~登場人物~
求道奏音 女性。黒髪で、少年のような短髪。身長は160cmで、体系はスレンダー。身体年齢は17歳。聖女のような衣装を着ることが多い。
チェス 女性。白髪交じりの黒髪、腰まで届くほどの長髪。身長は165cm。顔や体形は奏音に似ている。身体年齢は42歳。革ジャンとジーンズ、サングラス。
8月15日 午後7時25分 エンドレスシティ リンクパーク決闘アリーナ
レジェンドデュエリスト、求道奏音(キュウドウカノン)はステージへと続く廊下で、マネージャーのチェスに呼び止められた。
「負けるなよ、カノン。」
試合前、彼女は決まってそう言う。
「問題ないさ、チェス。」
奏音の返しも決まっている。レジェンド・カノンとマネージャーのこの試合前のやり取りはあまりにも有名で、シティの人間で真似しなかった者はないだろう。
だが、今日のルーティーンは少し違った。
「試合の後で話がある。」
チェスの言葉を奏音は不思議に思ったが、彼女の表情からはいつものように何も読み取れなかったので、奏音はすぐに眼前のステージに頭を切り替えた。
「「シティのみなさーん!!!グーッド・イブニーング!!!今日はとうとう、ひと月に及ぶトーナメント戦の最終日!!!優勝者のボロミア・ボークス選手がっ!レジェンドの称号をかけて求道奏音選手に挑むぞーっ!!!」」
観客が沸き上がる。MCのリドラー吉本が選手の紹介を始める中、奏音は目の前にいるボロミア・ボークスを観察していた。身長が2メートル近くあり、肌は黒く、髪は剃っており、筋骨隆々の巨漢だ。迷彩柄のシャツとパンツ、ブーツからは昔見た戦争映画の兵士を思い出させる。
「求道奏音、今宵俺は、お前の二十年の不敗神話に終止符を打つ!」
ボークスは握手の右手を差し出していたが、目にはギラギラと闘争心が燃えていた。
「いいね、その心意気!楽しみにしてるよ!」
奏音は笑顔で握手に応じた。ふと、今右手を握り潰されたらやばいなと思ったが、ボロミアの握手に暴力性は感じなかった。そもそもシティにそんな人間はいない。
「「本日のレジェンド戦はライブ観戦率99.6%!デュエリストの闘気と、観客の興奮は精神エネルギーとして変換され、シティの半年分の電力となります!皆様のご協力により、人類の安寧と発展は保たれるのです!!」」
MCリドラーの前説の間に二人は10メートルほど離れ、デュエルディスクを起動した。襟元の拡声マイクもスイッチが入り、プレイヤーの声はアリーナ中に聞こえるようになる。
「「さあ~人類エビバディ括目せよ!!!デュエル!開始ィィィ!!!」」
ステージのライティング演出が切り替わった。奏音の、金の刺繍が施された白い司祭服のような衣装が夜の闇に輝いている。
《ボークス・ボロミア LP8000》《求道奏音 LP8000》
「俺の先攻だ!スキル発動!【カー召喚】!!!いでよ、【モリンフェン】!!!」
長い腕とかぎづめが特徴の奇妙な姿をした悪魔が現れた。
《ATK1550 効果なし》
奏音は彼の【モリンフェン】デッキの戦術についてはすでに分析を済ませていた。ここからどう動いてくるかも見当がつく。
「メインフェイズだ!手札から【パープル・モリンフェン】を特殊召喚し、場の【モリンフェン】にユニオン合体!」
紫色のモリンフェンが現れ、最初のモリンフェンに吸い込まれていく。
「続けて【レッド・モリンフェン】を特殊召喚!ユニオン合体だ!!」
今度は赤のモリンフェンだ。
「まだまだァ!【ブルー・モリンフェン】!ユニオン合体!!!」
3体の仲間を吸収し、モリンフェンは巨大化していた。そのステータスは今や、
《ATK6200》《魔法耐性》《罠耐性》《モンスター効果耐性》《守備貫通》《戦闘ダメージ2倍》《魔法・罠ゾーン保護》
「「なんてことだァァァ!!ボークス選手の必勝コンボが!先攻1ターン目から完成してしまったァァァァ!!!!」」
観客はざわついている。彼のデッキがあまりに上手く回ってしまったのだ。
「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド!さあ求道奏音!お前のラストターンだ!!!」
モ
紫赤青伏
モ……モリンフェン、紫……パープル・モリンフェン、赤……レッド・モリンフェン、青……ブルー・モリンフェン、伏……伏せカード
「「まさに絶体絶命!いかにレジェンド・カノンといえども、この状況を覆せるのか?!」」
しかし奏音は平静そのものだった。
「私のターン、ドロー。」
引いたカードを見て、奏音は微笑んだ。
「うん、確かにこのターンがラストになりそうだ。」
観客が静まり返った。MCも言葉を失った。ボークスだけは笑った。
「ふはははは!降参とはあっけないな!」
「まさか!私は手札から【継承名 ワン・ステップ・クローサー】を特殊召喚!」
二刀流の侍が現れる。その顔はメカニカルなマスクで隠されている。
《DEF800》《戦士族》
「効果発動!デッキから次の【継承名】モンスターを特殊召喚!【ロボット・ボーイ】!」
さび付いた飛行型ドローンが現れる。
《DEF800》《機械族》
「ロボット・ボーイの効果により、手札から【継承名】モンスターを特殊召喚!いでよ【ハンズ・ヘルド・ハイ】!」
巨大な手が3つ、いずれも左右対称で右手か左手かわからない。
《DEF800》《サイキック族》
「さらにその効果発動!【ティンホイルトークン】を特殊召喚!」
3つの手が何かをこねている。手が開くと、くしゃくしゃに丸まったアルミ片のようなものが飛び出した。
《DEF800》《サイキック族》《ルール上【継承名】として扱う》
MCリドラーが実況を思い出した。
「「あっという間にモンスターが4体並んだァ!さすがレジェンド・カノンだ!流れるような展開!」」
「そしてこれがさっき私の引いたカード……通常召喚!【継承名 バトル・シンフォニー】!」
目を閉じ、祈るように銃を構えた天使が現れた。
《ATK1600》《天使族》
BORHT
モ
紫赤青伏
※B……バトル・シンフォニー、O……ワン・ステップ・クローサー、R……ロボット・ボーイ、H……ハンズ・ヘルド・ハイ、T……ティンホイルトークン
ボークスが待っていたと言わんばかりに吠える。
「なるほど、そいつでモリンフェンを倒そうってわけか、だが甘い!トラップカード発動!【激流葬】!」
《すべてのモンスターを破壊する》
MCの悲鳴。
「「これは痛いィィィ!!せっかく並べた【継承名】モンスターたちが流されてしまう!」」
ボークスが付け加える。
「しかも俺の【モリンフェン】は耐性があり、この破壊には巻き込まれない!お前のモンスターだけが全滅し……てないだと?」
押し寄せる激流は、バリアにより弾かれていた。
「甘いのは君の方だよ、ボークス。私は【ハンズ・ヘルド・ハイ】の②の効果を使ったからね。」
《【ティンホイルトークン】をリリースし、相手の効果を無効》
3つの手が念力でバリアを支えていた。そして力の代償に、ティンホイルトークンが砕け散った。
「「凌いだぁ!トークンを犠牲にして、激流葬を耐えたぞーっ!」」
「名付けてブルースカイバリア!公式の場で使うのは初めてだから、まあ君が予想できるはずもないよ。」
奏音がやや憐れむような声で言い、ボークスの額に血管が浮いていた。
「さて、今のでフィールドに空きができたから、これを特殊召喚しておくか。【継承名 ウィズ・ユー】!」
灰色のマントに身を包んだ魔女、その顔は木製の仮面で隠されている。
《DEF800》《魔法使い族》
「そして皆さんご存知、【バトル・シンフォニー】の効果発動!せーの!」
奏音は観客と一緒に効果技名を叫んだ。
「「「アイズ・ワイド・アウェイク!!!」」」
バトル・シンフォニーがその眼を開いた。
「さあ戦の天使よ!戦えぬ者たちの思いを継承せよ!」
《フィールドの守備表示モンスターすべての攻撃力をこのカードに加算》
バトル・シンフォニーの持っていた銃が自動小銃に変わり、バズーカに変わり、そして巨大な対戦車ライフルに変わる。守備表示の【ワン・ステップ・クローサー】【ロボット・ボーイ】【ハンズ・ヘルド・ハイ】【ウィズ・ユー】はいすれも《ATK1600》であるため、
【バトル・シンフォニー】《ATK8000》
「「超えたーーーっっっ!!!モリンフェンの攻撃力を上回ったぞー!」」
「バトルフェイズだ!バトル・シンフォニーでモリンフェンを攻撃!」
だが、ボークスは不敵な笑みを浮かべていた。
「待っていたぞ!この時を!!手札から、【ホワイト・モリンフェン】の効果を発動!」
モリンフェンの頭上に、白いモリンフェンが現れた。
「「ホ、ホワイト・モリンフェンだってェェェ?!?!なんだそれはァァ??!!」」
MCだけでなく、奏音も驚いていた。ボークスはトーナメントでそのカードを使ったことは一度もなく、奏音はその効果どころか存在も知らなかった。
「へ、へぇ……それどんな効果なの?」
ボークスが勝ち誇った笑みを浮かべた。
「教えてやる!【ホワイト・モリンフェン】は、自分の【モリンフェン】の攻撃力を現在値の2倍に引き上げることができるのだ!」
「「2倍だとーっ?!!」」
会場全体が動揺していた。
「なるほど、それで君のモリンフェンの攻撃力は12400になり、バトル・シンフォニーは返り討ち、」
「さらにお前が受ける反射ダメージは、【レッド・モリンフェン】の効果で2倍になる、つまり!」
「「合計8800ポイントのダメージで、レジェンド・カノンが負けてしまうゥゥゥ!!!」」
観客とMCの興奮はすさまじかったが、ボークスのそれはもはや狂乱の域だった。
「うおおおお!!!俺はこの日のためにこの切り札を使わず温存してきたっ!求道奏音!!レジェンドの称号は!俺のものだぁぁぁっっ!!!」
奏音はくすりと笑った。
「それはどうかな?」
「あ???」
フィールドのウィズ・ユーが何やら呪文を唱えている。
「【継承名 ウィズ・ユー】の効果発動!自身をリリースし、キープ・インサイド・トリック!!!」
《カード効果の対象を強制変更》
ウィズ・ユーが消滅し、フィールド全体が万華鏡の内側のような、無数の鏡面に包まれた。モリンフェン以外のモンスター達はその姿を消している。四方八方にモリンフェンが写ったことでホワイト・モリンフェンが惑わされ、正面の鏡像に向かっていく。
「待てホワイト!それは本体じゃない!!」
ボークスの叫びも虚しく、鏡の魔術が解かれた。目標を見誤ったホワイト・モリンフェンは、今や攻撃力8000のバトル・シンフォニーに取り込まれていた。
「あ、ああ……俺の、ホワイト・モリンフェンが……」
奏音はにこやかに言う。
「君の攻撃力倍加は有難く貰っておくよ。」
【バトル・シンフォニー】《ATK16000》
「クッソォォォォ!!!!」
「やれ、バトル・シンフォニー!ノー・サレンダー・バレット!!!」
轟音と共に、弾丸がモリンフェンの眉間を貫いた。一瞬の間の後、大爆発。
「グワァァァァァァァ!!!!!」
《ボークス・ボロミア LP 8000→0》
「「勝ったァァァァァ!!!!レジェンド・カノン!!!防衛成功ぉーっ!!!!」」
MCリドラーが叫んだ。観客も一斉に叫んでいた。
「「チャレンジャーの圧倒的な戦術を!!ものともしなかった!!!これがレジェンドだァァァ!!!」」
シーズンの閉幕式や勝利のインタビューも済ませ、奏音が控え室に戻ると、チェスが笑顔で出迎えた。
「防衛おめでとう。今日も素晴らしいデュエルだった。」
「ありがとう、チェス。そういや、話って何?」
「その前に……君たちは外してくれ。二人で話したい。」
奏音の衣装スタッフやメイクスタッフがそそくさと部屋を出ていった。
「なんだい?みんなの前で話せないこと?」
「ああ。単刀直入に言う。『構築』が弱まっている。」
奏音の表情が凍りついた。
「え……それって、」
「ああ、『世界』の危機だ。」
Bパートへ続く。
読んでいただきありがとうございますm(__)m。今回はストーリーテンポを優先し、カード効果の説明を最小限にとどめております。DSODでやってたやつです。気になる方はご質問ください。他にも読みづらい部分などありましたらご指摘いただけると幸いです。なお、モリンフェンデッキですが、今のところ再登場の予定はありません。