ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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描写し忘れていましたが、奏音の服装はTURN12からずっとこんな感じです
・スウェット上下セット(グレー)(宿泊施設で支給)
・インナー上下セット(同上)
・サンダル(黒)(部屋の備え付け)
ゲシル戦の時は裸足でしたが、マッスル剛力が気を利かせ、今は精神エネルギーで構築したサンダルを履いています。



TURN17 試練-罰・娠- Bパート

 

《大河美咲 LP3650》手札2

  

    

     

   

    

《求道奏音 LP15100》手札2(ドロー後)

 

(集中しなきゃ!私のやることはいつもと同じ、デュエルで勝つこと!)

 奏音が引いたカードは【継承名 ブラックバーズ】、これまで実戦で使用したことがない【継承名】だった。

(よし、良いカードだ。まずは……あの儀式魔法か……多分、次の私のターンのエンドフェイズに破壊されて、その時儀式召喚が成立するんだろうけど)

 奏音は“つわり”がおさまったことで思考の余裕が生まれていた。

「手札の【継承名 ブラックバーズ】の効果を発動する!」

 

《手札のこのカードを次の自分のスタンバイフェイズまで除外し発動できる。デッキから【継承名】カードを1枚手札に加える》

 

「このデッキにはカードを破壊するカードなんて山ほどあるんだ、やると分かってる儀式を止めない理由はないよね!」

「もう、ほんとにお転婆なんだから!トラップ発動!」

 美咲が【ブラックバーズ】にチェーン発動した。

 

【翼を織りなすモノリス】《永続罠》

《①自分の場のカードは相手の効果の対象にならない》

 

「だめよ?大事な儀式を邪魔しちゃ」

 奏音はニヤリと笑った。

「フフフ、かかったね?【シャープ・エッジズ】をサーチされると思ったでしょ?慌てて罠カードを使ってくれたおかげで、より有効なカードを選べるよ」

 奏音は【継承戦術 ロスト・イン・ジ・エコー】をサーチするつもりだった。これなら【翼を織りなすモノリス】の適用下でも【神子守】による儀式召喚を阻止できる。ホログラムのデッキリストを確認しながら奏音が煽る。

「こんな簡単な誘導に引っかかるなんて、“女”としての自覚より、デュエリストとしての自覚を持った方がいいんじゃない?」

(我ながら完璧な煽り!吠え面かきやがれっ!)

「はいはい、すごいすごい」

 美咲の態度は、悪戯を繰り返す子供に呆れていると母親といった様子で、奏音の煽りを煽りと認識しているのかすら怪しかった。

(ぐぬぬぬぬ!!!なんか私の方がバカみたいじゃん!!!)

「騒ぐのもほどほどにしなさい。身体に障るわよ」

 美咲がそう言ったとたん、奏音は自分の体の中で生き物のうごめきを感じた。

「うわっ……なんかぽこぽこいってる……?」

「たぶん蹴ってるのね。赤ちゃん元気そうじゃない」

「ヒェッ……」

 奏音は自分の下腹部に手を当てた。見た目は何の変化もないが、奏音はそこに確かな“質量”を感じていた。

「本当に……生まれる気なんだ……」

 緊張を隠せない奏音を見て美咲が嬉しそうに言った。

「分かるわぁその気持ち……私も初めての妊娠はそうだったから。それこそ、“女”だけが知得られる体験よ」

 奏音は今になって焦りを覚えた。

(やばいよ……精神エネルギーのつくる錯覚みたいなものだと分かってても、これは“やばい”!確か出産ってめちゃくちゃ痛いんだよな?肉体が無傷でも精神にダメージ来るんじゃないの?!)

 奏音が焦りを誤魔化すように【ロスト・イン・ジ・エコー】を探していると、デッキに見覚えのないカードを見つけた。

(なんだこれ?さっき【イン・マイ・リメインズ】を使った時にはデッキになかったよな?)

 詳細を確認しようとカードのホログラムに触れると、突然、頭の中にそのカードの使い方が流れ込んできた。

(そうか、だから今まで……でもこれ、どうやって使うんだよ……!)

 奏音は仕方なく【ロスト・イン・ジ・エコー】をサーチした。

「カードを1枚伏せて、それから【ロボット・ボーイ】を守備表示に変更して……」

(このままターン終了していいのか?でも、もう出来ることないよ~!)

 今回も奏音のターン終了の意思を察したのか、フィールドにいた誕生の天使がふわふわ近寄ってきた。さらに美咲が優しい声で奏音に言う。

「怖がることはないわ。私が一緒に居てあげるから」

(あああ~!敵だと分かってても優しくされると泣きたくなるぅ~!)

 涙を見せまいと顔をそむけたとき、足元に落ちている一本のボールペンが目に留まった。

(あれ?チェスのボールペンだ……)

 チェスがレジェンド・カノンのマネージャーとして活動している時に、急な要件をメモするのによくボールペンと手帳を使っていた。情報漏洩を防ぐため、アナログな記録法を使うのだ。手帳は頻繁に処分して変えていたが、ペンはこの二十年間同じものを使っているため奏音もよく覚えている。精神エネルギーを補充すればインク切れが起きないらしい。

(なんでここに?この空間はあいつが作ったって言ってたのに……もしかして、チェスが何かの意図でここに置いた……いや多分、送り込んだもの……)

 奏音の心に安堵が溢れてきたが、すぐに情けなくもなった。

(ダメだなぁ……甘えたくなっちゃう……私は守る側なのに……)

 デステニー・クロスロード開催のきっかけは、この『世界』の崩壊を止めるため奏音がチェスに『何かできることはないの?』と尋ねたことだった。その時奏音は自身の成長をチェスに褒められたことも思い出した。

(覚悟って、気を抜くとすぐ忘れそうになるね……)

「私はターンを終了……」

 お告げを済ませた誕生の天使が空へと飛び去った。ここで初めて奏音はある事に気が付いた。卵型の天使が、去り際に光の粉のようなものを奏音に振りかけている。光の粉は子宮がある下腹部へ吸い込まれていく。その光に応える様に、奏音の内側でまた“胎動”が起こった。

(そっか……スキル【誕生のお告げ】の演出を利用して私の体に、妊娠を体験させるための精神エネルギーを送り込んでるんだ……ん?ということは、もしかして……できるかも……)

「気持ちは落ち着いた、奏音ちゃん?」

「うん……“覚悟”できたよ」

「じゃあ出産の準備をしましょう。私のターン、ドロー」

《美咲 LP3650 手札2→4》

  

    

     

    

   

《奏音 LP15100 手札1》

「【翼を織りなす物知り】を召喚!」

 

《光・天使・効果・✪5》《ATK1800》

《このターン天使族しか特殊召喚できない代わりに、リリースなしで召喚できる》

 

 翼が六枚あるが【カラス天狗】によく似ている。

「起動効果発動!」

 

《墓地の装備魔法を対象。それを手札に加える》

 

「【翼を織りなすモノクル】を手札に加え、そのまま装備!」

 今度はカラス天狗がモノクルを付けた。

「これで装備魔法もリンク素材として使えるようになったわ。【物知り】と【モノクル】をリンクマーカーにセット!リンク召喚!」

 今度は四枚の翼を持つ天使が降り立った。

 

《翼を織りなす智天使》

《光・天使・リンク‐2右上(↗)下(↓)》《ATK2750》

▽△▼

◁ ▷

△▼△

 

「墓地に送られた【モノクル】の効果で墓地の【翼を織りなす物の怪】をリンク先に特殊召喚するわ」

 六枚の小さな翼を持った毛むくじゃらが現れ、場には最初のターンの時と似た布陣が出来上がった。

 

《大河美咲 LP3650》手札3

  

   

    

    

   

 

「今回は先に説明しておくわね。【智天使】は4回まで、リンク先のモンスターを一時的に除外できるの。【物の怪】の効果は覚えてるわね?」

 奏音は頷いた。正面の相手側メインモンスターゾーンにいるモンスターを移動させる誘発即時効果だ。

「同じような効果が、今発動中の永続罠【翼を織りなすモノリス】にもあるの。このカードまたは【翼を織りなす者】を手札に戻すことで、正面の相手モンスターを移動できるのよ」

 奏音が言葉を引き継ぐ。

「そしてこのターンもエンドフェイズに【誕生の天使】が置かれる。つまり次のターン、私はどこにモンスターを出しても【智天使】のリンク先に移されてしまう。要は“無理に動くな”ってことでしょ」

「ええ。分かってきたようでうれしいわ」

 美咲はエンドフェイズを宣言し、スキル【誕生のお告げ】が発動した。このデュエルで三体目の卵型の天使が、もはや定位置となった、奏音のフィールドの右端に置かれる。

「そして儀式魔法【神子守】の効果で、私のモンスター三体の総攻撃力6050ポイント分、奏音ちゃんのライフが回復するわ」

 

《奏音 LP15100→21150》

 

「これだけ栄養つけたんだから、元気な赤ちゃんが生まれるわね」

 奏音はこの大量の回復行為の意味をずっと考えていた。

(赤ちゃんのためだけじゃないはず……あの【神子守】とかいう儀式魔法、お互いのライフを回復するテキストなのに【誕生の天使】が場を離れるタイミングのせいで私だけがライフを回復している……最初の【キャッスル・イン・ザ・グラス】の直接攻撃にもまるで動じてなかったし、自分のライフを低く抑えるメリットが何かあるんだ)

「私のターン!ドロー!」

 カードを引いた瞬間、それは来た。

「うっ!!!!!!」

「始まったわね、“陣痛”」

 身体を内側からこじ開けられているかのような感覚に、刺し貫くとも叩き割るとも言える激痛が伴う。

「息を吐くのよ!力んじゃダメ!」

 美咲の言葉は聞こえたが、意味まで受け取る余裕は無かった。奏音は今度も膝をつき痛みに耐えざるを得なかったが、思考は微かに生きていた。

(まだ…だ!生まれるのはエンドフェイズのはず!場に最後の【誕生の天使】が残っている限り…この“体験”は完結しない!ギリギリでデュエルできるよう、調整されているはず!だからまだ、私は!!戦える!!!)

 奏音の手札に、除外していた【継承名 ブラックバーズ】が帰ってきていた。すぐさまその効果を発動する。

 

《手札のこのカードを次の自分のスタンバイフェイズまで除外し発動。デッキから【継承名】カード1枚を手札に加える》

 

 デッキの中から候補のリストが表示され、そこから目当てのカード、【継承名 パワーレス】を見つけた。場に出すことなく効果を発動でき、ライフを半分消費できる。選んだ【パワーレス】を公開すると、美咲が言った。

「無駄よ。【神子守】の効果には続きがあって、お互いにライフを払ったり効果ダメージを与えたりできなく―」

 美咲は黙った。サーチ効果の処理を終えた奏音が、うずくまりながらも右手の拳を前に突きだす、奇妙なポーズをしていたからだった。美咲が困惑して眺めていると、パチっと小さな雷が鳴り、奏音の拳が光りだした。何か握られている。

「何をしているの……?」

 奏音は美咲の問いに答える代わりに、よろめきながら立ち上がった。

「思った通りだ……!体内の精神エネルギーを消費すれば痛みは和らぐんだ……!」

 奏音が開いた拳の中から、小さな光の玉が現れる。周辺からより小さな光の粒が凝集し続けているようで、美咲が見ている前で光の玉は徐々に輝きを増していく。

「その玉は……デュエル用のスキル?あなた作れるの?!でもそのエネルギーはどこから集めて……まさか?!」

 奏音は答えず、スキルの作成に集中している。マッスル剛力に教わった手順を自分に言い聞かせるように呟いている。

「イメージはついた……【継承名】ではなく、一般的なスキル……前回のやつを微修正すれば……」

 奏音の全身から精神エネルギーの光が滲み出て、光の玉へと吸い込まれていく。美咲は叫びだした。

「それは赤ちゃんのためのエネルギーよ!!!今すぐ辞めなさい!!!」

 光の玉が浮き上がった。スキルが完成したのだ。玉は奏音のデュエルデバイスの中へ吸い込まれていく。美咲は怒りに顔を引きつらせている。

「あなたねぇ……!」

「私はこのまま、今作ったスキルを発動―」

「させないわ!!!」

 美咲が叫ぶと、空間がぐにゃりと歪んだ。二人のいた中庭の景色が崩れだし、光の粒となって濁流のごとく奏音の肉体に注ぎ込まれる。

「そのスキル使っちゃだめよ?!?!いえもう何もしちゃダメ!!赤ちゃんに何かあったらどうするの?!?!絶対安静よ!!!!」

 精神エネルギーを強引に注入され、陣痛が復活してくるのを感じた奏音は死に物狂いで叫んだ。

「スキル発動!【パワー交換】!」

 

《場の自分のカード1枚を墓地へ送るかデッキに戻し、デッキのランダムな【パワー】カード1枚を場にセットする(表示形式の変更可能)》

 

「私は場の【ロボット・ボーイ】を―」

 宣言し終えないうちに、押し寄せる精神エネルギーの光が奏音の口からも入ってくる。美咲の狂気を帯びた声が聞こえてきた。

「最初からこうすれば良かったんだわ!どうして思いつかなかったのかしら!悪い子は躾ける!『旧世界』じゃ当たり前だったのに」

 しかし急に、濁流と化していたはずの精神エネルギーの光がかき消えた。

「一体これは……?!」

 美咲は混乱した。高さ数メートルはあろう機械装甲兵が、奏音を庇うように身を屈めていたのだ。奏音が息も絶え絶えに言う。

「甲化鎧骨格(インゼクトロン・パワード)さ……マッスルに返し忘れて、ポケットに入ってたこれに……精神エネルギーを吸わせた」

 美咲が場を確認すると、奏音の場の【ロボット・ボーイ】が置かれていた位置には既にモンスターが1枚セットされていた。

 

手札3

  

   

    

   

   

手札3

 

「どうやらそのロボットはデュエル外で実体化させただけみたいね?見たところ胎児にも影響なさそうだし安心したわ。1デュエル中に所持できるスキルは一つだけだし、悪あがきはここまでのようね」

「いや、ここからだ……!」

 奏音は再び強まってきている陣痛に耐えながらも、今度は左腕を掲げた。すると甲化鎧骨格のアームが伸びてきて、奏音が着ていたスウェットの左袖部分を器用に切り取り始めた。そして肩から手首までを包んでいた布地を切り離したのを確認すると、奏音は覚悟を決めたように、甲化鎧骨格を見上げる。

「じゃあ、頼んだよ」

 甲化鎧骨格のアームがさらに複数伸びてきて、奏音の身体を押さえた。支えて立たせているようで、拘束するかのような押さえ方にも見えた。この間に奏音は裂いた布を丸めて口に咥えている。アームの一本が開き、レーザー照射口らしき先端を奏音の下腹部に向けたところで、美咲はようやく奏音の狙いに気付き、絶叫した。

「止めてぇぇぇぇえええええええ!!!!!!!!」

 奏音は帝王切開…と呼ぶのもおこがましい荒療治の痛みに耐えた。内側からの陣痛に加えて外側からの開腹、激烈な痛みはもはや区別がつかず、それ以外のあらゆるものを感じ考えることを許さなかった。しかし幸運なことに、痛みは長続きしなかった。レーザーメスで“出口”を作った途端に、美咲が奏音の肉体に仕込んだ精神エネルギーの残り全てが、あっという間に噴き出し、きらきらと空へ散らばっていった。幸運はもう一つ、奏音の肉体はマッスル剛力の帰還計画においてまだ再構成の途中だったことだった。レーザーメスによって出来た傷と痛みは、破れた衣服とともにあっという間に癒えていった。

「はぁぁ~~~終わったぁぁ~~~!!」

 噛み咥えていた布を外し、奏音はため息を吐いた。

「……昔見た映画に、こうやって産み付けられた宇宙生物を身体から除去するシーンがあったんだ。ほとんどトラウマみたいなものだったけど、今だけはあの経験に感謝だよ」

 奏音は悪夢から醒めきったように、完全に調子を取り戻していた。いまや陣痛は綺麗さっぱり消え、痛みの記憶すらも曖昧だった。一方で美咲は腰を抜かしたようにその場に座り込んでおり、血の気の引いた表情にはもはや戦意は感じられな―

「……許さない」

 美咲がつぶやいた。

「これは“生命”や“女”に対する冒涜よ……あなたはやってはいけないことをやったの……」

 怨念すら感じるゾッとするような声だった。時折見せていた優しげな雰囲気は跡形もない。だが奏音に恐怖は無かった。

「許さない?それはこっちのセリフだけど?」

 それは、ルブランやシセに感じた、デュエリストやレジェンドとしての怒りとは違った。散々痛めつけられたことに対する純粋な怒りだった。立ち上がり深紅のデュエルディスクを構える美咲に、奏音は告げる。

「まだ闘るつもりならちょうどいい……お前をぶちのめしたくて堪らなかったんだ……!」

「あなた本当に野蛮ね……言っておくけどこのターンは儀式魔法【神子守】の効果で攻撃できないわよ?」

「それはどうかな?」

 奏音の肉体から噴き出し散らばっていたはずの精神エネルギーが、今度は奏音の場の、セットされているモンスターに降り注いでいた。

「あら?それも実体化させる気?」

「これは精神エネルギーを取り込んで使うカードなのさ。私に詰め込まれた大量の精神エネルギーに反応してこれはデッキに現れた。さらに私が精神エネルギーを操れるようになったから、これに息を吹き込むことができた」

 伏せられているカードが光りだした。それを待っていたかのように奏音が宣言した。

「反転召喚!【マスカレード継承名 力のマーズ】!!」

 赤き火星の大地を思わせる肌の、いかつい天使が現れた。その顔は灰色の無地の仮面で覆い隠されている。

 

《闇・天使・効果・✪3》《ATK0》

 

 美咲は驚いて声をあげた。

「マスカレード継承名?!それはブラッディ・ホイールの……?スキルといい、モンスター実体化といい、どれだけ隠し玉を持ってるのよ!」

「お前ら『特異点』と戦ってるうちに私も成長したってことさ!【力のマーズ】には永続効果が二つある!」

 

《永続効果①このカードは魔法の効果を受けない》

《永続効果②このカードの攻撃力・守備力は、自分のライフが相手のライフを上回った数値分アップする》

 

 二人のライフの差は現在、17500ポイントである。

「さあバトルフェイズだ!歯ァ食いしばりな!!!」

 

TURN18へ続く。

 

 

 




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