ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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新キャラ紹介
癒清水(イヤシミズ)キュア……『特異点』の一人。ゲシル同様に『旧世界』でのハンドルネームを使用している。配信とかしていたらしい。常に配信時のアバター姿なため人種は不明。鮮やかなピンク色の髪は腰まで届く長さ。身長は152センチ、体重はリンゴ数個分、年齢は非公開(だがリオールは彼女が三十代であることを知っている)。特技は上目遣いのおねだり。デュエルは弱く、『特異点』としての固有スキルも持たない。


TURN14 救助者と攻略者 Aパート

 

 

「なんでマッスルが私と戦う必要があるの……?」

 奏音は事態を呑み込めないでいた。

「理由は三つある」

 剛力は指を立てながら話し出した。

「一つ目。このままデュエルを終了し『疑似空間』が解除されても、我々が戻るのはすべてが終わった後のエンドレスシティだろう。ゲシル君は数日~一週間程度の時間がズレると考えたようだが、私の見立てでは十年は経過しているはずだ」

「じゅ、十年?!」

「彼の固有スキル『停滞』はおそらく、室内や無観客といった閉鎖的な環境であればあるほど効果を増すのだろう。それが『疑似空間』によって極限まで強化されてしまったようだ」

「なんでわかるの……」

「詳細は省くが『校正機能』だから、とだけ言っておこう」

 『疑似空間』は本来、対象を“エンドレスシティから”隔離する技術である。しかし“エンドレスシティの”『校正機能』であるマッスル剛力は、完全に隔離されることがない。剛力は『疑似空間』内に居たままシティの状態をある程度知覚・把握が可能で、このため『停滞』による異常な経過時間にも気づくことができた。また、剛力の存在によってゲシルの造った『疑似空間』が完全に閉鎖的な環境ではなかったおかげで、経過時間が“十年程度で”済んでいた。

「二つ目の理由だ。このデュエル、特にこの状況を利用すれば、奏音君は時間を遡ってシティに帰還できる」

「……!」

 奏音には先ほど以上の驚きだった。

「知っての通り我々のこの肉体は突き詰めれば虚構、つまり精神エネルギーから成る情報に過ぎない。重力波に変換して我々のいた部屋に送信、情報を再構成すれば、誤差数日以内で……」

「??????」

「……要は戻れる、とだけ理解してくれればよい。ただし、奏音くん一人だけだがね」

「えっ?マッスルは……」

「私は君を送り届けるための、いわば“道”となる必要がある」

「何それ……死ぬなんて嫌だよ?」

「死にはしないとも。デュエルが終われば自動的に私は『疑似空間』から解放される」

「でもそれは……十年先の未来に、でしょ?」

「たった十年ともいえる」

「嫌だよ!一緒じゃなきゃ嫌だ!!!」

 剛力は笑った。いつもの力強い笑いや、奏音を安心させようと穏やかに笑っていたのとも少し違った、砕けた笑い方だ。友達との会話で見せるような笑い方だった。

「笑い事じゃないって!」

「チェスが君に入れ込むのが分かったよ……だがすまない、他に方法は無いのだ」

「……私を守るって言ったくせに」

 剛力は眼を閉じ、奏音の言葉を受け止め、さらには噛みしめているように見えた。奏音は自分でもわかっていた。剛力の言うことが最善なのだと。しばしの沈黙……それを破ったのは奏音の方だった。

「三つ目の理由は……何?」

 奏音の決心はすぐに剛力に伝わった。

「君に私の力を与えるためだ」

「力?」

「私が君を直接的に守れなくなる以上、君には自衛の力が必要だからね。君をシティに戻すと同時に、私の力を『スキル』という形で付与しておこう」

「スキル……」

 奏音はそれほど驚いてはいなかった。チェスからデュエルを教わった際に言われたことを思い出していた。

『君のデッキにスキルが備わっていないのは、厳密には“制約”ではない。“余白”だ』

 奏音の使う【継承名】デッキにはいくつもの制約があるが、実はスキルは禁止されていない。汎用的な【ドローセンス】系や【LP増強】系のスキルをセットしたままレジェンド戦を行うこともあるのだが、【継承名】カードのテキスト同様にスキルも非公開である点、奏音がスキルを使うほどの状況に一度も追い込まれなかった点から、この事実を知る者はいない。ファンの間ではスキル使用不可の制約があると噂されるほどだ。

「奏音くんの事情は私も聞いている。チェスがこの場に居ればスキルの付与には反対するかもしれないが、私はむしろ必要なことだと思うよ。単なる自衛目的以上にね」

 奏音は少し緊張していた。いつか汎用スキルではない、自分のためのスキルを得る日が来るとチェスから聞かされていたが、それがこんなタイミングだとは思ってもみなかった。

「始めよう。まずはスキルの付与からだ」

 剛力は右の手のひらを奏音にかざして見せ、そのまま拳を作った。

「はあああっっっ!!!」

 パチッと小さな雷がなり、剛力が拳を開くと、光の玉のようなものが生まれていた。

「デュエル中にスキルを創り出すのはルール上反則ではない……私以外に誰もできないからね。『特異点』の者たちですら、カードやスキルの改造はデュエル前にしかできないようだ。これは間違いなく、奏音くんの切り札となるだろう」

 剛力はそう言って、光の玉を奏音に投げてよこした。ふわふわと漂う光の玉を、奏音は両手で受け止めた。

「その玉はまだスキルとして完成していない。これから手本を見せよう」

 剛力は自分用にもう一つ光の玉を生成した。

「まずは単純なドロー系スキルだ。発動条件は《1ターンに1度、自分のメインフェイズに使用できる》、効果は《手札を1枚、デッキの一番下か墓地へ送り、デッキから【パワー】カード1枚をランダムにドローする》としよう」

 光の玉の輝きが大きくなっていく。

「スキルの内容、そしてスキルを使う自分を出来るだけ正確にイメージするのだ。コツは、このスキルがすでに存在するものだと信じることだ」

 輝きは爆発へと変わった。まるで動き出すのを抑えられないように光の玉は『疑似空間』の星空へと飛び出し、大きな弧を描きながら剛力の手元へと戻ってくる……その目的地はデュエルデバイスの中だった。

「さあ奏音くん、君にもできるはずだ」

 

◇◆◇◆

 

 デステニー・クロスロード二日目。波乱の幕開けとなった初日とは対照的に、イベントは穏やかに進行した。午前の実況を終えたリドラー吉本は、同じく実況を務める香蘭マルムスティーンに休憩室で話しかけた。

「……穏やかすぎません?」

「さながら、引き潮のごとく……」

 香蘭は相変わらず、イベントの語り部としての神秘的なキャラクターを保ちながら答えた。リドラーは彼女が徹底的に役に入り込むタイプだと割り切ったので、この話し方に少し慣れてきた。

「なんというか、デュエル自体が減りましたよね?やはりレジェンド・カノンが昨日どっさり退場させた影響ですかね……」

「256の勇者が英霊となった……」

「退場者を死んじゃったみたいに言わないでくださいよ……しかしその半分以上はレジェンド・カノンに返り討ちにされた、レジェンド狩りのギルドメンバーらしいです。もうギルドは壊滅状態と聞きました」

 レジェンド狩りギルドはスキル集めに傀儡だけでなく他の勇者プレイヤーも襲っていたため、昨日は、エンドレスシティのネットワークコミュニティでマナー違反だと議論やバッシングが盛り上がっていた。今日のコミュニティではあっけなく壊滅したギルドへの嘲笑が散見されるが、やはり盛り上がりのピークを過ぎてしまっていた。

「治安が良すぎるのも考えものですね」

「……嵐の前の静けさ」

「え?」

「伝説の巫女は……何処へ消えた?」

 リドラーの表情が曇った。彼もレジェンド・カノンが行方をくらましていたことには気づいていた。今日はどの中継ドローンにも、彼女のデュエルは映っていなかった。

 

◇◆◇◆

 

「聞いてくださいよ~ソード様ぁ~」

 氷岩魔獣のアバターがめそめそと話しかけてくる。リオールはこの女、癒清水(イヤシミズ)キュアが正直苦手だった。

「ここのボス難すぎですぅ~もう四回も敗けちゃいました~」

「無策で挑めばそうなりますよ。スキルやカード集めを優先しては?」

「私だってそーしたいんです!でも勇者も傀儡も見つかんないんです~、みんなエリアボスの周りに集まってるし、近づいたらボスに狙われるし」

「状況は僕も分かっていますし、だからこうやってスキル探ししているんですけどね」

 リオールの現在地は第46地区の海岸。沖の向こう側には天高くそびえる魔王城が見え、岸に移動用アイテムとして自動操縦のボートが並び、ライフジャケットまで備えられている。ボートに乗り沖へ出るとエリアボスのスパイラルドラゴンが出現し、これを倒さないとボートが先に進まない(後退はできる)。スパイラルドラゴンは膨大なライフを持ち、レイドデュエルで攻略する形式なのだが、ボスのスキルが理不尽に強力であり、何人で挑んでもスパイラルドラゴンのライフをほとんど削れていない。リオールは周辺の傀儡や宝箱から攻略用のスキルがドロップするのではと考え、朝から海岸や防風林の中を探索していたが……

(癒清水の言うとおり、傀儡に遭遇しない……宝箱はいくつか拾えたけど平凡なスキルしか無かったし、他の勇者プレイヤーとも出会わないから情報交換すらままならない……)

「ところで癒清水さん、アイシャさんはどちらに?」

 リオールが足止めを食らっている間に、二人の『特異点』が第46地区に追い付いてきた。氷岩魔獣のアバターを使う癒清水キュアと灼岩魔獣のアイシャ・ベルタスだ(ちなみにリオールのアバターは【緑樹の霊王】)。この二人のアバターは『創造者』と『校正機能』にマーキングされているため、リオールに合流してしまうのは非常に困る。

「アイシャさんとははぐれちゃいました~(泣)」

(あなたが!デュエルの腕に自信がないからと!アイシャと組むことを希望したんですよ?)

 と、言いたくなるのを胸の内にとどめ、リオールは言った。

「では一度彼女と合流しましょう。一人で心細かったでしょう」

「ふえええん、ソード様ぁ~」

 氷岩魔獣が泣きついてきそうだったのでリオールは右手を差し伸べた。読み通りすぐに癒清水は手を取った。

(参ったな。これで僕もマーキング対象に……)

 思考は突然の悪寒で遮られた。リオールは反射的に癒清水から手を離そうとした。

「なっ!」

 手は離れなかった。癒清水が離さなかったのではない。物理的に離れなくなっていた。二人の手が“同化”していた。さらに癒清水の手から灰色の液体のようなものが溢れだし、リオールの腕を包み込もうとしている。

(まずい!『暴圧』!)

 “同化”していたリオールの右手が、手首から引きちぎられた。血が吹き出るかに思えたが、精神エネルギーの光が多少こぼれた程度で、リオールの右手はすぐに再生した。癒清水との繋がりが絶たれたせいか、肩まで這いあがっていた灰色の液体は直ちに水蒸気となって消えていく。

「『救助』を拒まれたのは初めてだ。『特異点』のリーダーともなると一筋縄でいかないようだ」

 氷岩魔獣の声はすでに別人だった。男の声だ。少し高めの、良く通る耳当たりのいい声で、聞く者に安心感すら与える……リオールはシティにいた頃にこの声を何度か聞いたことがあった。

「おや?」

 氷岩魔獣のアバターが乱れ始めた。『暴圧』を破壊目的で使った影響が、“同化”した手を伝ってアバターベルトを故障させたのだとリオールは気づいた。

「便利だったが、こうなると邪魔だな」

 アバターベルトを外したのだろう、男の正体が露わになった。背の高い色白の男だ。整髪料で完璧に固められた短めの黒髪、骨ばった顔つきだけ見ればやせ型の印象を与えるが、間違いなく鍛えていると思われる佇まいがあった。そして着ているものはなんと、オレンジ色の救助隊服だった。

(聞き覚えのある声なわけだよ……)

「こんな有名人がどうして?それともその姿も偽物なのかな?」

 エンドレスシティ災害救助隊の隊長、シティの守護神とまで呼ばれる男、ロバート・J・常盤(トキワ)は朗らかに答えた。

「『救助』が必要な者がいれば私はどこへでも向かうよ」

「それなら、ブラッディ・ホイールみたいにあなたも『校正機能』だったってことか」

 リオールは会話しながら思考を巡らせていた。

(癒清水はこいつに『上書き』でもされたのか?さっきのドロドロで僕のことも『上書き』しようとした?すでにアイシャさんもやられた後か?)

「焦る気持ちは分かる。だが怖がらなくていいんだ、私の『校正機能』としての行動は『救助』行為の一つなんだから」

 常盤が繰り返す『救助』という言葉の意味が引っかかった。

「『救助』ってことは癒清水は無事なの?」

「もちろん無事ですよ~」

 常盤の口から癒清水の声が聞こえた。

「ほらね?だから君も安心して私に『救助』されてくれ」

 すでに声は常盤のものに戻っていたが、リオールは悪寒が止まらなかった。

(こいつはここで倒さないとダメだ!狡猾さや残虐さとは質の異なる邪悪さがある……!交渉も誤魔化しもこいつには意味をなさない!)

 リオールは『疑似空間』を展開した……つもりだったが、起動したのはデュエルデバイスの【強制デュエル】のスキルだった。

「なに?!」

「私は『疑似空間』に入れない『校正機能』だから、代わりに【強制デュエル】を仕掛けさせてもらったよ」

 二人の手札5枚のホログラムが出現し、先攻と後攻が自動選定される。

 

《ロバート・J・常盤 LP8000》《先攻》

《リオール大河 LP8000》《後攻》

 

 常盤は無線機を取り出していた。

「これより『救助』デュエルを開始する、海岸付近の安全確保を要請」

 沖の方から寄せる波が急に大きくなったかと思うと、次の瞬間にはエリアボスであるスパイラルドラゴンが浮上していた。波に運ばれ、勇者プレイヤーの乗ったボートたちが次々と上陸してくる。対して防風林の方からは、どこに潜んでいたのか、魔王の傀儡である【水陸の帝王】【タートル・バード】【シーカーメン】が飛び出してきた。勇者も傀儡もまるで統率されているかのような動きで、デュエルを始めた二人を取り囲んだ。

「まさか……全員操られている?」

「民間人への被害を防ぐため、一時的に彼らも『救助』した」

 リオールの問いに答えたのは一番近くにいた勇者プレイヤー、【ガーディアン・トライス】のアバターだった。彼もまた、少し高めの、良く通る声だった。

(第46地区はすでに『校正機能』に制圧されていたってわけか……!)

 

◇◆◇◆

 

剛力《LP1000》手札1枚

   (【パワー・ピカクス】、【パワー・ブレイクタイム】)

    (【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】ATK14700DEF500)

     

    (【甲化鎧骨格インゼクトロン・パワード】ATK2500DEF1600)

    

奏音《LP950》手札1枚

 

 奏音がスキルを生成するのにそう時間はかからなかった。

「できた……」

 剛力は満足そうにうなずく。

「そのスキルはこのデュエルから使用可能だよ。スキル【パワー補充】発動!」

 

《手札を1枚、デッキの一番下か墓地へ送り、デッキから【パワー】カード1枚をランダムにドローする》

 

 剛力は最後の手札をコストとしてデッキへ戻し、新たなカードを引いた。

「私の場の【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】は【パワー・ブレイカー】の効果を得ているため、先ほどの攻撃後に守備表示になっている」

 

《DEF500》

 

「これを対象に装備魔法【D.A.パワーコール・ユニット】を発動!」

 

《選択効果:●装備モンスターの攻撃力を2倍にする》

《ATK14700→29400》

 

 わざわざ守備表示のモンスターの攻撃力を上げる意味に、奏音はすぐに気づいた。

「マッスル……だから私にこのカードを使わせなかったんだね」

「そうだ。君には君の出せる最大攻撃力でこのモンスターを、そして私を倒してもらう必要がある。パワーコール・ユニットの効果は知っているね?」

 奏音は頷いた。

「では君のターンだ。心おきなくやりたまえ」

 奏音はカードを引いた。奏音の手札はこれで2枚。

 

《継承名 バーニング・イン・ザ・スカイ》

《継承名 ロボット・ボーイ》

 

 このままの手札でも剛力は倒せるが、それでは時間を遡るだけの精神エネルギーが生まれない。これまで戦術を秘匿してきた奏音に今求められているのは、“力の誇示”だった。

「いくよマッスル……リバースカード!オープン!」

 

【継承秘術 ザ・サモニング】

《デッキからレベル4以下の【継承名】1体を特殊召喚する》

 

「派手なのぶちかますよ!【継承名 バトル・シンフォニー】!」

 目を閉じたままの天使が降り立った。祈るようなしぐさで銃を持っている。

 

《闇・天使・効果・✪4》《ATK1600》

 

「ここからはファンサービスになるのかな!【ロボット・ボーイ】を通常召喚!」

 

《闇・機械・効果・✪4》《ATK1600》《DEF800》

 

「その効果で手札から【バーニング・イン・ザ・スカイ】を特殊召喚!ついでにオマケ効果で【ロボット・ボーイ】を守備表示に変更!」

 錆びついた飛行ドローンから放たれるように火の玉の群れが現れた。

 

《闇・炎族・効果・✪4》《DEF800》

 

「さらに【バーニング・イン・ザ・スカイ】の効果で、デッキから【継承秘術 バーン・イット・ダウン】を手札に加える。そしてスキル【パワー補充】発動!」

 

《手札を1枚、デッキの一番下か墓地へ送り、デッキから【パワー】カード1枚をランダムにドローする》

 

 本来はマッスル剛力の【力こそパワー】デッキくらいでしか運用できないスキルなのだが、奏音のデッキには1枚だけ、条件に合うカードが入っていた。

「私が加えるのは、【継承名 パワーレス】……これで準備はできた。【バトル・シンフォニー】の起動効果!アイズ・ワイド・アウェイク!」

 

《場の守備表示モンスターすべての攻撃力を合計した数値分、このカードの攻撃力をアップ!》

 

 バトル・シンフォニーが目を開いた。その手に持つ銃に祈りの力が集まり、より大きく強力な兵器へと形を変える。過去に攻撃力が一万を超えたことは何度かあったのだが、現在の場のモンスターは、

 

《ATK29400》(パワー・インベーダー/バスキュラリティ)

《ATK2500》(インゼクトロン・パワード)

《ATK1600》(ロボット・ボーイ)

《ATK1600》(バーニング・イン・ザ・スカイ)

 

 その合計値は35100にも上る。

 

【バトル・シンフォニー】《ATK1600→36700》

 

 今や天使の持つ兵器はちょっとした建造物と見まがうほどの、巨大なレールガンになっていた。

「何これ、初めて見た……」

「うむ、実に立派な攻撃力だ」

 奏音は感覚的に理解した。これが剛力がいつも見ていたもの、そして奏音に見せたかったものだったのだと。

(【パワー・インベーダー/バスキュラリティ】にあえて守備表示になる効果を与えたのも、私に【ザ・サモニング】を温存させたのも、すべてはこの状況を作るためだと、頭ではわかってた……でも実際にやってみると、こう、なんか……すごいなこれ!)

 奏音の興奮が精神エネルギーとしてあふれ出し、その光がレールガンに集まっていく。兵器ではあるが、これを撃ち出すことが楽しみですらあった。

「奏音くん、私はね……このように極限まで力を高める瞬間が、たまらなく好きなのだ」

 剛力の言葉にはいつになく興奮が滲んでいた。

「どれほどのこだわりや鍛錬を積み重ねても、『後悔のないデュエル』は簡単ではない。しかし簡単ではないからこそ、追及する価値があるのだよ。もちろん、君が立場上それをできないことは承知しているとも……だからせめて、今この瞬間だけは、楽しんでほしい」

 剛力の想いが理解できたような、まだ理解しきれないような……奏音はそんな気分だった。

「では、大詰めといこう。私はここで【D.A.パワーコール・ユニット】の効果を発動!」

 

《選択効果:●装備モンスターの表示形式を変更。その後自分のモンスター1体の攻撃力を2倍にする》

 

 パワー・インベーダー/バスキュラリティが攻撃表示になり、バトル・シンフォニーを迎え撃つ姿勢をとった。

 

《ATK29400→58800》

 

「さあ、来なさい、奏音くん」

 奏音は大きく息を吸った。

「うん!」

 バトル・シンフォニーが巨大レールガンの照準をパワー・インベーダー/バスキュラリティへと合わせた。

「バトルフェイズ!さあぶちぬくよー!ノー・サレンダー・バレット!!!」

 レールガンに充填されたエネルギーがより大きく輝きだした。

「ここで手札の【継承名 パワーレス】の誘発即時効果!」

 

《ライフを半分払い発動。手札のこのカードを墓地へ送り、相手モンスターすべての攻撃力をエンドフェイズまで0にする》

《奏音 LP950→475》

《パワー・インベーダー/バスキュラリティ ATK58800→0》

 

 レールガンが放たれた。目を開けていられないほどの閃光が迸る。宇宙を模した『疑似空間』が白に染まる。

 

《剛力 LP1000→0》

 

 奏音は自分の体が浮いているのを感じ、時間の遡行が始まったことを悟った。

「……また会おう、奏音くん」

 すべてが光の中だったが、剛力の声が聞こえた気がした。

 

 

 

TURN14Bパートへ続く。

 

 




~オリカ解説~

【D.A.パワーコール・ユニット】《装備魔法》
自分・相手ターンのメインフェイズに一度、以下の効果から一つを選び発動できる。各効果は一回までしか選べない。
●装備中、装備モンスターの攻撃力を二倍にする。
●属性を一つ選ぶ。装備モンスター及び選んだ属性のモンスターすべての攻撃力を500アップ!さらに装備モンスターの属性を選んだ属性に変更できる。
●装備モンスターの表示形式を変更し、上二つのうち好きな方をもう一度だけ適用できる。
※OCGの元ネタは2枚あるぞ!探してみよう!
※【パワー・ピカクス】で上昇した攻撃力はエンドフェイズに元にもどりますが、【パワーコール・ユニット】の二倍効果が適用されたことで、29400の数値で再計算・固定されました。納得しがたいかもしれませんが、OCGと同じ仕様です(たぶん)。

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