ある決闘者の理想郷TURN16B
◇◆◇◆
大河美咲の『特異点』としての固有スキルは『模造』で“あった”。
「あなたの固有スキルは今後も成長と変化を続けるでしょう」
『第2030番』は玉座の前に伏している美咲にそう告げた。
リオールは『第2030番』と同化してからというもの、デュエルを繰り返すことで精神エネルギーを大量に生み出し、『保持』と『接続』を通して他の『特異点』に供給した。その過程で数人の『特異点』は固有スキルを発現するまでに至り、さらに美咲の固有スキルは当初の『模造』から『改造』へ変化していた。デュエルした相手のスキルやカードのデータを模倣するだけでなく改良もできるようになっていたのだ。
「私の固有スキルは今後、どのように変わるのでしょう……」
やや不安を滲ませながら尋ねた美咲に、リオールの姿をした『第2030番』は優しく答えた。
「固有スキルはその所持者が大切にしている経験や思い出、信条が力として実ったものです。ジャン・ルブランの『暴圧』、リオール大河の『保持』、オレの『接続』が良い例です。あなたの『改造』が行きつく先は、あなた自身が一番思い描けると思いますよ」
美咲は束の間、考えた。そして答えを口にした。
「……『創造』」
◇◆◇◆
《大河美咲 LP3650》手札4
城飛
光翼
《求道奏音 LP8000》手札1
「私は魔法カード【ソウルテイカー】発動!対象は【キャッスル・イン・ザ・グラス】よ」
《対象を破壊する。その後相手は1000ライフ回復する》
奏音はまだ立ち上がれないほどの吐き気だったが、かろうじてデュエルは続けられる状態だった。
「【キャッスル・イン・ザ・グラス】の効果、発動……」
《手札・場から発動出来る。このカードの攻撃力分ライフを回復し、このカードを墓地へ送る》
《求道奏音 LP8000→12350》(攻撃力分4350ポイント、ソウルテイカーの回復は不発)
苔むした古城が崩れていき、祝福するかのように花畑が広がった。いつもの奏音であればスキップしている演出だ。美咲が花畑を見て声を上げる。
「まあ、素敵なお花畑!この中庭にぴったりね……」
一方、奏音は風景など気にしている余裕はなかった。
(体が熱いし、なんかものすごくイライラする……この花もむしってしまいたい……)
相変わらず美咲は奏音が悶えている様子をほほ笑みながら眺めているが、ルブランのように嗜虐的な趣味とは違うように見えた。
「おっといけないわ、【翼を織りなす熾天使】が墓地に送られたから、誘発効果が発動するわね」
《このカードのリンク素材としたモンスターを可能な限り特殊召喚する》
六枚の翼を持つハイエンジェルが舞い戻った。
「それから、装備魔法【翼を織りなすモノポリー】を発動するわ」
《発動時にカードを2枚ドローする。さらに装備されている限り、自分はドローフェイズの通常ドローが2枚になる》
「そろそろ良い頃ね……手札から儀式魔法【神子守(みごもり)】発動!」
【神子守】《儀式魔法》
《このカードは発動後も場に残り続ける。場に【誕生の天使】がある間、すべてのモンスターは攻撃できず、エンドフェイズにターンプレイヤーは以下の効果を適用する》
《●自分の場のモンスターの攻撃力の合計分、相手のライフを回復させる》
「フィールドに、残る……儀式魔法……?」
「奏音ちゃんの光の護封剣と同じね。私はカードを伏せてエンドフェイズに移るけど、ここでスキル【誕生のお告げ】が発動するわよ」
二体目の卵型の天使が、奏音の場に舞い降りた。
《美咲》手札3
神 翼
翼
飛誕
光
《奏音》手札1
「儀式魔法【神子守】も発動。懐妊祝いよ」
美咲の場にいる【翼を織りなすもの】が、奏音に祝福の光を贈った。
《奏音 LP12350→15100》
(少し吐き気がおさまってきたか?)
奏音は立ち上がろうとして、自分の体が重くなっていることに気づいた。
「う、何これ……」
「それが“命の重み”よ。本当はお腹が大きくなる仕様にしたかったけど、そうなるとデュエルどころじゃない影響が出るから、重さだけ体験してもらうことにしたの」
(十分影響出てるわ!!!本当っ!何考えてるんだこいつ!!!)
「安定期に入ったみたいだから、いくつか教えておくわね。まず、あなたが『出産』するのは双子よ」
「ふ、双子ぉ?!」
「もちろん精神エネルギーで『出産』を体験するだけだし、これはものの例えよ?でも、その体験を通して生まれるものが二つあるの。まず一つは何度も言うように、あなたの女としての自覚とその喜び……私も『旧世界』で出産したときにそれが芽生えたわ」
「『旧世界』?お前リオールの母親なんだよな?出産はシティだったんじゃ?」
「女の子が“お前”とか言っちゃダメです!!!」
「ひっ……」
ものすごい剣幕に、普段から煽り煽られ慣れているはずの奏音も、一瞬恐怖を感じた。
(なんだこいつ、急に……)
「医療ドラマとかドキュメンタリーとか見たことない?シティの医療は母体に負担をかけないとか言って無痛分娩が一般的なんだけど……あれはダメね。命がけじゃない出産で“女”を悟ることはできないわ」
完全に冷え切った声だった。ちなみに奏音は医療ドラマをみたことは無い。見るのはSFアドベンチャーが多い。
「だから本当の意味での出産は『旧世界』でしか経験していないの……あの激しい痛みを経て迎えた我が子の温もりは今でも思い出せるわ……」
再び優しい声色に戻っていた。奏音はこの人物が全く理解できなかった。理解の及ばなさから来る恐怖はルブランとの戦いでも感じたが、あちらは最終的にルブランの人間としての底を知ったことで克服できた。
「私はすべての“女の子”に、妊娠や出産を経験して“母”になり、“女の人生”とはどういうものなのか悟って欲しいの」
(こいつを、理解できる気がしない……)
「でも悟ったのは『旧世界』の私だけ。この『世界』の大河美咲はまだ、女として未完成……私の『特異点』としての固有スキルが変化していったのもその現れだったのよ」
急に固有スキルの話が出てきて、奏音の気が引き締まった。
「最初は『模造』、次に『改造』……おかげで『疑似空間』を真似したり弄ったりする技術は得られたけど、それは無から有を生み出す行為にはほど遠いわ……そこで、奏音ちゃんの妊娠・出産体験を通して、私の固有スキルを『創造』へと生まれ変わらせることにしたの。これがいわば、双子の片割れね」
奏音はマッスル剛力の言葉を思い出した。
『デュエル中にスキルを作り出すのはルール上反則ではない……私以外に誰もできないからね。『特異点』の者たちですら、カードやスキルの改造はデュエル前にしかできないようだ』
(こいつ、私の体を利用してスキルを……?いや、作るのは『特異点』の固有スキルだから、デュエル用のスキルとは違うか……マッスルに教わったスキル作りじゃ体はなんともなかったし)
「よくわからないけど、そういうのって自分の体でやるものなんじゃないの?」
「うふふ。私の体は別に使うのよ」
「えっ……?」
「あなたの妊娠・出産体験を経て私の固有スキルが『創造』に生まれ変わった後はね、『創造』を使って私の体を礎に、『旧世界』渡る“道”を作ろうと思うの」
奇しくもその手法は、奏音をゲシルの『疑似空間』からエンドレスシティへ送るために、自らを“道”にしたマッスル剛力のそれと同じだった。
「まさに“女の本懐”だと思わない?ソード様や『特異点』のみんなが、私を通って『旧世界』へ戻れるのよ……私は単なる“道”じゃない、“産道”になるの……」
自分の言葉にうっとりしている美咲とは真逆に、奏音は背筋が寒くなるのを感じていた。
(こいつは理解できなくて当たり前だ……狂ってる……)
同時に、こちらは連想に過ぎないのだが、奏音は昔見たSF映画を思い出した。アドベンチャーものだと思っていた映画がホラー映画でとびきり怖い思いをした記憶だ。
(観終わった後、チェスが帰ってくるまでずっと布団にくるまって泣いてたっけ……たしか、その映画がホラーだと気付いた時のシーンは……)
宇宙生物に寄生された人間が、その子供を腹に産みつけられるというものだった。
◇◆◇◆
デステニー・クロスロード三日目。
シェルタープラネット第50地区(魔王城)午前11時45分
第46地区のエリアボスが攻略され、海岸から魔王城まで渡ることができるようになっていた。この情報に勇者プレイヤーも実況席も観客達も沸いた。早くも三日目にして魔王への挑戦が可能になったのだと誰もが思っていた。
「「これはなんということでしょうかーーー!!!」」
実況のリドラー吉本が悲痛の叫びをあげるのも無理はなかった。魔王城に乗り込もうとした勇者たちが、ことごとく返り討ちにされていたのだ。強力な魔王の傀儡……ではなく、一人の勇者プレイヤーに。
「「すでに22人の勇者が上陸を阻まれました!しかもアンティとして行動決定権を奪われ、全員イベントから退場させられております!!!」」
「「魔王を前にしてなお同胞と争うとは、これぞ恐ろしき人の業……」」
勇者たちの上陸を阻んでいるのは灼岩魔獣のアバターを纏った、アイシャ・ベルタスである。魔王城の門前で仁王立ちし、近寄るプレイヤーにデュエルを挑み続けている。元から【番兵ゴーレム】がいたのだが、これもアイシャが倒し、なんと門の開閉権をアンティで奪い取ってしまったのだ。
「魔王を討ち取るのは我が主だ!誰にも邪魔はさせん!!!」
アイシャを倒すため乱入戦術をとる勇者パーティもいたが、付近に隠れていたリオールの分身が乱入返しの形で加勢しすべて撃退してしまう。魔王城の船着場は来る者と去る者でごった返していた。実況中継を見ながら、不死鳥院静香は頭を抱えていた。
「もうなんなのぉ?!『特異点』関係なく迷惑行為よ~~!!」
「落ち着きなよ、しずちゃん。いくらデュエルの実力があっても、一人で戦い続けるのには限界があるはずさ。デッキ情報もバレていくしね。現に、敗走する勇者側に少しづつナイスゲームが増えてる」
「22人もやられてまだナイスゲームなのぉ?!」
「それより城の中はどうなんだい?リオール大河は分身も連れずに一人で挑んでるそうじゃないか」
「三階まで完全に攻略されて、今は四階を攻略中ね。ちなみに魔王は五階よ……」
「難易度低いんじゃないのかい?」
「そんなわけないでしょ、魔王なんてチェスがじきじきに“作った”んだから」
「じゃあ常盤ちゃんの記憶から攻略情報取られてるとか?」
「魔王城内部の情報は常盤さんも知らないわ。リオール大河が強すぎるのよ。四階は数も多いから時間はかかるでしょうけど、このペースなら一人でクリアしちゃいそう」
「困ったねえ。今から魔王に手を加えて【継承名】カード持たせるかい?」
「私の権限じゃそこまでできないわよ……それに……」
不死鳥院の表情が少し曇った。
「もうそれっぽい仕様にはなってるわ……」
「ジェントルマン真心のやつが乱心したと聞いたが、そもそも別人のようだな」
灼岩魔獣の前に現れた新たな挑戦者がそう言った。
「女の声だが純情ピクシーでもない、お前は何者だ?」
灼岩魔獣、アイシャ・ベルタスは冷ややかに返す。
「知ってどうする?そのまま引き返すか?」
新たな挑戦者、【華麗なる潜入工作員】は笑った。
「なんだよ、灼岩魔獣のくせに冷たいな?まあいいさ、お前にデュエルを挑む。互いの行動決定権をかけてな」
アイシャは無言のままだったが、デバイスを構えた。
(この男に漂う闘気……間違いない、プロデュエリストだ)
「始める前に一つ教えとく。俺のデッキテーマは【モリンフェン】だ」
「!!!」
アバター越しでも驚いた様子が分かるアイシャに、まるで証明するかのように、華麗なる潜入工作員はアバターを解除した。中身はまぎれもない、ボロミア・ボークス本人だった。
「お前が【火炎鳥】使いだって情報は耳を塞いでも届く状況だったからな。こうしないとフェアじゃねえだろ」
「フッ……面白い」
灼岩魔獣もアバターを解除し、アイシャは自らの姿を晒した。
「この着ぐるみにも、雑魚たちの相手にも飽きていたところだ……ゆくぞ」
互いにアバターを解いたにも関わらず、二人の威圧感はかえって増しているように思えた。周囲で見ている勇者プレイヤーたちは、決して乱入などできない、いやしてはならないと直感した。
《アイシャ・ベルタス LP8000》
《ボロミア・ボークス LP8000》
「先攻は私だ。スキル発動!《カー召喚【火炎鳥(バーニングバード)】》!」
赤い羽の鳥が舞った。翼が炎に包まれており、そのせいか体が大きく見える鳥だ。
《炎・鳥獣・効果・✪4》《ATK1000》
「続けてフィールド魔法【火炎鳥の領域(バーニングバード・テリトリー)】発動!」
《永続効果:自分フィールドの表側表示モンスターはすべて鳥獣族になる》
「さらにもう一つの効果を発動!互いのメインフェイズに1度、デッキ・手札から鳥獣族1体を、攻撃守備0・効果無効・リリース及び素材不可の状態で特殊召喚できる!」
アイシャがデッキから呼び出したのは、頭の毛が冠のように見える、青白く燃える鳥だった。
【冠を戴く蒼き翼】
《風・鳥獣・通常・✪4》《DEF1200→0》
「そして【冠を戴く蒼き翼】を対象に手札の【火炎雛鳥(バーニングチック)】の起動効果発動!」
《対象を破壊し自身を手札・墓地から特殊召喚。その際に満たした条件の数まで【ヒノコトークン】を特殊召喚する》
火炎鳥の雛と思われる小さな鳥が鳥が飛び出した。雛鳥でも羽には火が灯っている。ヒノコトークンも一緒に飛び出した。トークンは羽に灯った火がやや小さい。
《炎・鳥獣・効果・✪4》《DEF500》×4
ボークスは感心したように言った。
「ほう、本体に加えてトークンが三体も出るか」
「【火炎雛鳥】は、手札から効果を発動した場合・破壊したモンスターが通常モンスターだった場合・元の種族が鳥獣族だった場合・炎属性だった場合にトークンを出す。今回満たした条件は三つだ。さらにこのタイミングで【火炎鳥】の誘発効果が発動!」
《自分フィールドの鳥獣族が破壊されるたびに発動。自身の攻撃力が500ポイントアップ》
《ATK1000→1500》
「なるほど、場に並べたトークンの目的はそれか」
「ここで【火炎雛鳥】のもう一つの効果を伝えておく」
「ん?」
《永続効果:このカード及び【ヒノコトークン】は以下の起動効果を得る》
《●1ターンに1度、相手に500ポイントのダメージを与え、自身を破壊する》
ボークスの笑みが消えた。
「おいおい、まずいぜこれは……」
「当然、四体すべての効果を使う。爆ぜろ!」
火炎雛鳥とヒノコトークンたちが一斉に、小さな爆発音を上げボークスへぶつかっていく。
「グワァァァァ!!!」
《ボークス LP8000→7500→7000→6500→6000》
「同時に【火炎鳥】の攻撃力も上昇していく!」
《ATK1500→2000→2500→3000→3500》
「私はカードを1枚セットし、ターン終了だ」
◇◆◇◆◇
《誠司バリドゥーラ LP8000》手札5枚
伏
エエ
《受け継がれなかった命たち LP1900》手札4枚
カードをドローし、チェスはバリドゥーラの伏せカードを推測した。
(テンプレート構築の罠カードなら【死魂融合】の可能性があるが、墓地に【ロード・オブ・ドラゴン‐ドラゴンの支配者‐】はない。他には【ジェネレーション・チェンジ】や【ホーリーライフバリアー】などが考えられるが……ドラゴン族の汎用サポートカードまで視野を広げるなら、警戒すべきは【バーストブレス】あたりか)
「私は墓地の【スキン・トゥ・ボーン】の効果を発動!」
《墓地のこのカードと、✪4以下の【継承名】1体を特殊召喚》
《DEF800》×2
白骨化した子供と、刃でできたカマキリの二体が墓地から戻ってきた。
「やはりそう来たか。【シャープ・エッジズ】の効果で1枚破壊するんだろ?対象を選択しろよ」
「【シャープ・エッジズ】の破壊対象は【神竜‐エクセリオン】だ。連続攻撃を得ている方を選択する」
「俺のリバースカードは脅威じゃないと?まあいい」
カマキリの放った斬撃で、エクセリオンが倒れる。残るエクセリオンは1体。
(【神竜】デッキに採用されうる罠カードはわざわざ破壊する必要がないものがほとんど。2枚目の【禁じられた聖杯】であればすでに発動しているはず。そして私の場にモンスターが2体揃った時点で、守備力を参照する【バーストブレス】は無力化されたも同然)
「現れろ、命を束ねるサーキット!私は2体の【継承名】をリンクマーカーにセット!サーキット・コンバイン!」
バリドゥーラは目を見開いた。
「ついに来るか、噂の【継承名】リンクモンスター!」
「リンク2!【継承名 メテオラ】!」
巨大な隕石が現れた。その表面には荒れ果てた寺院が何十と残っている。
《闇・岩石・LINK‐2・左(←)右(→)》《ATK3200》
▽△▽
◀ ▶
△▽△
「知っているとも!リオール大河を倒したリンクモンスターだろ?」
『特異点』たちは皆、『受け継がれなかった命たち』に一度デュエルで敗れている。その時使われた【継承名】カードの情報は共有されていた。一方でチェスはデュエル内容を記憶から消しているため、“敵に知られている”ことを知らない。
「過去に私に【メテオラ】を使わせた者がいたならば説明は不要だな。貴様のデッキでこれは越えられない。私はまず、墓地に送られた【スキン・トゥ・ボーン】の効果!対象は最後の【神竜‐エクセリオン】だ!」
再び塵芥となった【スキン・トゥ・ボーン】がエクセリオンを包み込んだが、バリドゥーラはなぜか笑っていた。
「クハハハッ!!想定通りのシチュエーションだ!リバースカード!オープン!」
【竜の転生】《通常罠》
《自分の場のドラゴン1体を対象。それを除外し、手札・墓地からドラゴン1体を特殊召喚》
「対象は【神竜‐エクセリオン】!さらに手札からチェーン発動!【風の天翼ミラドーラ】の効果発動!」
その名を聞いたチェスは一瞬、言葉を失った。
「……そのカードは、まさか貴様、」
「そうだ盗人!これはお前がこの『世界』に持ち込まなかったカード!『旧世界』の力だ!」
一陣の風が吹いた。轟くように現れたエクセリオンとは対照的に、ミラドーラは舞い降りる様に天井の闇から現れた。細長い龍の体に、白く美しい毛並みと、緑を基調とした模様、鮮やかな彩の翼を持つ。
《誘発即時効果:相手がEXデッキからATK2000以上のモンスターを特殊召喚した場合に発動。このカードを手札から特殊召喚する》
《風・ドラゴン・効果・✪7》《ATK2000》
「それだけではない!チェーン処理でエクセリオンを転生!これがお前に神罰をもたらす竜!手札から【神竜ティタノマキア】を特殊召喚!」
エクセリオンが姿を消した。これまでより一段と激しい雷が天井から降り注いだ。それはすぐには止まず、処刑場全体を走りながら電撃が竜の形を成していく。黄金、瑠璃、紫紺の三つ首を持つ神竜へと。
《光・ドラゴン・効果・✪10》《ATK3000》
「『旧世界』のカードをそのまま持ち込めばどうなるか分かっているのか?」
ミラドーラ、ティタノマキアが放つ存在感はもはやホログラムのそれではなかった。
「クハハハッ、今になってモンスターやダメージの実体化が怖くなったか?俺は【ミラドーラ】の誘発効果を発動!」
《相手のATK2000以上のモンスター1体を対象。このカードが表側で存在する間、対象は効果を発動できない》
ミラドーラが優雅に風を操り、隕石の周りに魔力を帯びた雲を作った。
「これで【メテオラ】は効果を発動できない。その上、永続効果で自身は攻撃不可!」
《LP8000》手札3
ミテ
メ
《LP1900》手札4
「……つくづく『特異点』はこの『世界』にとっての脅威だな」
チェスは封じられたメテオラを眺めながら呟いた。
「貴様らは『世界』が虚構であることがそんなに気に入らないのか?永遠ともいえる安寧を実現しているこの『世界』を捨ててまで『旧世界』を望むのか?」
バリドゥーラは鼻で笑った。
「“悪”の本質は“弱さ”だと言うが、お前はそれを体現しているな……安寧など!弱者の保身的な思想に過ぎない!人類を始めとするすべての生命は進歩を運命づけられているのだ!それを妨げるお前のような存在こそ人類にとっての“脅威”といえよう!」
「貴様の言う進歩とやらの余地が、『旧世界』にあるとは思えないが」
「弱者は発想が貧しいな!我らは『特異点』だ!ソード様は『旧世界』の再建も見据えている!『旧世界』は我ら『特異点』によって導かれるのだ!」
今度はチェスが鼻で笑った。
「掘り下げてみれば……いかにも『旧世界』的な発想だ。もういい、貴様は理解するまでもなかった。しかし『旧世界』の力を持ち込んだ以上、こちらもそれなりの対応をする」
チェスは右手を伸ばし、大地にかざした。
「現れろ、命を束ねるサーキット!」
このターン2度目のサーキットは、処刑場の床に描かれていた。
「何?!この状態でリンク召喚する気か?」
「召喚条件は《【継承名】リンクモンスター1体》、私は【継承名 メテオラ】をリンクマーカーにセット!蘇れ!【継承名 リアニメーション】!」
鎧武者を模したロボット兵、子供向けのプラモデルやフィギュアのようなデザインだ。X型の翼を装備している。
《闇・サイバース・LINK‐1・下(↓)》《ATK1600》
▽△▽
◁ ▷
▷▼◁
「【リアニメーション】の誘発効果だ」
《素材とした【継承名】をリンク先に特殊召喚し、このターンそのモンスターと同じ効果を得る》
「蘇れ!【メテオラ】!」
ミテ
リ
メ
一度消えた隕石が再び出現した。ここでようやく、バリドゥーラはあることを思い出した。
「これは……シセが報告していたリンクモンスターか……」
使用したブラッディがアクセルシンクロ中だったため、シセを観察していたリオール大河でさえも正確な能力を把握できていなかったのだ。
「本来はもう一体のリンク1モンスター、【ハイブリッド・セオリー】と合わせて使うカードだが、今回は応用といったところだ。【リアニメーション】は【メテオラ】の効果を得る」
《①エクストラモンスターゾーンに存在する限り、攻撃できない。》
《②このカードがリンク召喚されている場合、相手ターンに発動できる。フィールドのカードすべてを破壊し、自分のライフポイントが相手のライフポイントより多い場合は4000ダメージを受ける。発動後、次の自分スタンバイフェイズに墓地のこのカードおよび【継承名】モンスター2体を特殊召喚する。この効果に対してお互いはカード効果を発動できず、この効果で破壊されたカードおよび同名カードの効果はそのターン中発動できない。》
「だが効果を得るのはこのターン中だけだろ。強力な効果も無意味で、ただ縛りが付いただけの―」
言いかけてバリドゥーラは気づいた。
「目的は【メテオラ】の蘇生か!」
墓地から戻った【継承名 メテオラ】はメインモンスターゾーンに置かれているため、攻撃宣言ができる。
「バトルフェイズだ。【メテオラ】で【神竜ティタノマキア】を攻撃!」
「甘いな!【神竜ティタノマキア】は特殊召喚されている場合、戦闘では破壊されない!」
隕石の衝突に三つ首の神竜が耐えた。
《バリドゥーラ LP8000→LP7800》
「この程度ならかすり傷!ミラドーラを攻撃すれば良かったものを!」
「私は手札から【継承名 クロウリング】の誘発即時効果を発動する」
「何?」
《このターン攻撃が無効になった、または戦闘を行いモンスターを破壊できなかったモンスター1体を対象に発動できる。手札のこのカードを特殊召喚し、そのモンスターはもう一度攻撃できる。また、このカードおよび対象モンスターはこのターン中プレイヤーへ直接攻撃できる》
パシャパシャと水面で何かが跳ねるような音がした。バリドゥーラが足元を見ると、処刑場の床面が水面のように透けて揺らいでおり、その下にピラニアのような牙の生えた、恐ろしい形相の人魚が潜んでいた。
「くっ、未知の【継承名】か!」
《闇・魚族・効果・✪4》《ATK1600》
人魚が素早く飛びかかり、バリドゥーラを引っかいた。
《LP7800→6200》
続けざまに、足元にさざ波が起きる。大きな物体が浮上しようとしている。隕石が、水中から“落ちてくる”。チェスの声が冷たく響いた。
「【メテオラ】で直接攻撃だ」
爆音を立てて大きな水柱が上がり、メテオラが直撃したバリドゥーラは吹き飛ばされて壁に打ち付けられ、そのまま床にぐしゃりと落ちた。
《LP6200→3000》
チェスが自分を縛る鎖を眺めながら言った。
「ダメージを具現化させていたのがあだになったな」
バリドゥーラはよろめきながらも立ち上がった。
「……不意打ちで……いい気になるな」
「まだ動けたか。私はメインフェイズ2に移行する」
バリドゥーラの肉体には光の亀裂が生じており、明らかに深手を負ったと分かるが、お構いなしにしゃべり続けていた。
「……まさに弱者の戦術だ……我らから『旧世界』をかすめ取った時も、『校正機能』の戦術も、正攻法とはとても言い難い……」
「私は【継承名 バーニング・イン・ザ・スカイ】を召喚!」
火の玉の群れが現れ、編隊を組んだ。
「“悪”の本質は“弱さ”だ……弱いから甘え、弱いから妬み、弱いから盗む……弱者は常に、真実や正義から目を背け続ける……“弱さ”とは、“罪”なのだ……」
「終わりにしてやる。起動効果を発動し、デッキから【継承秘術 バーン・イット・ダウン】を手札に加える」
【バーニング・イン・ザ・スカイ】には自身を犠牲に1600ポイントのダメージを与える効果がある。また、【バーン・イット・ダウン】には追加で1600のダメージを与える効果がある。チェスがとどめの効果発動を宣言しようとした時だった。
《誘発即時効果》
【光の天穿バハルティヤ】
《光・ドラゴン・効果・✪7》《ATK2000》
さらなる『旧世界』の力が立ちはだかっていた。
TURN17へ続く
後書きは後日追加予定