第29地区、宿泊用小型シェルターVIPルーム(推定)、時刻不明(午後8時以降?)
「この程度で欺いた気になるのは、むしろ“劣位”性を示していると思うが」
チェスは振り返ることもなく返した。
「……は?」
誠司バリドゥーラの怒りのこもった一言と同時に、チェスの胸を鎖が貫いた。流血こそないが、精神エネルギーの光が綻んだ糸くずのように散った。衝撃で胸ポケットから落ちたボールペンと、背後の壁にまで突き刺さった鎖を興味深そうに一瞥すると、チェスは“反転”した。体に光のさざ波が走ると同時に、肉体の前面と後面が入れ替わった。まるで映像のカットを変えたかのように。
「さて貴様は……誰だったかな?」
チェスの容姿は奏音の母、求道麗音の姿から『受け継がれなかった命たち』へ戻っていた。明らかに幼くか弱い少女の姿にも関わらず、人ならざらる者の威圧感が漂っている。
「自ら手にかけた相手も覚えられないとはな」
バリドゥーラは憎悪を滾らせながらそう言うと、さらに鎖を追加で放った。二本目はVIPルームの天井に向かったが、鎖は刺さるのではなくすり抜けた。それが合図だったかのように、部屋は溶けて消え去り、バリドゥーラの用意した“空間”は真の姿を表した。そこはチェスの見慣れた宇宙空間ではなかった。二人は石造りの神殿の内部にいた。壁や床の石材がうっすらと発光しており、光源はないが周囲はよく見える。天井は高すぎて見えず、頭上に伸びる深淵と化していた。神殿は『旧世界』のどの時代、どの文明とも似ているようで似ていない造りだが、今チェスの立っている場所にどういう意味があるのかは想像がついた。
「処刑場か」
チェスの胸を貫いた最初の鎖は、今は彼女の背後にある、磔用と思われる台に固定されている。また、バリドゥーラが握っていたはずの鎖の残りはいつの間にかチェスの四肢に巻きつき、処刑台からは離れられないようになっている。
「ふさわしいだろう?『旧世界』から人間の魂をかすめ取った盗人には」
バリドゥーラは『特異点』共通の青の制服姿だが、腕には勇者アバターの【チェイン・スラッシャー】の武器と思われる鎖が巻かれている。いつでも放てるのだろう。
(アバターベルトの持つホログラムデータを転用し『疑似空間』をデザインしたか……ロバート・J・常盤の情報を踏まえると、この青年は誠司バリドゥーラだと思われるが、彼には『特異点』の固有スキルが発現していないはず……となれば、共に行動していた大河美咲の固有スキル『模造』……私への暴力行為もジャン・ルブランの『暴圧』を『模造』して使用したのだろう……問題は、その大河美咲がこの場にいない点だ。おそらく彼は単なる足止めに過ぎず、本命は大河美咲による奏音の襲撃だろう……急がねば)
チェスは自らのデュエルディスクを出現させた。
「大道具は運び終えたか?児戯に付き合ってやろう」
「ハッ、あくまで自分が上だと思ってるわけだ。その歪んだ自己認識を正してやる」
《『受け継がれなかった命たち』LP8000》先攻
《誠司バリドゥーラ LP8000》後攻
「私のターンだ。モンスターを一体セット。さらにカード1枚をセット。これでターンを終了する」
大量展開を得意とする【継承名】だが、先攻で強固な盤面を敷く戦術は取らないのが基本である。また墓地や手札から働く効果も多いため、この布陣ですら見かけ以上の強度を持つことをシティの人間なら知っている。
「俺のターン、ドロー!メインフェイズに移行し、スキル発動!」
【神竜の宝札】
《手札の【神竜】カードを任意の枚数見せて発動出来る。見せた数+1枚ドローし、その後見せた数のカードを捨てる》
「そのスキル、『改造』されているようだな」
「そういうところは目ざといな?だがこれくらいのスキルは『旧世界』のデュエルなら普通だった。手を加えたのはお前の方だろうが」
バリドゥーラが見せたカードは合計3枚。
【神竜‐エクセリオン】×2枚
【神竜ラグナロク】
《4枚ドローし、3枚捨てます》
「さて、下準備ができた。俺は永続魔法【エクセリオンの遺跡】を発動!」
「その手を私が許すとでも?速攻魔法発動!【継承秘術 ザ・サモニング】!」
《デッキから✪4以下の【継承名】1体を特殊召喚》
バリドゥーラが舌打ちする。
「私が呼び出すのは当然、【継承名 シャープ・エッジズ】!」
きらきらと輝くカッターの刃が集まり、銀色のカマキリを形作った。
《闇・昆虫・効果・✪4》《DEF800》
発動したばかりの【エクセリオンの遺跡】のカードがぱっくりと割れた。【シャープ・エッジズ】には召喚・特殊召喚成功で場のカード1枚を破壊する誘発効果がある。
「この『世界』のカードや戦術はすべて把握している」
チェスがそう言い放つとバリドゥーラは……笑った。
「お前、本当に覚えてないんだな!その言葉は以前にも聞いたぞ!」
可笑しくてたまらないというようにバリドゥーラは腹を抱えて笑っている。
「ソード様が予想した通りだな!お前は『特異点』の存在ごと消す時、自分自身の中からもその『特異点』の記憶をほとんど失うと!」
チェスは無言だった。それは事実なのだ。『特異点』をエンドレスシティから消去した日付や、対象のプロフィールは記憶するが、どのような会話をしたか、どのようなデュエルをしたか、さらに相手の顔や声といった“思い出になりえる情報”は精神エネルギーに変換されるためチェス自身の中からも消去される。『特異点』が復活する想定などなかったゆえのシステムなのだ。
「情報アドバンテージはこちらにあるというわけだ。俺は手札から二枚目の【エクセリオンの遺跡】を発動!」
「……もう1枚引いていたか」
「浅いな。最初から一枚は引いていて、スキルで見せなかっただけだ。お前が一枚目の【遺跡】に除去効果を当ててくると読んでな!効果を使う前にまずは通常召喚!【神竜アポカリプス】!」
この世の終焉を司る神竜。全身が燃え盛る炎そのものである。
《闇・ドラゴン・効果・✪4》《ATK1000》
「手札を1枚捨て、墓地の【神竜‐エクセリオン】を対象に起動効果発動!」
《対象のドラゴン族モンスターを手札に加える》
「続けて【エクセリオンの遺跡】の第一の効果を発動!」
《デッキ・墓地から【神竜‐エクセリオン】を1体手札に加える。》
バリドゥーラは3枚目の【神竜‐エクセリオン】をデッキから加えた。
「【遺跡】の第二の効果発動!このカードをコストに、俺は【神竜】の召喚をあと二回、リリースなしで行うことができる!」
発動中の【遺跡】が墓地に送られ、処刑場に竜の声が響き渡った。頭上に広がる闇を一本の雷が裂き、銀色の神竜が降り立った。
《光・ドラゴン・効果・✪5》《ATK1500》
「続けて二体目を召喚!」
再び雷と共に、2体目の【神竜‐エクセリオン】が降臨する。
「この神竜は墓地の同名カードの数だけ効果を増す。すでにスキルで捨てた1枚が墓地にあるが……【エクセリオンの遺跡】の最後の効果はお前も知っているだろ?」
「……【遺跡】のカードは【神竜‐エクセリオン】として数えることができる」
「つまり、お前が破壊したせいで俺の墓地には【遺跡】が2枚、【エクセリオン】は合計3枚あることになる!」
【神竜‐エクセリオン】が得る強化効果は3種類。場の2体はそのすべてを得たことになる。
《攻撃力1000アップ》
《戦闘でモンスター破壊時、1度だけ連続攻撃》
《戦闘で破壊し墓地へ送ったモンスターの攻撃力分のダメージ》
「これで終わりと思うな!墓地の【輪廻竜サンサーラ】を除外し、効果発動!対象は墓地の【神竜‐エクセリオン】だ!」
《対象のモンスターを手札に加える。その後、そのモンスターのアドバンス召喚を行うことができる》
「【神竜アポカリプス】をリリースし、A召喚!」
三度目の降臨。墓地の同名モンスターが二体に減ったため、3体目のエクセリオンだけは強化効果のうち連続攻撃を付与されなかったが、それでも脅威には変わりなかった。
伏刃
エエエ 《ATK2500》×3体
「バトルフェイズ!まずは一体目のエクセリオンでセットモンスターを攻撃!」
エクセリオンたちの猛攻が始まる。伏せられていたモンスターが表になった。
【継承名 スキン・トゥ・ボーン】《DEF800》
「やはりそいつか!」
白骨化した子供がエクセリオンの突進で粉々となった。チェスがすかさず宣言する。
「フィールドから墓地へ送られた【スキン・トゥ・ボーン】の効果発動!」
《場のモンスター1体を対象、それを破壊》
「破壊するのはまだ攻撃していない、連続攻撃持ちの【神竜‐エクセリオン】だ」
砕かれた【スキン・トゥ・ボーン】の粉がエクセリオンにまとわりつき道連れのように枯らしていく。バリドゥーラが舌打ちした。
「だが、モンスターを破壊したことで、【神竜‐エクセリオン】の効果が二つ発動しているのを忘れるな!」
《戦闘でモンスター破壊時、1度だけ連続攻撃》
《戦闘で破壊し墓地へ送ったモンスターの攻撃力分のダメージ》
《『受け継がれなかった命たち』LP8000→6400》
「エクセリオン!【シャープ・エッジズ】を攻撃だ!」
「ならば【シャープ・エッジズ】の誘発効果だ!」
《攻撃対象になった時、一度だけ攻撃モンスターを破壊する》
守備の態勢だった銀のカマキリが迎撃の構えを取った……が、すぐにその構えは解かれた。
「何?」
バリドゥーラが得意げに笑っている。
「速攻魔法を使わせてもらった」
【禁じられた聖杯】
《対象モンスターの攻撃力を400アップし、効果を無効化する》
《シャープ・エッジズATK1600→2000》(守備表示)
効果を失ったシャープ・エッジズはエクセリオンの突進を防ぐことなく砕け散った。
「そしてモンスター破壊によりエクセリオンの効果ダメージを受けてもらう!」
《LP6400→4400》
「三体目のエクセリオンでダイレクトアタックだ!」
エクセリオンが体表に帯びていた電気が口元に集まる。直後、閃光が走り、チェスの首を撃ち抜いた。
「ぐっ……」
《LP4400→1900》
「痛みが具現化しだしたようだな。処刑らしくなってきたじゃないか?」
突然、チェスを拘束していた鎖が動き出した。体勢を崩したチェスは引き倒され、背後の処刑台に向かって鎖に引きずられていく。それを見てバリドゥーラが笑っている。
「おっと言い忘れていた。その鎖はライフの減少に応じて罪人を処刑台へと向かわせるよう命令してあるんだ。そしてライフが0になった時、お前は磔にされ、刑が執行される」
チェスは表情一つ変えずに立ち上がった。
「貴様のターンは終わりか?」
バリドゥーラは気に入らないといった様子で言った。
「いい加減、身の程を知れよ。弱者の分際で……カードを1枚セット。エンドフェイズにさらに速攻魔法発動だ」
【超再生能力】
《このターンに手札から捨てた、および手札・フィールドからリリースしたドラゴン族の数だけドローする》
このターンに捨てたドラゴン族はスキルで捨てた3枚、【神竜アポカリプス】の効果コストで捨てた1枚、【輪廻竜サンサーラ】によるA召喚でのリリースが1枚で、合計5枚。チェスは表情にこそ出さなかったが、ある疑問があった。
(【神竜】デッキにはドラゴン族以外のカードが二種類ある。【ロード・オブ・ドラゴン‐ドラゴンの支配者‐】と【神竜アクアバザル】だ。それゆえ【超再生能力】や【輪廻竜サンサーラ】といったドラゴン族しかサポートできないカードは本来採用しづらいはず……【継承名】とのデッキ相性を考慮し型を変えたのだろうが、本当にそれだけか?)
「私のターンだ。ドローフェイズ」
◇◆◇◆
現在地および時刻不明
「起きなさい奏音、寝坊は許さないからね」
チェスの声……ということは母、麗音(レノン)の声だ。こうやって起こされるのはいつぶりだろう。
「私ぃ……今日は昼まで寝る……」
奏音は寝ぼけながら答える。昨夜はマッスル剛力の番組『フルパワー体操』を深夜まで観ていたのだ。
「乙女が夜更かしなんてダメよ。女は母親になれば、早起きしなくてはならないのだから」
違和感のある言葉で、奏音は一気に目が覚めた。
「誰?」
誰もいない。奏音は冷たい床に寝ていた。
「というか……どこ?……あっ、シェルターか」
廊下の作りに見覚えがあった。昨晩……かどうかは分からないが、マッスル剛力に抱えられ通った覚えがある。小型シェルターと言っても宿泊用であり、百人以上を収容できるため、施設自体は大きい。体育館や大浴場もあると聞いている。
「私、戻って来れたのかな?」
窓から空を見ると、さわやかな秋晴れだった。すでに太陽が昇りきっており、本当に昼まで寝ていたのだと分かる。シェルターはこの時間帯は無人なのか、誰にも出会わない。デバイスの時刻や現在地表示もエラーのままなので、今日がデステニー・クロスロードの何日目なのかも分からない。あてもなく通路を歩き、曲がり、通路を進み、また曲がり、通路に沿って行くと、
「一周しちゃった……」
中庭があり、奏音の歩いた通路はその四方を一周するように作られているのだが、外への出口どころか上階へ向かう階段もない。部屋も全くない。窓をもう一度覗くと、そこにも中庭と通路が見えた。
「違う……ここじゃない、どこだよここ!」
奏音が少し怖くなって叫ぶと、背後の中庭から声が聞こえた。
「奏音ちゃん~、こっちよ~!」
振り向くと、知らない女性が手招きしている。麦わら帽子をかぶり、つなぎにエプロン姿の女性だ。家政婦にも見えるが、手袋に土汚れがあるので、庭師や農業従事者かもしれない。奏音は人がいたことで安心感を覚えたが、すぐに警戒心へと変わった。何かがおかしい。だがあえて、奏音は女性に近づいていった。そして問いかけた。
「あなたは、『特異点』?」
女性はにっこりと笑って言った。
「ええ」
奏音の思考はフル回転していた。
(なぜ元居た部屋じゃなくて『特異点』のいるとこに着いた?マッスルが何かしくじった?いや、間違いでこんなとこに来るもんか、この『特異点』の策だか罠だかに嵌ったんだと思う!多分!)
「一応名乗っておかないとね。私は、この『世界』では大河美咲という名前よ。リオール大河の母親でもあるわ」
奏音は全身に冷汗が噴出してくるのが分かった。
(リオールってあのリーダーっぽいやつか!)
「そんなに緊張しなくていいわ。私は他の『特異点』みたいにあなたを目の敵にしてないから」
「……だったら帰してほしいんだけど」
「それは無理ねえ。ここは“一応”『疑似空間』だから、デュエルしないと出られないわ」
「じゃあ敵ってことじゃん」
奏音の中で闘志が滾ってきた。デュエルデバイスを構える。
「奏音ちゃんはうちのリオールより好戦的なのね。だめよ、もっと女の子らしくしないと」
「女の子らしく……?」
美咲の言葉に、奏音は一瞬闘志を忘れて、ぽかんとしてしまった。それを見て美咲はため息をつく。
「そうだったわね。この『世界』には女らしさ・男らしさという“美徳”が失われているのよね……いいわ、私が教えてあげる」
美咲の付けていた手袋が光の粒となって消え、代わりに深紅のデュエルディスクが彼女の左腕に装着されている。彼女の衣服も白いワンピースへと変わっている。呼応するように奏音のデバイスも作動し始め、ホログラムの手札が現れる。
(良くわかんないけど、やるしかない!)
《大河美咲LP8000》先攻
《求道奏音LP8000》後攻
「私のターンからね。手札から装備魔法【翼を織りなすモノトーンコーデ】を発動するわ」
「ん?なんて?」
《手札・墓地から【翼を織りなす者】1体を特殊召喚し、このカードを装備する》
六枚の翼をもつハイエンジェルが現れた。本来の衣装と異なり、白いショート丈のシャツに、黒いワイドパンツを組み合わせたモノトーンコーデとなっている。
「続けて手札から【翼を織りなすモノクル】を装備!」
ハイエンジェルは片眼鏡を付けた。どんどんオシャレになっていく。
「【モノクル】の効果で、装備魔法をリンク素材にできるようになるわ。私は場のカード三枚をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン!リンク3!【翼を織りなす熾天使】!」
六枚の翼が炎に包まれた、ハイエンジェル。
《炎・天使・リンク3・上(↑)左下(↙)右下(↘)》《ATK2750》
▽▲▽
◁ ▷
▲▽▲
《美咲 LP8000》手札2枚
翼
《奏音 LP8000》手札5枚
「墓地へ送られた装備魔法それぞれの効果で、【翼を織りなす物の怪】を二体特殊召喚するわ」
小さな翼が六枚生えた毛むくじゃらのかわいらしい物の怪。
《光・天使・効果・✪2》《DEF400》×2
(なんか、【屋根裏の物の怪】に似てるな……)
「そしてスキル発動!【誕生のお告げ】!」
《自分のエンドフェイズ毎に1体、【誕生の天使】が訪れる》
「何これ……」
「見ていれば分かるわ」
美咲が機嫌よくそう言うと、空から翼の生えた卵が降りてきた。天使のようだ。
《光・天使族・通常・✪5》《DEF1700》
降りてきた卵型の天使はそのまま、奏音の場に居座った。
「私の場に出るのこれ?!」
「私はこれでターン終了するわ。さあ、奏音ちゃんのターンよ」
物 物
翼
誕
「調子狂うなぁ……私のターン、ドロー!」
(よし、いいカード!でも攻める前に、まずはスキルを確認しておくか……)
ゲシルに大量のネズミを送りつけられたことは記憶に新しい。奏音は素早くログを操作し、スキル【誕生のお告げ】の効果を確認する。
《自分のエンドフェイズ毎に1体、【誕生の天使】が訪れる。三度訪れた時、新たな命がこの世に生を受ける》
なんと詳細は表示されなかった。
「はあ?」
美咲はくすくすと笑った。
「それ以上の説明はいらないわ」
「んなわけあるか!あーもういいや、『特異点』が真面目にデュエルしてくれるわけないもんね?!なんかイライラしてきたからとりあえず叩く!手札から【ロボット・ボーイ】召喚!」
飛べるのが不思議なほど錆びだらけの飛行ドローンが現れた。
《闇・機械・効果・✪4》《ATK1600》
《召喚・特殊召喚成功した場合、手札から【継承名】1体を特殊召喚できる。その後このカードの表示形式を変更しても良い》
「手札から【バトル・シンフォニー】を攻撃表示!」
目を閉じ、祈るように銃を構えた天使が現れる。
物 物
翼
銃飛誕
(守備表示モンスターは十分並んでるから、【ロボット・ボーイ】はこのまま攻撃表示にして攻めるっ!)
奏音が【バトル・シンフォニー】の効果を発動しようとした瞬間、美咲が言った。
「あら、ちょうどいい所に出たわ~、【翼を織りなす物の怪】の誘発即時効果発動!」
《このカードの正面のメインモンスターゾーンにいる相手モンスターを対象。それを任意の他のゾーンへ移動》
「コストで物の怪ちゃんを手札に戻すわ。正面にいた【バトル・シンフォニー】を運んで上げましょう」
物の怪が小さな翼をはためかせ、バトル・シンフォニーを持ち上げた。その運ぶ先は……
物
翼
銃 飛誕
(ここは!あの【熾天使】のリンク先!)
「そして、リンク先に移動してきた【バトル・シンフォニー】を対象に【翼を織りなす熾天使】の誘発即時効果発動!」
《リンク先の対象モンスターを破壊し、相手の手札を1枚ランダムに捨てさせる》
熾天使の燃え盛る翼が一枚、つぶてのように放たれた。それを受けたバトル・シンフォニーは炎に包まれ破壊される。同時に奏音の手札が1枚、燃え上がった。
(ははーん、元のリンクマーカーに加えて、相手の場の物の怪2体で私のモンスターゾーンに最大3か所の落とし穴を作ってたわけか。さらに卵でゾーンが1か所埋まってるから、安全な場所は今【ロボット・ボーイ】が置かれているゾーンだけだったことになる……そしておそらく……)
奏音は【熾天使】に目を向けた。翼は残り5枚になっている。
(翼の数が残弾ってとこか。使用回数に上限がある代わりに、同一ターン中でも複数回効果を使えるタイプだな)
「面白い戦術だけど、ゲシルの方が厄介だったよ!」
(【物の怪】が消費されて安全なゾーンが増えてる!余裕で突破出来るね!)
「【継承名】が破壊されたことで、手札からトラップ発動!」
【継承戦術 イン・マイ・リメインズ】
《デッキから✪4以下の【継承名】1体を特殊召喚する》
「現れろ!主なき城!【継承名 キャッスル・イン・ザ・グラス】!」
完全に苔むした古城。ツタに覆われ、壁もほとんど崩れている。
《闇・植物・効果・✪4》《ATK1600》
「それたしか強い子よね?困ったわ~」
「【キャッスル・イン・ザ・グラス】の起動効果!対象は【翼を織りなす熾天使】だ!」
《対象モンスターを自身に装備し、その攻撃力を自身に加える》
キャッスル・イン・ザ・グラスはツタを伸ばし、熾天使を捕らえて城の中に引きずり込んだ。
《ATK1600→ATK4350》
「さらにバトルフェイズだ!【ロボット・ボーイ】で残った【物の怪】を破壊!そして【キャッスル・イン・ザ・グラス】でダイレクトアタック!」
《大河美咲LP8000→3650》
連続攻撃であっという間に美咲のモンスターは掃討され、ライフも半分以上減った。ちなみに、奏音は誕生の天使も攻撃に参加させたかったのだが、表示形式の変更ができなかった。
(邪魔だなこの卵……【キャッスル・イン・ザ・グラス】の対象にも出来なかったし、毎ターン置かれたらちょっと困るぞ?)
「安心して、奏音ちゃん。その天使はお告げを済ませたら消えるわ。そろそろ感じるんじゃないかしら?」
「お告げ?別に何も聞こえな―」
突如、奏音は激しい吐き気に襲われた。敵とのデュエル中であることも忘れ、膝をつき、胃の中のものを吐き戻そうとしたが、奏音の肉体はまだ精神エネルギーの再構成が終わっていないせいか、胃液すら出せなかった。
「なに、これ……」
美咲は笑顔のまま言った。
「“つわり”よ。あなたは“妊娠”したの」
「は……???」
誕生の天使がいつの間にか、奏音の傍に寄ってきていた。奏音はおそるおそる、そのカードテキストを読む。
《女性のおなかに命が宿った事を知らせてくれると言われている。》
(う、うそでしょ……ありえるのこんなこと?!?!)
「“教えてあげる”って言ったでしょう?奏音ちゃんには“女”としての喜びを、このデュエルを通して学んでもらうわ」
「ふ、ふざけんな……」
奏音は言い返したかったが、再び吐き気に襲われ、立ち上がることすら出来なかった。かろうじて手札の魔法カードを発動した。
【光の護封剣】
《このカードが場に存在する限り、相手モンスターは攻撃宣言できない。3回目の相手エンドフェイズにこのカードは破壊される》
美咲が苦笑いする。
「そんなことしなくても、妊婦に攻撃なんてしないわ」
奏音がターンを終了する意志を察知したのか、誕生の天使は天へ飛び去り、消えていった。
「あと二体の【誕生の天使】がお告げを済ませたとき、あなたは女の存在意義であり名誉である、“出産”を経験できるわ!辛いけど一緒に頑張りましょうね?」
Bパートへ続く
後書きは後日更新予定