イャン's ライフ! 作:一般通過鳥竜種
……ああ、食っちまった……。
どうも、二重の意味でブルーな
さて、あの後オルタロスの腹を前にどうするか葛藤していた俺ですが、親クックがエサを前にして硬直し続ける俺をずっと心配そうな目で見てきたり、不安そうに鳴いたり、スッと嘴で俺の方にエサを寄せてきたりと心がいたたまれなくなってきたのでついに手を(嘴を)出してしまいました。
親の心配そうな様には勝てなかったよ……。
まあエサだと認識すると自分が空腹だという事も同時に分かり、それが手伝ったのもある。やはり三大欲求は強い。
味はクリーミーで悪くなかったのが救いか……。
まあハンターも普通ににが虫だのスタミナライチュウだのあんなデカいのをおやつ感覚でパクりといきますし? アルセルタスやゲネル・セルタスを食べようとする頭のおかしな依頼者もいたりする。
現実でも虫食文化は普通にある。日本でもイナゴなんかは普通に食べられてたりするんだ。
そう、これは普通! 第一イャンクックとして転生したのにこんな事で一々気にしてたらこの世界生きていけねぇぞ! 何の問題もないんだ!
そう自分に言い聞かせて乗り切る事にした。
さて、腹も満たされたところで再度色々と確認しよう。
周りを見渡したところ、木が生い茂った地域の一角にポカリと空いた広場のような場所らしい。その隅に巣が作られていて俺はその中だ。密林や樹海といったエリアか?
だがゲームをしていた時にはこんな場所は見た事がない。ここは狩り場の外かもしれないな。
ゲーム内でハンター達が狩りをするマップの外にも、当然だがモンスター達の営みは存在する。というかゲーム中に見渡したら分かるが、マップの外の方がめちゃくちゃに広大である。一度足を止めて細かい所をじっくり観察してみるのも、意外な発見があったりして楽しいものなのだ。
まあ、ゲームの知識を全て当てにするのは危険かもしれないが、この付近でハンターとモンスターがドンパチ殺り合ったりハンターが問答無用で殺しにかかってくるのはないという事か。マジで良かった……。
でだ。巣の中にはまだ孵っていない卵が3つあり、俺に構った後で親クックがそれらの上に跨がって暖めている。おそらく俺が孵るのが分かり、一時的に退いていただけなのだろう。
俺は大分気が動転していて気付かなかったが、暖めているという事から分かるかもしれないがこの親クック、腹周辺がモッコモコである。
設定があるだけでゲーム内で目にする事は全く無かったが、これが繁殖期の雌イャンクックに生えるというクックファーか。ちょっと感動。
周囲の景色、射し込む光、聴こえる音、感じる風、匂い。……あとさっき食った物の味。五感でフルに体験している事に加え、設定しかなかった物が目の前に存在するという事実。
これが現実なんだという事をそれら全てが存分に伝えてきて、なんとも言えない気分になった。でも俺はこの世界で生きていかなくてはいけないのだ。意味不明な事態に陥っているが、こうして生きている以上、当たり前だが死にたくなんてない。
気持ちの切り替えなんてそんなすぐに出来るはずもないが、生きる為には行動しなくてはならない。この世界には死などありふれ、身近な存在だ。
モンスター同士の縄張り争いに天敵の存在、エサの確保や環境。強い者が生き残るという単純にして非情なのが野生の世界だ。
成体でさえ危険に溢れているというのに今の俺は生まれたての赤ん坊。ゲームでは雑魚扱いだったランポス一頭どころか草食種にさえ簡単に殺されること請け合いである。これはマズい、非常にマズい。早々に強くならねばならない……!
だがそんなにすぐに強くなる方法などないだろうし、思い付きもしない。結局はコツコツと鍛え、成長していくしかないのだろう。
どうしようもない現状に一人溜め息を吐くと、親クック……いや、いつまでも親クックはなんだな。雌だしこれからはママンとでも呼ぼうか。そういやパパンはまだ見てないがエサでも捕りに行ってるのかね?
そのママンがどうしたのとでも言いたげな視線を向けてきた。いやなんでもないんすよと誤魔化し、思考を戻す。
大目標はとにかく“生きる”こと。
そして生きるには強さが必要だ。
強くなる、その為には早く成長する。
早く成長する為にはたくさん食べ、よく運動する。
超簡単に纏めたが、これしかないかぁ……。赤ん坊だしやれる事も少ない。直近の目標はこれでいき、危険からは全力で逃げる。これでいこう。
目標を設定した事でやる気も出てきた。これから頑張っていくぞ!
その為には虫食、マジで慣れないとなぁ……。
また溜め息を吐いてママンに心配されたのは言うまでもない。