ?!」

 ブラッディがゲラゲラ笑っていると、通信のシセの声が聞こえてきた。

「随分と盛り上がっているようだが……貴様らは致命的なミスをしたことに気づいていないのか?」

「えぇ?」

「あっ! そうだ! ポジションが!」

 急な減速と衝突のせいで、マシン・オブ・フォーチュンは今、蜘蛛男の後方10メートルほどの位置にいた。パネルから聞こえるシセの声が、昂ぶりを隠せなくなっている。

「ペナルティダメージが4000程度なら、LP4400の俺にもチャンスがあるわけだ……この位置なら減速するだけで衝突を狙えると、貴様に手本を見せてもらったところだしな……」

「ヒッヒッ、やれるもんならやってみな?」

「挑発しないでよ!」

 蜘蛛の背中から飛び出していた蔓が、一斉にマシン・オブ・フォーチュンに向かってきた。

「やばいやばいやばいよおおお!!!」

 しかし蔓がマシンに触れるか触れないかのギリギリで動きを止めた。

「貴様……なぜ避けない?! まさか?!」

 シセはそう言うなり蔓をあっという間に引っ込めた。それを見たブラッディと奏音は悔しそうに叫んだ。

「惜しかった~! あと少しだったのにぃ!」

「ごめんブラッディ、私の演技が下手過ぎた……」

「いや上出来さ、食いしん坊くんの勘が良かったんだ」

 シセは自分のディスクのガイド機能でようやく、ライディング・ショーデュエルのルールを確認し終えたようで、怒声が響いてくる。

「『ペナルティダメージは二回目以降2000ずつ上がる』だと?! おのれペテン師どもが!」

 もしシセの蔓がマシン・オブ・フォーチュンにかすりでもしていたなら、マシン同士の接触とみなされシセは6000のペナルティダメージを受けていただろう。ブラッディがもう一度体当たりできるなどと言い出した時点から、奏音はわざと通信パネルにまで届く大声でリアクションをしていたのだ。

「ヒッヒッ……相手の無知に付け込むのは勝負の基本だろう?」

「ぐっ……もういい、このままバトルフェイズだ! 今度は避けられないぞ!」

 ライディング・ショーデュエルにおいて、マシンで相手モンスターの射程外に逃げる戦術は先行するデュエリストにしか使えない。シセはこのルールも把握したようだった。

「ミスター・ボルケーノ・ヒートモードで直接攻撃だ! さらに効果発動!」

 

《ORUを1つ使い、このターン攻撃力1000アップと二回攻撃を得る》

《ATK2100→3100》

 

「ならあたしは手札から【マスカレード継承名 レッド・エース】の効果発動! 手札コストに自身と【魔導紳士-J】を捨てるよ!」

「【継承名】だと?」

「レッド・エースだって?」

 

《【魔導紳士-J】を捨てた場合、バトルフェイズを強制終了させる》

 

 奇抜な扮装の紳士と、白い仮面の魔法使いが現れた。奏音はどちらのモンスターも知っているが……

(【レッド・エース】は本来、赤いマントだよな……黒くなってる……それに【マスカレード継承名】ってなんだ……?)

「博打デッキではなかったのか?」

「まあ聞きなよ……この【マスカレード継承名】たちはねぇ、あたしがあんたらの言う『創造者』にもらったカードで、どいつもこいつも強力な妨害効果を持つ……でも普通に妨害したんじゃつまらないから、相手に『挑戦権』が与えられるのさ」

「『挑戦権』?」

 

《相手はコイントスを行ない、裏表を当てた場合はこの効果を無効にできる。ただし外した場合はライフを半分失う》

 

「どうする? 勝負に乗るかい?」

 一瞬の間。

「……どうしても俺にギャンブルをさせたいようだな」

「OKと受け取るよ」

 黒いレッド・エースが、魔導紳士-Jの肩に手を置いた。Jは頷くと、その姿が一瞬でコインに変わり、シセの手元に飛んで行く。その様子を眺めながら奏音は考えていた。

(シセが受けた以上、コインを破壊するメリットがない……確かにこの方法ならギャンブル戦術に持ち込めるけど……ブラッディがここまでギャンブルにこだわる理由ってなんだ?)

「いろいろ気になるだろ?」

 ブラッディが奏音の疑問を察したようだった。通信パネルではなく、ヘルメットの通話機能で奏音にだけ話しかけてきていた。

「食いしん坊くんの様子をよく見ておきな」

 そういうと、ブラッディは通信パネルを操作した。映像機能がオンになり、シセの表情が見えた。コインを受け取り、裏表を確認している。

「表だ。表にライフ半分を賭ける」

「準備はできたね。リブ・オア・ダイ!」

 シセがコインを投げ、左手の甲でキャッチし右手で覆った。緊張した様子で、コインの結果を確認し……舌打ちした。

 

《コイントス結果:裏》

《バトルフェイズ終了》

《シセ遼太郎 LP4400→2200》

 

 黒いレッド・エースがケタケタ笑いながら消えていった。

「毎度あり! また次のターンいらっしゃい!」

「メインフェイズ2だ」

 シセは抑えようとしているが明らかに頭に血が上っていた。

「ブラッディ、まだ攻撃は終わってない」

「ヒッヒッ、望むところさ」

「【ウォーター・エレメント】を召喚! そのまま、【ウォーター・サマー・ヒーラー】の誘発即時効果発動!」

 霧に覆われ、眼を閉じ体を丸めた、少女の精霊。髑髏水着のサマー・ヒーラーがその少女を撫でながら、回復魔法を使った。

 

《フィールドのカード1枚につき400のライフを回復》(現在5枚)

《シセ遼太郎 LP2200→4200》

 

     

 

     

     

    

 

「負けを取り返せたねぇ」

「待ってブラッディ、この状況、やばいかも」

 奏音はジェントルマン真心、純情ピクシーガールの両者と戦ったことがある。この布陣の持つ可能性が理解できた。

「レベル3のウォーター・エレメントに、レベル5のシンクロチューナー、ウォーター・サマー・ヒーラーをチューニング! シンクロ召喚!」

 サマー・ヒーラーが自らとエレメントの周囲に、五本の水の柱を呼び出した。柱が次第に太くなり、二人は隠れて見えなくなる。突然、水が全て爆散し、立ち込めた霧の中から、青い髪を濡らし冷たい目をした美女がゆったりと現れた。水面のように波打つ銀のドレスを纏い、彼女の周りに浮いているいくつもの水の球は……凍り付き、砕けて蒸気となって、結露し水に戻る……循環していた。

 

【ウォーター・フォール・クルセイダー】

《水属性・水族・シンクロ/チューナー/効果・✪8》《ATK3200》

 

「ウォーター・フォール・クルセイダーの誘発即時効果発動!」

 

《フィールドのカード1枚に付き400のライフを回復》

《エンドフェイズにこのターン回復した合計数値をダメージとして相手に与える》

 

「そいつはちょっと許せないねえ! あたしゃ手札から【マスカレード継承名 キング・スモーク】の効果発動! コストで手札から自身と【クイーン・バード】を捨てるよ!」

「ブラッディ! ここじゃない!」

 既に効果は発動されていた。今度は色が赤いキング・スモークが現れた。首が長く翼とくちばしの大きい鳥も一緒だ。

(しまった……)

 

《【クイーン・バード】を捨てた場合、モンスターの効果を無効にし破壊する》

《挑戦権:相手はサイコロを振ることができ、出た目が奇数ならこの効果は無効、偶数ならライフを半分失う》

 

「今度はサイコロか。いいだろう」

 クイーン・バードがサイコロに変わり、シセはそれを振った。

 

《ダイスロール結果:3》

 

「あちゃ~」

「今度は俺の勝ちだな。場のカードは4枚、1600ライフを回復だ」

 

《シセ遼太郎 LP4200→5800》

 

「ごめんねお姫様、なんかまずかったかい?」

「多分……今の効果は【マスカレード継承名】を使わせるのが狙いだよ」

 画面からシセの高笑いが聞こえる。

「手遅れだ!場の、ORUが0になった【ミスター・ボルケーノ ヒートモード】1体で、オーバーレイネットワークを再構築!」

 再び銀河に吸い込まれたミスター・ボルケーノが、全身に炎を纏って戻ってきた。

「エクシーズ召喚! 【ミスター・ボルケーノ バーニングモード】!!」

 

《炎属性・炎族・エクシーズ/効果・ランク6》《ATK2600》

 

「誘発効果発動! バーニングエリア!」

 ミスター・ボルケーノが纏っていた炎が、雷神の怒りとウォーター・フォール・クルセイダーを護衛するように広がった。

 

《次の自分のターン終了時まで、自分のフィールドのモンスター全ては相手のカード効果を受けなくなる》

 

     

  

     

     

    

 

「なるほどねぇ、本命はこっちだったってわけかい」

「しかもバーニングモードは、エクシーズ素材を使うことで、モンスター一体を強制的に直接攻撃させる効果がある……戦闘による突破も対策されてしまうんだ……」

 シセはどういうわけか疲弊していたが、それでも強気でいられるだけの状況だった。

「どれほどの幸運をもってしても、圧倒的な力の差は覆せないものだ……『校正機能』が失われれば、我々『特異点』の侵攻はさぞ楽になるだろうな!」

 ここで奏音はつい、思っていたことを口走る。

「我々? お前は『特異点』じゃないでしょ?」

 画面の向こうで、シセは顔をひきつらせた。奏音は確信した。

「やっぱり……お前『上書き』されてないでしょ……『潜在的な特異点』のままなんだ」

「黙れ! 『上書き』されることなくあの方に従えることは名誉だ!」

「恥だなんて言ってないけど? それにあの方って誰?」

「ぐっ……」

 奏音はこのまま話し続けていいものか一瞬悩んだが、ブラッディが奏音に向かってこっそりゴーサインを出しているのに気づき、そのまま言ってみることにした。

「ずっと変だと思ってた……お前は最初に引いた五枚の手札を使ってこないし、ディスクのデッキホルダーじゃなくてわざわざ蜘蛛の体内から引いてるよね……もしかしてさ、『最初の手札があんまりよくなかったから、急きょ取り込んだ人たちのカードとスキルで戦うことにした』んじゃない?」

 図星。モニターに映るシセは、表情筋をピクピクと震えさせている。

「チートし放題でも思考がどこかデュエリストなんだろな、ルブランのときみたいな悪意を感じない。しかも複数のデッキを混ぜた上で使いこなすなんて、だいぶデュエリストだよね」

 煽りが効いているのか、シセは黙ったままだ。

(そうだよ……ジェントルマンとピクシーはトーナメント優勝経験のある有名人だから、そのプレイングをマネできる人も多い。でもプロテイン安田は違う。【エンゼル・イヤーズ】デッキはファンでも使ってるところをなかなか見ないマイナーデッキだ。こいつはきっと、日ごろから色んなデュエリストのデッキやプレイを見て研究を重ねてきてるんだ……)

「もう『特異点』のフリなんてやめたら?『旧世界』の記憶や思想に毒されてないなら戦う理由なんて―」

「ああそうだよ!!!」

 シセが叫んだ。どこか痛々しそうに。

「俺は『特異点』じゃない! あの方も言ってた! 俺は完全じゃないって!! でもそれを補う方法があるんだ!!」

 ドローフェイズでもないのに、シセは蜘蛛の頭の中から3枚のカードを取り出した。

 

《蜘蛛男》

《人食い植物》

《ジャン・ルブラン》

 

「『特異点』から抽出したスキルと! あの方が下さったカードだ! これらを取り込み、精神を高エネルギー状態にすることで、アバターの実体化やダメージの具現化ができる! こんな俺でも『特異点』に近づけるし、さらには超えられる!」

 奏音も負けじと叫び返した。

「なんで『特異点』なんか目指すの! デュエル上手いんだからそっちに進めよ!!!」

「ダメなんだ!!!」

 シセはもう涙ぐんでいた。

「俺は!!! ダメだったんだよ!!! 適性診断が―」

 

《タイムアウトです、エンドフェイズに移行します》

《【ウォーター・フォール・クルセイダー】の効果により、このターンシセ遼太郎が回復したライフの合計値、3600ポイントのダメージを与えます》

 

 凄まじい水流が押し寄せ、避けきれないと判断したブラッディはマシンの耐衝撃バリアを展開した。しかし奏音は、かろうじて聞き取れたシセの言葉が頭から離れなかった。バリアごとマシンが激流にさらわれ、天地が分からなくなるほど回転しながらも、奏音の頭の中では、シセの言葉がこだましていた。

 

 

 TURN10に続く。

 




~解説~
当初、ブラッディが【ギャンブル】でコイントスを外し次の自分のターンがスキップされた直後に二枚目を即座に発動、もう一枚あるのさ!みたいな賭け狂いムーブさせようと思ったんですけど、どうもルール上できないみたいです。アルカナフォースXXIみたいなターンスキップ系効果は重ね掛けできず、既にターンスキップが決まった場合は新たなターンスキップ効果を発動すらできないといった裁定がでているようでしたので、今作ではターンをまたいでから【ギャンブル】を再発動、という流れにしました。
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