「安心したまえ、私がついている」
確認するより早く、マッスル剛力の声がした。奏音と剛力はともに『疑似空間』に囚われたようだ。
「ところでどうして……自分がいること、バレたんスかねー?」
『特異点』の男が初めて口を開いた。命のやり取りをしているとは思えない、気さくな口ぶりだった。
「アバターベルトからの座標は地区単位でしか把握できないっスよね?やっぱ物音や匂いでバレたんスかねー?」
剛力は、奏音の前に立ち男の問いに答えた。
「魂の『核』だよ。ほんの一瞬、エネルギーレベルが上がるのが分かったのだ」
「あー、それかぁ!『創造者』は『核』の状態を感知できるって聞いてたっスけど、『校正機能』もできるんスねぇー!」
「あのレベル上昇は君たちが情報を通信する際に観測されるものだと、私は考えている」
「アハハ!大当たりっス!盗み聞きした内容をソード様に報告してたんスよ、いやほんと油断ならない相手で困るっスねー」
急に、奏音と剛力が腕につけているデュエルデバイスが作動し始めた。『擬似空間』では自動的にデュエルの準備がされるらしい。
「1対2のバトルロイヤルルールでやりまス、一人ずつ相手するの面倒なんで……あっ、自分の名前は『ゲシル』って言いまス、『特異点』呼びじゃ何かとやりづらいでしょ」
「ずいぶん舐めてくれるじゃん」
すでに奏音の分析は始まっていた。あえて変則的な1対2のデュエルを挑むのには確実に何か理由がある。例えば、初見殺しのような戦術を持つデッキを使う場合などだ。
(それに、1対2でバトルロイヤルというのも気になる……)
多人数デュエルのルールはデステニークロスロードのイベント開催時に細かく整備されており、バトルロイヤル、タッグ、ウェーブ、レイドと様々だ。そのうちバトルロイヤル形式は1対2というより1対1対1に適したルールであり、ターン進行においてゲシルは確実に不利になる。
「自分は不利側なんで先攻もらって~、さらにハンデで【アナザーフィールド】使わせてもらいまス」
(バトルロイヤルで【アナザーフィールド】?何考えてるんだこいつ……)
「じゃ、デュエルいきまスよー!」
ターン進行はゲシル→マッスル剛力→求道奏音の順に回ることになった。一巡目は全員バトルフェイズを行えないが、それでもゲシルにしてみれば敵側のターンが二回連続で行われることになる。また、ハンデとしてゲシルが選んだ【アナザーフィールド】は、モンスター・魔法・罠を置くゾーンを一人で二人分使えるというものだが、手札もライフも増えないため、目に見える形でのアドバンテージはない。
ゲシルLP8000 アナザー
剛力LP8000 奏音LP8000
「メインフェイズ!魔法カード【予想GUY】発動!」
《デッキから✪4以下の通常モンスター一体を特殊召喚》
「【鎧ネズミ】を攻撃表示!」
鎧のようにかたい毛で体を守ることができるネズミ。
《地属性・獣族・通常・✪3》《ATK950》
「さらに召喚!【プリヴェント・ラット】!」
毛が集まり、かたい皮のようになっているネズミ。
《地属性・獣族・通常・✪4》《ATK500》
奏音は思わずつぶやいた。
「ネズミデッキだ……」
「正解っス。ちなみにこのデッキは『上書き』された『傀儡』さんのものじゃなく、自分が昔から使ってたデッキっスよ。ここでスキル【ネズミ算】発動!」
《場のネズミモンスターカードの数が倍になるよう、デッキ・手札・墓地からネズミモンスターを出す》
「自分はこのスキルで二体の《キーマウス》を出しまス!」
《地属性・獣族・効果/チューナー・✪1》《DEF100》(キーマウス)
しっぽが鍵になっている、白くて小さなネズミだ。首輪にも鍵と錠前がついている。
(チューナーのネズミ出てきたってことは……)
「そして、✪3の鎧ネズミと✪4のプリヴェント・ラットに、✪1のキーマウス二体をダブル・チュー・ニング!」
(チューチューってことか!)
「シンクロ召喚!✪9!【ネズミ・キャッスル】!」
まるでおとぎ話の王国のような、豪華な装飾の城が出現した。城の周りには衛兵のような格好のネズミたちが武器を手にし並んでいる。
《地属性・獣族・シンクロ・✪9》《DEF3000》
(カード名と守備力、そして見た感じこれはエースモンスターというより……)
「『舞台』が整ったっス。シンクロ成功時、ネズミ・キャッスルの誘発効果!」
《このカードを永続魔法扱いで魔法・罠ゾーンに置き、S素材としたネズミモンスターを可能な限り特殊召喚》
鎧ネズミ、プリヴェント・ラット、二体のキーマウスが場に戻ってきた。
《DEF1100》《DEF2000》《DEF100》《DEF100》
ゲシル アナザー
城
鎧プキキ
「自分はカードを二枚伏せてエンドフェイズに移るっスけど……ここでもネズミ・キャッスルの誘発効果が発動っス!」
《以下の効果をそれぞれ適用》
《●ネズミモンスターカード一枚につき200のダメージ》
《●ネズミモンスターカードの枚数分、相手のデッキの上からカードを墓地へ送る》
「ちなみにー、これは1対2の多人数デュエルなんで、効果ダメージをレジェンドさんに、デッキ破壊を『校正機能』さんに、別々に適用できちゃうんスよねー」
「痛っ!」
小さなホログラムのネズミが五匹、奏音に噛みついていた。奏音がマッスル剛力の方を見ると、彼女のデッキに同じように、ネズミたちが噛みついている。
《求道奏音 LP8000→7000》
《マッスル剛力 山札35→30》
(そういうことか……戦闘を介さない効果ダメージとデッキ破壊!二人同時に相手する自信があるわけだ!)
ゲシルはすでに勝ったかのように高笑いした。
「アハハハ!あんたらは隠れてた自分を見つけて、どこかネズミ狩りの気分だったかもしれないっスけど……ネズミ視点じゃあんたらはご馳走みたいっスよ?、逆に狩られないよう気を付けてくださいねー!」
リオールは第45地区のシェルターで他のプレイヤーに混ざって過ごしていた。ホログラム衣装を解除して、割と目立つ青い制服姿なのだが、『創造者』側の刺客や追手といったものは彼の前に現れていない。レイチェル光尊の『順化』スキルが役立っていた。イベントスタッフに支給されたデステニードローパンを食べ終え、広間で配られていたココアをすすりながら、考え事にふける余裕があった。
(案外、快適な潜伏生活になりそうだ……)
しかし気がかりなのは、先ほどゲシルから『接続』で届いた情報が不自然な形で途切れていたことだ。『潜在特異点』達のように『創造者』サイドに感知されたとみるべきだろう。
(『接続』時間を極端に短くしても感知されたか……まあ、ゲシルは最初から囮役も兼ねてるし、これだけ情報が得られれば上出来かな……)
シセ遼太郎の稼いだ肉体を上書きする際、今後の作戦と各自の役目を『特異点』たちに伝えるためリオールは一度『接続』を使用していた。居場所を感知されようが関係ない状況だったからだ。実はこの直後、森に逃げ込みながらゲシルにだけ、極めて短い時間の『接続』を何度か行い、『創造者』に感知されるか試していた。
(あの時はゲシルも僕も感知されず、今回はゲシルだけが、おそらくは彼が張っていたマッスル剛力に感知された……『校正機能』の感知範囲は限定的なのか?いや対処できる人数の問題かな?いずれにしても―)
リオールは思わず笑みをこぼした。
「フフフ……『創造者』さんもお休み中なのかな?」
「では私のターンを始めようか」
先制デッキ破壊にもまるで動じず、剛力はドローした。いたって普通のドローにも関わらず、隣にいる奏音は見えない圧のようなものを感じた。
《剛力 山札30→29》
「今度の『校正機能』さんは無口なんでスねー?」
「言葉だけが語る術ではないものだよ」
ゲシルの茶化しも効果がない。まさに大木のような存在感だった。
「メインフェイズに入る。【パワー・インベーダー】を召喚!」
筋骨隆々の異星人、といった見た目の悪魔だ。
《闇属性・悪魔族・効果・✪5》《ATK2200》
「えっ?」
「あれっ?」
ゲシルも奏音も驚いて妙な声が出た。察した剛力が静かに言葉を付け足す。
「私のデッキは【継承名】ではないのだよ。インストラクター時代のものと大して変わっていない」
「ええええ?!?!」
奏音はついに叫んでしまった。
(あの【力こそパワー】デッキを原液100%で見られるのは嬉しいけど!当時のデッキまんまは大丈夫なの?!)
「アハハハ!こいつは嬉しい誤算っスねー!なら自分はスキル発動!【ネズミ算】!」
「ちょっ?!はあ?!そのスキル相手ターンにも使えるの?!」
「もともとは自分のターンに1度だけのスキルっスけど、改造しちゃいましたー!」
《場のネズミモンスターカードの数が倍になるよう、デッキ・手札・墓地からネズミモンスターを出す》
「永続魔法になってるキャッスルもネズミモンスターカードとして数えるんで、新たに5枚……【鎧ネズミ】二枚、【プリヴェント・ラット】二枚、【イビル・ラット】一枚を場に出しまスねー!」
毛の硬そうなネズミたちに続いて、行儀の悪そうにどんぐりにかじりついた、青い肌の野ネズミが飛び出した。
《DEF1100》《DEF1100》《DEF2000》《DEF2000》
《地属性・獣族・通常・✪3》《DEF800》
ゲシル アナザー
城伏伏
鎧プキキ 鎧鎧ププイ
パ
剛力 奏音
「モンスターが合計9体って……」
「ふむ。ハンデで【アナザーフィールド】を選んだのはこのためというわけか」
「それと追加で教えておきまス、このスキルで場に出すネズミ達は、永続魔法扱いで魔法・罠ゾーンにも置けるんスよ」
「ほう」
奏音は急いでデバイスのログ機能から、スキル発動時に表示された【ネズミ算】の効果説明を確認した。
《場のネズミモンスターカードの数が倍になるよう、デッキ・手札・墓地からネズミモンスターを出す》
基本的にデュエル中はカードやスキルの効果テキストは最低限しか表示されない。読み飛ばしていたテキストを見て奏音は違和感を覚えた。
「一応確認するんだけど……このスキルで場に出すネズミって、相手の場にも置けたりするわけ?」
ゲシルはここまでで一番の、悪意のこもったいやらしい笑みを浮かべた。
「あ~!やっぱデュエルの勘はいいっスねレジェンドは……当たりっス!」
ゲシルは自分のデバイスを操作し、スキル効果の全文を公開した。
《条件:このスキルはモンスターが召喚・特殊召喚された自分・相手のターンに一度、自分のフィールドにネズミ型モンスターカードが2枚以上存在する場合に発動できる。》
《効果:自分・相手フィールド上のネズミ型モンスターカードの数がちょうど二倍になるよう、自分のデッキ・手札・墓地からネズミ型モンスターを自分・相手のメインモンスターゾーンに、あるいは永続魔法カード扱いで魔法・罠ゾーンに出す。》
奏音はゲシルの戦術への分析を改めざるを得なかった。
(こいつは1対2のデュエルに自信があるんじゃない……1対2だから自信があるんだ!)
今のゲシルには、アナザーフィールドを含めるとメインモンスターゾーン及び魔法・罠ゾーンに合わせて8か所の空きがある。もし次の奏音のターンで【ネズミ算】が発動した場合、最大10枚のネズミ型モンスターが増え、奏音かマッスルどちらかのフィールドを埋め尽くすことも可能だった。
(さらにこのターンの終わりに最大でデッキ破壊10枚と効果ダメージ2000ポイント、次の私のターンは最大で20枚と4000ポイント……それ以上スキルが発動しなくても、次のゲシルのターンにもう一度食らったら終わりじゃん……!)
「バトルロイヤルルールでは最初のターンに誰も攻撃できないんで、もう勝負あり、かもしれないっスね~、どうしまス?『校正機能』さん」
しかし剛力は、特に困る様子もなく言った。
「ならば私もスキルを使うとしよう」
【パワー解放・真】
《墓地のパワーカードをすべて手札に戻し、その枚数に応じた効果を得る。戻したカードはこのターン中、発動・召喚・特殊召喚できない》
奏音がはしゃいだ。
「そっか!デッキ削られたおかげで、いきなりスキルが使える!」
「あー、そんなスキルでしたねあんた……」
「当然私のデッキはすべてパワーカードなのでね、この5枚を戻させてもらうよ」
《ガイアパワー》
《魔導師の力》
《パワー・ブレイカー》
《ホーリー・パワー》
《パワード・チューナー》
「そして戻した枚数に応じた強化効果を、パワー・インベーダーに与える」
《1枚以上:チューナーとして扱う》
《2枚以上:このカードへの攻撃力の増加は2倍になる》
《3枚以上:手札の効果モンスターを二枚まで見せ、その効果を得る》
「私はこの二枚の効果をパワー・インベーダーに与える」
《【パワー・ブレイカー】と【パワード・チューナー】が公開されました》
スキルの効果はまだ続いていた。
《4枚以上:相手のカード効果を受けない》
《5枚以上:フィールド・墓地・手札・デッキのすべてのパワーモンスターカードは真なる姿へ成長し、このスキルが消滅する》
「あの……マッスル?なんかスキルの効果が昔と違くない?」
「真なる姿ってなんスか……?」
「見れば分かるとも……パワー・インベーダー!バルクアップ!コスチュームチェンジ!」
パワー・インベーダーの筋肉が膨れ上がり、光に包まれ、やがてそれを内側から破るようにして、中から一回り大きくなったパワー・インベーダーが現れた。黄金色に輝く衣装に身を包み、むき出しの筋肉に血管がばちばち浮き出ている。
【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】
《闇属性・悪魔族・効果・✪5》《ATK2700》
「デッキは同じでもスキルで別物ってわけっスね……」
「真なる姿を得ると同時に、スキルによる強化効果をすべて引き継ぐ。パワー・インベーダー/バスキュラリティはチューナーとなり、攻撃力増加2倍と相手の効果への耐性、および先ほど付与したモンスター効果を獲得している!」
奏音が解説をつけ加える。
「ちなみに、パワード・チューナーは場のチューナー一体につき500ポイント攻撃力が上がる効果だよ」
「げっ、こっちの場にはチューナーのキーマウスが2体……でさらにそいつ自身も今チューナー化してるってことは……」
「すなわち1500ポイントの2倍、3000ポイントの上昇だ」
「出ましたマッスルの得意戦術ぅ!」
《ATK2700→5700》
ゲシルは鼻で笑った。
「立派な攻撃力っスけど、まだあんたらは攻撃できないことを忘れてまスねー!」
剛力は右腕を上げ、天を指した。
「は?」
そこにはすでに、パワー・インベーダー/バスキュラリティの発動した効果が表示されていた。
《力比べ!!!》
《誘発即時効果:手札から【/バスキュラリティ】モンスターを相手フィールドに特殊召喚し、強制的にバトルを行う》
「まだ1か所、君の場には空きがあるのでね」
「ま、まじっスか……」
「これを渡そう、先ほどスキルで真なる姿を得たモンスターだ」
【パワー・インジェクター/バスキュラリティ】
《地属性・サイキック族・効果・✪4》《ATK1800》
灰色の肌、金のシャツ姿の筋骨隆々の人造人間が、両腕につけた補助タンクを引きちぎりながら現れた。
「そのモンスターには戦闘時にライフを600払い攻撃力を500上げる効果があり、使用回数に制限がない。つまり8回ライフを払えばパワー・インベーダーを越えられるが、どうするかね?」
慌てて自分の場の、パワー・インジェクター/バスキュラリティの効果を確認したゲシルは青ざめた。
「こ、これ、相手側も同様の効果が使えるじゃないっスか……!」
「いかにも。先で良いかな?私は5回ライフを払いたいのだが」
《剛力 LP8000→5000》
【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】《5700→10700》
「いくら払っても、あんたのモンスターは攻撃力増加が2倍で適用される以上、勝ち目ないっスよ……」
奏音も言葉を失っていた。ゲシルは最大13回のライフコストを払えるが、それでもパワー・インジェクターの攻撃力は8300止まりである。攻撃力の上昇よりライフの減少値の方が大きい効果のため、現時点で8000以上の差がある場合はどうあがいてもライフを失う計算になる。
(マッスルのコンボ、一撃必殺すぎる……)
「あんまりっスよぉぉぉ!!!」
「ではバトルだ」
パワー・インベーダー/バスキュラリティの豪快なラリアット攻撃が炸裂した。
TURN13Aに続く。
Q.バトルロイヤルルールでのEXモンスターゾーンはどういう扱い?
A.アナザーフィールドなしであれば、全員で二か所を奪いあう形になります。今回はアナザーフィールドが用意されているため、ゲシルだけは元のとアナザーフィールドのとを合わせEXゾーンを二か所使用できます。エクストラリンクを駆使すれば最大四か所使えます。一方で剛力と奏音は基本的に元のEXゾーンしか使えません。
なお、リンクマーカーやカード効果などで相手のゾーンを参照する場合は、どのプレイヤーのフィールドを参照するか選べます。その都度、参照するプレイヤーを切り替えられるイメージです。
※先に言っておきますがゲシル戦ではEXゾーン使いません
~プチ解説~
剛力の使用スキルは昔は【パワー解放】でした。前日譚であるTURN0で登場したものは一般デュエリスト用に調整され弱体化しています。剛力が使用したときだけオリジナルの性能に戻りますが、そもそもインスタラクターの職業柄あまり使いませんでした。
【パワー解放】(奏音が知ってる原液100%)墓地のパワーカードを回収、その数に応じた強化効果。
【パワー解放】(TURN0登場の調整版)墓地のパワーカードを回収、その数に応じた強化効果を得るが、オリジナル性能と比べると条件が厳しくなっている。
【パワー解放・真】(奏音も初めて見る。)効果はおおむねオリジナルと一緒だが、5枚以上回収すると真なる姿への成長が可能。