エンドレスシティでは市民一人一人に個別のテーマデッキを支給しており、どれ一つとして同じテーマはない。そのため自然とデッキのテーマが使い手のアイデンティティとなる。変更したり増やしたりはできるが、リオール大河やディーピカ手島のように異なるテーマのカードを混ぜたがる者は少なく、いたとしても研究用や趣味の域にとどまる。ゲシルの場合、細かいことにこだわらない性格であり自分の【ネズミ】デッキに対してなんの思い入れもなかったこと、そして彼がリオールと関わったことが、彼のデュエルタクティクスに大きな変化をもたらす要因となった。
「別にいいっスけど、自分はデュエル強くないっスよ?」
『特異点』の戦力として起用されると聞いた時、彼はリオールにそう言った。
「上書きした人物がデュエルに長けていた場合、そのデュエルセンスが君にも影響を与えるはずさ。だから今のうちに、戦術を固めておこう」
リオールにそう言われ、ゲシルは自分のデッキを彼に見せた。
「デッキ破壊とバーンダメージの両輪か、珍しい戦術だね……うん、案外やれそうだよ、これ」
ゲシルのデッキに持ち主よりも興味津々なリオールに、この時のゲシルは内心困惑していたが、後にファントム砂川の肉体を上書きした時、リオールの慧眼に感心することとなった。砂川の記憶やデュエルセンスが彼に引き継がれたことで、自分のデッキ、さらにはデュエルそのものへの理解度が上がったのだ。
(こりゃあ自分、勝ちにいけるかもしれないっスね……)
「……こんなカードも使うのに抵抗ないんスよ、【レスキュー・キャット】召喚!」
《地・獣・効果・✪4》《ATK300》
ゲシル・手札1
レ
パ
伏
剛力・手札5 奏音・手札1
愛らしい瞳の猫が、奏音を見つめていた。奏音も、そして剛力も同じく、静かに見つめ返すだけだった。
「おやおや?思ってたより反応薄いっスね?まあ別に、ネズミデッキで猫カード使うっていうジョークをやりたいわけじゃないっスけど」
完全に初見のカードであれば奏音も何かしらリアクションしただろうが、過去のトーナメント戦に【猫】デッキ使いがいたことで、奏音は【レスキュー・キャット】の性能も、それが他のテーマのカードであることも知っていた。
(私の伏せカードが、特殊召喚効果を止める【継承戦術 ロスト・イン・ジ・エコー】である可能性を、あいつが考慮していないとは思えない。残る一枚の手札か、墓地のカード効果に何かあるな……)
「自分は【レスキュー・キャット】の起動効果を、自身を墓地に送って発動っス!」
《デッキから✪3以下の獣族2体を、効果を無効にし特殊召喚》
奏音の読みは正しかった。ゲシルの墓地にある【ファントム・プリズン・ブレード】には自分のターン中にモンスターをカード破壊効果から守る効果があった。剛力はファントム砂川のカードの効果を知っていたが、あえて奏音に教えない判断をした。これにより、ゲシルは奏音の反応を見て彼女の伏せカードを推測することが難しくなっていた。
(ここで使わないなら【ロスト・イン・ジ・エコー】の可能性は無さそうっスけど……確証もないのが面倒っスね……またスキルを使わせてから崩しにかかるつもりっスか?伏せカードが【ザ・サモニング】ならそれもあり得るっスね……うーん……)
しかし彼の細かいことにこだわらない性格とは、言ってしまえば“細かいことまで考えられない”性格でもある。
(まぁなんとかなるでしょー!【ファントム・プリズン・ブレード】で一回は防げまスし!)
「デッキからこの二体を出しまス!」
【キーマウス】《DEF100》
【肥大ネズミ】《地・獣・効果・✪2》《ATK1000》
キ肥
パ
伏
このデュエル三体目の鍵付きネズミと、巨大ネズミへと成長中の太ったネズミが現れた。
「場にネズミが二体以上いるんで、スキル【ネズミ算】が発動出来るっス!」
《場のネズミモンスターカードの数が倍になるよう、デッキ・手札・墓地からネズミモンスターを出す》
「出すのは【レスキュー・ヘッジホッグ】と【田舎の骨ネズミ】!」
【レスキュー・ヘッジホッグ】《地・獣・効果・✪4》《DEF100》
【田舎の骨ネズミ】《闇・アンデット・効果・✪1》《DEF300》
キ肥 レ田
パ
伏
「さあて、どんどん繁殖しまスよー、自身を除外してレスキュー・ヘッジホッグの起動効果!種族と属性とレベルが一致する、この二匹を特殊召喚!」
【ヴォルカニック・ラット】《炎・炎・通常・✪1》《DEF500》
【有毒ネズミハナビ】《炎・炎・効果・✪1》《DEF200》
「田舎の骨ネズミの起動効果!」
《【都会の骨ネズミ】を特殊召喚》
【都会の骨ネズミ】《闇・アンデット・効果・✪1》《DEF300》
「その都会の骨ネズミの起動効果!墓地の【骨ネズミ】を二体復活!」
【骨ネズミ】《DEF300》(2体)
キ肥ヴ 毒田都骨骨
パ
伏
あっという間にゲシルの場には8体ものネズミが並んだ。
「レスキュー・キャット一枚からこの数!普通は入れないカードをデッキに入れられる自分だからこそできる戦術なんでしょうねー」
実は【レスキュー・キャット】を採用するアイデアはリオールのものだった。
「ゲシル君のデッキは構造上の制約が強いね」
「そーなんすか?」
「うん、例えば【レスキュー・ヘッジホッグ】からネズミを二体揃えて【ネズミ算】のスキルで増やすとね、【ネズミ・キャッスル】を出すにはレベルが足りず、他のカードを組み合わせる必要が出てくる」
リオールはテーブルに置いた深紅のデュエルディスクにゲシルのカードを並べながら解説した。
【ヘッジホッグ】→【鎧ネズミ】と【デスハムスター】→スキル使用で【キーマウス】2体(合計レベル8)
「でもこれが【レスキュー・キャット】だった場合はこうなる」
【キャット】→【キーマウス】2体→スキルで【鎧ネズミ】【ヘッジホッグ】→【デーモン・ビーバー】と【肥大ネズミ】(合計レベル9)
さすがのゲシルも感嘆の声を上げた。
「これなら手札一枚からネズミ・キャッスル出せて、効果で5体も復活っスね……」
「この『世界』における“複数テーマの混成”はトーナメント戦では禁止されるほどなのに対し、『旧世界』のデュエリスト達は普通にやるんだ。僕自身も『創造者』と戦うまで実戦で試したことなかったし……ひょっとして『創造者』は、この『世界』のデュエリストが強くなり過ぎないようにテーマ縛りを課している?」
リオールの言葉が独り言へと移り変わりつつあったので、ゲシルは【レスキュー・キャット】を手に取りながら言った。
「まあなんでもいいっスけど、このカードは貰っときますねー」
(【継承名】や【力こそパワー】がいくら強くても、それは縛りだらけのこだわりデッキしかいない環境での話……次の自分の一手を、お二人は読めまスかね?)
「自分は【キーマウス】【ヴォルカニック・ラット】【有毒ネズミハナビ】【骨ネズミ】の4体でオーバーレイネットワークを構築しまス!」
ここでようやく奏音が、少し驚いた素振りを見せた。
「シンクロしかないと思ってたっスね?まあ本来はそうっスけど、『特異点』の中にはカードやスキルを『造れる』人材がいるんスよ!エクシーズ召喚!【レスキュー・ゴールドラット】!」
金色に塗装された、機械仕掛けのネズミだった。同じく金色に塗装されたヘルメットを装着しているが、あまり似合っていない。
《光・獣・エクシーズ・ランク1》《DEF600》
肥 レ田都骨
パ
伏
「ここでも使わないあたり、そこの伏せカードは【ロスト・イン・ジ・エコー】ではなさそうっスね?そのままレスキュー・ゴールドラットの起動効果いきまスよ!」
レスキュー・ゴールドラットのORU(オーバーレイ・ユニット)が輝きだす。
《EXデッキの✪5、✪6のモンスターを1枚見せ、そのカードおよび同名カード1枚(合計2枚)をEXデッキから自分の魔法・罠ゾーンに永続魔法扱いで置く》
「自分は✪6シンクロモンスターの【ネズミ・ローラーコースター】を見せまス!」
ジェットコースター、およびそのレールが、ゲシルの背後に敷設された。
「ローラーコースター2枚を設置しまスが、この効果には続きがあるんスよ」
《その後、カードを1枚ドローし、それがネズミカードだった場合、取り除いたエクシーズ素材をORUに戻す》
「1枚ドロー!【デスハムスター】!これでORUは四つのままっスね!そのままレスキュー・ゴールドラットの効果をもう一度使いまス!」
《EXデッキの✪5、✪6のモンスターを1枚見せ、そのカードおよび同名カードをEXデッキから自分の魔法・罠ゾーンに永続魔法扱いで置く。その後、カードを1枚ドローし、それがネズミカードだった場合、取り除いたエクシーズ素材をORUに戻す》
「次に見せるのは✪5シンクロモンスターの【ネズミ・ゴーランド】!そしてこれと同名カードの計2枚を設置しまス!」
馬がネズミになっているデザインのメリーゴーランドが、ゲシルの背後に敷設された。
「そして1枚ドロー!今度は【窮鼠の進撃】!モンスターじゃありませんが、これもネズミカードとして扱うんでORUは四つのままっス」
ロロ ゴゴ
肥 レ田都骨
パ
伏
ついに奏音が口を開いた。
「わざわざORUを維持してるのは意味あるの?」
「いい質問っスね!【レスキュー・ゴールドラット】にはORUを一つ使って自分のネズミカードを効果破壊・戦闘から守れるんス」
「【レスキュー・キャット】や【ヘッジホッグ】は出したカードがエンドフェイズに破壊されるけど、ひょっとして【ゴールドラット】も同じ?」
「同じっス。そして当然、その破壊もORUで肩代わりできるっス」
「ずいぶん気前よく教えてくれるじゃん。もしかしてそのアトラクションたちの効果で勝ちが見えてるのかな?」
「アハハ正解!【ネズミ・キャッスル】と同じデッキ破壊効果が【ネズミ・ゴーランド】にあって、同じダメージ効果が【ネズミ・ローラーコースター】にあるっス!」
アトラクションは2枚ずつあり、ネズミモンスターカードの合計は9枚だった。つまり、このターンの終わりに18枚のデッキ破壊と3600ポイントのダメージとなる。
《剛力 山札20枚》《奏音 LP950》
「このままターンエンドでもいいっスけど、レジェンドさんの伏せカードが未知のカードかもしれないんで、いったんバトルフェイズ入ってみまスかー」
ゲシルの場には攻撃力1000の【肥大ネズミ】がいた。攻撃されればいよいよ奏音は伏せカードを使わざるを得ない。奏音が判断を下そうとした瞬間、割り込むように剛力が叫んだ。
「私は【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】の効果を発動!」
《力比べ!!!》
《誘発即時効果:手札から【/バスキュラリティ】を1体相手の場に出し、強制的にバトルを行う!》
「マッスル?!」
「奏音くん、これを使いたまえ」
剛力が奏音にカードを投げてよこした。
【ホーリー・パワー/バスキュラリティ】
《光・魔法使い・効果・✪2》《ATK1500》
七本の脚がある異形の魔法使いが奏音の場に現れた。かつてひょろひょろだった脚はたくましく鍛え上げられており、両手に持った杖を放り投げ、さあ来いと言わんばかりにパワー・ブレイカーと向き合った。
「それレジェンドさんの場でいいんスか?戦闘ダメージでライフなくなっちゃいまスよ?」
「いや、これでいい……ありがとマッスル!【ホーリー・パワー/バスキュラリティ】の永続効果!」
《戦闘では破壊されず、コントローラーが受けるダメージは0になる》
パワー・ブレイカーのラリアットを受けるも、ホーリー・パワーは七本の脚で踏ん張った。
「さらに戦闘したことで誘発効果発動!」
《自分・相手のEXデッキからモンスター1体を正規の方法扱いで特殊召喚する》
少し慌て始めたゲシルに奏音が告げた。
「お前のはいらないよ。何が入ってるか知らないし」
「てことは……」
ゲシルは剛力の方を見た。
「奏音くんが欲しいのは、これだね?」
「そうそれ!【甲化鎧骨格(インゼクトロン・パワード)】!」
大型の機械装甲兵が奏音の場に現れた。脚や腕の形が昆虫を思わせる。奏音の、好きな見た目のモンスターTOP10に入るかっこよさだ。
《光・機械・シンクロ・✪6》《DEF1600》
「そしてシンクロ召喚時の誘発効果!」
《このターン、このカードは戦闘・効果では破壊されず、自分が受けるすべてのダメージは0になる》
「これで【ネズミ・ローラーコースター】の効果ダメージも0だ……助かったよマッスル!」
「君の護衛として当然だよ」
ゲシルがあからさまに鼻で笑った。
「その場しのぎにしかならないと思うっスけどね!自分はバトルをやめて、このままエンドフェイズに……ここで【レスキュー・キャット】の効果で出された【肥大ネズミ】が破壊されまス」
奏音は嫌な予感がした。
(【レスキュー・キャット】の方から効果処理?先にアトラクションたちの効果を使うこともできたはず……まさか……)
剛力が言った。
「やはり、“それ”が狙いのようだね」
「おやおや~『校正機能』さんは知ってるみたいっスね?破壊された【肥大ネズミ】の誘発効果を!」
《デッキ・墓地からそれぞれ1体まで【巨大ネズミ】を特殊召喚できる》
2体の巨大ネズミが現れた。
《地・獣・効果・✪4》《DEF1450》(2体)
ロロ ゴゴ
巨巨 レ田都骨
パ ホ甲
伏
奏音は、剛力がパワー・ブレイカー/バスキュラリティの効果を奏音が何かする前に使った本当の理由に気づいた。
「マッスル……もしかして……」
「君にはやってもらわなくてはならないことがあるのだ」
「ダメだマッスル!」
奏音が慌てて伏せカードを使おうとするのを、剛力が制した。
「その必要はない。信じたまえ」
「じゃあ続けてネズミ・ゴーランド2枚の誘発効果を使いまスねー!」
《場のネズミモンスターカードの枚数分、相手のデッキの上からカードを墓地へ送る》
《場のネズミモンスターカードの枚数分、相手のデッキの上からカードを墓地へ送る》
「巨大ネズミが増えて今場には10枚あるんで、『校正機能』さんのデッキから20枚を捨ててもらいまス!」
ホログラムのネズミが集まり、剛力のデッキを貪った。
《剛力 山札20→0》
ゲシルが笑いながら言う。
「何かあるんじゃないんスか?ネズミ・ローラーコースター2枚の効果も残ってるんスけど、死体蹴りになっちゃいません?」
《場のネズミモンスターカード1枚につき200のダメージ》
《場のネズミモンスターカード1枚につき200のダメージ》
「まあ身代わりの覚悟はできてたっスよね?せっかくなんで4000ポイントしっかり受けてもらいまスよ!」
剛力にホログラムのネズミが襲い掛かった。
《剛力 LP5000→1000》
奏音は堪えるように剛力を信じたが、不安は拭えなかった……剛力は【肥大ネズミ】の効果を知っていた……このターンで自分の負けが決まると分かったからこそ、【パワー・ブレイカー/バスキュラリティ】の効果を使い、奏音に伏せカードを温存させたのではないか……『信じたまえ』という言葉は、奏音に勝利を託すための方便だったのではないか……
「このターンで二人とも倒すつもりだったんスけど、まあ仕方ないっスね。自分は最後に、【レスキュー・ゴールドラット】の効果を使って【ネズミ・ローラーコースター】を1枚だけ場に残しまス」
ネズミ・ゴールドラットのORUが3つになり、ネズミ・ゴーランド2枚とネズミ・ローラーコースター1枚は破壊され、場のネズミモンスターカードは合計7枚となった。
「当然レジェンドさんは知ってると思いまスけど、バトルロイヤルでターンプレイヤーが敗北した場合は、一度そのターンの“エンドフェイズ”に移るんスよね~」
奏音も分かってはいた。
(マッスルがデッキ切れで敗北した場合、そのままエンドフェイズに移行するから、もう一度ネズミ・ローラーコースターの効果が発動し、私に1400のダメージが飛んでくる……)
「その場しのぎはいつまで続きまスかねー?とりあえず自分は、このターンのやること終わったんで、『校正機能』さんはこれで退場―」
「待ちたまえ、一つ残っているよ」
剛力があまりに平静そのものといった調子で指摘したため、ゲシルも奏音もきょとんとした顔で彼女を見た。
「私のカードにもエンドフェイズの処理があるのだよ。【/バスキュラリティ】の力比べで呼び出したモンスターには、ゲシルくんのカードのように条件付きなのだ」
フィールドにテキストガイドが表示されていた。
《この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに持ち主のデッキに戻る》
奏音の場に残っていたホーリー・パワー/バスキュラリティが、ポンっと軽快な音を立てて姿をくらました。剛力のデッキに戻ったのだ。
ロ
巨巨 レ田都骨
パ 甲
伏
《剛力 山札0→1》
「そして私のターンだ」
剛力はいたって普通に、いつもの存在感を放ちながらカードをドローした。奏音は顔を真っ赤にしながら言った。
「し、しし知ってたし!」
ゲシルも動揺を隠しきれていなかった。
「ど、どのみちもうデッキはないでスよね!このターンの終わりにレジェンドさんにダメージも入りまスし!」
奏音はゲシルの動揺を見て逆に冷静になれた。
(いや、デッキ破壊戦術はすでに破綻した……剛力が今引いたカードは【ホーリー・パワー/バスキュラリティ】だから、それを場の【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】の効果で私の場に出すのを繰り返すことで、デッキ切れは起きない……そして……)
「我々はもうバトルフェイズを行える、ということを忘れていないかね、ゲシル君?」
ゲシルの態度が『狼狽える』から『血の気が引く』に変わった。
「まずは、私は手札から装備魔法カード【パワー・ブレイクタイム】を発動する」
《装備対象:【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】》
《墓地の装備魔法または装備効果を持つカード1枚をデッキに戻し発動。フィールド・墓地の装備魔法および装備状態のカード1枚を手札またはデッキに戻す。デッキに戻した場合、相手に500のダメージを与える(使用回数制限なし)》
「ゲシル君のおかげで、私の墓地は今や武器庫と化しているのでね。効果は使い放題だろう」
「くっ……でスが!自分のライフを削りきるには装備魔法が墓地に20枚は必要っス!」
「効果ダメージ戦術は私好みではないな」
「へっ?」
「私は墓地の【パワー・フレーム】をデッキに戻し、まずは墓地から【パワー・ピカクス】を手札に戻す」
「手札っスか?!」
「この一枚が必要だったのだよ。装備魔法【パワー・ピカクス】を奏音くんの場の【インゼクトロン・パワード】に装備!」
鎧骨格の装甲兵が機械製の巨大つるはしを握った。
「そのまま【パワー・ピカクス】の効果を発動!」
《1ターンに1度、相手墓地の、装備モンスターのレベル以下のレベルを持つモンスター1体を対象。それを除外し、装備モンスターはこのターン攻撃力500アップ!》
《対象:【ネズミ・ローラーコースター】》
インゼクトロン・パワードがつるはしで地面を掘り返し、ネズミ・ローラーコースターのカードを引っ張り出した。
《ATK2500→3000》
奏音はすぐにマッスルの狙いが理解できたが、ゲシルはまだ気づいていないようだった。
「なんのつもりっスか?墓地を掘り返しただけ?」
「私は再び、装備魔法【パワー・ブレイクタイム】の効果を発動。墓地の【強制突撃パワー】をデッキに戻し、今使った【パワー・ピカクス】を手札に戻す。そのまま再び【パワー・ピカクス】を発動!」
今度はパワー・インベーダーが巨大つるはしを手にした。
「効果発動!対象は墓地の【ネズミ・ゴーランド】だ」
パワー・インベーダーが力強く地面を掘り返す。
《パワー・インベーダー/バスキュラリティ ATK3700→4700》(攻撃力増加2倍)
同じコンボを繰り返したことで、ゲシルはやっと剛力の狙いに気づいたようだった。
「これ、まさか無限ループってやつっスか……?」
「このループコンボは有限だよ。しかし気持ちは無限だといえる。私は墓地の【団結の力】をデッキに戻し、【パワー・ブレイクタイム】の効果を三度発動!」
パワー・インベーダーは何度もつるはしを握り直し、ゲシルの墓地からモンスターを掘り出し、除外し続けた。剛力のデッキに戻ったカードは全部で12枚。
【パワー・フレーム】
【強制突撃パワー】
【団結の力】
【ガーディアンの力】
【トライアングル・ポセイドン・パワー】
【D.A.パワーコール・ユニット】
【ウルトラ・パワードギプス】
【レクリス・パワーハンド】
【大黒のパワーストーン】
【ストロング・パワー・ホールド/バスキュラリティ】
【クロノビルダー・パワーリザーブ/バスキュラリティ】
【剛毅なるパワー・プランナー/バスキュラリティ】
この間、ゲシルの墓地から除外されたモンスターはこの12枚。
【ネズミ・ローラーコースター】
【ネズミ・ゴーランド】(2枚)
【有毒ネズミハナビ】
【肥大ネズミ】
【デスハムスター】
【デーモン・ビーバー】
【バーグラー】
【鎧ネズミ】(3枚)
【格闘ネズミチュー助】
最初の一回以外はすべてパワー・インベーダーに装備していたため、今やその攻撃力は、
《ATK14700》
「また攻撃力が一万越えっスか……」
「パンプアップは済んだので、力比べを行うとしよう」
《力比べ!!!》
《誘発即時効果:手札から【/バスキュラリティ】1体を相手の場に出し、強制的にバトルを行う!》
「手札から【パワード・チューナー/バスキュラリティ】をゲシル君の場に特殊召喚!」
獰猛そうな竜。金色のたてがみ。青みがかった灰色の肌に、血管がばちばち浮いている。しなやかに広げた翼は以前よりも一回り大きくなっており、こちらにもしっかり血管が浮いている。
《水属性・ドラゴン・効果・✪4》《ATK1900》
《永続効果:このカードの攻撃力は場のチューナー1体につき500アップし、場のモンスター1体につきさらに500アップする》
場のチューナーはパワー・インベーダー/バスキュラリティ1体のみだが、場のモンスターは合計9体。
《ATK1900→6900》
パワー・インベーダーがパワード・チューナーと取っ組み合いを始めた。ゲシルはまだ諦めていなかった。
「それは対策済みっス!【都会の骨ネズミ】【田舎の骨ネズミ】の永続効果!」
《自分の場に【骨ネズミ】がいる場合、受ける戦闘ダメージを半分にする》
《【都会の骨ネズミ】の効果をコピーできる》
「ダメージは四分の一、1950ポイントまで下がるっス!残念っした!」
パワード・チューナー/バスキュラリティは投げ飛ばされ、破壊された。
《ゲシル LP4700→2750》
「しかも今、『校正機能』さんがモンスターを特殊召喚したことで、スキル【ネズミ算】が発動できまスね~!新たに7枚を増やしまス!これで墓地のローラーコースターを再び設置して―」
ゲシルの言葉が止まった。剛力が“分かりきっていた”かのように尋ねる。
「どの7枚を選ぶのかね?」
ゲシルは口をパクパクさせていたが、言葉の続きは出てこなかった。
「私が墓地のネズミたちをすべて取り除いた以上、君は手札かデッキから出すしかない。たしか手札に【デスハムスター】が1枚あるね」
スキルがそもそも発動していなかった。ゲシルはかすれ切った声でつぶやくように言った。
「いつから……これを狙って……」
「ゲシル君が【レスキュー・キャット】を召喚した時だよ。奏音くんもこうなる可能性には気づいていたはずだ」
奏音は頷き、ゲシルに聞いた。
「【レスキュー・キャット】を3枚入れちゃったでしょ?」
「……」
「私がガンドラで除外したネズミは、シンクロ体を除いて7枚、マッスルがさっき除外したネズミはシンクロ体を除いて9枚。フィールドには、シンクロ・エクシーズ以外でネズミは5枚だけど、【レスキュー・ゴールドラット】がORUとして3枚抱えてるよね」
「ゲシル君が自ら除外した【レスキュー・ヘッジホッグ】も合わせて25枚。一般的なデッキならモンスターが枯渇しているはずだ」
ゲシルは震える手で自分の墓地を確認した。残っているモンスターは【レスキュー・キャット】1枚だけだった。
(自分のデッキには【キャット】が残り2枚、【ヘッジホッグ】も2枚……手札とデッキに【デスハムスター】が1枚ずつ……【レスキュー・キャット】がネズミであれば、スキルが発動できた……)
「くっ……」
「レジェンド・デュエリストとして言うなら、デッキ枚数の公開設定はOFFにするべきだったね。デッキ破壊に有利な情報なのは確かだけど、お前のデッキ枚数も公開されてるからモンスター切れが予測できたんだ」
《ゲシル 山札9枚》
「元インストラクターとして言わせてもらうなら、やはり君は【ネズミ】カードに“こだわる”べきだったのだ。最低でも残りの枚数には気を配るべきだった。物事にこだわらない性格はたしかに君の“強味”だろう。【レスキュー・キャット】の採用も戦術的にはいいアイデアだと私は思う」
ゲシルは驚いて剛力を見た。褒め言葉を投げかけられるとは思っていなかったのだ。
「だがこういった状況に陥れば、『やはり【ネズミ】カードを採用しておけば良かった』と誰でも思ってしまうものだ。私の指導方針は『後悔しないデュエル』だ。勝利に直結せずとも“こだわり”は勝利と同じくらい、デュエルを充実させる。敗けたとしても誇りを保てる。人生をかけるような大勝負であれば、なおさらだ」
剛力の持論はエンドレスシティでは広く支持されている。だが実を言えば、奏音には響いていなかった。充実や誇りといった、デュエルの勝利以外の価値は、奏音のような、敗ければすべてを失う立場の者には虚しいものだった。
(『特異点』達はみんな、一度敗けて消された存在……勝ちにこだわるのは当然だと思うけど……)
奏音の予想通り、ゲシルは乾いた笑い声を上げた。
「アハハ……これ戦争なんスよ?……というかデュエルはまだ続いてるっス、自分の場にはまだ【ネズミ・ローラーコースター】が残ってるっス」
「ふむ、これは失礼。ではバトルフェイズに入ろう。【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】の固有の効果はまだ話していなかったね」
「固有の、効果……?」
《永続効果:このカードは二回攻撃でき、相手フィールドに2体以上モンスターが存在する場合、攻撃は貫通する》
「攻撃力14700で、二回攻撃で、貫通……?ライフがいくらあっても足りないっス……」
奏音も驚いてはいたが、予想していないわけではなかった。剛力から二度、モンスターを渡された際に、力比べを行う効果が【/バスキュラリティ】の共通効果であると気づいた。【ホーリー・パワー/バスキュラリティ】の効果を読んだ際に、もともと効果がないモンスターにも特徴を反映した効果が与えられていると知り、【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】にも何かあるとは思っていたのだ。
剛力が幕引きの宣言をする。
「【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】で、【レスキュー・ゴールドラット】を攻撃!」
《ゴールドラット DEF600》
《パワー・インベーダー ATK14700》
(ダメージ四分の一効果により、3525ダメージ)
パワー・インベーダー/バスキュラリティが渾身のドロップキックを決めた。レスキュー・ゴールドラットは防御体勢もむなしく弾丸のように蹴り飛ばされ、ソニックウェーブを起こしながらゲシルの胴体を撃ちぬいた。
「がっ、はっ……」
《ゲシル LP2950→0》
大きく風穴の空いた肉体に、ひび割れのような光があっという間に広がっていき、ゲシルの体が光の粒へと散り始めた。
「アハハ……やられちゃいましたね……」
まるで他人事のような物言いだった。剛力は勝利に浸る様子もなく、落ち着き払った声で言う。
「君は己の生き死ににすらこだわらないのだね」
「それはたぶん、ソード様のせいっスね……『実験』とか言って色々仕込まれてから、“我が身可愛さ”みたいなのが薄くなった自覚があるっス……でもぶっちゃけると、それも割とどうでもいいといいまスか……なんならこの『世界』が虚構だとか、『創造者』を倒すとかも……ただ……」
ゲシルは生まれて初めて、デュエルに敗けた悔しさを感じていた。悔しく感じることも悔しかった。
(ちょっとだけ、ムカつくっスね……)
「腹いせに一つ教えときまス……自分もルブランみたいに『固有スキル』を持ってるんス……ソード様は『停滞』と名付けてたっけ……自分の時間の進みをノロノロにするだけの、まあハズレスキルなんスけどね……」
奏音はルブランを倒した時、『疑似空間』からすぐ出られたことを思い出した。
(自分の魂が精神エネルギーに変換されるのを『停滞』させ『疑似空間』に閉じ込める気?いや、そんな小さな狙いじゃないはず)
奏音の思考を見透かしたようにゲシルは続けた。
「もちろん、こうしておしゃべりの時間を稼ぐのにも便利っスけど……これ実はデュエルしてる相手にも効果が及ぶんスよ……そんで自分は『疑似空間』と同時に『停滞』も最初から発動してたっス……この意味、分かりまスよね?」
奏音より先に剛力が答えた。
「我々の足止めか」
ゲシルが悪戯っぽく笑った。
「当たりっス。ここ出たら朝、なんてもんじゃないっスよ……デステニー・クロスロードが終わってるかもしれないっス……一緒にびっくりできないのは少し残念でスけどね……」
ゲシルの肉体の崩壊が急に進みだした。『停滞』を維持していた精神エネルギーが尽きたのだろう。それ以降一言もしゃべらないまま、ゲシルは光の粒となり消え去った。奏音と剛力の目の前に、デュエルデバイスからのガイドが表示される。
《お二人の勝利です。バトルロイヤルモードおよびデュエルを終了しますか?》
《はい》《いいえ》
「マッスル、急がなきゃ!」
奏音がバトルロイヤルモードを終了しようとした時、
「まだだよ奏音くん。先ほど言ったように、君にはやってもらわなくてはならないことがあるのでね」
剛力はなんとガイドの《いいえ》を選択した。
「幸運にもこれはバトルロイヤル。つまり、ルール上は私と奏音くんでこのままデュエルを続行できるのだ」
「え?!なんで?」
「“戻る”ためだよ。さあ、構えるのだ奏音くん」
《剛力 LP1000》
《奏音 LP950》
『疑似空間』は未だ、解けていなかった。
TURN14へ続く。
~オリカ解説~
ゲシル編
【ネズミ・ローラーコースター】《地・獣・シンクロ・✪6》《ATK0/DEF2000》
効果の方向性は簡易版【ネズミ・キャッスル】といったところ。①の永続魔法化と展開、②の累積ダメージ効果、③は✪2以下のネズミを破壊の身代わりにする効果だ!
【ネズミ・ゴーランド】《地・獣・シンクロ・✪5》《ATK0/DEF2000》
同じく【キャッスル】の簡易版。①は同じ。②は累積デッキ破壊、③は✪3のネズミを破壊の身代わりにする効果を持つ。【ローラーコースター】もそうだが、ダブルチューニングを要求してくるぞ!
【肥大ネズミ】《地・獣・効果・✪2》《ATK1000/DEF1050》
破壊されるとデッキ・墓地からそれぞれ1体まで【巨大ネズミ】を特殊召喚できるのだ。巨大ネズミよりは小さめらしい。