ある決闘者の理想郷   作:ラムダエル

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更新遅くなってしまいました。今後は、第五話くらいまではストックあるのでちょこちょこ投稿出るはずです。


TURN3 魂の変換 Bパート

 

リオール大河《LP2700》

手札:2枚(【激昂するレオ・ウィザード】【レオ・ウィザードの洗脳術】)

フィールド:なし

墓地:19枚

 

『受け継がれなかった命たち』《LP4000》

手札:0枚

フィールド:0枚

墓地:8枚(次のターン【継承名 メテオラ】効果確定)

 

 

 

「何を言っている? もう貴様にモンスターを展開するリソースはないはずだ」

「いや、ひとつだけある」

「ひとつだけ……?」

 リオールの浮かべた笑みは、いつの間にか勝利を確信する笑みに変わっている。

「前のターン、僕の手札から捨てられたカードだよ」

 少女ははっとした。

(そうだ……あの時、【ウィズ・ユー】の効果で手札破壊を跳ね返していた!)

「だが! 【レオ・ウィザード】【本の精霊】【翼を織りなす者】のいずれのテーマにも、このタイミングで墓地から起動する効果はないはず!」

「確かにないね、その3テーマには」

 少女は息をのんだ。

「貴様、まさか!」

 リオールは高らかに叫んだ。

「墓地の罠カード! 【不屈のマグネッツ】の効果発動! 対象は【本の精霊ホーク・ビショップ】と【翼を織りなす者】!」

 

《墓地の攻撃力の異なる二体を対象。その攻撃力の差と同じ数値の攻撃力を持つモンスターを可能な限り、墓地から特殊召喚(同名モンスターは一体まで)》

 

「貴様の【ホーク・ビショップ】は攻撃力1400、【翼を織りなす者】は2750……」

「その差1350の攻撃力を持つモンスターはこの4体だ! 【レオ・ウィザード】【予言するレオ・ウィザード】【招来するレオ・ウィザード】【祈祷するレオ・ウィザード】!!」

 黒、白、黄色、水色のマントのレオ・ウィザードたちが現れた。

 

     

 

     

 

「【不屈のマグネッツ】は本来、【マグネッツ1号】【マグネッツ2号】【カルボナーラ戦士】を採用したデッキでの使用を意図してデザインされたカード……それをこんな形で応用するとは……」

「君のメテオラの効果は想像以上だったけど、フィールドから消えてくれたし、何より君のライフが4000になった! 覚悟はいい? バトルフェイズだ!」

(『特異点』……! やはり貴様らは、この安寧の『世界』を脅かす反逆者ということか!)

「レオ・ウィザードの攻撃! マジカル・ペトリファイ!」

 レオ・ウィザードの放つ魔法の閃光が少女に直撃する。

「ううっ!」

 

 少女《ライフ4000→2650》

 

「続けて、祈祷するレオ・ウィザードで」

 その時少女の胸が裂け、血が吹き出した。リオールは攻撃命令を止めた。

(このエフェクトは……!)

「私は墓地の【継承名 ブリード・イット・アウト】の効果を発動させた」

 

《墓地から特殊召喚。攻撃力が受けたダメージと同じ数値になる》《ATK1350》《水族》

 

 不気味な血の塊。蜘蛛のような手足が生えている。

「だけどそのモンスターは攻撃表示でしか特殊召喚できない! 行け! 祈祷するレオ・ウィザード!」

【祈祷する】の魔法閃光と、【ブリード・イット・アウト】の吹き付ける血が衝突し、二体のモンスターは相打ちとなった。

「行け! 招来するレオ・ウィザード!」

 

 3度目の魔法閃光が少女の左肩に当たった。すると今度は、その肩からも血が吹き出した。

 

「またブリード・イット・アウト!?」

 

《水族》《ATK1350》

 

「他の【継承名】と違い、【ブリード・イット・アウト】の特殊召喚効果は1ターンに何度でも使える。残念だったな、これはレジェンド・カノンが公式戦では隠している戦術だ」

 

 少女《ライフ2650→1300》

 

「くっ……あれを場に残す訳にはいかない……予言するレオ・ウィザードで攻撃だ」

 再び、モンスター2体が相打ち。しかしもうリオールに攻撃モンスターはいない。手づまりだった。

「惜しかったな、リオール大河。あと一撃だった……貴様の手札にある【激昂するレオ・ウィザード】は任意のタイミングで墓地に捨てて効果を発動できる。【不屈のマグネッツ】を起動する前に捨てておけば、そのカードも攻撃要員として特殊召喚できた……もっとも、手札で強力な誘発即時効果を使えるモンスターを不必要に捨てるなど、私でもしないがな」

 リオールは負けを覚悟し、膝をついた。宇宙空間のはずなのに、地面の感触がした。ここはあくまで精神エネルギーによる疑似空間なのだと実感できた。これから消されるというのに、変に冷静でいられた。

「創造者さん……そういえば、君は僕の両親も消したんだよね……」

「ああ。私が消した」

「どうしてその時に僕も消さなかったの?」

「当時はまだ、貴様は『特異点』ではなかったからだ」

「『特異点』は生まれつきってわけじゃないんだ……でも最初に僕を見つけた時、『やはり貴様も』って言ってたよね、なんで?」

 質問攻めにされ、少女は怪訝な顔になっていたが、口を開いた。

「貴様には『特異点』の可能性があったからだ」

「『特異点』の可能性?」

「この『世界』の『特異点』現象は感染症に似ている。症状があり、潜伏期間があり、伝染する。貴様の両親と関わった他の人間も何人か『特異点』の力に目覚めていたのだ」

 その瞬間リオールは、ある恐ろしい可能性に気づいた。

「ねえ待って、それじゃあ」

 しかしリオールの言葉は、ターンの制限時間が尽きたことを知らせるブザーに遮られた。

「もう十分だろう。私のターン、ドローフェイズ」

「待ってよ! まだ聞きたいことがあるんだ!」

「墓地の【メテオラ】の効果発動! 自身と【ワン・ステップ・クローサー】、【バトル・シンフォニー】を特殊召喚!」

「潜在的な『特異点』はもっといるってこと?!」

(僕が『特異点』を広めてしまっているかもしれない、ひょっとしたらナーシャにも……)

「デッキから【継承名 イリシデント】を特殊召喚!」

 リオールの必死な叫びを無視して少女はモンスターを次々と展開していく。

「聞いてよ! こんな対症療法みたいなやり方じゃ問題の解決には」

「バトルフェイズだ! モンスターたちで総攻撃を仕掛ける!」

「頼むから! このままじゃ!」

 リオールのレオ・ウィザードたちが吹き飛ばされた。さらにメテオラの巨体が眼前に迫ってくる。

「この『世界』も不完全に―」

 リオールの全身にすさまじい衝撃が走った。不思議と痛みはなく、身体の感覚が消えた。

(不完全に、なってしまう……)

 リオールの意識が消えた。

 

 ちょうどその頃、ナーシャ池井戸は自室のベッドであおむけに寝ころび、デバイスの検索ウィンドウを開いていた。調べているのはデュエルカウンセラーについてだ。

(ふーん、デュエルを通じて深層心理を引き出し、悩みをモンスターとして可視化する……これいいかも!)

 ナーシャは腕のデバイスのメッセージアプリを起動したが、

「あれ、私、誰に連絡しようとしてたんだっけ……」

 記憶にぽっかり穴が開いたかのように、全く思い出せなかった。

(そもそも私、なんでデュエルカウンセラーについて調べてたんだろう……)

「ま、いいか」

 ナーシャは、メッセージアプリを閉じた。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 8月16日、午後17時26分。エンドレスシティ第1地区 高級マンション『キャッスル』最上階

 

 お手伝いさんたちは帰宅し、奏音はリビングで動画投稿サイトを見ていた。ショーデュエルで使われるAR衣装を眺めるのが趣味なのだ。

「いいなあ、私もこの【ロイヤルガード】と【ゲートキーパー】の衣装で変形合体したいなあ……」

 ショーデュエルの衣装を手掛けるマッスル剛力は、彼女にデュエルで勝ったものにしか衣装を作らない。ショーデュエルの高いクオリティは、強者のみが集うからこそ成り立つのだ。もちろん、奏音なら簡単に勝てるだろうが、そもそもレジェンドデュエリストは年二回のトーナメント以外では公式戦を行なえない。ビジネス契約に関わるデュエルも当然公式戦なので、奏音はマッスル剛力に挑むことができないのだ。

「ショーデュエルに興味があるのか、奏音」

「あ、チェスおかえりー」

 いつの間にか背後に立っているチェスに、奏音は振り向かずに返事をした。彼女はどうやらこの世界の空間にならどこへでも瞬時に移動できるらしく、よく突然部屋に居たりする。

「ショーデュエルってさー、綺麗に負けるのも仕事のうちじゃん? だから私じゃ絶対にできないよなーって」

「私たちの約束はエンターテインメントを装っているだけで、その本質はかけ離れているからな。だが、不可能ではない」

「え、うそ!」

 奏音は驚いて振り返ったが、即座に違う驚きに見舞われた。

「え……チェス、その顔、どうしたの……」

 チェスはいつもの革ジャンとジーンズといういでたちだったが、顔が明らかに違った。母の顔ではない、若い少女……そう、『受け継がれなかった命たち』のイラストの少女の顔になっていた。

「『特異点』の処理に力を使いすぎた……休めば顔は戻る、安心してくれ」

「そう……ならいいけど、なんか食べる? お昼にホットケーキ作ったんだ」

 奏音は急いで冷蔵庫からラップをかけた皿を取り出した。昼間に、お手伝いさんに頼んで作り方を教えてもらったのだ。本当は明日のおやつにしようと思っていたのだが、チェスの様子を見るに、夕飯に回した方がいいと奏音なりに考えたのだ。

「ありがとう、奏音。君の心遣いうれしく思う」

 チェスはそう言いながらホットケーキを一口食べた。彼女の表情やものの言い方はいつも堅苦しいが、20年も一緒にいると、この堅苦しさも好きになっていた。奏音にとって、チェスはもう第二の母親なのだ。

「だがこのホットケーキの味は……まさか醤油か?」

「あったり~! 昔お母さんが、バターと醤油は最強コンビって言ってたのを思い出してね、入れてみたんだ」

 もちろん、お手伝いさんが帰った後に一人で作って試した味付けだ。

「そうか……次はもっといい隠し味を教えよう……」

 チェスは奏音が見たことのない表情になっていた。奏音が、足の裏が痒い時にする顔に似ている。

「ところで、さっきショーデュエルは不可能じゃないって……あれはどういうこと?」

「ああ、ショーデュエルは完全に見世物として作られているが、そこに勝利への渇望が生まれるようなシステムを加えれば、君が参加する意義が生まれる」

「それってつまり……?」

「例えば異種競技交流戦、ショーデュエルとマスターデュエルのぶつかり合いだ」

 奏音は瞬きした。

「そんなことできるの……?」

「私が『構築』した『世界』だ、不可能はない」

 チェスはそういうと、腕のデバイスを操作し、ホログラムのプログラミング画面を出した。

「昨日話した、君の新たなデュエルの場だが……今までのトーナメントと同じでは観客にも飽きがくる。前例のないルールを取り入れ、異なるアプローチで人々の魂を励起させる必要があるんだ」

「へ、へぇ……あぷろうちで、れいき、ね」

 チェスが画面にタッチし、奏音には理解不能な文字が視界を覆う。今朝の増殖する黒光りを思い出し、奏音は少し気分が悪くなった。

「君が憧れている、というのはそれだけでデュエルの質を高める要素になるからな。聞かせてくれ、奏音はショーデュエルのどういった部分が好きなんだ?」

 チェスは奏音を見つめている。その目を見ていると、奏音は何だか嬉しくなった。レジェンドとしてでも、『世界』を支える少女としてでもなく、一人の人間としての興味を向けられているのは、彼女にとって初めてだった。自然と顔がほころんだ。

「ええとね……やっぱりね……なんていうかね……」

 

 この三日後の8月19日、求道奏音のレジェンド継承20年を記念し、新たなデュエル形式の大会が開催されることが発表された。伝統的な戦術の競い合いであるマスターデュエルと、華麗な演出でドラマを作るショーデュエルのコラボレーション。このニュースは、エンドレスシティに波紋を広げた。しかしこの時はまだ奏音は知らなかった……これが奏音の運命を大きく動かすことになるとは。

 

 TURN4に続く

 




デュエルでエネルギーを稼げるのがこの世界の理なのですが、継承名デッキだけは使うのに精神エネルギーを持っていかれるみたいです。設定が色々細かいのでこうやって補足していこうと思います。
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