ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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いろいろあって四年も空いてしまいました……書き溜めた分を手直ししながら放出していきます。


TURN10 試練-追- Aパート

 

 

 エンドレスシティでは全住民に自由と平等が保障されている。しかし、自由や平等が必ずしも快適とは限らない。例えば自由の一つ、『職業選択の自由』は、労働が完全に趣味と化したこの街においても、人々の悩みの種になりうる。「自分なりに社会に貢献したいが、そもそも自分は何ができる人間なんだろうか」という悩みだ。

「診断結果が出ました……シセ遼太郎さんは……労働適性はノーマル、IQもノーマル、コミュニケーション適性はレアで、デュエリスト適性が……なんとウルトラレアです……」

 表示された結果を見て、デュエル・カウンセラーが驚いた。結果を聞いていた、当時16歳のシセは、深いため息をついた。

 AIによる能力適性診断は、生まれてすぐにはもちろん、希望すれば人生のいかなるタイミングでも受け直すことができる。職業に就いてみたいという者は、まず自分の能力傾向、すなわち向き・不向きを調べるのだ。

「ウルトラレア……またかよ……」

 シセが失望したように呟くのを見て、カウンセラーが穏やかではあるが事務的に問いかける。

「あなたはもしかして、プロデュエリストを目指そうとしているんですか?」

 シセが適性診断を受けるのはこれが初めてではなかった。半年に一回ほどの頻度で、様々なカウンセラーの元で診断を受けている。健康状態や心理状態の変化で診断結果が変わることもあるからだ。しかしシセのデュエリスト適性がウルトラレア以外だったことは一度もなかった。

「俺はどうしても……デュエリストにはなれないんですか?」

 ウルトラレアの解釈は『極めて稀』に過ぎず、それだけで向き・不向きは決まらない。しかし、診断結果詳細を読めば、シセが『極めて不向き』なのは明らかだった。さすがにカウンセラーが申し訳なさそうな口調で言う。

「なることはできても、そこから先は苦労が絶えないかと……」

「くそっ、くそっ……!」

 目に涙を浮かべてシセは詳細文を睨みつけた。『極端な完璧主義』、『繊細で神経質』、『精神エネルギーの過抽出の危険あり』といういつもの文言が並んでいる。生まれた時からずっとこの診断結果だ。おおざっぱに言うと、ゲームに熱くなりすぎて小さなプレイングミスにも怒りを爆発させる性格のことなのだが、これはスマートデバイスを通じた精神エネルギーの抽出システムとすこぶる相性が悪い。通常の人間は怒りをエネルギー化して体外排出すればそれで精神が安定するが、シセの場合、デュエル中の怒りの頻度が多いため精神エネルギー抽出の機会も増え、『過抽出』に陥る危険が生じる。『過抽出』とは感情を生み出す基盤となる肉体や脳への強い負荷であり、様々な健康被害につながる。シセはデュエルそのものを禁じられているわけではないが、その頻度や程度を厳重に管理しなければならなかった。

「あなたのせいではありませんし、この不運は恥じる必要もありません。少しずつ、向き合っていきましょう」

 シセは、カウンセラーを睨み付けた。

「誰のせいだとか、屈辱だとか、そんなこと思ってない……俺はただ、諦められないんだよ……!」

 シセ遼太郎は『受け継がれなかった命たち』に感知されることこそなかったが、『特異点』の特徴である、『旧世界』の夢を見ていた。夢の中で彼は世界的に有名なプロデュエリストで、頂点を経験したこともある。目が覚めても、優勝した時のあの全身が痺れるほどの達成感が忘れられなかった。自分の特性が不向きであることは分かっていたが、どうしてもプロになりたかった彼は、家族に内緒でデュエルの戦術研究を繰り返し、カードの知識を深めた。他の職業には見向きもせず、競技者としてのデュエリストでなければ自分は納得できないとわかっていた。ショーデュエルは競技性が薄いため内心見下していたが、カードだけは調べた。その努力のおかげか、以前にこっそり参加したストリートデュエルのフェスではかなり勝ち進んだ……のだが、最終的に精神エネルギーの過抽出を起こし棄権する羽目になった。それからはメンタル・フィジカルのトレーニングを続けているものの、診断結果に変化は未だない。生まれつきの特性が、彼にとって最大の障壁となっていた。

「どうすればいいんだっ!」

 彼はストレス抑制剤のシートを握りしめた。カウンセリングからの帰り、駅構内のトイレの洗面台の前で、錠剤を飲もうと思っていたところだ。デュエル自体が制限されているせいで、ストレスケアも原始的な薬物に頼らざるを得なくなる。

「こんなもの……っ!」

 錠剤のシートを洗面台横のダストボックスに突っ込もうとして振り返った時、そこに女性が立っていることに気づいた。

「うわっ……!男子トイレだぞ!」

「オレに性別はありません」

 桜色のスーツを着た、鮮やかな紫色をした長髪の人物は、シセの握りしめていた錠剤のシートを指さした。

「捨てない方がよろしいかと。少なくともそれはあなたの味方でしょう」

「えっ……ああ……というか俺を知ってるのか?」

「この『世界』にオレが知らないことはありませんから」

 シセは奇妙な感覚に包まれた。こういう時、普通なら警戒心を抱くものだが、なぜかこの人物に対しては旧知の友人のような安心感が湧いた。

「あなたは一体……」

「『第2030番』と申します。あなたの境遇について、真実を知る者です」

 

 

 

 

10月24日、午後2時1分、第5地区シェルタープラネット内縁部

 

 単なる効果ダメージ演出に過ぎなかった激流が実体化したことで、荒野のレースコースは一時的に水浸しとなったが、演出の終了と共に水は干上がった。シセはブラッディ・ホイールの生死を確認しようと、走り続ける巨大蜘蛛を減速した。

(やつらはどこだ……ライディング・ショーデュエルでは走行不能も敗北扱いだが……ゲームセットの表示は出ていない……引き離しただけか?)

 シセのディスクから投影されるホログラム通信パネルには、エラー表示が出ている。ブラッディ側のマシンに何らかの損傷があったのは確かだ。

「うっ」

 巨大蜘蛛がよろめいた。なんとか横転は避けられたが、それでもシセが危機感を覚えるのには十分だった。

(やつらの言動に翻弄され過ぎた……これしきのことで……)

 外的なストレスを受け流す思考パターンを学んできたシセだが、ふがいない自分自身に対する苛立ちだけは、心から追い払うのが苦手だった。

(意識を逸らせ……この蜘蛛の肉体を支えることに集中しろ……)

 この肉体は『第2030番』から注がれた大量の精神エネルギーと、外部から取り込んだ肉体を変換した精神エネルギーで形成・巨大化している。当然それはこの『世界』の理に反しており、ルブランの『暴圧』スキルの応用で無理に抑え込んでいる状態なのだ。デュエル中のダメージ具現化や肉体の損傷という形で、詰め込んだ精神エネルギーを少しずつ吐きだしながら、シセはなんとか意識を保っていた。

(自分を信じろ!この『世界』はあくまで仮想空間!精神と肉体の相関は『旧世界』でのそれよりもはるかに強い……ならば俺の意志を固く保つことが、肉体の安定化につながるはずだ!)

 

 その頃、蜘蛛男の巨体から1500メートルほど後方では、マシン・オブ・フォーチュンが猛烈な追い上げを始めていた。ブラッディと奏音はかなり流されてしまっていたのだ。

「ダメだ、通信パネルがイカレちまったよ、食いしん坊くんをトークで煽るのはもう難しそうだねぇ……お姫様、あんた降りな。これ以上は身の安全を保障できないよ」

 奏音は黙ったままだった。

「どうした?」

「ねえ、ブラッディ……」

 奏音は静かに話しだした。

「もしこのままシセを倒したら、あいつはどうなるの?ルブランの時みたいに、消滅しちゃうの?」

「こんな時に敵の心配かい……さあね、食いしん坊くんの状態はよくわからないよ……ただ言えるのは、『校正機能』は器用じゃないってことさ。並の『特異点』相手でも削除しかできないよ」

「そんな……あいつはきっと利用されてるだけだよ?!」

「だろうねぇ……」

「……わかってても、やるんだね」

「あたしは所詮『機能』だからねぇ」

 淡々としたブラッディの返答に、奏音が失望や怒りを感じることは無かった。奏音自身も分かっているのだ。どんな事情があろうと、シセは既に三人を……いや、おそらく奏音が知らないだけでもっと多くの人数を殺めている。殺人行為はルブランの固有スキルの影響だったとしても、それを自らの意志で取り込んでいる彼を野放しにはできない。

(適性診断が『UR』か……デュエルが下手なわけじゃなかったし、そうなると……)

 奏音は突然、ブラッディの真の狙いに気づいた。

「ブラッディ……やっぱりもう一度シセと話したい。追いつける?」

「追いつくのはいいけど、まだ説得する気かい?」

「やるだけのことはやりたい……それに、ブラッディの作戦の邪魔にはならないと思う」

 ブラッディはちらりと奏音の方を振り返り、なぜか嬉しそうに微笑んだ。

「ヒッヒッ……ならしっかり掴まりなお姫様、とっておきをやるよ!」

 ブラッディがカードを引いた。

 

 通信機能は壊れても、相手のフィールドを表示するホログラムは作動していた。したがって、ブラッディのターンが始まったことをシセは直ちに知った。

(まだ後方に連中の姿は見えない……いくら俺よりスピードが出るとはいえ、ターンの制限時間以内にこの距離を詰めることができるのか?)

 レースコースは再び森の中に突入した。足場は荒野より悪く、蜘蛛の体を持つシセの方が明らかに有利だが、それでも彼は走るスピードを上げた。

(可能な限り離してやる……!)

 

《スタンバイフェイズ》

《【マスカレード継承名 レッド・エース】、【マスカレード継承名 キング・スモーク】の誘発効果》

《【レッド・エース】を特殊召喚》《DEF800》

《【キング・スモーク】を特殊召喚》《DEF900》

     

  

     

   

    

 

(なるほど、【マスカレード継承名】は効果を使うと次のターンに元となったモンスターに戻る、というコンセプトか……先ほどは不意を突かれたが、所詮は『見せかけ』の【継承名】だな……)

 シセのフィールドには誘発即時効果を持つウォーター・フォール・クルセイダーがいるが、もう少し様子を見ることにした。

 

《メインフェイズ》

《【マスカレード継承名 魔導紳士─J】を通常召喚》《ATK1600》

 

(通常召喚?手札から効果を使うテーマではないのか……?)

 

《【マスカレード継承名 魔導紳士―J】1体を素材にリンク召喚》

《召喚条件:【継承名】1体》

 

「リンク召喚だと?!」

 シセは目を疑った。【継承名】にリンクモンスターがいるなどという情報は聞いていない。

 

【継承名 ハイブリッド・セオリー】

《闇・サイバース・LINK-1/効果》《ATK1600》

▽△▽

◁ ▷

△▼△

 

「マスカレードではない、オリジナルの【継承名】か?」

 シセはブラッディの展開を眺めながら心の中でリオールに呼びかけた。

(見ていますか……『校正機能』が未知の【継承名】モンスターを、しかもエクストラモンスターです!)

 

《リンク召喚》

《召喚条件:【継承名】リンクモンスター1体》

 

「な、なんだこれはっ!」

 

【継承名 リアニメーション】

《闇・サイバース・LINK-1/効果》《ATK1600》

▽△▽

◁ ▷

△▼△

《誘発効果:素材とした【継承名】リンクモンスターをリンク先に特殊召喚し、このターンそのモンスターと同じ効果を得る》

《チェーン発動不可》

 

     

  

    

  

    

 

 

 墓地からハイブリッド・セオリーが戻ってきた。フィールドのカードは8枚であり、このタイミングで【ウォーター・フォール・クルセイダー】の効果を発動すれば、エンドフェイズに3200ポイントのダメージが確定する。しかし、

 

《効果発動不可》

 

「くそっ!またか!」

 

《【継承名 ハイブリッド・セオリー】起動効果発動》《チェーン不可》

《任意のレベルのチューナーとして扱う:✪1》

《【継承名 リアニメーション】起動効果発動》《チェーン不可》

《任意のレベルのチューナーとして扱う:✪3》

 

「チューナー化だと?!」

 

《シンクロ召喚》

《【継承名 ハイブリッド・セオリー】+【レッド・エース】》

【マスカレード継承名 クルーエル】✪4

《シンクロ召喚》

《【継承名 リアニメーション】+【キング・スモーク】》

【マスカレード継承名 マキシマム・シックス】✪6

《シンクロ召喚……

 

 次々と更新されるブラッディのフィールド情報にシセは困惑した。

(何が起きている?!プレイングが速すぎる!それになぜ、こちらのクイックエフェクトを使えない?!)

 ここでさらに、フィールド情報とは別にガイドが表示された。

 

《注意:相手マシン接近中》

 

「バカな?!」

 慌てて振り返るも、マシン・オブ・フォーチュンは確認できない。

「一体どこに―」

「ここさ」

 ブラッディ・ホイールは既に並走していた。シセが気付いた直後に、まるで戦闘機が通り過ぎたかのような爆音が追い付いてきた。

「褒めてやるよ、アクセル・シンクロまで使わせたのは食いしん坊くんが初めてさ」

 

【マスカレード継承名 シューティング・スター】

《闇・ドラゴン・シンクロ/効果・✪10》《ATK3200》

 

 大きな翼のドラゴンが頭上を滑るように飛んでいる。体の輪郭が陽炎のように不鮮明で、濃い藍色の肌と全身を覆う無数の小さな輝きはまるで星空のようだ。

「おい!シセ遼太郎!」

 ブラッディの背中にしがみつきながら、奏音が叫んだ。

「最後に一つだけ、お前に言いたいことがある!」

 

 

Bパートへ続く

 

 

 





~オリカ紹介~

マスカレード継承名
メインデッキに採用されるのはレッド・エース、魔道紳士-J、クィーン・バード、キング・スモーク、ウッド・ジョーカーの五種類。共通効果①でA、J、Q、K、のうち1枚とともに手札から捨て、コストに対応した妨害効果(全部で四種)を使えるぞ!
●レッド・エース 魔法・罠の効果の発動を無効にし破壊。サイコロによる挑戦権あり。
●魔道紳士-J バトルフェイズの終了。コインによる挑戦権あり。
●クィーン・バード モンスター効果の無効と破壊。サイコロによる挑戦権あり。
●キング・スモーク モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚、または特殊召喚を含むカード効果を無効にし破壊。コインによる挑戦権あり。
コストは元の形態でもマスカレード形態でも良い。ウッド・ジョーカーはいずれのコストの代わりにできるが、ジョーカー固有の効果もあるらしい……
共通効果②では①の効果を使用した次のターンに自身の元となった通常モンスターをデッキ・手札・墓地から特殊召喚できる。

そしてEXデッキのマスカレード継承名、シューティング・スターには最強の運試し効果があるとかないとか……
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