「まだ『救助』を拒むつもりかい?」
常盤は少し困った様子で言った。
《リオール LP500》
《常盤 LP7500》
《乱入者 LP4000》(×14名)
すでにリオールの場と手札は0、【ジェノベーゼ戦士】は乱入者の【サンダー・ボルト】により破壊された後、【エンプティ継承名 落雷の結界像】のORUにされていた。続く乱入者達も必ず【エンプティ継承名】をエクシーズ召喚しており、リオールだけが【地殻変動の結界像】による効果ダメージを受け続けている。ホログラムの溶岩と熱気はターン経過によりすっかり景色を一変させ、もはやここが海岸だと分からないほどだ。
「僕が負けたら、どれだけ拒んでも『救助』されるのかな?」
「『救助』デュエルは『救助』デュエルだよ。生命活動の維持、苦痛の緩和、パニック状態の沈静化……君はデュエルが終わればきっと『救助』されたくなるはずだ。もしまた拒んだとしてもその場合は私が再びデュエルを挑むまでだよ。君が『救助』を受け入れるまで、何度でも」
どうやら常盤は『特異点』のことを、“災害や事故に巻き込まれ取り乱した人々”程度にしか認識していないらしい。
「とんだありがた迷惑だ……」
(でも常盤を送り込んだ『創造者』の策は理にかなっている……こいつはおそらく、『救助』と称した“同化”行為を際限なく繰り返せるんだろう……こちらは“同化”を回避できたとしても、乱入を使った人海戦術で圧をかけられれば、消耗や作戦の遅延は避けられない……でもね……)
リオールはこの14ターンの間に、常盤の『救助』の仕組みにあらかた見当をつけていた。
(まず、あのドロドロでの“同化”行為は、直接触れる、デュエル中は行えない、などの発動条件がある……次に、『上書き』と異なり対象人物の自我を潰さない……代わりに思考が常盤に共有されるんだろうな、それで癒清水が僕を頼るつもりなのを知って、わざと泳がせたんだ、僕に直に触れる機会を作るために……そして……)
《バトルロイヤルモード!【乱入】スキルが発動されました!》
【プレート・クラッシャー】のアバターだ。乱入者はこれで15人目。“全員が正確に”、エンドフェイズの効果ダメージ処理が終わったタイミングで乱入していた。そのままプレート・クラッシャーのターンに移る。
「私のターン」
その声はこれまで同様、常盤のものだった。それを確認すると同時に、リオールは不敵な笑みを浮かべた。
(常盤たちは全員“繋がっている”!)
「待ってたよ、この瞬間を!」
突如、リオールの肉体の内側から精神エネルギーの光が溢れだした。常盤、及び彼と同化している15人のデュエリストは一斉に爆発や感電といった攻撃を警戒したが、それは全くの無意味だった。常盤たちの脳内に突如、ある記憶が流れ込んできた。
◇◆◇◆
「見事ですリオール大河!やはりあなたはオレが待ち望んでいた救世主です!」
ソード様こと『第2030番』とのデュエルで、リオールは勝利を収めた……かに見えたその時、『第2030番』は最後に罠を使いお互いのライフを同時にゼロにした。
「最初から引き分け狙いでしたね?」
「意外性のあるデュエル展開は精神エネルギーを最大化する方法の一つです。そして、これにより……オレとあなたは等しくなった」
『第2030番』は言葉だけを残し、消えた。文字通り消えたのだ。二人のデュエルを見守っていたアンドラや美咲、いつのまにか来ていたレイチェルが驚きの声を上げている。だがリオール本人は『第2030番』が存在することをはっきりと感じ取っていた。
「いる……僕の中に……!?」
「これには驚きました。オレとの同化でなお自我を保てるとは」
「説明しろよ!」
周囲の声が驚きから心配に変わったのが聞こえたが、リオールはもはやそれどころではなかった。自分の意識、感覚、思考、それらが二重になっていることに混乱していた。
「「オレの『固有スキル』はいわば『接続』。“同調”や“同期”とまでは呼べない、単に“繋がる”だけの弱いものなのです。例えばシティの人間の魂を、夢の中で『旧世界』の肉体に『接続』するのが精一杯……」」
「……っ!」
すべて仕組まれていたと気づき、リオールは心の底から憎しみが湧き上がるのを感じた。
「お前だったんだ……全部お前のせいか!」
リオールの怨嗟の言葉など聞こえていないかのように『第2030番』は話し続ける。
「「『接続』には相性があります。相性が悪ければ『接続』は成立しなかったり途切れてしまうのです。『特異点』とはいわば成功例。オレのように『固有スキル』を開花させた者はいわば傑作でしょう」」
「出ていけ、ここから出ていけ!!!」
「「それは不可能です。あなたの『固有スキル』に名前をつけるならば、『保持』です。記憶や情報、そしてオレの予想した通り精神エネルギーも膨大な量を簡単に『保持』できる。あなたはオレに飲まれることなく自我を『保持』できますが、同化したオレのことも『保持』してしまう」」
リオールは自身の中に、『第2030番』のものであろう知識や経験が、あたかも“インストール”されるかのように蓄えられていくのを感じていた。
「「オレが『接続』し、あなたが『保持』する!他者からの情報を取り込むだけではなく、今後は他者に情報を取り込ませることもできるようになるはずです!すべてが等しくなることこそオレの“夢”!!!その日が待ち遠しい!!!」」
◇◆◇◆
強引に夢から覚める時のように、常盤は流れ込んでいた記憶から意識を引きはがした。外傷はまったくないにも関わらず、かつてのどんな災害や事故の現場にも劣らぬ、そして異質な緊張感が全身に残っていた。
「状況は……っ?!」
眼前の光景に変わった様子はない……ただ一点を除いて。
リオール大河が異なる人物に変わっている。その絶世の美少女は、鮮やかな紫色の長髪を人口の潮風になびかせている。衣服はリオールが着ていたものと同じ、青の制服だ。
「何者……いや、お前は……お前が『第2030番』だな?」
「……あなたとオレは似た者同士のようだ」
常盤には言葉の意味するところが分かっていた。先ほどの記憶はリオールと『第2030番』が同化したときのものであり、あの感覚は常盤が生きている人間に『救助』を行う時のそれに、確かに似ていた。
「類似しているのは表面だけだ。『救助』行為は“支配”とは違う」
「何か勘違いされていますね?オレの目的は“支配”ではないのですが……もっと深いところまで『接続』するべきでしたか」
「お前は……『救助』対象に成りえない……排除しなくてはならない存在だ」
「それに気づくのが遅かったと思うよ、常盤さん」
リオールの声だった。『第2030番』とは明らかに違う所から聞こえており、常盤は周囲を見回して彼を探した。
「そういえば、今は“僕の”ターンだよね」
常盤に加勢する形で乱入していた15人のデュエリストが、自身のアバターを一斉に解除した。
「なんだと?!」
15人全員が、青の制服に身を包んだリオール大河の姿に変わっていた。
「種明かしをしようか。今僕の勇者アバターは【プレート・クラッシャー】なんだ」
他の14人が自身のアバター姿に戻り、ターンプレイヤーであるリオールは話し続ける。
「常盤さんが『救助』した癒清水キュアは『特異点』だから、実はいつでも『接続』できたんだ」
「正確にはオレが、ですよ」
『第2030番』が言葉を添える。
「僕は『接続』した癒清水に僕自身の『上書き』を試みた。彼女はあなたに『救助』されているから、僕の記憶や自我は同時にあなたにも流れ込む。するとどうなるか……?」
『第2030番』が愉快といった様子で答える。
「なんと、今デュエル中の16名のロバート・J・常盤全員に、リオール大河の記憶と自我が流れ込んだのです!あなたは『救助』対象に自分自身の『複製』を『転写』するだけでなく、リアルタイムで『同期』まで行っていたようですね?そのおかげで乱入したデュエリスト達15名を同時に『上書き』できましたよ」
常盤は拳を握りしめた。自分の『救助』した者を奪い取り『特異点』で侵すなど、彼にとっては冒涜的な行為だった。しかし同時に、常盤には一つの疑問が浮かんでいた。
(なぜ私だけ『上書き』せずに残した……?)
ロバート・J・常盤の『救助』とリオール達の『上書き』は表面的・技術的に似ているが、いくつかの差異がある。記憶が流れ込んだことで、常盤は今それを理解していた。
(彼ら『特異点』達の『上書き』精度は、『接続』の安定度に依存する……勇者プレイヤーや魔王の傀儡を『救助』した私よりも、『特異点』の者を『救助』しているこの私こそ、最も『上書き』しやすかったはず……)
「ではリオール大河、あとはお任せします」
『第2030番』はそう言い残すとアバター姿(緑樹の霊王)に戻った。
「デュエル続行!僕は魔法カード【細菌感染】を、【地殻変動の結界像】に装備!」
《機械族以外のモンスターに装備する。装備モンスターの攻撃力は自分スタンバイフェイズ毎に300ダウン!》
「私のデッキだと?!」
「デッキまでは『上書き』してないよ、それじゃつまらないからね。あなたを一人だけ残したのも、デュエルで決着をつけるためさ。手札から【恵みの結界像】の効果を発動!」
これまでの乱入者が全員同じデッキ・プレイングだったことで、リオールは常盤のデッキの動かし方をある程度把握していた。
《このカードをデッキに戻し、デッキから【災いの結界像】1枚を手札に加える》
《さらにこのターン、二回通常召喚が可能》
「僕は今加えた【災いの結界像】を召喚し、続けて手札の【同族感電ウィルス】を召喚!」
荒れ狂う象の像と、電球のような見た目をしたウィルス群が現れた。
「この2体と場の【細菌感染】でオーバーレイ!現れろランク4!【エンプティ継承名 疫病の結界像】!」
朽ち果てた像。色こそあせてはいるものの、患者の出血や皮膚の腫れ・爛れを表現したであろう模様が全身に刻まれている。もちろん頭部は失われている。
《闇・アンデット・エクシーズ・ランク4》《ATK1000》《ORU×3》
「その起動効果!エクシーズ素材とした【細菌感染】【同族感電ウィルス】を取り除き、その数まで場か墓地のモンスターを対象に発動!それらをORUとして取り込む!対象はその2体だ!」
《エンプティ継承名 落雷の結界像》
《エンプティ継承名 地殻変動の結界像》
2体の結界像が、疫病の結界像の頭部の空間に吸い込まれていった。海岸を覆っていた溶岩のホログラムが消えていき、充満していた熱気も晴れていく。そして、
「結界像がORUにしていたカードたちが墓地に送られる。やっと返ってきたよ」
「……これがお前の狙いか?」
常盤の問いには露骨に不快感が滲んでいた。
「そんなに怒らないでよ。あなたにとっては救助活動でも、僕にとってはデュエル。つまりゲームなんだから。僕はこれでエンドフェイズに移る」
「まだだ!お前たちにターンを渡しはしない!」
「乱入ならもう無理だよ」
「何?!」
溶岩や煙の消えた海岸に、デュエリストは残っていなかった。さらに、
「日没?!どうなっている?!」
海岸は夕日で美しく染まっていた。
「デュエルに夢中になって時間を忘れたのなんて久しぶりだよ」
(ゲシル君の『停滞』を僕の中にも『保持』しておいたのがこんな形で役に立つとはね……15分くらい稼げれば良かったんだけど、日没ってことは3時間は経過したか……思ったより強力だな)
さらにリオールの脳内に、『接続』中の『特異点』アイシャ・ベルタスの報告が届く。
「「ソード様、周辺の『校正機能』の駆逐は完了しております」」
「「お疲れ様。そのまま警戒しながら待機。すぐこっちも終わらせる」」
「「了解しました」」
リオールはデュエル開始の時点から、癒清水キュア以外の『特異点』全員に『接続』を行っていたのだ。デュエル中も情報共有を行い、アイシャ・ベルタスを始めとする付近の『特異点』戦力を呼び集めた。さらに常盤へ『上書き』を仕掛けるタイミングで『停滞』を発動。時間経過のズレを利用して、味方に乱入者の阻止を指示をしたのだ。溶岩と熱気のホログラムで閉鎖的な環境に近づいていたことで数時間も経過したのはリオールの想定外だったが、おかげでアイシャ達は第46地区を制圧する十分な時間を得た。ちなみに、【エンプティ継承名】の対抗策を共有したことで『特異点』側の戦力損失は0である。
「これでもう邪魔は入らない。僕はターンを終了する……」
リオールはそういうと勇者用アバターベルトを起動し、【プレート・クラッシャー】の姿に戻る。
同時に、【緑樹の霊王】が自身のアバターを解除し、この場において本体と呼ぶべきリオール大河が姿を見せた。
「……そして僕のターンが始まる。ドロー!」
リオールはドローカードを確認し、常盤に告げた。
「どうやらこれで終わりみたいだ。僕は墓地の【不屈のマグネッツ】の効果発動!」
《墓地の攻撃力が異なる2体を対象。その攻撃力の差と同じ数値の攻撃力を持つモンスターを可能な限り墓地から特殊召喚する(同名カードは1枚まで)》
「対象は墓地の【カルボナーラ戦士】(ATK1500)と【プロト・マグネッツ】(ATK0)!その差1500ポイントの攻撃力を持つ、【カルボナーラ戦士】と【ジェノベーゼ戦士】を特殊召喚!」
《地・戦士・融合・✪4》《ATK1500》
《地・戦士・エクシーズ・ランク4》《ATK1500》
常盤が負けじと言い返した。
「だが、その二体では私のライフを削りきれない!」
「ああ、だから追加するのさ。墓地の【無限鉄心マカロニアス】の効果発動!」
《墓地のこのカードをEXデッキに戻す。その後墓地の【カルボナーラ戦士】、【ポモドーロ戦士】、【ジェノベーゼ戦士】、【ペスカトーレ戦士】、【ボロネーゼ戦士】を1枚ずつX素材としこのカードをX召喚する》
「マカロニ・カオス・リニューアル!!!」
五人のイタリア系戦士が、自身にスパゲティを巻きつけるかのように銅線を何重にも纏った。それぞれが大きな電磁石となり、組み合わさり、巨翼を広げ、人とも天使とも神ともしれぬ姿を成す。体表はもちろん、マカロニ色に輝いている。
《光・戦士・エクシーズ・ランク12》《ATK3000》
「さらに装備魔法【融合武器スパゲティブレード】を【カルボナーラ戦士】に装備!」
《ATK1500→3000》
「これでぴったり7500だ」
「くっ……」
常盤は初めて、苦悶の表情を見せていた。一見悔しがっているようにも見えるが、
(デュエルに敗北、じゃなくて『救助』の失敗、に対する悔しさなんだろうな……)
「バトルフェイズ!総攻撃だ!」
ジェノベーゼ戦士が常盤に拳を叩き込む。
《常盤 LP7500→6000》
「正直、あなたにはがっかりだ」
リオールの言葉と共に、カルボナーラ戦士が優雅に剣技を繰り出す。
《LP6000→3000》
マカロニアスが最後の攻撃の構えを取ったとき、常盤は呻くように言った。
「ああ……私も、力不足な私自身が許せない……」
リオールがため息交じりに言った。
「個人的には、あなたとちゃんとデュエルがしたかった。一方通行の『救助』活動なんかじゃない、コミュニケーションがしたかったよ」
マカロニアスが光弾を放ち、常盤に直撃した。
《LP3000→0》
「……でももう『排除』に変わったんだっけ?まあそれは正解かな。僕らは要救助者というより、災害そのものに近い」
「覚えておこう……」
常盤が苦々しくそう呟くと、その体は灰色の液体となり溶け崩れた。
(ブラッディ・ホイールを倒した時も消滅してたし、『校正機能』はデュエルに敗北すると『機能不全』に陥る、ってことかな……まあ一時的なんだろうけど、デュエルでその場をやり過ごせると分かっただけでも収穫はあったといえるか)
《YOU WIN》
《バトルロイヤルモードおよびデュエルを終了しますか?》
《はい》《いいえ》
リオールは《はい》を選択し、バトルロイヤルモードとデュエルを終了した。常盤が溶け去った跡には、気絶した癒清水が倒れていた。
「「おめでとうございます。見事な勝利でした」」
付近に待機中のアイシャ・ベルタスの声が脳内に響いた。リオールは『接続』を通して次なる指示を出す。
「「ありがとう。頼んでいたものは見つかった?」」
「「はい。倒した『校正機能』の一人がドロップしました」」
「「よし、アイシャさんはそのスキルを持ってこっちへ来てくれ」」
リオールの読み通り、第46地区のボス攻略に必要なスキルは、付近に出現する魔王の傀儡を倒すことでドロップする仕様だった。常盤は『特異点』を海岸に足止めするため、常盤があらかじめ傀儡たちを『救助』し、プレイヤー達から遠ざけていたのだ。
「「二日目のイベント終了時刻までまだ少し時間があるから、エリアボスを攻略する。ちょうど人手も揃ってるし」」
リオールは【プレート・クラッシャー】や【ガーディアン・トライス】といったアバター姿の勇者や傀儡に目くばせした。すでにボートに乗っている者は向きを沖へと変え始めている。自分が複数いる感覚は新鮮だった。言葉をかわさなくても意思は伝わり、全員が正確に思い通りの動きをする。
(第三実験は成功……と言いたいが、“分身”を維持するコストが大きいな……『保持』している精神エネルギーがどんどん減っていくのが分かる)
「「『特異点』のみんなに伝えよう。僕は一足先に魔王城に乗り込む。その間、『校正機能』を『上書き』して得た情報と対策、明日以降の計画について全員に共有する。まず、『接続』の使用制限を完全に解除する。癒清水の記憶を覗かれてこちらの居場所や目的は敵にバレてるはずだ。なら下手に隠れるより『接続』で連携した方がいい……」」
アイシャがリオールに近づいてきた。灼岩魔獣のアバターを解除すると、等身の高い黒人の女性が現れ、リオールに向かってうやうやしく挨拶をする。『接続』の便利なところは、互いの魂で直接コミュニケーションが取れるため、肉体では並行して別の会話や作業、デュエルまでも可能な点にある。
「ソード様、攻略用スキルをお持ちしました。ところで……」
アイシャが数メートル先に倒れている癒清水を見た。リオールは彼女が何を言おうとしているのか、察しが付いた。
「大丈夫。【強制デュエル】に勝って癒清水の行動決定権を握ったから、彼女をイベントから退場させたよ、いわゆる戦線離脱だ」
リオールの予想に反し、アイシャは驚いた表情になった。
「あの恥さらしを始末しなくてよいのですか?」
(あっ、心配じゃなかった……)
「始末はさすがに必要ないかな……シェルタープラネットの外でやってもらうことがある」
「外部との『接続』用ですか?」
「それも一応試みるけど、肉体があっても『フィールドバリア』越しには難しいだろうね。代わりに彼女にはメッセンジャーになってもらう」
話しながらリオールとアイシャはボートに乗り、沖で待機しているスパイラルドラゴンへ近づいていく。他のエリアボスと異なり、スパイラルドラゴンはショーデュエリスト不在のドローンだった。接近により自動的にデュエルが始まる。いわば“本体”と呼べるリオールとアイシャ・ベルタス、常盤から『上書き』した15人のリオール大河による、レイドデュエルが始まった。
◇◆◇◆
エンドレスシティ第1地区 高級マンション『キャッスル』最上階(通称レジェンドフロア)17時01分
シティの住民がこの部屋を見れば、居住区の外観の割に質素な応接間だと思うことだろう。豪華な絵画や彫刻やトロフィーが飾られているのでもなく、落ち着きを感じる木製の内装や、柔らかな暖かさを感じる照明は、病院のロビーのそれに近い。さらにこの部屋に集まった四人の顔ぶれを見れば、場所が釣り合っていない、という疑問すら湧くかもしれない。ソファに腰かけている二人のうち一人は、デュエル事務局の局長、不死鳥院静香。向かい合うように座っているのが、ショーデュエル界のレジェンド、ブラッディ・ホイール。シティの守護神、ロバート・J・常盤はテーブルの脇に立っており、ホログラムの電子資料を携えている。そして窓から日没直後のわずかに赤みが残る地平線を眺めているのが、レジェンド・カノンの専属マネージャー、チェスである。
「戦況を報告します」
常盤が口を開いた。
Bパートへ続く